Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2020/04/07
Update

映画『日本で一番悪い奴ら』ネタバレあらすじと感想レビュー。綾野剛演じる熱血な警察官が悪の道へ踏み込んだわけとは

  • Writer :
  • 星野しげみ

実際の事件を題材に白石和彌監督が描く警察の裏の顔

北海道警察で起こった実際の事件を白石和彌監督が映画化し、2016年全国ロードショーされた『日本で一番悪い奴ら』。

綾野剛演じる熱血漢の新米刑事・諸星要一が柔道の腕を見込まれて北海道警察へ赴任します。

市民を守ることが使命と言い切る諸星ですが、先輩刑事から教わった警察所轄内での検挙成績アップの秘訣は、ヤクザと仲良くなって情報を得ることでした。果たして諸星刑事の運命は?

映画『日本で一番悪い奴ら』作品情報

(C)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

【公開】
2016年(日本映画)

【原作】
稲葉圭昭

【監督】
白石和彌

【脚本家】
池上純哉

【キャスト】
綾野剛、YOUNG DAIS、植野行雄、矢吹春奈、瀧内公美、田中隆三、みのすけ、中村倫也、青木崇高、斎藤歩、中村獅童

【作品概要】

アウトローの世界を描いた作品を得意とする白石和彌監督が、2002年の北海道警察で起こり「日本警察史上最大の不祥事」とされた「稲葉事件」を題材に描く作品。綾野剛が演じる北海道警の刑事・諸星要一が、捜査協力者で「S」と呼ばれる裏社会のスパイとともに悪事に手を染めていく様を描き出します。

中村獅童と綾野は、ヤクザと刑事とは思えないほど息のあったコンビ振りを披露。綾野は、第40回 日本アカデミー賞(2017)で優秀主演男優賞受賞しました。

映画『日本で一番悪い奴ら』のあらすじとネタバレ

(C)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

1975年。柔道学生日本一の諸星要一は、その腕をかわれて北海道警察へ就職が決まりました。警察学校での教育も終えて、即北海道警察本部へ。

といっても、ペイペイの新米刑事。北海道警察本部機動捜査隊に配属されますが、現場のスピード感あふれる捜査になかなかついていけません。

手柄第一の部署内で先輩刑事の捜査の足を引っ張り、捜査調書も思うように書けない諸星は、毎日のようにお茶入れなどの雑用をこなしていました。

ある日のこと、諸星は同じ部署の先輩村井刑事から、「メシ食いに行こう」と誘われます。村井は覚醒剤所持の現行犯を逮捕するなど、機捜一の俊敏刑事でした。村井に興味を持っていた諸星は一緒に行くことにします。

食事の後連れていかれたのは、村井の行きつけのキャバレーでした。ホステスたちに取り囲まれる村井を見て、ただ驚くばかりの諸星。

そんな諸星に村井は「署内で出世したければ少しでも‟ホシ”の数をあげろ」とささやきます。‟ホシ”の数をあげるにはどうすればいいか。村井はヤクザの世界に飛び込んでヤクザと仲良くなることを勧めました。

村井は、部署内で検挙に比例して出される賞金(?)をもらえるということも、金額の詳細も添えて教えてくれました。それ以来、諸星はヤクザと親密になることを心掛けるようになりました。

しばらくして、チンピラから兄貴分が覚醒剤を所持しているという情報を得た諸星は、たった一人で逮捕状もなしにその家に乗り込み、男と大格闘の末に取り押さえたあと、冷蔵庫の中から覚醒剤と拳銃を見つけました。一挙に大手柄です。

表彰状を手に嬉しそうに村井刑事に報告する諸星。喜んだ村井は諸星にキャバレーのホステス由貴を紹介します。

以来、諸星は由貴と親密になり、暫くした頃、荒っぽい捜査で子分を逮捕されたヤクザの親分から呼び出されました。

諸星が恐る恐るヤクザの事務所へ赴くと、案の定ヤクザの兄貴分・黒岩が待ちかねて恫喝されます。けれども諸星も負けてはいません。

怒鳴り合ううちに気が合った二人は、兄弟の契りをかわし、諸星は黒岩から情報を得るようになりました。

そんなとき、村井刑事が女子中学生に淫行を働いたとして逮捕されました。驚く諸星は、その背後に黒岩の密告があったのではと疑いますが、どうすることも出来ません。

自然と村井刑事の後を継ぐ形で繁華街の顔となり、ヤクザから得た情報を元に手柄を立てていきました。

黒岩からまた新たに1人、山辺太郎というスパイ候補を紹介されます。諸星は、小樽で中古車店を営む太郎の友人でるアクラム・ラシードとともに、ロシアから密輸される拳銃の検挙数をあげる計画を練ります。

おりしも世間では銃の発砲事件などが頻繁に起こり、拳銃の検挙率が注目されるようになっていました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『日本で一番悪い奴ら』ネタバレ・結末の記載がございます。『日本で一番悪い奴ら』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

1993年道警本部に銃器対策課が新設され、諸星はその部署の第二係長を拝命します。銃器対策課の仕事は少しでも多くの拳銃を検挙し、市民の生活を守ること。

そのために、諸星はヤクザやロシアからの密輸などで拳銃を買い取り、検挙数を稼いでいました。当然、部署内の成績はトップクラスで、女性警官からは「エースね」とささやかれます。

成績維持のためますます裏工作をする諸星ですが、ある日、東京のヤクザから宅配で30丁の拳銃が送られてきたのを、東京の警視庁の銃器対策課に見つかります。

「こんなことをして検挙数を上げようとするなんて恥ずかしくないのか。身内から逮捕者出すわけいかないから、今回は見逃すけれど、その代わりこの拳銃はうちから検挙する」といわれ、愕然とする諸星。

「警視庁に手柄わたしてどうするんだ」と課長に言われ平謝りの諸星は、ヤクザの黒岩と太郎、アクラムの4人でますます拳銃密輸に精を出す熱中していきました。

弟分の太郎も結婚し、諸星たちの裏稼業も順調に思えたのですが、東京の警視庁との合同の潜入捜査で、諸星はミスをして今後の捜査は出来なくなりました。

なんとか大きな成果を出したい諸星たちは、大きな‟泳がせ捜査”計画を練ります。それは、香港から北海道への覚醒剤20キロの密輸に目をつぶり、その後拳銃200丁を密輸させて検挙するというものでした。

税関とも連絡を取り計画を密に練っているのですが、後輩からは「警察が密輸に協力しているようなものじゃないですか」と言われましたが、計画は実行されました。

無事に密輸された覚醒剤はすでにヤクザが購入済みでした。ヤクザに届けるために覚醒剤を車に積んだ黒岩は、「記念にもっておけ」と一包みの覚醒剤を諸星に渡し、車を発車しました。

翌日、覚醒剤は20キロではなく130キロだったため、いくら何でも多すぎると、部署内は騒然となります。今さらなんだ、と口論を始めた諸星のもとへ「黒岩が覚醒剤を持って逃げた」という連絡が入りました。

覚醒剤を手に入れるはずだったヤクザは怒り、諸星と太郎を拷問にかけます。太郎を殺されそうになり、諸星は「とっておきの大麻をやるから」ということで許してもらえました。しかし、この後行われるはずだった拳銃200丁の密輸約束は約束違反だからと、もらえなくなりました。

途方にくれ、やぶれかぶれになった諸星は、黒岩からもらった覚醒剤を初めて自分に使ってしまいます。

苦肉の策として、太朗とアクラムがロシア船にかき集めた拳銃30丁を隠し入れ、検挙させて急場をしのぎました。

2001年、諸星は夕張警察署生活安全課に配置になります。諸星は、大きな仕事をしてきた後の左遷ともいえる配置換えに失望しながらも、毎日の業務を淡々とこなしていました。

そこへ銃器対策課時代の上司・岸谷が訪れ、道警が覚醒剤の泳がせ捜査に加担したことをネタに、山辺太郎からゆすられていると告げます。

諸星は、太郎に会いに行きます。やっと会えた太郎は、離婚もしたようで、過去の全てに否定的でした。人生に失望した太郎は、自ら覚醒剤を使って警察に自首し、諸星のことも密告します。

2002年7月、諸星は覚醒剤所持及び使用疑惑によって、夕張署にかけつけた捜査員に逮捕されました。その後、岸谷が自殺し、刑務所内で太郎も自殺します。

諸星は刑務所で謁見に来た弁護士に「あなたは道警の組織犯罪の被害者なのです」といわれますが、「そんなことはない」と否定します。

「道警の上層部にあったら、伝えてください。エースの諸星はやる気まんまんだったって」と言ったのですが、太郎や岸谷の死を知ると、一転して道警の組織犯罪を認めたのでした。

その後、諸星は自分の公判で関与した上司の氏名を公表しますが、判決文では道警の関与は一切触れておらず、諸星以外の道警関係者は、未だに誰一人として逮捕されていないのです。

映画『日本で一番悪い奴ら』の感想と評価

(C)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

市民の安全を守るのが職務とされる警察。社会にはびこる悪と対峙し、それを根こそぎ撲滅させるべき正義の見方組織のはずなのですが……。どうもそうはいかないようです。

綾野剛演じる、映画『日本で一番悪い奴ら』の主人公・諸星も、そんなアツい気持ちで道警へ配属されます。そこで目にしたものは、自分たちの業績をあげることだけに専念するサラリーマン化した刑事たちの姿でした。

同僚より一つでも多くの“ホシ”をあげれば、賞金がもらえて表彰もされるというシステム。これでは道警一のエースを狙う野心ある者は、どんな手を使ってでものし上がろうと思ってしまいます。

新鋭の諸星が先輩刑事からそのやり方を伝授してもらい、ヤクザとの密着の道を突き進んでいくのも無理はないかなと。

その過程は、坂道を転がり落ちていくようにどんどんスピードアップしたのも納得がいきます。

出世と名誉に弱いのが組織人間であり、それに甘んじてしまう人間の弱さが諸星の辿った道に表れています。

注目すべきは、この映画が実際に警察で起こった「日本警察史上最大の不祥事」事件を題材にしていること

覚醒剤と拳銃の密輸を裏工作して警察の手柄とします。その秘密がバレそうになれば、下っ端を犠牲にして後は知らんぷり。とんでもなく大きな庇護のもと、不正は堂々とまかり通りました。映画『日本で一番悪い奴ら』での道警の体質は、どこかヤクザ世界と似ています。

諸星演じる綾野の体当たりのワルぶりは圧巻です。中村獅童演じるヤクザ黒岩との初対面の怒鳴り合いは迫力満点でした。殴り合いあり、拷問あり……。でも一番恐ろしかったのは人を簡単に陥れる組織のワナ。

本当のワルは誰か? ワルを戒める手立てはないのか? 今一度考えてみたくなります。

まとめ

(C)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

脚本家・池上純哉が、「日本警察史上最大の不祥事」といわれる稲葉事件の中心人物である元警部・稲葉圭昭氏が出版した暴露本「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」を持ち寄ったことが、この映画の始まりだったそうです。

悪を叩き世を良くするために身を投げようとするうちに、裏社会の底を這いずり回ることになった稲葉氏。その皮肉な生き様が、池上氏と白石監督の共感を呼び起こしました。権力への反発とか社会への訴えとか、原作本にうずまく思いが稲葉氏をモデルとする諸星に反映されているのでしょう。

映画の始まりにも出てくる『日本で一番悪い奴ら』のタイトルロゴ。中央に配置された“桜の代紋”が拳銃で打ち抜かれて映画が始まります。言葉で表すのでなく、こんな場面で示す映画のコンセプトに思わず拍手喝采。


関連記事

ヒューマンドラマ映画

『パルプフィクション』ネタバレ感想。タランティーノ映画の意味不明な内容を解説

世の中はパルプ・フィクション(=くだらない話)だらけ⁈ 必然なのか?偶然なのか?全く別々の物語が、あるタイミングで交わる時、ある者には幸運を、ある者には不運を、ある者には死を与えます。 だから人生は面 …

ヒューマンドラマ映画

映画マイバックページ動画無料視聴はHulu!ネタバレ感想と考察も

今回ご紹介する映画は、『ぼくのおじさん』や『オーバー・フェンス』などで知られる山下敦弘監督の『マイ・バック・ページ』。 キャストに『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』に出演の妻夫 …

ヒューマンドラマ映画

映画『オープニング・ナイト』あらすじネタバレと感想!ラスト結末も

インディペンデント映画の父と称されるジョン・カサヴェテス。 彼の妻ジーナ・ローランズの女優としての生きざまを鮮烈に感じさせるのが、本作『オープニング・ナイト』です。 観終わったあなたは、思わず拍手を送 …

ヒューマンドラマ映画

映画『轢き逃げ 最高の最悪な日』あらすじネタバレと感想。水谷豊が作るサスペンス作品

映画『轢き逃げ 最高の最悪な日』は、5月10日(金)より全国公開! タップダンサーの子弟物語を描いた『TAP THE LAST SHOW』に続いて、俳優の水谷豊が監督を務めた第二弾。本作で水谷豊は、自 …

ヒューマンドラマ映画

アトランティス(2019)|ネタバレあらすじ結末と感想評価の解説。映画がウクライナの未来を予言した作品とは⁈

戦争終結から1年後のウクライナを描いた戦争ドラマ。 ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチが脚本・製作・監督を務めた、2019年製作のウクライナの戦争ドラマ映画『アトランティス』。 ロシアとの戦争終結から1年 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学