Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

Entry 2020/02/04
Update

【山谷花純インタビュー】映画『フェイクプラスティックプラネット』女優としての在り方に迷う中で見出した“今”

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

『フェイクプラスティックプラネット』は2020年2月7日(金)よりアップリンク渋谷ほかにてロードショー公開!

「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019」のファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門や「ブエノスアイレス・ロホサングレ映画祭2019」に正式出品された映画『フェイクプラスティックプラネット』

主人公のシホが、25年前に失踪した自分に瓜二つの女優の存在を知り、運命のいたずらに翻弄されながらも立ち向かう様を、独特の世界観のシャープな映像で描いたサバイバルストーリーです。


photo by 田中舘裕介

今回は、映画の劇場公開を記念し、本作で主人公シホと失踪した女優・星乃よう子の二役を演じ、「マドリード国際映画祭2019」最優秀外国語映画主演女優賞を受賞した山谷花純さんにインタビュー

本作で演じた役柄との共通項や、映画と舞台における表現方法の違いと気づきなど、たっぷりとお話を伺いました。 

映画は“娯楽”であり“教科書”


photo by 田中舘裕介

──本作の出演はオファーで決まったと伺いました。撮影から時間が経っているかと思いますが、改めてこの作品を観ていかがでしたか?

山谷花純(以下、山谷):宗野監督や他のスタッフさんとは、2013年に「科捜研の女」シリーズで以前ご一緒していたので、今回の作品で声をかけていただけて非常に嬉しかったです。自主制作の作品に関わるという経験は初めてでしたが、私自身映画がとても好きなことにくわえ、作品に対し純粋に「おもしろそうだ」と感じました。

撮影したのは前ですから、改めて作品を観るとそこには撮影当時の20歳だった自分が映っていて、今の自分と比べて懐かしく感じましたね。「こういう場面あったな」と思い返していくのは、なんだかアルバムを見返しているような気分でした。

──年間170本も映画を観たそうですね。今のお仕事の中で170本を観るのは相当大変だと思われますが、山谷さんにとって「映画」とはどういう存在でしょうか?

山谷:純粋に映画が好きだからこそ観続けている反面、興味を惹かれるタイトルだったり、自分が演じる予定の役柄と似た点を持つキャラクターが登場している作品を中心に観るようにはしています。

ただおもしろい作品に出会いたくてやみくもに映画を観ているわけではなく、映画は自分にとっての教科書でもあるんです。ですから、教科書と娯楽が一緒になっている感覚ですね。

例えば本作でも、最初に脚本を読んだ時には自分の中で作品の感覚を掴みきれなかったんです。そこで似た系統の作品といいますか、独特な個性がある作品を観続けて勉強をしたことを覚えています。

迷いの中で見つけ出した“単独”


(C)Kenichi Sono

──宗野監督は「山谷さんは、撮影が始まる時点で既にシホのことを作り込んできていた」と仰っていましたが、山谷さんはどのような心境の中で本作に取り組まれていたのでしょうか?

山谷:その頃の私は、お芝居が好きではあるものの、自分の体調を整えることも女優としての責任を負うことも難しくなり、お芝居を「楽しい」と思えなくなっていたんです。女優である以上、役に対して、一緒に作品を作っている方々に対して失礼にならないよう責任をもって演じなくてはいけない。果たして自分は皆さんと同じ心構えや志をもって、取り組めているのか……それがわからなくなっていました。

また当時は20歳という節目の年でもありました。同年代の周囲の友だちが就職など将来を決めていく様を目の当たりにし、くわえて自分自身の環境や未来と比較していく中で不安を抱くようになってしまいました。

そういった心境の中で本作への出演が決まったため、「それなら、いっそのこと楽しみながら一生懸命取り組んだ方がいいな」という思いが湧いてきました。だからこそ、ある意味では精神的にとても自由に、フラットな状態で役作りや撮影に取り組むことができていたのかもしれません。


(C)Kenichi Sono

──周囲の環境の変化と、ご自身の未来や女優としての存在意義の狭間で悩まれていたわけですね。その苦悩は、それまで信じていた世界と自己存在に訪れた“揺らぎ”に翻弄されるシホの姿と重なるのかもしれません。

山谷:パーソナリティのベースとなっている部分では、シホと自分で似ているところがあるかなとは感じています。劇中でシホが感じ取るものと似たような感情を味わったことがありますし、ひとりでいることが好きな点も同じですね。

ただ「ひとりでいることが好き」とはいっても、私は“孤独”というより“単独”が好きなんです。

人と接する際にもありのままの状態でいたい。私は相手との間にフィルターを隔てて話すのが苦手ということもあり、あえて本音によって対話することで、相手と過ごす時間をお互いにとって充実したものにしたいと考えているんです。20歳を過ぎてそういった考え方ができるようになってからは、生きるのが楽になりました。

「そこにいる」にはどうすればいいか?


(C)Kenichi Sono

──作中では、視線の微妙な動きなど、山谷さんの“映画女優”としての存在感が印象的でした。舞台への出演経験もある山谷さんにとって、映画におけるお芝居、舞台におけるお芝居の違いとはなんでしょう?

山谷:舞台は生で起きるサプライズを観客のみなさんに届け、共有するものですが、映画は撮影している瞬間に起きたサプライズを一度持ち帰り、時間を経てから加工して届けるものです。そのため、演じる中で体感する新鮮さに関しては大きな違いを感じますね。

どちらも好きなんですが、体力や、声の質、リズム感のようなものを含めると映像作品の方が得意なのかもしれません。

舞台の場合は、サプライズを共有するためにも、「自分から何かを発信させる」という思いを常にもって、お客様までそれを届けるエネルギーが必要です。ですが映画の場合は、そのエネルギーを自身の心の中で貯め続け、その結果として画面上に少し零れ落ちたものを感じてもらうのが、一番いいと思うんです。そこにいるだけで画として成立する空気感を醸し出すことがまず重要なんだと。だからこそ自分の演技に集中し、できる限りシホとして画の中に存在するように意識しました。

その点を踏まえると、歩いているだけの場面やセリフがない場面は個人的に気に入っています。撮影していたその瞬間に感じていたこと……もしかしたらそれは役としてではなく、私自身として考えていたことや迷いも表れているのかもしれませんが、“シホを演じる私”という人間の中から溢れた“何か”が表情や仕草として画に映り、存在している。そう思って改めて作品を観ると、自身のお芝居ではあるんですがおもしろさを感じられました。

それにシホはもともと繊細な人間ですから、視線や手つきといった小さな動作をあえて意識することで、彼女が人間としてまとっている雰囲気、彼女から零れ落ちる空気感をみせられればいいなと思いながら演じていました。

先輩・吉田鋼太郎の言葉


photo by 田中舘裕介

──また「舞台」といえば、2020年2月には舞台作品「ヘンリー八世」にて女官アン役という大役を演じられる予定ですが、その稽古についてはいかがでしょうか?

山谷:とにかくパワーを使いますね。自分の演じる場面が終わると空っぽになるというか、抜け殻になる感覚に陥ります。今はまだ、感情とセリフと身体の動き、それらすべてをつなげていくのが難しいので、先輩方の所作を見て盗んで勉強して、本番に向けて頑張っているところです。

シェイクスピア作品を演じるのは初めてですし、今回のキャストは自分の両親よりも年上の方が沢山いらっしゃるので、違う環境でお芝居を続けてこられた方と一緒に演じられること、同じ空間を過ごせることがとても新鮮です。今の私は、分からないことすら分からない状況ですが、そんな私の姿をみて先輩方が伝えてくださる言葉がとても真っすぐで、ありがたいですね。

──山谷さんにとって、「舞台」とはどのような存在でしょうか?

山谷:私にとって舞台は、年に一回、新しい出会いの場といいますか、自分にとって新しい価値観を得るための冒険をしに行く場所です。その中で、経験不足で何もできず落ち込むこともあります。

実は先日、「ヘンリー八世」の演出を担当されている吉田鋼太郎さんとお話をしていた際に、鋼太郎さんは私が以前「女優を辞めたい」と考えていたことを知っていらしたようで、「若いうちは、色々な未来があるから辞めたくなるんだよ。でも年をとったら、辞める理由がなくなる。だから、今は続けてみな」と言ってくださいました。

その言葉の通りだなと思いましたし、素敵な言葉をくださる方との出会いに改めて感謝しました。まだ20年弱という短い時間しか生きていないからこそ、これから先の未来は広がっていて、どうなるかも分からない。だからこそ、今はまっすぐ女優というお仕事に向き合いたいなと思っています。

女優として誰かと一緒に闘い続ける


photo by 田中舘裕介

──本作での演技が評価され、2019年の「マドリード国際映画祭」では最優秀外国語映画主演女優賞も受賞された山谷さんですが、そのような評価に対する思いを改めてお聞かせ願えませんか?

山谷:授賞式には参加できなかったので、式の写真を送っていただいたんですが、それを見てもすぐには実感が湧きませんでした。後日トロフィーをいただき、それを持って肌で感じた時に初めて「ああ、賞をいただけたんだな」と思えました。やっぱり素直に、すごく嬉しかったですね。

トロフィーには本作のタイトルが刻まれていたんですが、そのおかげで「次は、自分の名前が刻まれたトロフィーが貰えたらいいな」という新たな目標ができました。今は本作でいただけた評価を励みに、頑張っていきたいなと思っています。

──今作での受賞をはじめ、映画だけでなく舞台など活躍の幅を広げていらっしゃいますね。やめたいと思っていた過去を乗り越え、今後どのような女優になりたいと思っていますか?

山谷:役と一緒に闘えるような作品に出続ける女優になりたいですね。

また今は、年齢問わず一緒に闘ってくれる方々がいらっしゃいますし、皆さん本当に一生懸命お芝居に取り組まれていて、私自身も何か成長できた瞬間があれば、スタッフさんや仲間がそれに気がついてくれる。そういった少しずつの積み重ねによって、周りの環境も自分自身も変化していく感覚を味わい続けたいなと思っています。その中で、自分が好きなお芝居をして、楽しいと心から思える作品に出続ける女優になれるよう、頑張っていきたいです。

インタビュー/出町光識
撮影/田中舘裕介
構成/三島穂乃佳

山谷花純(やまや・かすみ)のプロフィール


photo by 田中舘裕介

1996年生まれ、宮城県出身。2007年、エイベックス主催「俳優・タレント・モデルオーディション」に合格し、翌年12歳でドラマ『CHANGE』に出演し女優デビュー。

2015年、スーパー戦隊シリーズ第39作『手裏剣戦隊ニンニンジャー』に百地霞/モモニンジャー役で出演。また2018年には『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命- 』にて結婚を控えた末期がんの患者・富澤未知役に挑戦。役作りのために頭を丸刈りしたエピソードは作中での名演とともに話題になった。

主演作である『フェイクプラスティックプラネット』では「マドリード国際映画祭2019」にて最優秀外国語映画主演女優賞を受賞するという快挙を達成。また2020年2月より公演の吉田鋼太郎演出・阿部寛主演の舞台「ヘンリー八世」では女官アン役を務める。

映画『フェイクプラスティックプラネット』の作品情報


(C)Kenichi Sono

【公開】
2020年2月7日(日本映画)

【プロデューサー・脚本・監督】
宗野賢一

【撮影】
小針亮馬

【音楽】
ヴィセンテ・アヴェラ

【キャスト】
山谷花純、市橋恵、越村友一、五味多恵子、長谷川摩耶、大森皇、右田隆志

【作品概要】
「2019年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」のファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門や「ブエノスアイレス・ロホサングレ映画祭2019」に正式出品され、「マドリード国際映画祭2019」では最優秀外国語映画主演女優賞を山谷花純が受賞するという快挙を遂げた。

宗野賢一監督自身が仕事で貯めた300万円を予算に完全自主制作で撮影。宗野監督は前作『数多の波に埋もれる声』と本作で、2作連続の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」オフシアターコンペティション部門出品となった。

映画『フェイクプラスティックプラネット』のあらすじ

東京でネットカフェ暮らしを余儀なくされている貧困女性のシホ。

ある日、街角で初対面の占い師に「あんた、25年前にも来たね」と声をかけられます。

「自分の生まれた日に現れたというその女性は、いったい誰だったのか?」ふとした疑問をきっかけに、彼女の“常識”が全て覆されていきます。

「自分はいったい何者なのか?」運命のいたずらがシホを巻き込んでいきます。

映画『フェイクプラスティックプラネット』は2020年2月7日(金)よりアップリンク渋谷にてロードショー公開!




関連記事

インタビュー特集

【犬童一心監督インタビュー】映画『名付けようのない踊り』ダンサー田中泯の“一生懸命居る”踊りの世界観

映画『名付けようのない踊り』は2022年1月28日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9、Bunkamuraル・シネマ他にて全国公開。 1966年からソロダンス活動を開始し、1978年 …

インタビュー特集

【五十嵐匠監督インタビュー】映画『二宮金次郎』小田原藩から命じられた尊徳の功績を東日本大震災以後に知ったのが全ての始まり

映画『二宮金次郎』は2019年6月1日(土)より、東京都写真美術館ホールを皮切りに全国順次公開! 薪を背負いながら本を読む少年・二宮金次郎像。かつて多くの小学校に置かれていたその姿を知る方は多いでしょ …

インタビュー特集

【チェン・ホンイー(陳宏一)監督インタビュー】台湾の恋愛映画『台北セブンラブ』の日本公開に寄せて

”この映画は他の映画とは少し違う台湾映画です” 陳宏一(チェン・ホンイー)監督の長編第三作目にあたる映画『台北セブンラブ』(2014/原題:相愛的七種設計)が5月25日(土)からアップリンク吉祥寺と大 …

インタビュー特集

【川井田育美監督インタビュー】映画『おかざき恋愛四鏡』純粋に“面白い”と言ってもらえる作品を「はちみつイズム」で描きたい

愛知県・岡崎市発のオムニバス・ラブストーリー『おかざき恋愛四鏡』 4人の若手監督が全てのロケを愛知県岡崎市で行い、テーマも作風も違う4編のラブストーリーを描いたオムニバス映画『おかざき恋愛四鏡』。オー …

インタビュー特集

【サンドバーグ直美インタビュー】映画『MAKI マキ』女性の美しさを表現する思いを語る

2018年11月17日(土)より、ユーロスペースほかにて全国順次ロードショーされる『MAKI マキ』。 本作で映画初出演にして主演を務めたサンドバーグ直美さんに、本作の見どころや魅力、撮影の裏側などを …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学