スウェーデン発の痛快ケイパームービー『マスター・プラン』
個性的な4人の犯罪プロフェッショナルが国際金融金庫からの現金強奪を図る映画『マスター・プラン』。
『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』『ヘッドハンター』といった傑作サスペンスのイメージが強い北欧映画が生んだ痛快クライムアクション。
監督を務めたのは、アラン・ダルボルグ。Netflix初となるスウェーデン映画『赤い光点』(2021)の監督としても知られています。
CONTENTS
映画『マスター・プラン』の作品情報
【公開】
2015年(スウェーデン映画)
【原題】
Jönssonligan – Den perfekta stöten
【監督】
アラン・ダルボルグ
【キャスト】
シーモン・J・ベリエル、アレクサンダー・カリム、スザンヌ・トルソン、トーケル・ペターソン
【作品概要】
1981年を皮切りに8作品が製作され、北欧にて高い人気を誇るクライムアクションシリーズ「Jönssonligan(ヨンソンリガン)」の2015年版リメイク。
主演は、兄妹愛を描いて話題になったノルウェー映画『妹の体温』で知られるシーモン・J・ベリエル。また共演には、映画『ラスト・リベンジ』でテロリストを演じたアレクサンダー・カリムらが脇を固めています。
映画『マスター・プラン』のあらすじとネタバレ
自動車泥棒のチャールズは、無二の友人にして恩人でもあるラルフと国内に2台しかない高級車の強奪を計画します。2人は所有者が車を離れ、コーヒーを買いに行くタイミングを狙った綿密な計画で、車の強奪に成功しました。
その後のある夜、2人は駐車場に停められていたレクサスを狙っていましたが、その場を通りかかったジャガーにラルフは目移りしてしまいます。
計画に従えというチャールズを制し、衝動的な強奪に踏み切るラルフ。車内には所有者のパソコンが残されていました。
車の所有者はヴァレンティン銀行の総裁でした。所有者はパソコン内の情報を隠蔽するために、ラルフとチャールズが身を潜める自動車整備工場の場所を特定します。
その頃ラルフは、チャールズに自動車泥棒を引退することを打ち明けていました。チャールズには別のプロと組むよう勧めるものの、彼は信用できないとその場を後にします。
チャールズが自宅へ戻ると背後から何者かに襲われました。機転を利かせて返り討ちにするも、パソコンを狙った襲撃であると気付いたチャールズは急いで整備工場へ戻ります。
しかし時すでに遅し。ラルフはその場を去る男女に殺害されていました。しばらくして現場に警察が駆けつけ、誤解されたチャールズは指名手配の身になってしまいます。
ラルフを失った悲しみを抱えながらもチャールズは急いで逃走。無事追っ手を撒いた後、彼はパソコンの暗号解読にかかりました。
そこにはスウェーデンを代表する大富豪であり、ヴァレンティン銀行総裁のアナ・リーナが仕切っていた資金洗浄・汚職など、裏ビジネス関連の情報が隠されていました。そして彼女の国際金融資金は、難攻不落の大金庫「フランツ・イェーガー」に保管されていることが判明します。
金庫破りの計画を立てるチャールズ。そして泥棒のプロチーム集めを開始しました。
1人目は、プロ詐欺師ラグナー。計画性と実行性に優れた彼を強盗計画に誘いました。
2人目は、爆破の天才ハリー。鉱山労働から解雇され、トレーラーでの極貧生活に嫌気がさした彼は、爆弾による自殺を図る寸前でした。
3人目はチャールズの元カノでもある、宝石泥棒のロッキー。彼女の身柄を拘束している刑務所から出た移送車を襲撃し、チームに招き入れました。
4人は実物の金庫での練習が無ければ、実際の強奪には成功しないとし、同種の金庫を保有するロシアの商工会議所での予行演習を兼ねた強奪作戦に着手しました。
商工会議所では、その夜屋敷でのパーティが開かれており、チャールズ、ラグナー、ハリーの3人が屋敷に潜入。ロッキーは支援役として警備員室へと配置されました。
チャールズは地下へ向かい、ラグナーは裏口へ回ります。ハリーは下水管に仕掛けた時限式小型爆弾で水道管を破裂させ、見張りの注意を引きつけます。
ロッキーは意識が戻った警備員をもう一度気絶させます。と同時に、警備員交代の時間になり監視室の扉の向こうで交代の警備員が待機していました。
「フランツ・イェーガー」の保管されている部屋へ侵入したチャールズとラグナー。金庫を台車に乗せ、ウェイターに扮して廊下を通過します。
支度をして、ロッキーは監視室から脱出します。ハリーはラグナーと合流し、車に乗り込み逃走の準備を整えますが、チャールズはパーティの席でラルフの仇であるアナを目撃。
周囲の人々が見ている中、アナに接近したチャールズは自身の存在を彼女に知らしめた後、屋敷を去りました。
逃走車を乗り換え、隠れ家に戻った4人。ラグナー、ハリー、ロッキーの3人は、ひとまずの打ち上げをするも、チャールズは作業に没頭しています。
3人はそれぞれの身の上を語り合い始めました。ラグナーは詐欺を始めたきっかけを。ハリーは別れた妻と居る娘に会いたいことを。ロッキーは、自分の代わりに服役している男を取り戻す予定であると語ります。
みんなが寝静まった後、ラルフを思い涙するチャールズをロッキーが優しく慰めます。2人はアナへの復讐を誓い合いました。
4人が狙う銀行の真下には、ストックホルム地下鉄のトンネルが通っていました。掘削も爆破も不可能だと考えたチャールズは作戦を変更します。
まずチャールズとロッキーの2人が屋上からビル内に侵入し、金庫を目指します。そして金庫を守る岩盤を爆破して、地下鉄の線路に通した貨物列車で逃走する、という計画を立てました。
ロッキーはラグナーとの会話の中で、金庫破り道具の提供者アレハンドロが里親であることを明かします。
チャールズたちの動向を探っていたアナは、部下からの連絡を受け、脱獄して行方不明になっていたロッキーが仲間の一員で「フランツ・イェーガー」を破ろうとしていることを知ります。
映画『マスター・プラン』の感想と評価
綺麗にまとまったリメイクとしての「黄金比」
本作は例えるなら、スウェーデン版『オーシャンズ8』(2018)。旧シリーズから設定を新たにしたリメイク作品という表層的な共通点の他にも、元々男性であったキャラクターの女性への変更による別角度からのドラマ性の付与など、共通する箇所は数多くあります。
さらに遡ると、『オーシャンと十一人の仲間』(1960)の現代リメイクである『オーシャンズ11』(2001)は、作品内のリアリティやストーリーのテンポ感においても刷新が行われています。各キャラクターの描きこみも深く、本作同様に見やすいリメイク映画になった経緯が共通しています。
また「オーシャンズ」シリーズや旧シリーズとも10年以上間が空いている本作は、作風としては“2010年らしさ”があります。ケレン味やアクションのギミックが細かくて気が利いているあたりも、荒唐無稽さが極端に振り切れる前の「ワイルドスピード」シリーズ、具体的には4作目にあたる『ワイルド・スピードMAX』(2009)のような雰囲気です。
こちらもシリーズを原点回帰させつつも、極端な演出は抑えた4作目であり、リメイク作品に顕著な「抑えつつも、見せ場はしっかりした整った作風」という特徴を踏襲しているようです。
個性豊かなキャラクターの「楽しみ方」
このようにハリウッドリメイクの様相を纏った本作は、観ている最中にも俳優の顔が具体的に浮かんでくるほど、キャスティング面でもハリウッド映画を意識していることが分かります。
敢えて言うならば、「ハリウッドでリメイクするなら、あの人が演じるだろうな」というイメージが膨らむキャラクター造形が施されているのです。
チームを束ねる主人公チャールズは、ジェームズ・マカヴォイ。チームをまとめようとするも、彼個人の思想信条と相いれない場合に葛藤する様が非常に近いですし、単に同名のキャラクターを演じていたから、そのように感じただけなのかもしれません。
爆破の天才ハリーは、トム・ハーディ。ヴィジュアル的にもキャラ的にも、彼が演じた『ブロンソン』(2008)に非常に近いものがありました。
天才詐欺師ラグナーは、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)や『ヴェノム』(2018)で知られるリズ・アーメッド。ケイパームービーには必ず出てくる口八丁手八丁の詐欺師ですが、言葉巧みにターゲットを即興で翻弄する様はラッパー的であり、悪役の香りを漂わせます。
金庫破りのプロことロッキーは、『マイティ・ソー』(2011)のシフ役で知られるジェイミー・アレクサンダー。主人公と同格に感じるのは、その存在感からでしょうか。
そうしたキャスティング考察は、あくまでも数多くある映画の楽しみ方の一つですが、具体的なイメージが直ぐに浮かぶほど取っつきやすく、魅力的なキャラクターたちが活躍しているという意味でも、観やすい映画だと言えます。
まとめ
ラストシーンが離陸する飛行機の止め画で終わる、ということが象徴するように、本作は非常に明快なエンターテインメント作品です。
人物紹介からチーム集め、最初の作戦に成功という山場が前半40分で描かれ、後半はクライマックスにかけての綿密な計画とどんでん返しという黄金比のプロット。
あわせて90分という制約の中で、伸び伸びと活躍する4人のメインキャラクターはどれも魅力的に描かれていて、あらゆる面から見ても理想的な映画でした。
どの国の方が観てもフラットに楽しめる、リメイクとして“王道”な映画。それが『マスター・プラン』であるといえます。