「ジャパニメーション」なる言葉を生んだ伝説的一作が、4Kリマスターとしてよみがえる!
1988年にアニメーション映画化され、全世界に熱狂的フォロワーを生んだ『AKIRA』が、製作から30年以上を経た2020年、4Kリマスターと音楽監督の山城祥二指揮のもとで行われた5.1ch音源のリミックスを施した「AKIRA 4Kリマスターセット」として、4月24日(金)にブルーレイ発売されます。
それを受けて、同年4月3日(金)から、全国のIMAXシアターで4Kリマスター版が劇場公開。
ここでは、ネタバレ有の本編あらすじ、IMAXシアターでの4Kリマスター上映の感想に加えて、解説評価をしていきます。
CONTENTS
映画『AKIRA』の作品情報
【日本公開】
1988年(日本映画)
※4Kリマスター版は2020年公開
【原作・監督・共同脚本・キャラクターデザイン】
大友克洋
【脚本】
橋本以蔵
【作曲・指揮】
山城祥二
【音楽】
芸能山城組
【作画監督】
なかむらたかし
【声のキャスト】
岩田光央、佐々木望、小山茉美、石田太郎、玄田哲章、鈴木瑞穂、中村龍彦、伊藤福恵、神藤一弘
【作品概要】
ヤングマガジン(講談社)にて1982年12月より連載された同名漫画を、1988年に原作者である大友克洋自身がアニメ映画化。2019年のネオ東京を舞台に、超能力者と暴走族の少年たちや軍隊が繰り広げる戦いを描き、製作期間3年、総製作費10億円という、当時としては破格の歳月や労力を注入。
国内外に多くの影響を与え、「ジャパニメーション」なる言葉を生んだ一因としても知られる本作を、製作から30年以上を経た2020年に、4Kリマスター&5.1ch音源のリミックス化し、「AKIRA 4Kリマスターセット」として4月23日にブルーレイ発売。それを受けて、4月3日から全国のIMAXシアターで、4Kリマスター版が劇場公開が実現しました。
映画『AKIRA』のあらすじとネタバレ
1988年7月16日、関東で新型爆弾が投下され、第三次世界大戦が勃発。
それから31年後の2019年、東京湾上に築かれた都市「ネオ東京」では、翌年にオリンピック開催を控え、繁栄を取り戻しつつありました。
しかしその一方で、反政府ゲリラと軍(アーミー)との衝突も多発。
そんなある夜、職合訓練校生の「健康優良不良少年」を自称する金田と、仲間の島鉄雄、甲斐、山形らは、ボスのジョーカー率いる暴走族クラウン団とバイクで抗争していました。
しかしその最中、鉄雄が掌に「26」と記された顔がシワだらけの子どもと衝突し、負傷してしまいます。
その子どもは、アーミーと対立するゲリラによって、「アキラ」と呼ばれる軍事機密と間違われ、軍事基地にあるラボ(研究所)から連れ去られていたのです。
負傷した鉄雄を介抱しようとした金田たちの前に、突如軍用ヘリが下降し、大佐と呼ばれる軍の実質的な最高指揮官と、マサルという名の同じくシワだらけの子どもが姿を現します。
掌に「27」と記された27号=マサルと、連れ去られていた26号=タカシは、「ナンバーズ」と呼ばれる、先の世界大戦以前のアーミーによる極秘研究プロジェクトにより、超能力を覚醒した実験体だったのです。
アーミーは、タカシと負傷した鉄雄をへリに収容し、飛び去ります。
翌日、警官の取調べを受けた金田がゲリラメンバーの少女ケイと知り合っていた頃、ラボに運び込まれた鉄雄は、タカシと接触したことで超能力が目覚め始めたとし、ドクターによって実験体にされていました。
強力な薬物を投与された鉄雄はラボから脱走し、ガールフレンドであるカオリの元に逃亡。
その後、金田のバイクを盗み、カオリを乗せて市街に繰り出すも、クラウンの襲撃に遭います。
すんでのところで金田に救われるも、それが気に入らずに荒れる鉄雄。
「俺に命令すんなァ!」と凄みつつ、「アキラ」と叫ぶ鉄雄に驚く金田。
そこへ、追ってきたアーミーが現れ、頭を抱えて苦しみ出した鉄雄を再び連れ去ります。
一方、ネオ東京市街ではゲリラとアーミーの抗争が激化の一途をたどり、政治家にして裏ではゲリラの主導者である根津は、「アキラ」の正体を握ることで立場的優位に立とうと画策。
また、新興宗教団体の教祖ミヤコは、ネオ東京の崩壊と「アキラ」の覚醒を予言していました。
鉄雄の行方を心配する金田は、ゲリラによるテロ現場でケイを見かけ、後を追います。
アーミーに追われて捕まる寸前に金田に救われたケイは、金田と共に仲間の竜らが潜むアジトに向かいます。
一方、鉄雄が連れ戻されたラボの奥深く存在するベビールームを訪れた大佐に、タカシとマサルの仲間の25号=キヨコがある予言をします。
「アキラくんが…恐い夢を見たの。人がいっぱい死んで、街が壊れて…」
狼狽した大佐は、「アキラ」の眠りを確かめるべく、ドクターと共にオリンピック会場建設予定地にある秘密基地に。
「アキラ」は基地の地下深く、デュワー壁に囲まれた絶対零度の世界で眠り続けていました。
「恥も尊厳も忘れ、築き上げてきた文明も科学もかなぐり捨て、自ら開けた恐怖の穴をあわてて塞いだのだ」と吐き捨てるように語る大佐は、数日後に最高幹部の緊急会議を召集。
大佐はキヨコの予言に基づき、「アキラ」が目覚めた際に起こる災厄に対処できる予算を要求するも、「アキラ」への執着を問題視した議長から、査問委員会にかけると言い渡されてしまいます。
一方、金田は鉄雄を救出すべく、ゲリラのメンバーとなってラボに侵入。
その鉄雄は、想像を超えるパワーに覚醒しつつあり、意識の中に現われては消える「アキラ」の存在に苛立ちます。
キヨコらナンバーズによる幻覚攻撃をはね返し、彼らの居場所を突き止めた鉄雄は、居あわせた大佐に「アキラ」の居所を詰問。
そこへ、キヨコの精神感能力で導かれたケイと金田が現れます。
金田から一緒に逃げるよう促されるも、それを拒否した鉄雄は、キヨコから「アキラ」の居所を察知し、ラボの外へと逃亡。
大佐は、アーミーの指揮権をはく奪しようとする最高幹部会の配下に銃を向け、逆に最高幹部会メンバーを拘束するクーデターを起こし、鉄雄の行方を追います。
その鉄雄は、頭痛を抑えるカプセルを奪うべく、溜まり場にしていたバー「春木屋」の店長を殺害し、そこへ居合わせた甲斐と山形にも悪態をつくのでした。
一方、留置場に入れられるも、ナンバーズの力添えによるものと知らずに脱獄できた金田とケイは、甲斐と再会。
山形が鉄雄に殺されたと聞かされて嘆く金田でしたが、鉄雄を止めるために、ケイがナンバーズに連れ去られてしまいます。
映画『AKIRA』の感想と評価
4Kリマスター版IMAX上映
作品の時代設定である2019年の1年後にあたる今年2020年に、4Kリマスター&5.1ch音源にリミックス化され、新たによみがえった本作『AKIRA』。
ここでは、ブルーレイ発売に合わせて、IMAXシアターで公開された4Kリマスター版の感想を述べたいと思います。
まず映像に関しては、本作は金田らキャラクターたちはもちろん、ネオ東京都にそびえ立つ高層ビルに、それらが破壊されて瓦礫となって崩れ落ちるといった作画の描き込みの凄さは、1988年の初公開時点で高く評価されていました。
それが情報量の多い4Kによって輝度がアップしただけでなく、セル画の彩色の違いも明確に。
そうした映像を、IMAXという巨大スクリーンがより鮮明に映し出しています。
またIMAXといえば、立体音響も大きな特徴の一つ。
本作では、金田たちが乗るバイク音に鉄雄が建物を破壊する音、ヘリや戦車の起動音といった効果音が、シアター全体に響き渡ります。
芸能山城組の民族楽器ジェゴクやガムランで奏でる音楽も、臨場感がアップ。
序盤での金田たちが夜のネオ東京を疾走する際に流れる「Kaneda」、「Battle Against The Clowns」を聴いても、既存バージョンとは変わっていると分かるのではないでしょうか。
もちろん、「”さん”を付けろよデコスケ野郎!」に代表される、さまざまな名言も必聴です。
映像面だけでなく、音響面でも厚みが増していると実感できるIMAX上映。
ただ、新型コロナウイルス感染症の拡大で、上映開始の4月3日以降は気軽に劇場に足を運べない状況というのが、実に悔やまれます。
願わくば、ウィルス拡大が完全に終息した後に、改めてIMAX上映する機会を設けてほしいものです。
アキラの正体は何か
本作は、一度観ただけでは、あらすじや内容を把握することが困難な作品です。
むしろ、その複雑さが多くのフォロワーを生んだ一因とも言えるのですが、なかでも本作のキーパーソンとなるアキラについては、映画を観ただけでは掴みにくいかもしれません。
元々はアーミーの秘密兵器として、超能力を覚醒させたキヨコやタカシ、マサルらナンバーズの一員だったアキラですが、そのあまりの能力の高さが、東京崩壊→第三次世界大戦を招いてしまいます。
「触れてはならないもの」、「神」、「大覚様」、「救世主」、「宇宙」…劇中でアキラを指す呼称はさまざまですが、そのどれもが的確な表現なのでしょう。
何にでもなり得るアキラは、ある意味「無垢」。
しかし、そんなアキラを生んでしまったのが他ならぬ人間。
人間が求めるものを集約した存在ともいえるアキラは、無垢すぎるがゆえに扱いを誤ってはいけない存在だったのです。
肉塊となった鉄雄が示すもの
超能力が覚醒し、破壊の限りを尽くす鉄雄でしたが、次第にその力を薬で抑制することができなくなり、体が巨大に膨れ上がってしまいます。
肉塊となった鉄雄は、人間の欲が膨れ上がってしまった姿にも見えます。
一方でその肉塊は、生まれたての胎児のようでもあります。
この世に生を受けた胎児ほど無垢な存在はありませんが、本作での無垢な存在はもう一人、アキラがいます。
無垢がゆえに、事の善し悪しが分からない――だからこそ両者は暴走しますし、ラストで融合します。
ただ、劇中のラストでキヨコが、「私たちのような力は人間誰もが持っている」といったことを金田に告げます。
登場人物たち、特にナンバーズの言葉は抽象的なものが多いため、いかようにも解釈できますが、いずれは全人類もナンバーズのように覚醒する時が来る、といったことを示唆していると思われます。
能力を上手く使わないと、アキラや鉄雄のように暴走する恐れがある。
しかし、能力覚醒の素養を持つケイに代表されるように、利己目的ではなく、より良い未来のために能力を使う者が現れるはず――そんな希望が込められていると考えられます。
金田と鉄雄の関係性
超能力バトルを主軸としたSFドラマでありながら、ベースには若者の成長を描いている本作。
それを象徴するキャラクターが、金田と鉄雄です。
同じ孤児の施設で育つも、明朗快活な金田に対し、絶えず劣等感に苛まれる鉄雄と、その性格は真逆。
毒づきながらも、金田は常に鉄雄を気にかけますが、ずっと庇護される立場にある鉄雄はそれが気に入りません。
そんな中、超能力が覚醒した鉄雄は、その力を金田よりも上に立つための道具として使おうとします。
鉄雄に逆らわれて怒る金田ですが、その後、暴走していく彼を制止しようとするナンバーズに、こう言い放ちます。
「鉄雄は俺たちの仲間だ!奴を始末するのは俺たちだ!」
仲間だった山形を殺めた鉄雄に対する落とし前を付けるのは、自分しかいない――そうした強い意志表示。
そしてクライマックス、体が変化する恐怖に駆られた鉄雄が、思わず助けを求めた相手は金田でした。
自らの手で息の根を止めようとしていたにもかかわらず、金田はその声を聞いて、思わず助けに飛び込みます。
鉄雄がアーミーに2度連れ去られた時も、鉄雄がアキラの力によって別世界に取り込まれようとした時も、救出しようとしたのは金田でした。
秩序が乱れていたネオ東京を破壊して、鉄雄は去っていきます。
しかし、破壊してしまったものは再生することも可能。
秩序あるネオ東京を再建するかのように、金田は市街へとバイクを走らせます。
2人は兄弟でもあり親子でもあり、破壊と再生の象徴でもあるのです。
まとめ
参考:『ORBITAL ERA』1stティーザー予告
2019年7月に、原作者の大友克洋から、新作劇場SFアニメ『ORBITAL ERA』の製作、大友作品の全集の発売と並び、『AKIRA』の新アニメプロジェクトが進行中との発表がありました。
詳細は2020年4月時点では明らかとなっていませんが、原作に完全に沿った内容になるのでは、という予想がされています。
原作では、暴走族クラウンのボスのジョーカーや新興宗教団体教祖のミヤコが、映画版よりも重要な役どころだったり、映画版では登場しないキャラクターも多数存在します。
そして何よりも、アキラの存在が映画版とは大きく異なっていることなどからも、原作の完全映像化を望む声は根強くあります。
でもひょっとしたら、予想に反し原作とは全く異なる『AKIRA』が待っているかもしれません。
いずれにしろ、アニメーションの制作技術が1988年より格段に飛躍していることを踏まえた上で、新たな『AKIRA』ワールドが見られる喜びを噛みしめたいと思います。
映画『AKIRA』4Kリマスター版は、2020年4月3日(金)より全国のIMAXシアターで限定公開、ブルーレイソフト「AKIRA 4Kリマスターセット」は4月24日(金)に発売。