連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第6回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信サービス【U-NEXT】で鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第6回は、ブラッド・オズボーン監督の謎解きのスカイパニック映画『ジャッジメント・フライ』です。
ジャンボ・ジェットの機内で目を覚ました見知らぬ7人は、謎のフライトをしていました。しかもメンバーは、何ものかに選ばれた人類最後の搭乗者という状況下…。
やがて燃料も尽きることになるフライトと、そして、眼下のアメリカ大都市は某国の攻撃を受け、壊滅の炎に包まれたという情報が入ります。
生還できるのか、それとも新たなる場所へ亡命か、彼ら運命を握る者とは誰なのか?
B級映画ならではのソリッドシチュエーションスリラーを、上空スカイパニックで描いた映画『ジャッジメント・フライ』をご紹介します。
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映画『ジャッジメント・フライ』の作品情報
【全米公開】
2013年(アメリカ映画)
【原題】
CHARIOT
【監督】
ブラッド・オズボーン
【キャスト】
アンソニー・モンゴメリー、ブリーナ・パレンシア、イアン・シンクレアー、ジョー・ネマーズ、ミッシェル・シェリル
【作品概要】
ブラッド・オズボーン監督が「ソリッドシチュエーションスリラー」と「スカイパニック」というジャンルを掛け合わせた密室ミステリー作品。
主人公コール役をアンソニー・モンゴメリーが演じるほか、エミリー役には米国で日本のアニメ作品の声優を多く務めるブリーナ・パレンシアが務めています。
映画『ジャッジメント・フライ』のあらすじとネタバレ
ジャンボ・ジェット機内で目を覚ましたコール(アンソニー・モンゴメリー)は、トイレに行き、顔を洗います。
コールは何故、自分が旅客機に登場しているか、その事実が分からず困惑していました。
その後、搭乗者のもうひとりの男マイケル(イアン・シンクレアー)も起きたようでコールに声をかけますが、彼もまた機内に何故いるのか理解ができないことから、コールに少し苛立ちを示します。
さらに、女性エミリー(ブリーナ・パレンシア)も目覚めますが、またしても同じ状況。しかし、彼女はマイケルが運輸長官であることだけは知っていました。
3人は自分たちの状況を把握するためにも、機内の席にバラバラに座っていた乗客全員を起こすことを決めます。
その時、ラという中東の男が目を覚まし、飛行機が嫌いなことからパニック状態を起こし、エミリーにつかみかかったことから、コールに殴られて気を失い拘束されます。
目覚めた搭乗者は、携帯を奪われているようで、自己紹介をすることにしました。
搭乗者したメンバーは、トラック運転手のコール、運輸省長官マイケル、大学院生エミリー、政府機関のDHSで働くジェネヴィーヴ、主婦のベリンダ、IT会社社員のエイデン、多くはヒューストの出身者やヒューストンに向かっていました。
しかも皆が登場したジャンボ・ジェット機のことを、マイケルは今では使用されていないボーイング727型で、燃費が悪く、現在では使用していないと語ります。
しかし、中東とのイラク戦争でアフリカに売却して戦闘機に使用したもので、おまけにアンゴラで1機盗まれていたとエイデンは苛立ち話します。
マイケルは2003年に確かに登場した旅客機が盗まれていたことを伝えると、エイデンは登場している機体がそうだと決めつけます。苛立つ議論を交わす皆は、奇妙さ、違和感、謎という苛立ちの中、現状の把握に努めようといいます。
携帯電話は全員没収されていたはずですが、乗客シートからスマートフォンを発見。ITを得意としたエイデンが目的地のヒューストンから配信しているニュースサイトにアクセスをしました。
すると、アメリカのニューヨークをはじめ、ワシントンやボストンなどの主要都市は、某国の攻撃を受け、壊滅状態だと配信されていました。
それを伝えている最中に、生中継のスタジオも爆撃を受けたようで配信ニュースは途絶えてしまいます。
コールとマイケルは、操縦席の機長に話に行きますが、しかし、全く反応がありませんでした。
その時、スマートフォンの着信音がなりました。それを手にしたコールがビデオフォンに出ると、先方の相手はコリンズ少佐でした。
そして、コリンズは皆の名前を尋ねると搭乗者リストにあると言います。また、アンドルース統合基地が着陸目的地でしたがワシントンは壊滅、そこでバミューダに向かうように指示をします。
エイデンはコリンズに意味がわからないと文句を述べますが、それでも別の空港を探せという一方的な理由を告げました。
コリンズは機長らは秘密保持のため連絡を絶っているが、皆で力を合わせて、何とか説得して連絡を取ってくれと言い、連絡は切れました。
皆は謎の多い状況と、旅客機に閉じ込められたことから苛立ちはピークになっていきます。そして機内に何かないかを探していると、乗客シートに血痕があるのを見つけます。
その血痕をたどった先にある収納庫には、男の死体がありました。すると、主婦を名乗っていたベリンダが拳銃を構え、その銃口を皆に向けました。
ベリンダと遺体として発見された男は共犯者で、飛行機に拉致をする人物を乗せることが役割りでしたが、途中で仲間割れしたベリンダが殺害したものでした。
しかも、彼女の目的がマイケルを拉致することだと、ジェネヴィーヴに暴かれると、マイケルは家族と引き離して拉致したことに怒りをぶつけます。それでもベリンダは動じませんでした。
その時、ベリンダの背後に先ほど気を失っていたラビクが襲い掛かり、彼女は抑えられ、皆にシートに縛り付けられました。
ラビクは言語学者であることを述べ、先ほどの失態をコールに謝ります。そして2人は和解をして、コールはラビクに操縦席に入り、機長を説得する方法を考えて欲しいと述べました。
コールはベリンダを拘束したシートに取り囲む皆の元に戻ります。そこでベリンダは、今回のことはチャリオット計画であり、都市が壊滅する前に選ばれた者を飛行機に登場するのが目的でした。
そこに、ラビクも戻ってきました。すると自分のカバンから、荷物検査に引っかからなかったサバイバルナイフがあったこと伝えて、これで操縦席をこじ開けようと提案します。
しかし、操縦席のドアが開かずにいると、マイケルは911テロ以降、操縦室から客室内を見渡すための監視カメラがあったことを思い出します。
紙にメッセージの言葉を書き記したものを、監視カメラに示しますが操縦席は無反応でした。そこで皆で手分けしてニセモノの爆弾をお手製で作る材料を集め、エイデンがそれをまとめて完成させます。
エイデンが操縦室から監視カメラでカメラに見えるように、操縦室の扉に付けました。
一方で拘束されていたベリンダを、マイケルは家族殺しの復習として首を絞めていた矢先、彼女は逃げ出し、操縦室でのエイデンやコールの行動を阻止に向かいます。
映画『ジャッジメント・フライ』の感想と評価
本作『ジャッジメント・フライ』は、どのようなB級映画のテイストで構築がなされているのか。まず、誰しもが思い浮かぶのは、1つ目は、「ソリッドシチュエーションスリラー」というジャンルです。
例えば、1997年のヴィンチェンゾ・ナタリ監督の『CUBE』や、2004年にジェームズ・ワン監督の『SAW』のように、目が覚めたら見知らぬ状況に放り込まれていたという映画です。
他にも、今回何者かによって、男女7人が集められたということで、1954年の黒澤明監督の『七人の侍』に始まった、1960年のジョン・スタージェス監督『荒野の七人』などの、「7人もの」というジャンル。
そして、1970年のジョージ・シートン監督の『大空港』に始まる「エアポート」シリーズのスカイパニック映画がミックスされた作品とも言えるでしょう。
これらの要素をパズルのように組み合わせ、B級映画として制作する中で、アメリカ人とって忘れることのできない出来事「911同時多発テロ」を、スパイスとして用いて効果的にしたのが、『ジャッジメント・フライ』の面白さです。
つまり、いつのまにか誰か知らない存在に、謎と共に密室で悲惨な状況に叩き込まれ、個性の異なる7人のキャラクターがぶつかりあったり協力したり、そこはジャンボ・ジェット機という高度のある上空で常に「死」と隣り合わせにあります。
そんな点をハラハラ、ドキドキの鑑賞のポイントにしましょう。
参考映像:『大空港』(1970)
もちろん、『大空港』予告編を参考に貼り付けてはいますが、『ジャッジメント・フライ』の場合はB級映画。予算の少ない中で物語を紡いだものですから、対比するとB級映画以下の・・・の存在と言えるでしょう。
しかし、そもそも1970年代前半のパニック映画は、「パニック・スペクタクル」と呼ばれたものです。
突然何かとてつもない出来事に遭遇し、うろたえたり泣き叫ぶという作品を指しており、1972年のロナルド・ニーム監督の『ポセイドン・アドベンチャー』がとても秀作な作品です。
他にも、1973年のマーク・ロブソン監督の『大地震』、1974年のジョン・ギラーミン監督の『タワーリング・インフェルノ』などがあり、日本でも1973年に森谷司郎監督の『日本沈没』があります。
これから鑑みれば「ソリッドシチュエーションスリラー」というジャンル自体の発想が、限られた場所で短い期間で撮影ができるという、B級映画の特徴そのものだと言えます。
国家の陰謀に個人としてどこまで立ち向かえるか
アンソニー・モンゴメリー演じる、トラック運転手のコールは、自らが置かれた最悪の事態の中でも、誰かのせいにしたり、愚痴をこぼしたりせず、最後まで諦めることはありません。
それは彼が差別を受ける黒人であること。また、妻への愛を紡ぎ続けなかったこと。一度、交通事故に巻き込まれた少年を救い出したことなど、幾つもの理由が重なり合い、行動に移します。
コールは操縦したことのないジャンボ・ジェット機の操縦かんを最後まで握り、着陸させることで自分の為に生きることに決めたのです。
それは誰かを感動させようとか、観客のお涙が欲しいからではないでしょう。あくまで個人の証明です。
そして、その姿に同じ乗客のラも行動を起こします。
死が見えているだろうコールは愚か者のように思えますが、常に人を動かす者はそのような人物で、ラは彼のフォロワーの役割りと言えるでしょう。
たった動いたのは1人であるかも知れませんが、2人の行動は小さいものではありません。
コールは積荷を運ぶトラック野郎。彼が仮に「桃次郎」の菅原文太が演じていると思えば、その雄姿も想像がたやすいでしょう。
かつて、ケラリーノ・サンドヴィッチの劇団健康の舞台で、似たようなテーマの作品がありました。日航機墜落事故の際に旅客機の乗客は最後まで生きて帰ることを実行したのかという芝居です。
このように『ジャッジメント・フライ』のテーマは明確であり、些か設定に矛盾を感じはしますが、描きたいことは伝わってくる作品です。
まとめ
本作『ジャッジメント・フライ』は、男女7人のキャラクターの謎と異なる価値の対立、そして接点と演劇のような空間で会話劇を中心に繰り広げられる映画です。
また、エンディングのシークエンスが打ち切られるような終焉を迎えますが、脚本家のエリック・ベイルや、演出を務めたブラッド・オズボーン監督は、そのことは回収しているように感じます。
もちろん、本作はB級映画ですし、傑作でも、秀作でもありません。しかし、アンソニー・モンゴメリー演じるコールは人生を生き抜き、その影響を受けたラも飛行機嫌いを克服しました。
そのことは、アメリカの政府側であるコリンズ少佐のような組織主義な卑怯者ではなく、個人の誇りを投げ出さない人間の姿なのです。
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