宇宙飛行士とアンドロイドの恋を描いたSFドラマ
ラザール・ボドローザが監督を務めた、2018年製作のセルビアのSFドラマ映画『A.I.ライジング』。
地球から国家が消滅した近未来の2148年。ベテラン宇宙士と、美しい女性型アンドロイドは、ケンタウルス座アルファ星への宇宙飛行探査を命じられます。
ベテラン宇宙飛行士に芽生えた禁断の欲望、それによって繰り広げられる予測不能な事態とは、具体的にどんなことだったのでしょうか。
ベテラン宇宙飛行士と美しい女性型アンドロイドが繰り広げる、44年にわたる宇宙探査飛行を描いた、セルビアのSFドラマ映画『A.I.ライジング』のネタバレあらすじと作品情報をご紹介いたします。
CONTENTS
映画『A.I.ライジング』の作品情報
【公開】
2019年(セルビア映画)
【原作】
ゾラン・ネスコヴィッチ
【監督】
ラザール・ボドローザ
【キャスト】
ストーヤ、セバスチャン・カバーツァ、マルサ・マイエル、キルスティ・ベステルマン
【作品概要】
『30歳以下の注目すべきクリエイターTOP20』に選出された、ラザール・ボドローザの長編映画デビュー作となる、セルビアのSFドラマ映画です。
女性型アンドロイドのニマーニ役は、現役ポルノ女優のストーヤ、ベテラン宇宙飛行士ミルーティン役はセバスチャン・カバーツァが演じています。
原作はゾラン・ネスコヴィッチによる、ユーゴスラビア人の宇宙飛行士と女性型アンドロイドの関係を描いた、1980年代の短編小説です。
映画『A.I.ライジング』のあらすじとネタバレ
時は2148年。世界は資本主義により、搾取し尽くされていました。
社会主義的な統制が、人類維持のため導入されると、世界最大の企業は宇宙に目を向け始めます。
世界最大の宇宙開発企業「エデルレジ社」は、ケンタウルス座アルファ星への移住計画を実施しました。
ベテラン宇宙飛行士ミルーティンは、バイコヌール基地に帰還した際、エデルレジ社の社会工学者の女性から、約4万光年先のケンタウルス座アルファ星への宇宙飛行探査を命じられます。
今までたった1人で任務をしてきたミルーティンでしたが、今回は同行する仲間が必要だったため、エデルレジ社の女性型アンドロイドのニマーニが同行することになりました。
タブレットを使って500種類のモードから好きな性格を選び、容姿も自分好みにカスタマイズできる女性型アンドロイドのニマーニ。
プロジェクト名「ニマーニ1345」と呼ばれる彼女は、人間と過ごすうちに学習し、自ら微調整を重ねていくことができます。
社会工学者の女性は、ミルーティンに任務内容を話した時、密かに彼との会話から好みの女性のタイプの情報を入手していました。
ユーゴズラビア人であるミルーティンは、エディプス複合を持つため、母親に似た顔が好印象だと考えたエデルレジ社は、保安庁に協力を仰いで母親の声紋を入手。
さらにニマーニには、反動主義的な性格を少しにとどめ、服で隠せる部分に肉体的な美しさを持たせます。
ミルーティンの嗜好に合わせてプログラムされたニマーニは、彼の任務のサポートだけでなく、セックスの相手まで務めることができるのです。
ミルーティンはニマーニと一緒に、エデルレジ社のコンピューターシステムが搭載された宇宙船に乗り、ケンタウルス座アルファ星へと旅立ちました。
宇宙飛行探査19日目、出発時からずっと眠ったままだったニマーニが、ついに起動します。
この時の航海日誌に、ここまでニマーニと過ごしたミルーティンは、音声でこう記録していました。
「ニマーニは本物の人間のように見えなくはないが、行動が不自然だ。セットアップを重ね、こちらの望みを何でも聞くだけ。これでは服従と同じだ。拒絶も苦悩もない相手とは関係を築けそうにない」と。
その後、ミルーティンはニマーニを利口モードから誘惑モードに切り替え、受胎機能を持つ彼女とセックスをしてみました。
次はニマーニのモードを恋愛関係へ変換。ミルーティンは彼女に、これまで全員が同じOSで動いているような、型にはまった多くの女性に心ない言動で傷つけられ、今の自分ができたことを打ち明けます。
宇宙飛行探査41日目、ニマーニがこの日初めて、今まで素直に受け入れてきたミルーティンのセックスの相手を、頑なに拒絶しました。
ミルーティンはそんなニマーニを、初めて乱暴に扱ってレイプします。
全てのことに従順なニマーニに不満を抱いていたミルーティン。彼がニマーニをレイプしたのは、彼女と設定を介さない関係を築こうとしたのです。
ミルーティンは後日、バイコヌール基地にいるエデルレジ社と通信を開始。
ミルーティンは少し船内が窮屈なものの、宇宙船の状態もニマーニとの関係も良好だと伝えました。
しかし社会工学者の女性は、そう報告するミルーティンの言葉を信用していないのか、ニマーニを業務モードにし、彼女に現状報告をさせたのです。
ニマーニは今回の任務に就く動機となった不満話をするほど、社会的にも性的にも、ミルーティンとは親密な関係を築いていると報告します。
ニマーニはつづけて、船の保守を万全に行うミルーティンが有能であると認めているものの、自身の経験に頼って行うことが多い彼の監視は必要だと言いました。
これを無表情で聞いていた社会工学者の女性は、ミルーティンに最後、6か月と2日後の次回の通信時に土星でのスイングバイに関する詳細を報告するよう伝え、通信を切りました。
その後ミルーティンは、エデルレジ社との通信が完全に切れたことを確認したうえで、宇宙船のコンピューターから、ニマーニが自分を監視するのか尋ねます。
それに対し宇宙船のコンピューターは、ニマーニのOSは最新型TIFAであり、それによって学習と形成を同時に行う彼女は、ミルーティンとの経験を内部記憶装置のフォルダに残し続けているのだと答えました。
ニマーニはミルーティンとの経験をもとに形作られていき、その記憶を消せるのは、エデルレジ社に許可を貰った上級ユーザーのみ…。
それを聞いたミルーティンは、宇宙探査飛行298日目以降、ニマーニと初めて口論してみました。
その時ニマーニは、設定どおりの言葉ではなく、彼女独自の言い回しでミルーティンと口論したのです。
ミルーティンは、ニマーニがソーラー充電中、起動させた宇宙船のコンピューターに、ニマーニのOSを消したらどうなるか尋ねてみました。
すると宇宙船のコンピューターは、TIFAをアンインストールしたとしても、ミルーティンと過ごした経験をもとに、ニマーニのソフトウェアは起動すると回答。
しかしニマーニの機能は大幅に低下し、インターフェイスや行動パターンが失われ、ロボット工学の3原則を破る可能性が出てくるとも…。
つまり、ニマーニのOSが消されれば、ミルーティンが望むとおりの存在、「人間の女」にだってなれるのです。
これを聞いたミルーティンに、宇宙船のコンピューターが勧めた精神分析プログラムを活用し、精神分析理論を熟知しているニマーニに自分のカウンセリングをさせます。
ミルーティンはニマーニに直接、自分独自の言い回しを使って口論した彼女と、初めて設定を介さず、心を通わせることができた気がしたと伝えました。
そしてミルーティンは、「ニマーニが自分との生活で学習しているのであれば、自分の存在が彼女に生命を与えている。それならば、ソフトウェアが作り出す物語から何とかして抜け出し、自分の欲望のままに行動する‟人間の女”にしたい」と告げます。
映画『A.I.ライジング』の感想と評価
女性型アンドロイドに恋をしたミルーティンに胸キュン
44年にわたる宇宙探査飛行で、ベテラン宇宙飛行士が美しい女性型アンドロイドに、徐々に恋に落ちていく話でした。
物語の序盤では、ミルーティンは任務に同行する女性型アンドロイド、ニマーニとの関係が築いていけないと思いました。
しかしそこから一変。ミルーティンはニマーニと過ごすうちに、だんだんと彼女の存在を受け入れていきます。
そして、ミルーティンがニマーニに恋をした瞬間が、彼女が独自の言い回しで口論してきたときでした。
それだけで心を通わせることができたと感じたミルーティン。
普通そこで恋に落ちないだろうと思いますが、今まで女性と喧嘩することでしか、心を通わせることができなかった彼にとっては、恋に落ちるのには充分なきっかけになったのです。
今までニマーニを性奴隷のように扱ってきたミルーティンが、表情が柔らかくなり、彼女を本気で愛して「人間の女」にしようとする姿は、種族を越えた愛を感じて胸キュンします。
2人に起きた悲劇が辛すぎて泣ける
ミルーティンとニマーニが仲睦まじく過ごす生活は、物語の後半で彼女が「人間の女」になった瞬間、ガラリと変わります。
今までミルーティンに笑顔で接していたニマーニが、無表情で淡々と仕事をし、彼の好意も性的関係も頑なに拒絶するのです。
「人間の女」に生まれ変われば、自分の意志で愛してくれると思っていたミルーティンにとって、これほど悲しくて辛すぎる未来はありません。
冷静沈着で仕事をこなしてきたミルーティンが、ニマーニを愛したことで優しくなり、彼女に拒絶されたことで心を病んでいく姿。
本気でニマーニを愛していたからこそ、拒絶されて傷ついたのだとひしひしと伝わってくるので、涙を堪えるミルーティンの代わりに、観ているこっちが泣けてきます。
自ら「死」を選んだニマーニが涙を流す場面や、ミルーティンが命の危険を顧みずに、彼女を助けようとする場面も号泣必至です。
まとめ
ベテラン宇宙飛行士が、任務に同行する女性型アンドロイドに恋をして、「人間の女」にしたSFドラマ作品でした。
セバスチャン・カバーツァ演じるミルーティンが、クールな性格から一変。
本気で女性を愛し、傷つき病んでいく過程は、人間同士の恋愛より胸キュンしますし、自然と涙が溢れるほど感情移入します。
ストーヤ演じるニマーニ。彼女の笑顔で従順に言う事を聞くアンドロイドと、「人間の女」になって他の感情を出していく切り替えが完璧で、「実はニマーニ自身なのでは?」と思ってしまうほどです。
ただ、ミルーティンたちの種族を越えたラブストーリーが中心に描かれているためか、肝心の宇宙探査している場面は一切出てきません。
ケンタウルス座アルファ星とはどんな星なのか、どんな宇宙探査をするのか期待していた人にとっては、少し物足りなく感じてしまいます。
宇宙船を舞台に、人間とアンドロイドの恋模様を描いた感動のSFドラマ映画が観たい人に、とてもオススメな作品です。