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Entry 2020/05/20
Update

映画『甘いお酒でうがい』感想とレビュー評価。原作はお笑い芸人シソンヌの「じろう」が架空のOL・川嶋佳子の名で著した517日の物語

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

映画『甘いお酒でうがい』は2020年9月25日(金)から公開。

お笑いコンビ「シソンヌ」のじろうが、長年コントで演じてきたキャラクターを主人公に、何気ない日常を送りながらも、何処か風変わりで少し後ろ向きな、川嶋佳子の517日の物語が描かれている映画『甘いお酒でうがい』

キャストに松雪泰子が主人公の佳子を演じ、若林ちゃんを黒木華、佳子が好意を寄せる岡本くんを清水尋也が演じています。

日常の中に潜む、何気ない部分にスポットを当てた、独特のユーモアと、心地よいテンポで語られる、映画『甘いお酒でうがい』の魅力をご紹介します。

映画『甘いお酒でうがい』の作品情報


(C)2019吉本興業

【公開】
2020年公開(日本映画)

【原作】
川嶋佳子(シソンヌじろう)

【脚本】
じろう

【監督】
大九明子

【キャスト】
松雪泰子、黒木華、清水尋也、古舘寛治、前野朋哉、渡辺大知、レイザーラモンRG、佐藤貢三、中原和宏、小磯勝弥、坂本慶介、鈴木もぐら

【作品概要】
40代OLの日常を日記風に綴った小説を、原作者のじろう自身が脚本を担当し、『勝手にふるえてろ』(2017)など、女性が主人公の映画を、多く手掛けて来た大九明子監督が映像化。

主人公の川嶋佳子を、2006年の映画『フラガール』で「日本アカデミー賞優秀主演女優賞」を受賞するなど、数多くの作品に出演している松雪泰子。

佳子の後輩、若林ちゃんを、2014年の山田洋次監督作品『小さいおうち』で、「ベルリン国際映画祭銀熊賞」に輝くなど、高い評価を受けている黒木華。

佳子の、ふた周り年下の後輩岡本くんを、「ちはやふる」3部作や、2017年の『ミスミソウ』など、数々の話題作に出演している清水尋也が演じています。


映画『甘いお酒でうがい』のあらすじ


(C)2019吉本興業
ある会社で、派遣社員として働く40代独身の川嶋佳子。

彼女は、日々の出来事を日記につけており、その日記は誰にも見せる予定も、後から見返すつもりもない日記です。

「撤去された自転車と、1週間ぶりに再会して嬉しかった」
「道で1人で話をしているおじさんと、心の中で会話していた」

など、何気ない中にも風変わりな内容の日記を書き続ける佳子、特に会社の後輩である若林ちゃんと過ごす、幸せな時間を大切にしていました。

ある時、佳子は若林ちゃんの後輩である、ふた周り年下の岡本くんと出会い、新たな恋が始まります。

何気ない日常に、少し変化が加わった佳子が綴る、517日の物語の行方は……?

映画『甘いお酒でうがい』感想と評価


(C)2019吉本興業
ベテランの派遣社員として働く川嶋佳子が、自身の日常を綴った日記を映像にした『甘いお酒でうがい』。

「1週間ぶりに再開した自転車のベルを鳴らすと、嬉しそうに聞こえた」

「ビンゴ大会で一番最初に当選したけど、恥ずかしくて声が出せなかった」

「毎日に変化を出したくて、会社帰りに逆方向の電車に乗ってみた」など、日常の悲哀に満ちた佳子の日記は、ユーモラスに見えますが、決して笑える部分を前面に出した内容ではなく、淡々と生きる毎日に潜む、どこか可笑しい出来事の連続となっています。

明らかに、誰でも経験している事を描いている訳ではないのに、何故か「何か分かる」と思えてしまうエピソードの連続で、淡々とした語り口も心地よく、だんだんと佳子の日常に引き込まれていく作品となっています。

大九明子監督が、じろう脚本の作品を手掛けるのは、2018年の『美人が婚活してみたら』に続き2度目となります。

『美人が婚活してみたら』は、婚活をテーマに、独身の主人公タカコと、親友で既婚者のケイコの目線を通して、現代における結婚という制度についての、問題定義を投げかけた作品です。

結婚そのものが目的になっているタカコに対し、結婚したからこその孤独と辛さを知るケイコが、怒りを爆発させるクライマックスは、お互いの立場の違いから罵り合いが始まる、ハードな展開が印象的でした。

『甘いお酒でうがい』は『美人が婚活してみたら』とは、全く違う作風となっていますが「現代社会を生きる女性の、新たな価値観」という点において、両作には共通のテーマが込められています。

『甘いお酒でうがい』の佳子は40代で独身、特に友人に恵まれている訳ではなく、後輩の若林ちゃんと食事に行く事が、唯一の楽しみとなっています。

ここだけ見ると「寂しい女性」と感じるかもしれませんが、本作では佳子を「寂しい可愛そうな女性」ではなく、孤独や寂しさと上手に付き合っている、何にも依存しない大人の女性として描かれています。

辛い事があれば、お酒の力を借りる事もありますが、泥酔する事は無く、お酒を嗜む程度です。

時には会社帰りに立ち寄ったバーで出会った、知らない男と一夜を共にする事もあり、佳子は人生の遊びを方を心得た、大人の女性という印象です。

ですが、佳子は自身の日常に疑問を感じるようになり、心の奥底では変化を求めるようになります。

そんな佳子が、ふた周り年下の岡本くんと出会います。

後半の物語の主軸は、岡本くんとのエピソードが中心になりますが、ここでも、決してドラマチックな、過剰なラブストーリーにはならず、あくまで佳子の日常として淡々と進められています。

しかし、淡々とした展開が、逆に恋愛の、リアルな苦しさの部分を浮き彫りにしていますので、その点にも注目して下さい。

人には、さまざまな人生観があって、それぞれのフィルターを通して日常を見ています。

他人にとっては「可愛そう」と感じる事も、本人は全く気にしていなかったり、逆に「幸せだろうな」と感じる事が、本人にとっては苦痛に感じているかもしれません。

『美人が婚活してみたら』の、結婚観はまさにそうで、独身女性と結婚した女性とでは、確実に捉え方が違います。

『甘いお酒でうがい』では、少し風変わりな佳子のフィルターを通して、日常を体験する事が出来ます。

これまで、考えもしなかった人生の捉え方や、逆に「こんな事を考えるのは、自分だけじゃなかったのか」という発見もあるでしょう。

何も起きない日常を、淡々と描いているからこそ、気が付けば引き込まれてしまうという、本当に不思議な作品となっています。

まとめ


(C)2019吉本興業
『甘いお酒でうがい』は、40代女性の日常が描かれている作品です。

こういった作品では多い、結婚や出産が大きなテーマにはなっておらず、自分の人生を楽しんでいる、大人の女性が描かれています。

失礼な話ではありますが、男性は40代で未婚の女性に出会うと「結婚しないのかな?」と思ってしまいますが、原作と脚本を担当した、じろうは「結婚も子供もいなくて、でもしゃべると面白いっていう。そういう人の方が輝いて見える、っていうのが自分の中にありましたね」と語っています。

本作の主人公、川嶋佳子は大人の女性ではありますが、天真爛漫で無邪気な部分もあり「可愛らしい」と思えてしまうキャラクターです。

他人から見ると、寂しくて可哀そうに感じるかもしれませんが、佳子のフィルターを通して体感する日常は、淡々とした中にもユーモアが潜む、新たな発見の毎日のように見え、とても充実しているように感じます。

固定観念に縛られ、古い決めつけた考え方で他人を見るのは、価値観が多様化した現代においては、本当にばかばかしい事ですね。

また、本作で綴られる佳子の日記は、男性目線と女性目線、両方の「面白い」感覚を持つじろうならではの、独特のユーモアに溢れた世界観になっているので、女性はもちろん男性も楽しめる作品となっています。

映画『甘いお酒でうがい』は、2020年9月25日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、テアトル新宿ほかにて
全国公開
です。




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