映画『ベイビーティース』は2021年2月19日(金)より新宿武蔵野館、渋谷ホワイトシネクイント他にて全国順次公開!
病を抱える16歳の少女の“最初で最後の鮮烈な恋”を描くオーストラリア映画『ベイビーティース』は、恋と不治の病というこれまでにも多くの作品が描いて来たテーマを、独自のリズムと色彩で構成したラブストーリー&ヒューマンドラマです。
『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』のエリザ・スカンレン、本作で第76回ベネチア国際映画祭のマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)に輝いたトビー・ウォレスが恋する2人を演じています。
監督はオーストラリアの新鋭シャノン・マーフィーが務めています。
映画『ベイビーティース』の作品情報
【日本公開】
2021年公開(オーストラリア映画)
【監督】
シャノン・マーフィー
【原題】
Babyteeth
【脚本】
リタ・カルネジェイス
【キャスト】
エリザ・スカンレン、トビー・ウォレス、エシー・デイビス、ベン・メンデルソーン、エミリー・バークレイ、ユージーン・ギルフェッダー
【作品概要】
少女の最初で最後の恋をヴィヴィッドに描いたオーストラリアのシャノン・マーフィーの長編映画監督デビュー作。
第76回ベネチア国際映画祭(2019)コンペティション部門出品作品。モーゼス役のトビー・ウォレスがマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞。
2020年のオーストラリア・アカデミー賞では、作品賞や監督賞を含む9つの賞を獲得し、パームスプリングス国際映画祭、サンパウロ国際映画祭では監督賞を受賞するなど国内外で高い評価を得ています。
映画『ベイビーティース』あらすじとネタバレ
病を抱える16歳の女子高生ミラは、放課後、駅のプラットフォームで立ちすくんでいる時に孤独な不良青年モーゼスと出会います。
ミラが鼻血を出しているのに気がついたモーゼスは、自分のTシャツを脱いでミラに手渡してくれました。ミラはあわてて血を拭いました。
Tシャツを血だらけにしてしまったことを詫びると、モーゼスは、家を追い出されたため金が必要だから少し貸してほしいと言い出します。「命を救ったと思えば安いもんだろ?」ミラは快諾し「その前に頼みがある」と言いました。
ミラの母、アナは元ピアニスト。ミラが産まれて一流音楽家の道を諦めました。父のヘンリーはセラピストで、アナは定期的にヘンリーの診察を受けて、薬を処方してもらっています。
ミラはモーゼスの家に行き、髪を切ってもらっていました。すると、モーゼスの母と弟が帰ってきました。
モーゼスの母はモーゼスを観るや、警察に電話しようとし、モーゼスとミラはあわてて部屋を出ていきました。
ミラが美容院に行っていないことがわかり心配していた両親は、ショートヘアーになったミラがモーゼスを連れて現れ、驚きます。
夕食をごちそうになり帰っていったモーゼスですが、ある夜、ミラの家に空き巣に入り、アナにみつかるとナイフを見せて威嚇してきました。彼は薬物中毒で、クスリを探しに忍び込んだのです。
ヘンリーとミラが起きてきてモーゼスは觀念します。すぐに夜が明け、アナはミラを学校に送り、モーゼスに家まで送ると言いましたが、モーゼスはここでいいと言い、ミラを追いかけようとしました。アナはモーゼスに「ミラに近づかないように」とくぎを指します。
しかしモーゼスは放課後、ミラを待ち伏せし、2人は再び顔を合わせました。ミラは怖いもの知らずで自分を特別扱いせずに接してくれるモーゼスに惹かれ、恋に落ちます。
ミラはバスケットコートで仲間たちとつるんでいるモーゼスのところに行き、彼を呼び出しました。パーティーに行かないかと誘われ、ミラはモーゼスについて行きます。
踊り疲れたミラは、モーゼスと丘の草むらで横になります。行かなきゃいけないところがあるからとモーゼスは立ち上がり、必ず帰ってくると出かけていきました。
その頃、両親は帰ってこないミラを懸命に探していました。
夜が明け、いつの間にか眠っていたミラは目を覚まします。モーゼスが帰ってきた形跡はありません。一夜を野外で過ごしたことでミラは肺に感染症を起こし、入院することになってしまいました。
ヘンリーはモーゼスを訪ね、なぜ娘をほったらかしにしたのかと詰め寄りました。帰るつもりだったが帰れなかったのだとモーゼスは弁解します。その言葉に嘘はないようでした。
日に日に体力を失っていく娘の姿を見て、ヘンリーは決断します。クスリを都合するからうちに来て住めとモーゼスに持ちかけます。
退院したミラはモーゼスとずっと一緒に入られる生活を送り、幸せそうでした。体調も随分とよくなってきたように見えました。
アナがプロム用のドレスを買ってきてミラを喜ばせます。ミラは早速ドレスに腕を通しましたが、その時に、違和感に気づきます。
映画『ベイビーティース』感想と評価
物語は章立てされていて、章ごとのタイトルが静かに画面に現れます。少女と少年の出会いのシーンこそドラマチックで劇的なものでしたが、その後は、寧ろ抑揚をおさえ、淡々としたリズムで散文的に進行していきます。
まっすぐに恋に突き進む少女の歓び。弾む会話。猜疑心にかられ思わず問い詰めてしまう恋心がもたらす不安、そうした甘くて切ないリアルな感情が、画面からほとばしります。
と、同時に、この作品は彼女の両親たちの物語でもあります。少女が長く続く治療につらい思いをしているのは勿論のこと、一人娘の苦しみを側で見ているしかない両親も、ギリギリの精神状態にいます。
遠い昔に諦めてしまった夢、ふとした気の迷い、娘を心配するあまり起きる諍いなど、両親の人生も繊細にスケッチされます。
病に苦しみ、恋人や両親に見守られながら、死をむかえる少女の話はこれまでいくつも作られてきましたが、本作ほど、当事者である少女の歓びと苦しみ、そして周囲の人々の愛と悲しみが伝わってくる映画はないのではないでしょうか。
生きたいと願っても許されず、楽になりたいと願っても人間は簡単には死ねないのです。少女の痛み、苦しみが直に切実に伝わってきます。
かと思えば、あっけなく息を引き取ってしまう。残された人々の喪失感に胸が苦しくなります。「短い人生を精一杯鮮やかに生きた」などという安直なフレーズで少女の一生を美化することを本作は許さないでしょう。人の一生はもっと複雑なものであることを映画は訴えています。
モーゼスの心理だけは、他のキャラクターに比べてちょっと見えにくい部分があります。もしかしたら簡単に手に入るクスリと安住の宿にひかれたのかもしれませんし、衰えていく恋人の側に居るのがつらいと思った瞬間もあったかもしれません。
それでもひとつだけ確かなことがあります。母親に追い出され、徹底的に拒絶された孤独な少年が、愛を知った物語でもあるということです。
まとめ
グレタ・ガーウィグの監督作『ストーリー・オブ・マイ・ライフ 私の若草物語』(2019)で三女のベスを演じたエリザ・スカンレンがヒロインのミラを演じ、映画『シークレット・オブ・ハロウィン』(2016/ニコラス・ベルソ)やNetflixドラマ『ザ・ソサエティ』などで知られるトビー・ウォレスがモーゼスに扮しています。2人とも圧倒的な存在感で、観るものを虜にします。
監督のシャノン・マーフィーは、人気TVドラマ「キリング・イヴ/Killing Eve」(BBC/2018-)などの演出を務め、本作で長編映画デビューを果たしたオーストラリアの新鋭作家です。
パームスプリングス国際映画祭、サンパウロ国際映画祭で監督賞を受賞。米バラエティ誌の[2020年注目すべき10人の監督]に選出されました。
わかりやすいセンチメンタリズムを避け、独自のリズムで登場人物を見つめています。その視線は冷静ですが温かく、写真家ウィリアム・エグルストンや川内倫子の作品にインスパイアされた画作りや色彩づくりがなされています。
本作には元になった舞台劇があり、戯曲の作者であるリタ・カルネジェイスが映画の脚本も務めています。