連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第4回
世界のあらゆる国の、様々な事情で埋もれかけた映画を紹介する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第4回で紹介するのは、今回唯一の日本映画『ある用務員』。
現在の日本映画界で活躍中の人材を数多く発掘している、知る人ぞ知る「学生残酷映画祭」2016年グランプリ作、『ベー。』(2017)を監督した阪元裕吾監督。
2017年カナザワ映画祭で新人監督賞を受賞した『ハングマンズ・ノット』(2017)は、『ファミリー☆ウォーズ』(2018)と共に「夏のホラー秘宝まつり2018」で上映されました。
バイオレンス映画を撮り続ける新鋭監督が、演技力と多才な活動で注目を集める福士誠治と共に、アクションに挑んだ異色作の登場です。
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら
CONTENTS
映画『ある用務員』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督】
阪元裕吾
【キャスト】
福士誠治、芋生悠、前野朋哉、般若、一ノ瀬ワタル、清水優、北代高士、伊能昌幸、近藤雄介、尾崎明日香、伊澤彩織、高石あかり、犬童美乃梨、波岡一喜、野間口徹、渡辺哲、山路和弘
【作品概要】
高校で用務員として働く男。彼は1人の女子高生を見守るボディーガードでした。命が狙われた彼女のために、殺し屋集団と死闘を演じる男を描くバイオレンスアクション映画。
デビュー作以来暴力をパワフルに、そしてコミカルに描くことでファンから注目を集める鬼才、阪元裕吾監督の最新作です。
主演は『THE NEXT GENERATION パトレイバー』(2014~2015)シリーズや『愛しのアイリーン』(2018)など、数多くの映画・ドラマに出演している福士誠治。
共演は『ソワレ』(2020)の演技で注目を集めた芋生悠。前野朋哉や般若ら一癖ある俳優陣に野間口徹、ベテラン俳優渡辺哲に山路和弘の贅沢なキャストで見せる作品です。
映画『ある用務員』のあらすじとネタバレ
少年時代、深見晃は目の前で父・深見光男(野間口徹)を何者かに殺されていました。
彼の前に現れた真島善喜(山路和弘)は、光男とは血より濃い絆で結ばれた兄弟分で、何かあれば息子の面倒をみるように頼まれた、今後はお前を息子として育てる、と告げます。
そして現在。深見晃(福士誠治)は、とある高校で用務員として働いていました。
高校の屋上で、男女の友人とスマホで動画を撮り騒いでいた生徒の翔太(近藤雄介)たちは、1人たたずむ真島唯(芋生悠)に気付き立ち去ります。
翔太は友人と自分を注意した教師の遠藤(波岡一喜)に絡みます。黙って見つめていた深見に因縁をつけ、無抵抗の彼を殴り倒す翔太。
そこ現れた生徒、長谷川ヒロ(伊能昌幸)が翔太の振る舞いを注意します。喧嘩になりかけますが、唯が現れると翔太たちは立ち去ります。
母が亡くなり、今は父と別れて暮らす唯を、幼馴染みのヒロは家族ぐるみで気遣っていました。
ヒロと共に下校する唯を、父の真島が車で迎えに現れます。まだ誕生日前の娘を、今日前倒しで祝ってやると強引に誘い、豪華な食事を共にした真島。
娘に何でも買い与える真島は、留年しかねない唯の成績を心配していました。彼は一方的に海外留学の話を持ち出します。
自分に残る家族は唯だけと語る父ですが、自分を放置し勝手に物事を進める態度に、唯は不満を感じていました。
深見には裏の顔がありました。夜の路上でターゲットからメモリースティックを回収し、射殺する深見。
そこに本田に命じられ、同じ目的で現れた殺し屋・稲岡(北代高士)が現れます。腕を認めた同業だが、今は唯のボディーガードの深見に銃を向ける稲岡。
どうするか本田に確認した稲岡は、指示を受けて引き下がりました。
深見はボディーガードに守られた部屋に入ると、真島に入手したメモリースティックを渡します。
息子のように育てた深見の手際を真島は褒め、高校での唯の様子を訊ねます。話下手な深見の頬を幼い頃のように、親愛を込めつねり喋らせる真島。
唯が留学したら、自分と娘のどちらのボディガードをすると訊ねた真島は、来客が現れると告げ深見を帰らせます。
来客はキレやすいヤクザの親分西森(般若)と、その護衛で世話役の村野(一ノ瀬ワタル)でした。
深見とすれ違った西森は、かつて暴力団組長だった光男を父に持ち、裏社会の顔役・真島に育てられた深見に対し、裏社会の動きに関心を持つよう言い捨てます。
西森と面会した真島は、日本での事業に見切りをつけ、支配する真島グループは海外に拠点を移すと宣言します。西森にはヤクザ稼業の看板を下ろすよう勧める真島。
面会を終えた西森はその言葉にキレました。自分を切り捨てた真島を始末しようと考える西森。
ガードの堅い真島を殺害するには、深見を使う。それが筋だと西森は村野に告げました。
高校で翔太に絡まれていた深見を車に乗せ、親分の西森の元に案内する村野。
ホステスのマイカ(犬童美乃梨)と喋っていた西森は、深見に真島がお前の父殺しの犯人だと教えます。
光男を殺し、組に自分の都合の良い親分を祭り上げ、利用して事業を拡大した真島。
表稼業が大きくなった今、奴は海外進出する。その際暴力団や殺し屋のお前など、裏社会の者を全て切り捨てるつもりだと、西森は深見に伝えます。
真島がお前を育てたのも、都合の良い飼い犬に仕立て上げるのが目的だと聞き、動揺する深見。
西森は全組員のために真島を殺るつもりだが、親の仇を子に討たせるのが仁義、だからこうして話したと告げます。
深見をたき付けた西森は、真島の後を継ぐ彼の愛人の息子、本田も同時に始末するつもりでした。
西森は確実に真島を始末できるよう、村野に襲撃する深見の後を付け、止めを刺せと命じます。
護衛を倒して部屋に入ると育ての親、真島と対決する深見。
真島は深見の父・光男の殺害を認めます。光男とは互いに納得して命のやり取りを行った、お前は父の仇の言いなりになっていると告げます。
お前が父の仇を殺すのは筋、覚悟はできてる。しかし自分が死ねば唯が狙われる、唯を守ってくれるなら殺されてやると言う真島。
俺たちが生まれたのは、そんな世界だと言う真島に対し、深見は引き金を引けません。
そこに現れた西森の部下、村野が真島を撃ちました。怒って村野を射殺した深見。
深手を負った真島から唯の身を託された深見は、泣き叫びながら父の仇である、育ての親を射殺しました。
西森は真島の側近、鈴木(清水優)に接近し事業の乗っ取りを企てます。手下に真島の後継者、本田(前野朋哉)を拉致させ連れて来させる西森。
本田は隠し持った銃で西森の部下たちを射殺します。いずれ真島は襲われると予想していた本田は用意周到でした。従わせた鈴木に殺しを経験させようと、西森を撃たせる本田。
幼馴染みのヒロに、父の命令で留学させられるかもしれない、と相談する唯。ヒロは相談させようと真島に電話をかけますが、応答はありません。
唯の通う高校に、本田は鈴木と配下の殺し屋・稲岡を連れて現れました。休校日の今日は補習を受ける唯ら、数名の生徒と教師のみが登校していました。
真島の遺産を手に入れるには、彼の金庫を開ける鍵の生体認証を持つ唯が必要。しかし唯は真島に自分を嫌うよう育てられ、協力は望めないと言う本田。
そして真島に育てられた深見は、自分とは後継者争いのライバル。これこそが真島のやり口だと本田は説明します。
殺し屋でもある深見を消し、唯の身柄を生きたまま確保する必要があります。決着をつけるなら人気の無いこの高校。
念には念を考えた本田は、殺し屋たちを呼び集めます。
映画『ある用務員』の感想と評価
福士誠治の魅力が炸裂した作品です。しかし渋いアクション映画、あるいは任侠映画の香り漂う作品と信じて見た人は、狐につままれたような気分になったかもしれません。
何と言いましょう。『ジョン・ウィック』(2014)とVシネマが合体した映画と表現しましょうか。
本作の魅力はネタバレあらすじを読んでも伝わりません。この映画のミソは任侠映画的展開と、アクションシーンの反復にあるのです。
冷静に振り返るとこの映画、登場人物ほぼ全員死亡する、実にトンデモないお話です。映画的嘘を楽しく積み上げる、それに徹した作品です。
ここまで紹介すれば、過去の阪元裕吾監督作品を知る人は納得するでしょう。確実に『ハングマンズ・ノット』や、『ファミリー☆ウォーズ』の延長線上にある映画です。
ホラー映画には『死霊のはらわた』(1981)のように、過激な描写を積み重ねることで楽しませる、そして笑いすら誘うタイプの作品があります。
本作もそれと同様に、過剰な繰り返しを見せて楽しむ作品と実感しました。
阪元監督ワールドが任侠映画に挑んだ
本作は『ジョン・ウィック』のパロディとしても楽しむことが可能です。一方である部分はヤクザ映画、またその流れをくむVシネマのスタイルに忠実です。
仁義だ兄弟分だという言葉が繰り返され、それに縛り付けられ行動する登場人物たち。それは後半の殺し屋バトルにはさほど生かされていません。
むしろ本作に登場する、前野朋哉演じる新世代の悪党から時代遅れ、頭が悪いと嘲笑される対象です。
それでありながら、ラストまで物語の軸となって登場人物をつなぐ任侠映画的な情と因縁。
これは本作は任侠映画のパロディであると同時に、その見せ場を積み重ねる狙いがあると思われます。
北野武監督の『アウトレイジ』(2010)は、極論すればオジサンたちによる、繰り返されるヤクザ演技合戦、暴力合戦です。
続編『アウトレイジ ビヨンド』(2012)は、そういったシーンがもはやパロディ、コメディと呼べるレベルに積み重ねられます。
完結章『アウトレイジ 最終章』(2017)は、それをトーンダウンさせたのが北野映画らしいと言いましょうか。『ある用務員』にもこれと同じ要素があります。
令和の時代に任侠映画的な見せ場を繰り返す。ある種のパロディ、オマージュですが、同時にその状況が生む演技が役者を引き立たせます。
これらの場面での山路和弘、般若、一ノ瀬ワタル、北代高士の演技は『アウトレイジ』的な楽しさを持つもので、芋生悠は典型的な「薄幸の女性」を演じています。
これら任侠映画パートと、殺し屋アクションパートをつなぐのが、主演・福士誠治の存在です。
技闘アクション映画の魅力を再確認
参考映像:『BUYBUST バイバスト』(2017)
映画の中で積み重ねて楽しいもの、それは間違いなくアクションです。
邦画でも特にコミック・アニメを原作にする作品は、ワイヤーアクションが盛んに利用され派手な見せ場を作っています。
しかしワイヤーアクションは派手であっても、明らかに現実には存在しない動きを描くものです。
近年CGが多用されている映画界。CGで派手なシーンが作られる一方、現実のリアルを撮る価値も再評価されています。
CGではなく実物のセットやミニチュア、特殊メイクを。クリストファー・ノーラン監督はその代表格ですが、ジャンル映画の世界にもこの回帰現象が起きています。
ワイヤーアクションをCG的なもの、と解釈するなら現実のリアルを描くアクションは”技闘”。スタント能力を持つ演者が、自らの肉体で作り上げるシーンです。
技闘が復活する中、ダンスの様な華麗なカンフー系の動きより、古典的でもリアルさを持つ打撃系アクションが、世界の映画界で復活を遂げています。
特に注目すべきはフィリピン。80年代のビデオバブルの頃、海外資本のアクション映画の撮影現場となり、スタントマンの需用が高まります。
そして90年代以降、育ったスタントマンたちと共に、自国での映画作りも盛んになります。技闘を駆使するアクション映画が数多く作られました。
ブームは下火となりますが、この時代の影響受けた、新世代のスタントマンが技闘で見せるアクション映画が今、フィリピンで復活しています。
「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】」上映作品『ネバー・ダイ』(2018)は、現在活躍するスタントマンたちにエールを送った映画です。
作品にはフィリピンで多くの後身を育てた名スタントマン、バルド・マロが出演(これが彼の遺作です)。映画は古いスタイルのアクションの価値を示す意図でも作られました。
そして「未体験ゾーンの映画たち2019」で上映された『BUYBUST バイバスト』(2017)。これぞ畳みかけるアクションで見せる傑作、ファン必見です。
『ネバー・ダイ』『BUYBUST バイバスト』共に、女性が主人公の激しいアクションを見せる映画でした。
『ある用務員』の激しく連続した技闘、打撃系アクションは「スタントチームGocoo」が作り出したものです。
見応えのあるシーンの中でも、特に注目を集めたのが女子高生殺し屋・シホを演じ、福士誠治と渡り合った伊澤彩織。
スタントウーマンとして実績を積んだ彼女にとっても、今回の映画が初めてセリフのある役。その存在感がアクション映画ファンの間で、既に話題となっています。
彼女はハリウッド映画『G.I.ジョー: 漆黒のスネークアイズ』(2021年公開予定)の撮影で、2019年12月から翌年2月までメインキャストのスタントダブルを務めました。
着実に実績を積んでいる伊澤彩織が、紹介したフィリピン映画のような、女性が活躍するアクション映画に出演できるよう、心から応援させて頂きます。
まとめ
任侠映画の演技、そしてアクションシーンの波状攻撃が痛快な『ある用務員』。それを正面から受け散るのも良し、余裕ある視点でツッコミながら楽しむのも良しの映画です。
待機中の公開作品として、またもヤバそうなバイオレンス映画『黄龍の村』(2021年公開予定)がある阪元監督。
次なる作品はホラーか、アクションか、バイオレンスか。彼には優れたジャンル映画作家になって欲しいと望みます。
本作の様な犯罪映画にまた挑むなら、きっとサム・ライミとコーエン兄弟が手を組んだ怪作、『XYZマーダーズ』(1985)が進化したような、弾けた映画にきっとなるでしょう。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」は…
次回の第5回は、片腕に凶器を装着!改造された美女たちが闘技場でバトルを繰り広げるバイオレンス映画、『バースト・マシンガール』を紹介します。お楽しみに。
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら