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Entry 2020/02/21
Update

隅田靖映画『子どもたちをよろしく』内容解説と結末に向かう学生たちを取り巻く“いまの社会”の闇とは⁈

  • Writer :
  • 黒井猫

映画『子どもたちをよろしく』は2020年2月29日より渋谷・ユーロスペースにて全国順次公開。

貧困、いじめ、虐待、自殺など、子どもたちを取り巻く過酷な環境に焦点を当てた劇映画『子どもたちをよろしく』

元文部科学省の寺脇研と前川喜平が企画し、隅田靖が脚本、監督を務めています。

今回は学校外での学生たちの世界観を描いた『子どもたちをよろしく』を紹介いたします。

映画『子どもたちをよろしく』の作品情報


(C)子どもたちをよろしく製作運動体

【公開】
2020年2月29日(日本映画)

【監督】
隅田靖

【キャスト】
鎌滝えり、杉田雷麟、川瀬陽太、椿三期、村上淳、有森也実、金丸竜也、大宮千莉、武田勝斗、斉藤陽一郎、山田キヌヲ、ぎぃ子、速水今日子、林家たこ蔵、外波山文明、小林三四郎、上西雄大、苗村大祐

【作品概要】
元文部科学省の寺脇研と前川喜平が企画を務め、貧困、虐待、いじめなど、現代の子どもたちを取り巻く社会の闇をあぶり出したヒューマンドラマ。2007年に『ワルボロ』で監督デビューを果たした隅田靖がオリジナル脚本と共に12年ぶりに監督を務めています。

またキャストには『愛なき森で叫べ』などの鎌滝えり、『半世界』などの杉田雷麟、映画初出演の椿三期をはじめ、川瀬陽太、村上淳、有森也実、金丸竜也、大宮千莉らが集結しています。

映画『子どもたちをよろしく』のあらすじ


(C)子どもたちをよろしく製作運動体

東京にほど近い北関東のとある街、デリヘルで働く優樹菜(鎌滝えり)は、実の母親・妙子(有森也実)と義父・辰郎(村上淳)そして、辰郎の連れ子・稔(杉田雷麟)の四人家族で暮らしていました。

辰郎は酒に酔うと妙子と稔に暴力をふるい、血の繋がらない優樹菜には性暴力を繰り返します。その光景を母の妙子は見てみぬふりをします。そして義弟で中学二年生の稔は、そんな父と母に不満を感じながら優樹菜に淡い想いを抱いていました。

優樹菜が働くデリヘルで運転手をする貞夫(川瀬陽太)は、妻に逃げられ、重度のギャンブル依存症です。一人息子で稔と同じ学校に通う洋一(椿三期)をほったらかし、深夜に帰宅する生活をしています。洋一は暗く狭い部屋の中、帰ることのない母を待ち続けていました。もとは仲の良い稔と洋一でしたが、洋一は稔たちのグループからいじめの標的にされていました。

ある日、稔は家の中でデリヘルの名刺を拾い、姉の仕事に疑問を抱いた稔は、自分も洋一と同じ、いじめられる側になってしまうのではないかと、一人怯えるようになります。

居場所を無くした彼らがとった行動とは…。

映画『子どもたちをよろしく』の感想と評価


(C)子どもたちをよろしく製作運動体

映画『子どもたちをよろしく』は、社会が抱える問題に真摯に向き合った作品です。貧困、ネグレクト、DV、依存症、いじめの悲惨さを物語全編においてまざまざと見せつけられます。観賞後、改めてそれらの問題について考えさせられました。

とても重いテーマから逃げずに向き合ったことで、一見、終始希望がない陰鬱な気分になりますが、作品には一縷の希望を垣間見ることでしょう。いじめの加害者の家庭環境も複雑なため、いじめている少年は加害者であると同時に被害者でもあるのです。

いじめの加害者である稔が手を怪我し、包帯の上から血が滲む特徴的な場面があります。これはいじめの加害者を絶対悪としている意見への隅田監督からの「もっと広い視点で見るべきだ」というアンサーかもしれません。

また、作中の加害者の少年たちのセリフに印象的なものがあり、「あいつ見てるとなんかムカつくんだよな。なにも言い返さないし。」というセリフです。それに合わせ、被害者の洋一が壁に向かってキャッチボールをしているシーンにより、いじめは被害者に非がなく一方的なものであるというメッセージがヒシヒシと伝わります。

そして観賞後の後味の悪さを感じる要因として、少年たちの周りの大人の弱さあります。この作品の被害者は子供たちであり、最大の加害者は大人ではないでしょうか。しかし、作中に登場する大人たちは自分たちが被害者であると主張し、子供たちを見ようともしません。

もしかすると、その演出に怒りを覚え、このように考えさせられている私は監督の掌で踊らされているのかもしれません。映画『子供たちをよろしく』は子を持つ親の方々にこそ、是非観て、そして考えて欲しい作品なのかもしれません。

まとめ


(C)子どもたちをよろしく製作運動体

映画『子どもたちをよろしく』はとても心が痛くなると同時に社会の暗い面を深く考えさせられる作品。しかし少年たちを取り巻く大人たちがしっかりしていれば、結末はもう少し変わったものになったのかもしれません。いじめの被害者だけに注目するのではなく、加害者の少年の環境にも注目した本作はとても興味深い視点から、ひとつの問題定義として考えさせられました。

これはフィクションですが、現実に起こっていることであり、実際ではもっと凄惨なものでしょう。そのことを認識するためにも観ておくべき作品ではないでしょうか。子供たちの悲痛な叫びを受け止めてください。

映画『子どもたちをよろしく』は、2020年2月29日より渋谷・ユーロスペースにて全国順次公開。


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