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映画『ダンスダンスダンス』『バードソング』ネタバレ感想と考察評価。音楽にまつわる幻想的映画2編がスクリーンに登場|未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録10

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  • 20231113

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」第10回

様々な国籍・ジャンルの映画から、埋もれかけた貴重な作品を紹介する劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」。第10回で紹介するのは映画『ダンスダンスダンス』と『バードソング』、併せて上映された2本を紹介します。

予告編:『ダンスダンスダンス』(2016)

予告編:『バードソング』(2019)

12歳から映画を作り始め、渡米して映画製作を学び、映画にTV・CMなど幅広いジャンルの映像を手がけ、国内外に活躍の場を広げている落合賢。

ベルキーで1999年より活動する、エレクトロニック・ミュージックバンド「アナーセル」に所属し、音楽だけでなく映像制作・詩集の発表など多彩な活動を見せるヘンドリック・ウィレミンズ。

2人がコラボした2つの映画は、ファンの間で待望の存在でした。その作品が「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】」で公開されると、多くの観客を集めアンコール上映が実施、その存在に改めて注目が集まる異色の作品です。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020延長戦見破録』記事一覧はこちら

映画『ダンスダンスダンス』の作品情報


【日本公開】
2020年(ベルギー・日本映画)

【原題】
Dance! Dance! Dance!

【監督】
落合賢

【キャスト】
ディーン・フジオカ、伊藤歩、森川葵

【作品概要】
都会に移り住み活動するDJの男。彼の住むマンションの窓の外には、最愛の人の幽霊が現れる。幻想的な映像で綴られた47分の中編映画です。

『太秦ライムライト』(2014)や、ベトナムで監督した映画『サイゴン・ボディガード』(2016)、『パパとムスメの7日間』(2018)で知られる、国際的映画監督・映像作家である落合賢の作品で、主演はディーン・フジオカが務めました。

ベルギー最大の映画祭・ゲント映画祭2014や、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016で上映され、BSスカパー!で放送された後に、その存在がファンの間で語り継がれた伝説の作品が、ついに再編集バージョンで劇場公開されました。

映画『ダンスダンスダンス』のあらすじとネタバレ


暗い高層マンションの一室で、無為に流されたTVの前で1人酒を飲む男、DJのFuru(ディーン・フジオカ)。窓の外には白い服で、まるで水中を舞うように漂っている女の姿があります。

かつてFuruは、海に近い食堂で働く女ユキノ(伊藤歩)と付き合っていました。彼女は今、窓の外に現れている女の姿に、よく似ていました…。

観賞魚店に現れた女子高生のナツコ(森川葵)。彼女は店員の男から観賞魚用の薬を受け取ります。それは人が服用して音楽を聴くと、トリップできる薬剤でした。

彼女がその薬を水槽に投げ込むと、音楽に合わせ金魚が舞い踊ります。人間にも効くがあくまで魚用、危険だから1錠しか服用しないように、と告げる店員。

ナツコは貰った薬の礼として店員に目を閉じさせ、挑発するようにキスをします。その際口移しで男の口に金魚を含ませたナツコ。

彼女は仲間と共に、車に乗ってクラブへと向かいます。到着するとナツコは、仲間に先程の薬を与えます。駐車場で服用し音楽を聴いた仲間たちは、トリップに酔いしれます。

車の中でまどろむ仲間を残し、クラブに入って行くナツコ。「ダンス禁止」と表示されたクラブで、DJを務めるのがFuruでした。

ナツコは彼に興味を持ったのか、近づくと自分の誕生日だから、私好みの軽い曲をかけるよう求めます。しかし彼女を相手にしないFuru。

ナツコはFuruの選んだ曲に合わせ、体を動かし始めますが、店の男につまみ出されました。Furuの流す音楽は、様々なイメージを作り出します。

出演を終えFuruが店を出ると、外にはナツコが待っていました。踊り足りないので、DJの家で踊りたいと言い出し、勝手にFuruの後を付けるナツコ。

冷たくあしらおうとしたFuruも、彼女の自由奔放な態度に負けたのか、自分のマンションの部屋にナツコを入れました。彼女は部屋に入ると、あの薬を1錠口にします。

よく見ると部屋は引き払う予定なのか、荷物を詰めたダンボール箱が積まれていました。ナツコは今まで見た部屋で、一番悲しい部屋かも、と呟きました。

ナツコの耳に、何かの音楽が聞こえてきます。彼女がこれから裸で踊ると告げ挑発しても、ただ冷たく無関心な目を向けるFuru。

ナツコは音の正体に気付きました。それは高層マンションの窓の外に映し出された、東北地方の伝統舞踊・鹿踊りにあわせて聞こえていたのです。

その光景に驚くナツコに、Furuはお前には見えるのかと呟きます。今まで他の者には見えなかった光景でした。あの津波の3日後に現れたんだ、と告げるFuru。

それ以来毎晩現れ、朝5時位に始まって夕方には終わると説明します。鹿踊りが消えると窓の外には、あの水の中で舞う、白い服の女の姿が現れました。

それを見て思わず、綺麗と呟くナツコ。そんな彼女にFuruは言葉を続けます。

やがて音楽が止まると、鹿踊りも止まり、最後には彼女が毎晩溺れだす。日の出の直前に彼女は溺れ死ぬ。そんな光景が窓の外で、毎晩繰り返されるとFuruは告白しました…。

以下、『ダンスダンスダンス』のネタバレ・結末の記載がございます。『ダンスダンスダンス』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


かつて東北の街に暮らしていたある日、Furuは作業服姿でユキノの働く食堂にいました。

彼女から出かけようと誘われても、今夜は新しいシンセサイザーを買ったので、出かけられないと告げるFuru。

シンセの話になると夢中になるFuru。彼女も興味を持ち、彼の自宅に行きました。ユキノの前でFuruはシンセを操作してみせました。

その後2人は外出し、野外で舞う鹿踊りを見ました。ユキノからどんな音楽を作っているか聞かれ、彼は自分が務める、ビンが製造ラインを流れる工場に案内します。

ユキノの前でラインを操作するFuru。機械音がビートや、パーカッションのリズムを刻みます。その響きはやがて、幻想的なイメージを生み出しました。

そのリズムに感動し、工場の仕事もクリエィティブだと言ったユキノに、吐き捨てるように今の仕事を否定するFuru。

この国は過去に囚われ、動いていないと言うFuru。今住んでいる場所を嫌い、自分の音楽がレコード会社から出せれば、こんな場所からすぐ出て行くと叫びます。

悶々とする彼に、村上春樹と三島由紀夫の本を勧めたユキノ。彼らはあなたが思い悩むテーマを、他人に面白く伝える術を知っていると告げました。

音楽雑誌しか読まないと敬遠したFuruを叱るユキノ。そして2人はキスをします…。

現在のマンションの外では、まだ白い服の女、あのユキノが舞っています。服用した薬の影響か気持ちが悪いと訴えるナツコ。

そんな彼女にFuruは、自分の最初で、最高の作品だと告げて、自作のテープを渡します。ナツコはなぜ自分にそれを託すのか、どこに行くつもりなの、と力なく尋ねます。

あそこに留まるべきだった、と声を震わせて呟くFuru。

ユキノに笑顔で、時間をかけたが勧められた本を読み終えた、と告げるFuru。そして彼は自分の機材で作った、初めての楽曲のテープを渡しました。

その作品を自分の子供のようだ、と告げたFuruに、妊娠したと告げるユキノ。Furuは何も反応できず、彼女から何も変えなくて良いと言われても、自分の殻に閉じこもります。

その後東京に出たFuru。その地の残ったユキノを東日本大震災が襲います。揺れの直後は生きていた彼女は、その後津波に呑まれました。

もし自分が残っていれば彼女も、子供の運命も、全てが違ったはずと彼は呟きます。彼女はあそこに居なくても良かった、その思いが彼を苦しめていました。

Furuはマンションの窓を開けると、外に飛び出します。窓を出た彼の体は水中にいました。そして舞っていたユキノと抱き合い、キスをします。

東京の空という海の中から、やがて2人の姿は消えて行きました。

夜が明け目を覚ましたナツコ。どこからか雷と波の音が聞こえます。マンションの窓は開いたままでした。

Furuの姿はありません。やがてナツコの周囲に、いつもと違わぬ都会の朝が訪れます…。

映画『バードソング』の作品情報


【日本公開】
2020年(ベルギー・日本映画)

【原題】
Birdsong

【監督・脚本・編集・音楽】
ヘンドリック・ウィレミンズ

【キャスト】
永夏子(小林夏子)、金山一彦、麿赤兒、松林慎司、須賀貴匡

【作品概要】
人気オーディション番組に出演した女が語る、彼女が体験した音楽業界の闇とは。幻想的な映像で綴られたサスペンス映画で、落合賢が製作に回り、ヘンドリック・ウィレミンズが日本人キャストを使って、日本を舞台に描いた異色作。

主演は矢崎仁司監督作『スティルライフオブメモリーズ』(2018)や、藤井道人監督作『光と血』(2017)の永夏子。金山一彦や麿赤兒ら、ベテラン俳優が脇を固めます。

映画『バードソング』のあらすじとネタバレ


自分の名を名乗り、私の歌、聞いて下さいと告げる飛鳥(永夏子)。

彼女は夜間に、とある大きなオフィスビルの清掃員として働く1児の母でした。勤務を終えると、疲れ切った顔の人々が乗る電車を使って、マンションの自宅に帰ります。

帰ってきた母を幼い娘のフミカが出迎えました。夫の仁(松林慎司)は入れ替わるように出勤していきます。それでも彼女は平凡で、幸せな家庭を築いていました。

テレビでは音楽オーディション番組、「マイソング」でチャンピオンになったアーティストの歌を流していました。

私の方が上手いと思う、と言った飛鳥に、同居している義理の母も同意して「マイソング」に応募するよう薦めます。仁もまんざらではない様子です。

今日も飛鳥は勤務先のビルで清掃員として働きます。最上階にある「Star Factory」と書かれた部屋から、貫禄ある人物が出て来る姿を目撃する飛鳥。

別の日、テレビは著名な音楽家、大友領(金山一彦)が原因不明の死を遂げてから、ちょうど1年が過ぎたと伝えると、同時に今回の「マイソング」参加者募集を告知します。

「マイソング」にはオリジナル曲を用意すれば、誰でも応募することが可能でした。

飛鳥は「マイソング」出演が認められ、リハーサルに参加します。まもなく自分の番という時スタジオに、以前働いている時に見かけた人物が入ってきたと気付きます。

スタッフに訊ねると、その人物は大手音楽会社白鳥エンターティンメントの社長、白鳥明(麿赤兒)だと教えられます。彼女に働いているビルも白鳥が所有していました。

飛鳥のリハーサルの番が来ました。彼女が演奏を始めると、なぜかスタッフにより中断させられます。それは白鳥の指示によるものです。

彼女は白鳥とその部下のテツオ(須賀貴匡)によって、別室に案内されます。テツオからこのビルで毎晩働いているなら、内部の事情に通じているだろうと詰問され、動揺する飛鳥。

これを見た事があるか、と1枚のCDを示すテツオ。このCDには本当に素晴らしい曲が入っている、と告げる白鳥。その中身は、私と作者以外誰も聞いていないと語ります。

CDの作曲者は亡くなった、と言う白鳥。テツオはおそらくその人物は殺された、と言葉を続けます。その曲を飛鳥が演奏したと彼は言い、彼女に説明を求めました。

状況が呑み込めない飛鳥に、テツオは説明できないなら警察に突きだすだけだ、と強く迫ります。CDの作曲者の死は、実は殺人事件だと告げる白鳥。

それに対し、彼が私の曲を盗んだと言う飛鳥。白鳥は更なる説明を求めます。飛鳥は経緯を語り始めました。全ては1年前に始まった、と語り始めます…。

1年前、飛鳥は娘のフミカと共に公園に行きました。そこに路上ライブをしている女性がいます。フミカに言いつけ、女性にチップを届けさせた飛鳥。

するとそれを見ていた女が、あなたも音楽をやっていますね、と声をかけてきます。今時音楽にお金を払うのは、音楽をやっている人くらいだと言葉を続けます。

その女は名刺を渡し、「マイソング」の番組担当者で、音楽の新しい才能を探し求めて、飛鳥にも声をかけたと説明します。

彼女は来週非公式のコンペがあると言い、飛鳥に参加を呼びかけます。当日会場に着いたらバックステージに案内すると告げ、自分は村上マリと名乗り去りました。

アスカはシンセサイザーを出して久々に歌います。そしてコンペが行われた居酒屋のステージでも歌いますが、酒場の客からの反応は全くありません。

聴いていた村上は今一つだけど、あなたには才能を感じると告げます。「マイソング」の元MC、ミュージシャンの大友領に師事すれば、本当の才能が発揮できるはずと告げるマリ。

指導料を気にして戸惑う飛鳥に、やりましょうとマリは強引にレッスンを勧めます。その上で彼のレッスン代は安くないと、付け足すように告げました。

こうしてレッスンを受けに、大友の家に到着した飛鳥。彼女の前にレッスンを受けていた女子高生位の女の子が、厳しく指導される声を聞き気後れします。

彼女が家に入る時、入れ違いで娘が出て行きます。後に大友からこの女の子が、白鳥社長の姪、メグミさんだと聞いた、と告げる飛鳥。

…白鳥社長は、確かにメグミは自分の姪だと認めます。あの家の出来事が、メグミに大きなショックを与えた結果、今はもう音楽に関わりたくないと言っていると、飛鳥に教えました。

自分の歌を大友に披露した飛鳥ですが、もう充分だと演奏を止められます。何もない、空っぽの歌だと断言した大友。

音楽とは器で、伝えるための手段だと語る大友。感情や思いを伝えるものだが、君は歌に何も入っていない、と語ります。

大友は自ら演奏を始めます。そして飛鳥に窓を眺めさせます。これが音楽の魔法だ、と彼が告げると、不思議なことに何かが窓の外に現れました。思わず拍手する飛鳥。

彼は飛鳥に演奏するよう促し、窓の外に何か作り出すように、感情を込めろと言いました。大友に導かれてピアノを演奏すると、窓の外に蝶が現れます。その姿は大友も確認しました。

もう君の歌は飛べない鳥ではない、と大友は励まします。こうやって始まっていく訳だが、と彼は告げると、明日も同じ時間に来るよう伝えレッスン料を求める大友。

マリから大友のレッスンはどうだった、と聞かれる飛鳥。楽しいレッスンだが、とても受講料を払い続けられないと言うと、マリは金を稼ぐ方法があると提案します。

彼女は飛鳥に、”プライベート・セッション”への参加を求めます。

それは金持ちが一晩、アーティストと共に過ごすことで、多額の金銭を支払ってくれると言う怪しげな仕組みの、いかがわしいものでした。

これは白鳥エンターテインメント経由のものだから、決して下品なものでは無いとマリから聞かされた、と2人に証言する飛鳥。

…ここまで彼女の話を黙って聞いていた、白鳥の部下テツオはそんなものは自社のホームページに存在しないと、社長に対して告げました。

しかしホームページを飛鳥が告げた言葉で検索すると、確かに”プライベート・セッション”の紹介画面が現れます。

それはテツオも白鳥社長も知らないものでした。彼らは何者かが会社の名を利用して、いかがわしい事業を行っていたと気付かされました。

飛鳥は自分の話に戻ります。また大友の家を訪れると、今回も先にレッスンを受けていたメグミが、彼に酷く怒られて出て行きます。

そして大友と飛鳥が音楽を奏でると、窓の外に様々なイメージが現れます。演奏が最高潮に達した時停電となり、演奏が中断して思わず声を荒げる大友。

ブレーカーを入れ直すと、今の演奏を収めたテープを再生する大友。こういう音楽なら「マイソング」も通過できると言いますが、君はもっと高みを目指した方が良いと告げました。

俺たちなら出来る気がする、と言う大友。10回もあれば完璧だと彼女に話します。

今後のレッスンに払う金は飛鳥にありません。彼女は自宅に帰るとマリに、”プライベート・セッション”に興味があるとメールを入れました。

近くには娘のフミカがおり、夫の仁は言動が怪しい母と言い争っています。

そんな時に早速”プライベート・セッション”の訪問先が伝えられ、慌てて出勤を装って家を出ると、勤務先には仕事を休むと連絡する飛鳥。

こうして彼女は音楽業界の闇に潜む、怪しい世界に足を踏み入れたのです…。

以下、『バードソング』のネタバレ・結末の記載がございます。『バードソング』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


飛鳥が”プライベート・セッション”に訪れたのは、豪華な家でした。相手の男は同じミュージシャン同士だと、明るい調子で彼女を迎え入れます。

男は演奏に反応する音楽ゲームに夢中になっていました。そして幻覚を呼ぶとされる酒、アブサンを飛鳥にも飲ませました。

やがて男も飛鳥も、酒とゲームが奏でる音と映像に酔いしれ、奇妙な幻覚を共有する危険な一夜を共に過ごします。

その頃飛鳥の夫の仁は、妻から今日は会議で送れるとのメールを受け取っていました。同僚はスマホを眺め飛鳥の写真を見ると、美人な奥さんだと褒めました。

妻に浮気された経験を持つ同僚に、仁はその時妻がどのように振る舞っていたかを尋ねます。どうやら彼は、飛鳥の行動を疑っているようです。

同僚は色々告げますが、どこに行くにもスマホを手放さなくなったと教えました。

飛鳥は次の”プライベート・セッション”の相手と、居酒屋で会っていました。男は別に場所が予約してあると告げ、そこに彼女を案内します。

そこは電車を模した、いかがわしい場所でした。そして飛鳥に自分の欲望を満たす行為を要求する男。飛鳥はそんな話は聞いていないと拒みました。

男は怒りますが、一方で本来の額の2倍、3倍、いや4倍支払うと飛鳥に告げます。

次の大友とのレッスンでは、飛鳥は電車のリズムを要求します。その音と”プライベート・セッション”の不快な体験が結び付き、演奏は様々な映像を産み出しました。

帰りの電車の中で、疲れ切った表情を見せる飛鳥。

…ここまでの話を、白鳥社長と部下のテツオは息を呑んで聞いていました。君は「マイソング」に出るためだけに、大友のレッスンを受けていたのか、と訊ねる社長。

成功や栄光は激しく眩しい、と告げる白鳥社長。大友領もその光にやられた1人だと語ります。名声を失うと、なんとか取り戻そうと彼もあがいたと教えます。

飛鳥に音楽を始めたきっかけを聞く社長。若い頃音楽を聴きながら歩くと、街が違った風景に見えたと語る飛鳥。音楽は世界を変えられると、その時に感じたと答えます。

音楽は力強いものだ。否、力強いものだったと言うべきか、と呟いた白鳥。

飛鳥の回想に戻ります。彼女は家族と外食していました。彼女は席を外しトイレに行く際も、スマホを持って行きました。

彼女はスマホで連絡し、泣きながらもう辞めたいと訴えます。しかし勝てるかもしれないと言われると、態度を変え大丈夫です、がっかりさせませんと相手に告げる飛鳥。

家族の元に戻ると、夫の仁は誰と話していたのか尋ねます。そんな態度を責める飛鳥。夫はトイレにスマホを持ち込む彼女の態度を疑います。

雰囲気を悪くしたのは仁のせいだ、と言い出した飛鳥。家族の団らんは実に不愉快なものになりました。

そんな飛鳥に、新たな”プライベート・セッション”の行き先が伝えられます。

今回は怪しげなアパートの一室で、部屋には美少女アニメグッズが並んでいました。男は彼女にコスプレを望みますが、それを拒否する飛鳥。

すると男はこの事は仁に、内緒にしておくと告げました。相手は夫の同僚だったのです。彼女は要求に従うしかありません。

大友の家に現れた飛鳥に、レッスンを終えた白鳥社長の姪メグミが、どうやって音楽を作っているのか尋ねます。判らない、私はただの掃除のおばさんだと答える飛鳥。

彼女は勤務中に見た、白鳥のビルにある「Star Factory」と書かれた部屋が、多分ポップスターを養成する部屋だと告げ、社長に頼んでそこに行ってはどうか、と提案します。

あの部屋には絶対に、何かあるはずだと言う飛鳥。その言葉を聞いたメグミは笑い出します。あなたを凄い人物だと思っていたが、もの凄い馬鹿かも、と告げました。

様子を見に現れた大友に、どうしてあなたが飛鳥がお気に入りなのか、その理由が判ったかもと告げ、帰って行くメグミ。

その日の飛鳥と大友とのレッスンは、あの”プライベート・セッション”の体験を反映した、実に陰鬱な音楽になりました。そのイメージは彼女を打ちのめします。

その音楽を素晴らしい、こんな曲は聞いた事がないという大友。本当に凄いと言った彼は、今や飛鳥の生み出す音に憑りつかれていました。

大友が近寄ると、来ないで、とヒステリックに叫んだ飛鳥。大友は君は充分成長した、と語りかけます。もう自分には何もできない、プロの先生が必要だと告げます。

見放されたと思った飛鳥は謝りますが、彼は今日は俺のおごりだと言って、謝礼を受け取りません。今日は大友の誕生日でした。頑張れよ、幸運を祈ると告げる大友。

運に見放されたら、お前はどこにも行けないぞ、と彼は言葉を付け加えます。彼女を送り出すと、大友は1人で酒を飲み始めます。

…ここまでの話を聞いた白鳥社長は、大友領はもう5年間もアルコールを口にしていなかった、と告げます。その日が大友が亡くなった日だと話すテツオ。

どうか大友を許してやって欲しい、と言う白鳥。音楽の共同制作は、時として強烈な関係を築くのは、君にも判るだろうと語りかけます。

そして彼女に、まだ話すべきことが残っていないかと訊ねる白鳥社長。

飛鳥は回想を続けます。その日、彼女がビルで働いていると、TVの放送は今日は大友領の誕生日だと伝えていました。

ちょうど5年前洗剤を飲み自殺未遂を図った、元「マイソング」のMCの大友は、生活を改めそれ以降、酒を断って暮らしていると紹介します。

その言葉を聞いて、何かを悟った飛鳥は同僚に頼み込み、仕事をクビになるのを覚悟で早退します。ビルの中を駆けて行く飛鳥。

彼女は大友の家に着きました。庭に入って様子を見ると、部屋の中のピアノの前に、大友とメグミが2人きりでいました。

音楽が流れる中、飛鳥に見られているとは知らず、メグミは服を脱ぎ棄てます。

やがて2人はソファの上で、激しく交わり始めます。生々しいあえぎ声が聞こえ、行為の果てにいつしか大友を襲っているメグミ。

その姿は飛鳥の目には、何か異様な物がうごめいているように見えました。

…私は2度と振り返ることなく、その場を逃げ出したと語る飛鳥。その後迷惑をかけた同僚に頼み込んで仕事に復帰し、音楽の夢は諦めたと白鳥に話します。

飛鳥の話を聞いたテツオは、白鳥社長に自分にはまだ、彼女がでっち上げた話に思えると告げます。しかし確かめる方法が1つだけある、と言いました。

ダメだ、そこに彼女を連れていってはいかん、と叫ぶ白鳥。では後は警察に任せるしかないと、テツオは飛鳥と社長に告げます。

それだけは勘弁して欲しい、と言う飛鳥。そして彼女は、あの「Star Factory」と書かれた部屋に、彼らと共に向かうことを選びました…。

そして「マイソング」本番の日がやって来ました。飛鳥の名が紹介され、これから彼女は生放送で、自身の楽曲を発表します。

彼女の家族も、TVの前で飛鳥の出番を心待ちにしていました。

飛鳥は演奏を始めます。それは異様な音楽で、彼女は憑かれた様に曲を奏でます。

余りにも陰惨な内容の音楽に、夫の仁はTVを見るのを止め、娘のフミカは母がおかしくなったの、と父に訊ねました。

番組のディレクターは、飛鳥の演奏の放送を止めさせろと指示しますが、それを白鳥社長は拒絶して、彼女に演奏を続けさせます。

ディレクターは反論しますが、白鳥はスポンサーなど関係ないと告げ、飛鳥の演奏を続けさせます。彼女の音楽は、この番組の終わりを告げる音だと宣言する白鳥。

演奏が終了した後飛鳥に、まだ今なら君をスターにできると告げる白鳥社長。しかし飛鳥は結構です、自分が誰か判ってますから、と答えました。

それでも白鳥は、君には音楽を続けて欲しいと語りかけます。しかし私の居場所はここには無い、と告げた飛鳥。

では、自分に何かできる事はないかと訊ねた社長に、彼女は何もないと答えます。

本当にないのか、と念押しした白鳥に、だったらもう夜勤は嫌です、と飛鳥は言いました。

その後、務めていたビルに、明るい時間帯に出勤する飛鳥の姿がありました。

どこか自分の選んだ場所で、自分の曲を演奏する飛鳥。曲が終わると聴衆が拍手します。

彼女は聴衆に告げました。

「ありがとうございます。…次の曲、行きます」

映画『ダンスダンスダンス』と『バードソング』の感想と評価

参考映像:『エンジェルサイン』(2019)

ディーン・フジオカ主演、落合賢監督の47分の映画『ダンスダンスダンス』は、ファンの間でその存在が噂されながらも、劇場で観ることが出来ない作品として注目を集めていました。

完成当初は25分の短編映画として映画祭に出品され、後に再編集バージョンの中編映画となった作品です。そして今回、落合賢がプロデュースした長編映画『バードソング』と併映する形で、「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】」にて劇場公開を果たしました。

この劇場公開はファンの間で話題となり、「未体験ゾーンの映画たち」異例の、アンコール上映を重ねた興行になっています。

映画館も、そしてそれ以上に音楽関係のコンサートが、コロナ感染症の影響に苦しんでいる時代。熱望された映像を、安全に配慮された映画館で、静かに鑑賞し観客が感動を共有する、この映画興行は、今後の映画・音楽業界のあり方に1つのヒントを与える事例ではないでしょうか。

なおディーン・フジオカ、落合賢両氏は漫画家・北条司が総監督を務めた『エンジェルサイン』で、再度のコラボレーションを果たしています。

『ダンスダンスダンス』には様々な面で、後の『エンジェルサイン』につながる萌芽のようなものが感じられます。そういった視点で両作品をご鑑賞下さい。

シンプルに作られた中編映画の魅力


落合賢が監督した『ダンスダンスダンス』は、極めてそぎ落とした物語を観客の解釈に委ねつつ、映像と音のイメージを羅列して提供した作品になっています。

映画体験とはストーリーを追う事だけではありません。映像や音、そしてカメラワークや編集が生むリズムも、観客の体験となります。

ミュージック・ビデオでは表現しきれない文学性は、映画という形になってこそ提供できるものです。映像体験と音楽体験、そして詩的な文学性との融合は、本作のような中編映画こそ相応しいと言えるでしょう。

長からず、短からず。内容に適した上映時間を持つ映画が生み出され、それが公開され評価される機会は、もっとあるべきだと考えます。そして本作の内容にディーン・フジオカの存在は、適切なピースの様に収まっています。

ファンならずともひと時の体験に値する、小さな映画だと言えるでしょう。

なお短編映画から中編映画に発展した本作。これは決しておかしな話ではありません。ジム・ジャームッシュ監督の出世作『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)も、30分の短編映画として製作されたものが長編映画に発展、公開された作品は世界を席巻しました。

監督の才能を世に示し、後にそれを発展させる意味でも、短編・中編などの様々な映画が作られるべきであり、より観客の目に触れる機会があるべきです。

多彩な日本通アーティストの描いた創造の悪夢


ミュージシャン以外にもマルチな才能を見せるヘンドリック・ウィレミンズ。その親日家・日本通ぶりは、日本人俳優を使った日本語映画製作で証明されました。

『バードソング』にはあらすじ・ネタバレでは紹介不可能の、様々な映像表現が登場します。

CGや合成で見せるファンタジー的な光景、グッドもバットもあるトリップ体験的な映像、アニメーションまで登場させた表現など、実は中編映画の『ダンスダンスダンス』より、長編映画の本作の方が野心的な実験作と言えるでしょう。

その結果と言うべきか、本作のサスペンス&謎解き部分は放置したまま、映像・音楽的体験の追求に寄った感があります。この展開に納得できない方も多いようです。

しかし本作が描きたかったのは謎解きでも、主人公の成長でも、音楽業界の闇でもなく、アーティストの産みの苦しみと、それに対する共感だと解釈するのが正解でしょう。

産み出すことへの渇望と産みの苦しみ、ましてやそれが共同作業であれば…というテーマを、幻想的に描いた作品です。このテーマの前には殺人も、家庭や職場を顧みぬ身勝手な態度も、墜ちてその身を汚す苦しみも、些細なことに過ぎないのです。

…言い過ぎですか?でも、そんな表現を追求できるのが映画であり、芸術です。

『燃えよドラゴン』(1973)の、ブルース・リーの有名なセリフ「考えるな、感じろ」。

この言葉には続きがあります。「これは月を指さすのと似ている。指に気を取られていると、栄光(月)を見失うぞ」

映画体験も、物語にばかり気を取られていると、見失うものが出てきます。本作もストーリーばかりにこだわらず、心に湧き出たものを感じて下さい。

えっ、それでもこの映画の展開には、どうにも納得いかないですか??

まとめ


“『ダンスダンスダンス』と『バードソング』”、として公開された2作品、いかがだったでしょうか。劇場で鑑賞した際は、ディーン・フジオカファンの静かな熱気に圧倒されました。

ところで知日家のヘンドリック・ウィレミンズの描いた、『バードソング』の美少女アニメオタクの男の姿が酷すぎる、との意見がチラホラ聞かれます。

本作は海外の方から見て奇妙なニッポンの姿を、誇張し映像的悪夢の素材として描いたに過ぎませんから、何やら心当たりのある方も、広い心でのスルーいたしましょう。

それより映画の登場人物の名が、「大友」に「テツオ」ですよ!

あらすじ紹介では、大友克洋監督の『AKIRA』(1988)の登場人物の名に従い、「鉄雄」と表記すべきか考えました。自らをアニメオタクと自称する人、こちらにこそ注目して下さい。

しかし塚本晋也監督の映画、『鉄男』(1989)由来かもしれない、と「鉄男」と表記すべきか1人悶々と悩み、結局「テツオ」とさせて頂いた次第です。

誰かヘンドリック・ウィレミンズ監督に、真意を確認して下さい。案外「そんなもん、関係ないわ!」と一喝されるかも…。本当に映画って奴は、「考えるな、感じろ」です。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」は…


(C)2019 Cinestate VFW, LLC

次回の第11回は、ナメてたジジイたちは「エクスペンダブルズ」からも、恐れ多くてお声のかからぬ、ヤバ過ぎる最強老人軍団だった!バイオレンス・アクション映画『VETERAN ヴェテラン』を紹介いたします。お楽しみに。

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連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第6回 ヒューマントラストシネマ渋谷で1月4日よりスタートした「未体験ゾーンの映画たち2019」では、貴重な58本の映画が続々上映されています。 日本 …

連載コラム

香港映画『ラスト・ダンス』あらすじ感想評価レビュー。葬儀業界を通して知る家族の在り方とは⁉︎|TIFF東京国際映画祭2024-4

映画『ラスト・ダンス』は第37回東京国際映画祭・ワールド・フォーカス部門で上映! 香港の人気コメディアンのダヨ・ウォンと、日本で一世を風靡した「Mr.Boo!」シリーズ(1979~85)の往年の大スタ …

連載コラム

韓国映画『クローゼット』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。本格ミステリーで描かれた現代の“大きな社会問題”|サスペンスの神様の鼓動39

サスペンスの神様の鼓動39 妻を事故で亡くし、新居で再起を図ろうとした男が、突然消えた娘の行方と、クローゼットに隠された謎に迫るミステリー・エンターテイメント『クローゼット』。 メインとなっているクロ …

連載コラム

映画『誰かの花』感想解説と評価考察。植木鉢を落とした“犯人”と不確かな罪に対する罰の数々を描き出す|映画道シカミミ見聞録63

連載コラム「映画道シカミミ見聞録」第63回 こんにちは、森田です。 今回は、2022年1月29日(土)に横浜シネマ・ジャック&ベティ、渋谷ユーロスペースほか全国ロードショー公開された映画『誰かの花』を …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学