同じ日常を繰り返す男女の恋模様を描くハートフルコメディ
映画『パーム・スプリングス』が、2021年4月9日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー中です。
2021年のゴールデングローブ賞で作品賞・主演男優賞の2部門にノミネートされるなど、高い評価を得たタイムループ・ラブコメディを、ネタバレ有でレビューします。
映画『パーム・スプリングス』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ、香港合作映画)
【原題】
Palm Springs
【監督】
マックス・バーバコウ
【脚本】
アンディ・シアラ
【製作】
アンディ・サムバーグ、アキバ・シェイファー、ベッキー・スロビター、ヨーマ・タコンヌ、クリス・パーカー、ディラン・セラーズ
【撮影】
クィエン・“Q”・トラン
【キャスト】
アンディ・サムバーグ、クリスティン・ミリオティ、ピーター・ギャラガー、J・K・シモンズ、メレディス・ハグナー、カミラ・メンデス、タイラー・ホークリン
【作品概要】
カリフォルニア州にある砂漠のリゾート地パーム・スプリングスを舞台に、同じ日を繰り返すことになってしまった男女をコミカルに描くタイムループ・ラブコメディ。
『ブリグズビー・ベア』(2018)のアンディ・サムバーグと、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)のクリスティン・ミリオティが恋人役を演じ、サムバーグは製作も兼任。
監督のマックス・バーバコウは、本作が長編デビュー作となります。
2021年のゴールデングローブ賞のミュージカル・コメディ部門で作品賞・主演男優賞にノミネートされたほか、世界の映画賞でも11受賞36ノミネートを数えるなど、高く評価されました。
映画『パーム・スプリングス』のあらすじとネタバレ
11月9日に、カリフォルニア州の砂漠のリゾート地パーム・スプリングスで開かれる妹タラの結婚式に出席していたサラは、一人疎外感を感じていました。
そのパーティで、アロハシャツで参加していた男ナイルズと出会います。
タラの友人で、ブライズメイドを務める恋人ミスティに付き添う形でパーム・スプリングスに来たというナイルズから、積極的にアプローチを受けるサラ。
最初こそお調子者のナイルズをウザがるサラでしたが、男グセの悪いミスティがパーティ司会者とセックスしている様子を盗み見したことを機に意気投合。
2人で会場を抜け出し、いい雰囲気になったところで、突如謎の老人が現れナイルズが弓で撃たれてしまいます。
老人から逃れるように謎の洞窟に入っていくナイルズに、「付いて来るな」と言われるサラでしたが、気になり後を追っていくと、途端に赤い光に包まれます。
目が覚めたサラがいたのは前日の朝。つまり記憶はそのままで、同じ11月9日に戻っていたのです。
ホテルのプールでくつろいでいたナイルズを捕まえ、どういうことかと詰め寄るサラ。
ナイルズは、突然起こった地震によって生まれたあの洞窟に一度でも入ってしまうと、“タイムループ”にハマってしまい、眠りについたり命を落としても、目が覚めれば同じ11月9日を迎えると説明。
そのループにより、自分はすでに何万回と繰り返される9日を過ごしていると語ります。
弓を放ってきたのは、結婚式の参加者で、ナイルズと意気投合してドラッグでハイになったまま洞窟に入りループにハマってしまったロイという人物。
ナイルズを逆恨みして命を狙うも、住んでいるアーバインからは距離があるので、姿を現すのに数日かかるとのことでした。
なんとかしてループから抜け出そうとあの手この手を試すサラですが、やっぱり気づけば9日の朝に。
そのうち開き直り、やりたい放題のパーム・スプリングスの9日をナイルズと繰り返します。
互いに過去の出来事を語りたがらないことが気になりつつも、次第に距離が縮まっていく2人は、ある9日の夜をテントで過ごしていた際、そこでブロントサウルスの大群を目にします。
その神秘的な光景に感激した2人は、ついに結ばれるのでした。
目覚めることが楽しくなったナイルズですが、一方サラは、目を覚ます場所がタラの婚約者エイブのベッドであることに耐えられなくなります。
再びループを脱出したいという思いを強くしたサラは、ナイルズを殺そうと警官に化けたロイを車で撥ねます。
同じ日を繰り返すからといって人を傷つけるのは良くないと責めるナイルズに対し、何か変化がなければ変わる物も変わらないと反発するサラ。
口論の末にナイルズは、何万回と繰り返してきた9日の間に、ループに入る前のサラと寝ていたことを打ち明けてしまいます。
その事実にショックを受けたサラは、それ以来ナイルズの前から姿を消すのでした。
映画『パーム・スプリングス』の感想と評価
「同じ日を何度も繰り返す」という内容の、いわゆる“タイムループもの”は、すっかり映画ジャンルの定番の一つとなっています。
『ミッション:8ミニッツ』(2011)や『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014)といったSFに、ホラー『ハッピー・デス・デイ』(2019)など、多種多様な切り口で描かれてきた同ジャンルですが、本作『パーム・スプリングス』は、『恋はデジャ・ブ』(1993)の流れを汲むラブコメディーです。
『恋はデジャ・ブ』では、タイムループにハマった男性(ビル・マーレイ)が、繰り返される同じ日を利用して意中の女性(アンディ・マクダウェル)のハートを射止めようとしますが、本作では、先にループにハマった男性ナイルズが、手違いで女性サラをも巻き込んでしまいます。
ループにハマった2人は、毎日同じ日を繰り返すうちに距離が近くなるも、「いつまでもサラとループ内に留まりたい」と思うようになるナイルズと、とある理由で「ループから脱出したい」というサラとの間に溝が生じていきます。
実は、今年からAmazonプライム・ビデオで配信が始まった映画『明日への地図を探して』(2021)も、ハマってしまったタイムループから抜け出したい男と、ループに留まっていたい女の恋模様を描くという点で、本作とかなり似ています。
まさにデ・ジャブな関係にある両作品ですが、裏を返せばタイムループものは、それだけフィルムメーカーの腕の見せ所でもあるのです。
ちなみに本作では至る箇所で、タイムループを間接的に示す仕掛けを散りばめています。
例えば、ナイルズが飲むビールの銘柄「Akupara(アクーパーラ)」は、インド神話に登場する“無限、永遠”を意味する亀の王を表し、ナイルズが水玉模様のボクサーパンツを履きプールで浮き輪に乗るのは、ループの象徴である“円”を意味しているのです。
『明日への地図を探して』(2021)
まとめ
『パーム・スプリングス』には「アメリカン・パイ」(2000~12)シリーズや『寝取られ男のラブ♂バカンス』(2008)のようなきわどい下ネタギャグがあるので、苦手な人は注意が必要かもしれません。
ただ、ランニングタイムが90分という短さなので、サクッと観られるかと思います。
不条理なように見えて、その実、タイムループものは人間の日常生活の裏返しでもあります。
毎日同じルーティンを過ごしながらも、次の日にはもっと意義ある出来事が待っているかもしれない。
「今日」を生きるからこそ「明日」がある――そんな、人生を歩むことの意味や大切さを再認識できる一本です。
映画『パーム・スプリングス』は、2021年4月9日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー。