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Entry 2019/12/24
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映画『調査屋マオさんの恋文』感想レビューと評価。認知症の妻を記録する夫に密着|だからドキュメンタリー映画は面白い33

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第33回

映画『調査屋マオさんの恋文』は、京都みなみ会館にて2019年12月20より公開中。また神戸元町映画館(2019年12月21日~27日まで公開、そのほか洲本オリオンでは、新春2020年1月3日~9日に順次公開。

変わりゆく認知症の妻を記録し続ける、元調査員の夫の物語。

今回取り上げるのは、2019年公開の『調査屋マオさんの恋文』

認知症の妻を記録し続ける元調査員の夫の姿を丹念に追った、東京ドキュメンタリー映画祭2019の長編部門グランプリ作品です。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

映画『調査屋マオさんの恋文』の作品情報

2019 ちょもらんま企画 Co. Ltd. All Rights Reserved.​​​

【日本公開】
2019年(日本映画)

【監督】
今井いおり

【音楽】
よしこストンペア

【キャスト】
佐藤縫子、佐藤眞生、佐藤競、佐藤里香、佐藤澪、江嵜健一郎、松股征男、青山芳夫、赤松民男、川村純三、大橋豪之、南正士、福丸孝之、片山重正、矢島恒子、森田憲彦、桐生敏明、桐生紘次、松本大樹、​川島亜美

【作品概要】
大阪府茨木市で、認知症を発症した妻の縫子を記録し続けている元マーケティング調査員の、“マオさん”こと佐藤眞生を3年半にわたり密着したドキュメンタリー。

監督は、テレビディレクターの傍ら自主映画製作活動を行う今井いおりで、『ろまんちっくろーど~金木義男の優雅な人生』(2014)に次ぐ長編ドキュメンタリー映画2作目となります。音楽は、滋賀県在住でオルタナティヴフォークの夫婦バンド、よしこストンペアが担当。本作は、東京ドキュメンタリー映画祭2019において、長編部門グランプリを受賞しています。

映画『調査屋マオさんの恋文』のあらすじ


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大阪府茨木市に在住する、周囲から“マオさん”の愛称で親しまれている佐藤眞生(さとう まお)は、2010年頃から認知症を発症した、妻の縫子の介護をしています。

当初は自宅で介護をしていたものの、彼女が要介護レベル4となったことで、2016年1月から特別養護老人ホームに入居。

それ以来、毎日欠かさず施設へ通い続けるマオさん。

元々企業のマーケティング調査の会社を経営していたマオさんは、そのスキルを活かし、妻の様子を「縫子生(ぬいこしょう)」として綴っていきます。

本作は、そんなマオさんの日常を3年半もの長きにわたり取材。

日々変わりゆく妻を支える夫の姿を、周囲の人たちの声を交えて追っていきます。

マオさんの魅力あふれる人間力にフォーカス


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65歳以上の高齢者が65歳以上の高齢者を介護する、いわゆる老々介護。

本作の被写体である“マオさん”こと佐藤眞生と妻の縫子は、まさしくそれに該当しており、カメラはメイン被写体となる彼の日常に密着します。

元々企業のマーケティング調査の会社を経営していたマオさんは、そのスキルを妻の介護にも活かします。

例えば、ペダル付き車いすを縫子に座らせて、普通の車いすと比較。

利用者が自らペダルを漕ぐことが、いかに体力アップにつながるのかをデータ化し、入居施設のスタッフに見せるのです。

また、マオさんは縄文時代の生活を研究することをライフワークとしており、縄文を学ぶ私設塾「縄文直感塾」の塾長を務めるほか、縄文に関する執筆活動などを行っています。

そのため、田を耕し野菜を育てるという自給自足の生活を送っており、主食の米はもちろん、なんとビールまで自分で醸造してしまうほど。

インタビュー時も常に笑顔を交えて話すマオさんの、そのバイタリティの高さには感服させられることでしょう。

認知症とは「朧(おぼろ)」にして「羊水還り」なり


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また、マオさんを含めた「縄文直感塾」の仲間たちに驚かされるのは、その語彙力の高さ。

言葉の言い回しが実に豊かなのです。

例えば、「認知症」という言葉はあまり好ましくないと、代わりに「ぼんやりとかすんでいるさま、はっきりしないさま」といった意味を持つ「朧(おぼろ)」と呼びます。

マオさんはそれに加えて、「朧になると脳が考えなくなる」として、「羊水還り」とも呼びます。

まるでこの世に生まれる前の、母親の羊水の中に浸かる胎児のような状態になっていく――実に言い得て妙な、豊かな日本語表現がそこにあります。

介護とは、夫婦の在り方とは


2019 ちょもらんま企画 Co. Ltd. All Rights Reserved.​​​

マオさんが自給自足の生活を始めたのには、ある理由があります。

それは、マオさんが家族と過ごす時間が取れないほど仕事に明け暮れていた38歳の時に言われた、小さき息子の一言がきっかけでした。

それ以来、マオさんは家族の絆を取り戻すべく、自ら起業した会社を離れ、自給の道を行くことにしたのです。

高齢化が進む現代日本において、今後も増えるであろう老々介護。

「介護」という言葉を聞くと、どうしても「きつい、大変」というイメージが浮かびがち。

マオさんもまた、介護を維持していくのが困難な状況に陥ります。

それでもなお、妻への変わらぬ介護をすると宣言。

本作は、朧を通して、一組の夫婦の在り方をストレートに映します。

妻に付き添いながら、「昔よりも今が一番妻と喋っている」と語るマオさんの笑顔が、すべてを物語っているのです。

映画『調査屋マオさんの恋文』は、京都みなみ会館にて2019年12月20より公開中。また神戸元町映画館(2019年12月21日~27日まで公開、そのほか洲本オリオンでは、新春2020年1月3日~9日に順次公開。

次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。

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