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Entry 2020/10/08
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映画『VIDEOPHOBIA』あらすじと感想評価レビュー。白黒の大阪とネットを舞台に描くサイバースリラー|銀幕の月光遊戯 69

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第69回

宮崎大祐監督の映画『VIDEOPHOBIA』が、2020年10月24日(土)よりK’s Cinema、11月07日(土)より池袋シネマ・ロサ、大阪・第七藝術劇場他にて全国順次ロードショーされます。

モントリオール新映画祭での「魅惑的かつ凄惨!」との評を受け、日本プレミア上映となった2020年3月の大阪アジアン映画祭では全回ソールドアウトとなり話題を呼びました。

フランスの巨匠オリヴィエ・アサイヤスが「見事な作品」と惜しみない賛辞を送るなど、映画を観た人からの絶賛の声と、早く観たいという声があがる中、満を持しての公開となります。

大阪を舞台に、ネットワークの落とし穴から迷い込んだ異世界で追い詰められる主人公の不安と恐怖をモノクロームの映像で描いた衝撃作です。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

映画『VIDEOPHOBIA』の作品情報


(C)「VIDEOPHOBIA」製作委員会

【公開】
2020年公開(日本映画)

【監督・脚本】
宮崎大祐

【キャスト】
廣田朋菜、忍成修吾、芦那すみれ、梅田誠弘、サヘル・ローズ、辰寿広美、森田亜紀

【作品概要】
大阪を舞台に ネットワークの落とし穴から迷い込んだ異世界で追いつめられる主人公の孤立と恐怖を描いたモノクローム・サイバー・スリラー。

ヒロインに廣田朋菜、謎の男に忍成修吾が扮し、芦那すみれ、梅田誠弘、サヘル・ローズらが出演。監督は『大和(カリフォルニア)』(2016)、『TOURISM』(2018)などの宮崎大祐。


映画『VIDEOPHOBIA』のあらすじ


(C)「VIDEOPHOBIA」製作委員会

女優になるという夢を抱き上京したものの、夢破れて故郷・大阪のコリアンタウンの実家に帰って来た29歳の愛。

それでも夢をあきらめきれず、バイトをしながら演技のワークショップに通う日々を送っていました。

ある日、愛はワークショップ後の飲み会の流れでクラブを訪れ、そこで出会った男と一夜限りの関係を持ちます。

数日後、愛はその夜の情事を撮影したと思われる動画がネット上に流出していることに気がつき、愕然とします。

すぐに男の家を訪ねますが、男の家にあったカメラはフィルムカメラで、現像に時間がかかるものでした。男が動画を撮ってネットにあげた犯人であるという確信が得られず、愛は立ち去ります。

再びサイトを開いてみるとさらに複数の動画がアップされていました。前回のものよりもはるかに鮮明な画質で、愛の顔とはっきり判別できるものでした。

愛は、もう一度男の家を訪れますが、見知らぬアラブ人が出てきて、話が通じません。あとになってその部屋は、無許可の民泊として使用されていたものであることが判明します。

自分のプライベートな画像がネットに永久に残り拡散され続けることへの不安が、愛の精神を徐々に失調させていきます――。

映画『VIDEOPHOBIA』の解説と感想


(C)「VIDEOPHOBIA」製作委員会

アイデンティティの揺らぎを見つめる

「モントリオール新映画祭」の際に発表された本作の最初のトレイラーを観た時、その不穏としかいえない映像に衝撃を受けました。

そのトレイラーは、顔パックをした女性が二階の部屋の窓辺で煙草を吸いながら、暗い夜道を足早に通り過ぎる一人の女性を見下ろしている、そんな映画の一シーンを使ったものでした。

デジタル画面の質感のせいか、モノクロームだからこその画面の鮮明さ故か、パックをしている女性は、手術後のガーゼをあてられた、かつて怪奇映画のスチールか何かで観た「顔を失った女」のように見えました。

そんな女が、夜道を歩く女を盗み見しているのです。これは恐るべきスリラー映画かホラ―映画に違いない、もし子供の頃に観せられたらトラウマになっていただろうと、大げさかもしれませんが、心底ぞっとしたのです。

実際、映画を観ると、このシーンは特に怪しげなシーンでもなんでもなく、本作のヒロイン・愛(廣田朋菜)の淡々とした日常の一コマに過ぎないことがわかります。

映像を観る環境や、前後の映像とのつながりなどで、同じものが随分違って見えることを再認識させられますが、そのことこそ、『VIDEOPHOBIA』が描いているもの、そのものではないでしょうか。

愛が行っているアルバイトのシーンにも同じことが言えます。愛は大阪・十三(じゅうそう)の商店街でうさぎの着ぐるみに身を包むアルバイトをしています。他の着ぐるみたちと一緒に街角に立っている時は、ただのコマーシャルなマスコットにすぎません。

しかし、彼女がそのままの格好で、ひとり、商店街を彷徨い始めると、なぜそこにこんなものがいるのかという不可解で得体のしれない存在に変容していくのです。

演劇のワークショップとして行われる「いつもの自分とはちょっと違う自分になって自己紹介をする」というお題目や、警察の「同じ人には見えない」という言葉も同様の意味を持っているでしょう。

本来のイメージと、そのイメージの変容の中で、揺らいでいく人間のアイデンティティを映画は見つめ続けるのです。

ネット社会の闇に引きずり込まれる


(C)「VIDEOPHOBIA」製作委員会

冒頭、愛はサイバーセックスをしています。画面いっぱいに映し出される愛の顔は、本来、相手の男の画面を観ているはずなのですが、その瞳は、まっすぐにこちらに向けられています。

まるで観客が男とすり替わってネット越しに愛と対峙しているような居心地の悪さを感じますが、愛の顔はここからすでに映画の大きな主題となっています。

彼女は現実世界でも、クラブで知り合った見知らぬ男と、一夜限りの関係を持ちます。しかし数日後、ある投稿サイトにその行為の一部がアップされていることに気が付き、愕然とします。

画像が不鮮明な部分があり、よく観ないと誰かわからないだろうと、無理やり不安を消し去ろうとしますが、その次にサイトを観ると、投稿動画が増えていて、画像は鮮明になり、彼女の顔ははっきりと見分けられるようになっていました。

極めてプライベートな動画が勝手に撮られネット流出し、全世界の不特定多数の人間に顔をさらしてしまうというデジタル時代の恐怖が描かれ、彼女の恐れと不安は最高潮に達します。

ちなみに、この増殖のイメージは、映画の序盤、愛の家で彼女の姉妹たちが次々に登場してくるシーンと重なっています。

はじめは東京に旅行に行きたがっている2人の妹と愛の3人姉妹なのかと思いきや、もう一人姉妹がいて、4人姉妹なのかと驚いているとさらにその後ろにもうひとりいたという、不思議な紹介の仕方がなされているのです。

ほのぼのとしたホームドラマのようなその場面と悪意ある盗撮動画という全く異質のものが「どんどん増える=増殖」という形で繋がり、イメージがリフレインされる。映画『VIDEOPHOBIA』のユニークな面白さがここにあります。

廣田朋菜は、この愛という人物の、孤独と不安、そして一人の女性が追い込まれ、その存在自体を危うくしていく様を、繊細で微妙な表情の動きで表現し、事態の深刻さを際立たせます。

モノクロームの大阪


(C)「VIDEOPHOBIA」製作委員会

この作品のもう一つの主役は舞台となっている大阪の街並みです。愛の家の周辺のコリアンタウンや鶴橋、バイト先の十三をはじめ、新世界、西成、戎橋などの風景や、その間を移動する電車やその移動風景などが登場します。

通天閣や道頓堀など、大阪の観光の象徴のような場所も登場し、見慣れた風景のはずなのですが、モノクロームで撮られているがために、色を失った大阪は、見知っているけれどどこか違う世界に見えます。

また、色を失ったからといって、枯れた印象になるわけではなく、寧ろモノクロームの質感が、風景をぐっと艷やかなものにしているようにも感じられます。

ヒロインが船で川を下っていくとやがて目の前に現れる前近代的な風景の衝撃度。ヒロインが鶴橋の街を疾走する時、店の看板などの文字が反転している不思議な街、大阪。

『TOURISM』で、シンガポールの深淵な部分にどんどんと入り込んでいったように、宮崎大祐監督はディープ大阪ならぬ、ネオ大阪を発見していきます。

まとめ


(C)「VIDEOPHOBIA」製作委員会

ヒロイン・愛を演じた廣田朋菜は、サニーデイ・サービス「セツナ」のMVでブレイク。『オペレッタ狸御殿』(2005/鈴木清順)、『猫目小僧』(2006/井口昇)、『クシナ』(2020/速水萌巴)など多数の映画に出演しています。

岩井俊二の『リリイ・シュシュのすべて』(2001)で注目を浴び、『ひかりをあててしぼる』(2015/坂牧良太)など様々な話題作に出演している忍成修吾が、愛のゆきずりの男・橋本を演じています。

『ジムノペディに乱れる』(2016/行定勲)、『月極オトコトモダチ』(2018/穐山茉由)などの芦那すみれのほか、梅田誠弘、サヘル・ローズらも出演。自助グループのリーダーを演じるサヘル・ローズは、そのカウンセリングの方法の異様さも相まって、強いインパクトを残します。上記の俳優以外にも宮崎監督が講師を務めたワークショップの若手俳優が多数出演しています。

サントラは国内外で高い人気を誇るBAKU(KAIKOO)が担当。エンディングテーマは大阪出身の大人気ラッパーJin Dogg、ヌンチャクらによるオリジナル曲で、作品を観終えて動揺を隠せない感情にさらなるパンチを浴びせてきます。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

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