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Entry 2020/05/05
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映画『ハニーランド 永遠の谷』感想レビューと評価。自然養蜂家の女性とミツバチとの”協定”|だからドキュメンタリー映画は面白い47

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第47回

今回取り上げるのは、2020年6月26日(金)よりアップリンク渋谷・吉祥寺他全国順次公開予定の映画『ハニーランド 永遠の谷』。

北マケドニアの電気も水道もない村に暮らす自然養蜂家の女性を追った3年間の記録。「半分はわたしに、半分はあなたに―」。これは養蜂家の女性とミツバチとの約束です。自然との共存を守り抜く養蜂家のドキュメンタリ―映画『ハニーランド 永遠の谷』は、ドキュメンタリー作家であるタマラ・コテフスカ、リュボミル・ステファノフが製作し、長編映画監督デビューを果たした作品です。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

映画『ハニーランド 永遠の谷』の作品情報


(C)2019, Trice Films & Apollo Media

【日本公開】
2020年(北マケドニア映画)

【原題】
Honeyland

【監督】
リュボミル・ステファノフ、タマラ・コテフスカ

【製作・編集】
アタナス・ゲオルギエフ

【撮影】
フェルミ・ダウト、サミル・リュマ

【音楽】
Foltin

【キャスト】
ハティツェ・ムラトヴァ、ナジフェ・ムラトヴァ

【作品概要】
北マケドニアに暮らす自然養蜂家の女性を追ったドキュメンタリー。

3年の歳月と400時間以上にわたる、被写体との親密な関係の中で撮影を敢行。

ドキュメンタリー作家であるタマラ・コテフスカ、リューボ・ステファノフは、本作が長編映画監督デビューとなります。

第92回アカデミー賞では、長編ドキュメンタリー賞とあわせて国際映画賞(旧・外国語映画賞)の2部門でノミネートされるという、『パラサイト 半地下の家族』(2019)と並び、史上初の快挙を達成しました。

映画『ハニーランド 永遠の谷』のあらすじ


(C)2019, Trice Films & Apollo Media

バルカン半島奥深くにある、北マケドニアの首都スコピエから20キロほど離れた、孤立した山岳地帯。

50代の女性ハティツェは、その電気も水道もない村で、寝たきり状態となった盲目の母ナジフェと共に暮らしています。

ヨーロッパ最後の自然養蜂家と呼ばれ、徒歩4時間ほどの街に行き、採取したハチミツの行商を生業とするハティツェ。

そんなある日、エンジン音とともに、7人の子どもと牛たちを引き連れた一家が近くに移住してきたことで、慎ましく穏やかだった彼女の生活は激変することとなります。

3年の歳月と400時間以上をかけて密着・撮影

(C)2019, Trice Films & Apollo Media

本作『ハニーランド 永遠の谷』は当初、監督であるタマラ・コテフスカ、リュボミル・ステファノフの2人が、教育用の環境ドキュメンタリーを製作する予定で北マケドニアを訪れた際に、一人の女性ハティツェと偶然出会ったのが企画の発端となります。

ハティツェがハチミツを採取して暮らすヨーロッパ最後の自然養蜂家と知り、2人は彼女を被写体にしたドキュメンタリーとすることに。

スタッフクルーたちはテントで衣食住を取りつつ、3年の歳月と400時間以上にわたり、彼女たちの生活に密着しました。

説明ナレーションや効果音の類を一切用いず、壮大な自然の中、古代トルコ語で会話する親子を中心に、その自然が生んだ環境音で構成した映像となっています。

人間とミツバチの間で交わされる暗黙の協定


(C)2019, Trice Films & Apollo Media

ハティツェは、養蜂業で主流となっている、養蜂箱の中でミツバチを繁殖させて蜜を採取するのではなく、険しい断崖などに生息する野生ミツバチの巣を、半分だけ採取。

そして、持ち帰った巣を家の石壁の中に移したのち、蜜を収穫するという手法を行います。

巣をすべて採ってしまうと、ハチの生態系が崩れて全滅してしまう恐れがあるからです。

「半分はわたしに、半分はあなたに」――それは、ハティツェとミツバチとの間で交わされた、暗黙の協定。

その協定が締結されていることを示すかのように、ハティツェが巣を採取する際も素手で難なく行えば、ミツバチも敵視して襲ってはきません。

徒歩4時間ほどの距離がある首都スコピエでハティツェが行商を行い、収穫量はわずかながらも上質なハチミツを売ったお金で、母のナジフェと生活を送ることができます。

会話を交わす互いの口調こそ時おり辛辣になるも、愛情がこもった母娘関係がそこにあります。

調和を求めた末の顛末、そして再起


(C)2019, Trice Films & Apollo Media

そんなある日、トレーラーハウスに乗った7人の子どもを引き連れた家族が、隣人となります。

これまで特定の隣人を持ってこなかったハティツェと、牛や鶏といった家畜をも携える一家という、分かりやすいほどの対比構図がここで生まれます。

それまで静かだった暮らしに突如訪れた喧噪。にもかかわらず、子どもたちと触れあったり、養蜂に興味を示した父親に、その方法を惜しげもなく教えるハティツェ。

なかでも、子どもの一人であるアルチョに丁寧に教える様は、実の親子のようにも見えてきます。

(C)2019, Trice Films & Apollo Media

しかしその後、両者は予想だにしなかった、まさにおとぎ話や寓話に含まれる教訓のような顛末を迎えることに。

会話することのできないミツバチと違い、会話ができる人間とのコミュニケーションの難しさ。

それは、調和を求めて歩み寄ったハティツェにとっても、非常に辛いものでした。

監督は、本作について以下のようなコメントを残しています。

ハティツェの物語は、自然と人類がどれほど密接に絡み合っているか、そしてこの基本的なつながりを無視した場合にどれほどのものを失う可能性があるかという、大きな命題の縮図である。

自らの半生を寝たきり状態の母の世話に費やしてきたハティツェは、巣を離れることのない女王バチの世話をする働きバチとも重なります。

人間とミツバチ、形態は違えど、自然界で共存共栄する生きものに変わりはありません。

協定を結んだ者同士は、永遠の谷で共に再起しあうこともできるのです。

次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。

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