製作ジェイソン・ブラムとクリストファー・ランドン監督がタッグを組んだ映画『ザ・スイッチ』。
恐怖の殺人鬼ブッチャーと、内気な女子高生ミリーの魂が入れ替わった事で、巻き起こる騒動を描いたホラーコメディ『ザ・スイッチ』。
1970年代から80年代にかけて多く製作されたスラッシャー映画に、入れ替わり映画の要素を加えた変わり種の本作。
これまで『ゲット・アウト』(2017)や『透明人間』(2020)など、革新的なホラー映画を数多く世に出してきた、ジェイソン・ブラムが製作に参加し「ハッピー・デス・デイ」シリーズのクリストファー・ランドンが監督と脚本を担当した、異色ホラーの魅力をご紹介します。
映画『ザ・スイッチ』の作品情報
【公開】
2021年公開(アメリカ映画)
【原題】
Freaky
【監督:脚本】
クリストファー・ランドン
【共同脚本】
マイケル・ケネディ
【製作】
ジェイソン・ブラム
【キャスト】
ヴィンス・ヴォーン、キャスリン・ニュートン、ケイティ・フィナーラン、セレステ・オコナー、アラン・ラック、ミシャ・オシェロヴィッチ、ユリア・シェルトン
【作品概要】
殺人鬼ブッチャーに襲われた女子高生のミリーが、ある理由からブッチャーと魂が入れ替わってしまった事で始まる、悪夢のような1日を描いたホラーコメディ。
主人公のミリーを演じるキャスリン・ニュートンは、「SUPERNATURAL スーパーナチュラル」シリーズなどのTVドラマで人気に火が付き、『名探偵ピカチュウ』(2019)でヒロインに抜擢された注目の女優。
殺人鬼ブッチャーを演じるビンス・ボーンは『ロスト・ワールド ジュラシック・パーク』(1997)でブレイク以降、『ウェディング・クラッシャーズ』(2005)などでコメディの才能が評価されている俳優です。
ビンス・ボーンは、キャスリン・ニュートンの動きを動画で研究し、本作に挑んでいます。
映画『ザ・スイッチ』のあらすじとネタバレ
11日の水曜日。
大学生の男女4人が、自宅でパーティーを開催していました。
4人は「連続殺人鬼ブッチャー」の都市伝説で盛り上がりますが、卒業前のダンスパーティーである「プロム」で、学生たちがはしゃぎすぎない為に、大人が考えた作り話であると笑います。
しかし、殺人鬼ブッチャーは実在しており、大学生の男女4人を惨殺し、その家に置かれていた、怪しげな短剣を盗み逃走します。
12日の木曜日
高校生のミリーは、内気な女の子で、同級生のブッカーへ自身の想いを伝える事ができず悩んでいます。
また、父親を亡くして以降、酒浸りになってしまった過保護な母親に束縛されており「プロム」の日も母親とミュージカルを見に行く約束をさせられていました。
酒浸りで過保護な母親に、ミリーの姉で警察官のシャーリーは呆れた様子を見せます。
内気なミリーは、学校でもイジメのターゲットにされており、SNSで高評価を貰う事だけ考えている、意識高い系女子のライラーには私服を馬鹿にされ、教師のベルナルディには高圧的な態度で侮辱されていました。
ただ、親友のナイラとゲイのジョシュだけは、いつもミリーを励ましてくれて、片思いのブッカーも、優しく接してくれる事が、ミリーの心の支えになっていました。
ジョシュはミリーを「最高のタマ」と褒めますが、ミリーは否定します。
街では殺人鬼ブッチャーが逃走中であるニュースが流れ、殺伐とした空気になっています。
そんな中、ミリーは学校で開催されたアメフト部の試合で、マスコットになって応援しますが、アメフト部のメンバーからも冷たい扱いを受けます。
試合終了後に、ミリーは自身を心配してくれるナイラとジョシュと別れます。
ブッチャーが街を徘徊してる事から、帰宅時は親が迎えに来るように学校から指示が出ています。
ですが、迎えに来るはずのミリーの母親が、なかなか学校に来てくれません。
ミリーが電話をすると、酒に酔いつぶれて眠っていた母親の代わりに、シャーリーが来てくれることになりました。
誰もいなくなった学校で、シャーリーを待つミリーの前に、ブッチャーが現れます。
ミリーは逃げますが、ブッチャーに捕まってしまい。馬乗り状態にされます。
ブッチャーが、盗み出した短剣でミリーを突き刺そうとし、ミリーは肩に傷をおいます。
ブッチャーが再度、短剣を振り上げた瞬間に、駆け付けたシャーリーが発砲し、ブッチャーは逃げて行きます。
保護されたミリーは、警察署で、ブッチャーが持っていた短剣が警察署に保管されるのを見ます。
その後、帰宅したミリーは、自分の部屋で静かに眠ります。
13日の金曜日
ブッチャーに襲われた事件の次の日、目覚めたミリーは、人が変わったように鋭い目つきで周囲を見回します。
ミリーは、自分を心配している母親やシャーリーを無視するような態度を取り、さらに包丁を持った瞬間にシャーリーを殺そうとしますが、母親に取り上げられます。
ミリーは、止める母親を無視して、学校に登校する事を決めます。
一方、不気味な倉庫で目覚めたブッチャーは、周囲の状況に戸惑いながら、女の子のような動きを見せます。
それは、ミリーとブッチャーの魂が入れ替わってしまった、悪夢のような1日の始まりでした。
映画『ザ・スイッチ』感想と評価
本作は「11日の水曜日」から、物語が始まる事からも分かりますが、70年代から80年代に多く製作された、スラッシャー映画へのオマージュが盛り込まれた作品です。
まず、冒頭の若い男女4人が「殺人鬼ブッチャー」の都市伝説を語り、実際に現れたブッチャーに襲われる展開は「13日の金曜日」シリーズのオマージュで、この時にブッチャーが被っているマスクも、ジェイソンのホッケーマスクそっくりです。
さらに、相手を串刺しにしたブッチャーが、ゆっくりと首を横に傾ける場面があるのですが、これもジェイソンがよくやる細かい動きです。
また、ブッチャーとミリーの魂が入れ替わる「儀式」の場面は、「チャイルド・プレイ」シリーズで、チャッキーが行う魂入れ替えの儀式を連想させますし、「悪魔のいけにえ」シリーズのレザーフェイスでお馴染みのチェーンソーや、「ラストサマー」シリーズの殺人鬼フィッシャーマンの武器である、フック型の鉤爪が不自然に置いてあるなど、スラッシャー映画が好きな方は、ニヤニヤが止まらない小ネタが満載です。
ただ、ブッチャーとミリーの魂が入れ替わって以降は、一転してブラックなコメディへと変わっていきます。
ミリーの魂が入ったブッチャーを、ビンス・ボーンがユーモラスに演じており、やたら甲高い声を出し、両手を振りながら走る、いわゆる「女の子走り」を見せています。
作品序盤の恐ろしいブッチャーとのギャップが見ていて楽しいです。
逆にブッチャーの魂が入ったミリーを演じるキャスリン・ニュートンは、鋭い目つきで周囲を見回し、言葉が少ないながらも序盤の内気な女子高生とは違うミリーを、不気味に演じています。
『ザ・スイッチ』は、ブッチャーとミリーの魂が入れ替わるというアイデアが、これまでのスラッシャー映画とは違う部分ですが、体が入れ替わった経験を通して、ミリーが成長するという、精神的な成長もキッチリと描かれています。
ミリーの体になった事で、思うように人が襲えないブッチャーに対し、ミリーは怪力を持つブッチャーの体を通して「強さ」を経験し、心境が変化していきます。
ミリーの魂を持つブッチャーに、ブッカーが伝える「大事なのは体じゃなくて、心の強さだ」というセリフに、本作のメッセージが込められていると感じます。
その後、ブッチャーとミリーの魂は元に戻り、ブッチャーは死んだと見せかけて、実は生きていたという、スラッシャー映画お馴染みの展開となっていきます。
ラストでは、強さを手に入れたミリーが、姉のシャーリーと母親と共にブッチャーに挑むのですが、この辺りの展開は2019年版の『ハロウィン』のようですし、ラストにミリーがブッチャーを蹴りで倒すのは『エルム街の悪夢4 ザ・ドリームマスター 最後の反撃』(1989年)を彷彿とさせます。
精神的に強くなったミリーが、必要以上に下品になっているのも、このジャンルのお約束ですね。
このように『ザ・スイッチ』は、スラッシャー映画へのオマージュが盛り込まれた作品なので、結構刺激の強い描写もあり、苦手な方には辛い部分もあるかもしれません。
ですが、ブッチャーとミリーの魂が入れ替わって以降は、ビンス・ボーンとキャスリン・ニュートンのコミカルな演技や、ミリーの魂が入ったブッチャーに、母親が本音を聞かせるなど、入れ替わり映画だからこそのポイントはキッチリと抑えた作品となっているので、少し変わった映画が好きな方は楽しめる作品となっています。
まとめ
恐怖の殺人鬼と、内気な女子高生の魂の入れ替わりを描いた、変わり種の作品『ザ・スイッチ』。
ただ、全体的にバランスが取れた作品で、監督のクリストファー・ランドンは「恐怖感と笑い、人間の感情のバランス」を心がけ、かなり苦労した事を語っています。
また、ミリーは家族の問題を抱えており、母親や姉とのギクシャクした関係など、この辺りの家族の悩みは、誰もが共感できる部分ではないでしょうか?
前述したように『ザ・スイッチ』は、往年のスラッシャー映画のオマージュが込められた作品ですが、家族の問題など人間ドラマを深掘りした辺りは、これまでのスラッシャー映画とは違う、現代的な部分です。
一時は過去のものになっていたスラッシャー映画が、1990年代に「スクリーム」シリーズや「ラストサマー」シリーズが登場した事で、また盛り上がったように、『ザ・スイッチ』のような新たなアプローチで、現代の時代に合ったスラッシャー映画が、これから出て来ても面白いと思います。
現実世界で殺人鬼に遭遇するのは嫌ですが、こういった「非日常」を映像を通して経験できるのも、映画だからこその魅力です。