映画『あの群青の向こうへ』は2020年1月11日(土)よりアップリンク渋谷ほかにて公開!
忘れられない痛みを抱えながらも、大人と子供の中間地点に立たされている2人の男女が、過去や現実と向き合い、未来へ希望を見出していく映画『あの群青の向こうへ』。危うくて眩しい青春を切り取ったような、瑞々しい作品です。
本作は、第15回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭の国内コンペティション部門ノミネートをはじめ、国内の数多くの映画祭にて入選を果たしています。
今回は、映画『あの群青の向こうへ』の公開に先がけ、監督を務めた廣賢一郎監督にインタビューを行いました。
本作に投影されている監督ご自身の経験や過去の後悔、また、映画制作にかける思いなどを伺っていきます。
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この映画は自分のために作った
──本作は、若者ならではの孤独や虚しさなどが詰め込まれていたように感じます。監督ご自身を反映させているとお聞きしましたが、アイデアの着想についてお聞かせ願えますか?
廣賢一郎監督(以下、廣):僕は、ずっと映画監督になりたいなとは思ってたんですけど、映画の学校に行ってないし出身も田舎だから、映画のことで周りに相談できる人がいなくて。撮りたくても撮れないというモヤモヤが心の中にずっとありました。
一度、スタッフは自分だけで映画を制作した撮影したこともあるんですが、結局、自分が納得できる作品、人にお観せできるような作品にはできませんでした。
そんな中で20歳を迎えた時に、本気で何かを作ってみないと、いつまでも自分が大人になれない気がしたんです。
そこで、今まで感じてきたモヤモヤや将来に対する不安、過去の色んな後悔など、自分が今までの考えてきたことをすべて込めて、本気で映画を作ろうと決めました。多分年を取ったら、今感じている不安とかも忘れちゃうんだろうなと思ったので、今の自分にしか撮れない作品を作りたかったんです。
だから、映画ってよく「観客のために作るもの」って言われてるんですけど、この作品に関しては、自分自身のために作ったところがあります。20歳の節目の年に、「この先、映画を辞めずにしっかりやっていく」という気持ちも込めて、映画として形に残しました。
──完成した作品を観ていかがでしたか?
廣:撮影では、その時できることを最大限やりましたが、それでも完成したものを客観的に、フラットに映画として観ると、未熟な部分が多いとは思います。ストーリーとか演出の点で後悔もありますし、失敗のない作品ではないかな、と。
でももちろん、そういう後悔や失敗もあるだろうなと分かった上で、一生懸命作った作品なので。
この作品が世に出たら、映画好きの方からは結構厳しい評価を受けるんじゃないかなと思っているんです。でも、自分の中での大事な作品として、作った責任をずっと負っていこうという気持ちでいます。
本気でやったからこそ、数年後、観返した時になんだか懐かしい気持ちになれたらいいなと思いますね。
不安を勇気に変える言葉
──本作では、未来の自分から〈ブルーメール〉と呼ばれる手紙が届くようになった世界が舞台となっていますよね。ブルーメールにはどのような想いを込めているのでしょうか。
廣:僕は、今でこそMusic VideoやCMをはじめとした映像の仕事をしているのですが、撮影当時はそういった仕事もしたことがなく、今よりもずっと将来への不安を感じていました。
映画はそんなに頻繁に作れるわけではないし、そもそも商業映画じゃないから期限もないので、下手したらずっと家にこもって脚本を書いたり、お金がないから撮影できない状態が結構長い間続いたりします。そうすると、毎日無駄に過ごしてるみたいな気持ちになるし、色々考えていても目に見える形で作品が増えたりしないので、自分が努力している気持ちになれずに不安がたまっていきました。
そういう時、未来の自分が現れて「お前は大丈夫だよ」みたいなことをひと言でも言ってくれたら、吹っ切れた気持ちがするのにな、と思ったんです。それを、ブルーメールという設定で登場させました。
当時の自分に言ってあげたかった言葉を、ブルーメールやチャットのメッセージなどで表現しています。
地元での特別な出会い
──主人公の2人は、東京を目指す中でのさまざまな人との出会いを通して、少しずつ成長していきますよね。監督ご自身にも、本作に反映されているような「人との出会い」はありますか?
廣:僕は、もともと映像関係の友達や知り合いが少なかったんですが、地元の長野県松本市で「商店街映画祭」という小さな映画祭があって、高校生の時に初めて応募しました。
映画好きな人が年に1回集まるわけですけども、今まで出会ってこなかった人たちが集まるということが、自分の中では面白い体験で。
地元で、映画がなければ交わることがなかった人と出会って、映画を語るという体験がとても特別に感じたんです。今でもSNSなどで繋がっていて、たまに連絡を取りあったりしています。そういった映画を通しての出会った人達との想い出も、今回の作品に一部反映されています。
映画に惹かれ、映画を辞めた過去
──先ほど、ずっと映画監督になりたかったと仰っていました。映画を撮りたいと思い始めたきっかけはなんでしょう?
廣:中学1年生の時、親に内緒で夏休みの宿題をサボって、テレビのWOWOWというチャンネルでたまたま放送されていた『フォレストガンプ/一期一会』(1994)を観たんです。観るまでは、古い映画って退屈するだろうなと思ってたんですが、すごく面白くて。
そこから毎日ひたすら映画を見ていました。自分がTSUTAYAとか借りに行ったら絶対観ないだろうなっていう作品も、テレビで流れているからという理由で観ているうちに、「映画ってこんなにおもしろいんだ」って思い始めたのが、最初のきっかけですね。
まだ子供だったので、自分が好きな映画というものを自分で撮りたいと思うようになる事は、僕にとってすごく自然な流れでした。親のデジカメで動画を撮ってパソコンに読み込んでくっつけたりしてたら、「映画を撮れるじゃん」と。友達と撮って作って見せあいっこして、「俺のやつすげーだろ」とか言いながら楽しんでやっていました。
──中高生の時点で、映画監督になりたいと思っていたとのことですが、映画学校に行くという選択肢はなかったのでしょうか?
廣:映画学校への進学も考えたりしてたんですけど、実は僕、1回映画をやめようと思ったことがあるんです。
この作品に「さやか」という人物が出てくるんですが、そのモデルになったのが18歳の頃交際していた女性で。その人は、僕にとって色々なものを与え、教えてくれた本当に大きな存在でした。
ただ、その人とともに時間を歩むうちに「俺、映画撮らなくてもいいかもしれない」と思う瞬間があって、映画をやめてしまいました。それで、彼女が志望していた大学を受験したんです。
でも、その方とは、とても切ない別れ方をしてしまって。いつまでも消えることのない後悔となって、ずっと僕の心の中に残り続けました。大切にしていた人がいなくなって、映画もなくなって、僕には何が残ってるんだろう、と毎日その想いをどう消化していいか分からなかったんです。それで、やっぱり自分で映画を撮るしかないと思い、後悔や悲しみも全部この作品に込めるつもりで作りました。
タイトルにある「青」にも色んな意味を込めているんですが、さやかのモデルになった彼女がすごい青が似合う女性だったので、青は、「あの人」と言い換えられるかもしれないですね。
後悔も悲しみも武器になる
──本作は、これまで監督が感じられてきたさまざまな思いが詰め込まれた、監督にとってかけがえのない一作ですね。そんな監督にとって、映画とはどういう存在でしょうか?
廣:僕がなぜ映画を撮りたいのかな、と考えた時に思うのは、自分の中で思い描いてた理想や、歩んでみたかった人生は、現実世界ではもう手に入らなかったりするわけじゃないですか。その上、悔やんでも悔やみきれない後悔もあったり。
ただ、そんな後悔や悲しみが、芸術では武器になると思っていて。実際には手に入らなかったけど、映画の中では、自分が見たかったハッピーエンドを見れるかもしれないという気持ちがあるんです。
音楽をやってる人、詩を書いてる人、小説書いてる人なども、似たような部分があると思うんですけど、僕にとっては一番身近な表現方法が映画だったので、映画で描きたいと思っています。
──なるほど。今後も、手に入らなかった人生の可能性のようなものを描いた映画を作りたいとお考えですか?
廣:今後描きたいことは色々変わってくると思うので、今は分からないってのが正直なところで。
ただ、自分が心震わされるものは、やっぱり人の愛なんです。その愛は、恋人同士だったり友人だったり家族だったり、どんな形でもいいんですが、そういう人との強い愛をテーマにした作品を作りたいというのは、今後もきっと思い続けている気がします。
あとは、フィルムでの映画制作にも挑戦したいです。僕は、ストーリーだけでなく、画を通して表現される雰囲気や色使いをすごく重要視していて、自分のイメージに近い作品が作れそうなのが16ミリフィルムなんですよ。
でも、予算や機材が少ない中で、フィルムでの撮影を行おうとすると、カメラマンを信頼するしかない。本当に信頼できる仲間じゃないと、何百万かけて映画を撮るっていうリスクは侵せないわけで。だからこそ今は、ずっと一緒にやっていく仲間を探していて、ようやく出会い始めています。いつか、信頼できる仲間と、フィルムで撮影した映画を作りたいですね。
インタビュー・構成/三島穂乃佳
撮影/出町光識
廣賢一郎(ひろけんいちろう)監督のプロフィール
1996年生まれ、長野県松本市出身。アメリカ合衆国テネシー州への留学を経て松本深志高等学校を卒業。大阪大学歯学部歯学科在学中に、3DCG・CG/VFXを学ぶためデジタルハリウッド大学に通う。また、クマ財団クリエイター奨学生(2期生)にも選出された。
監督作『あの群青の向こうへ』は第15回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭の国内コンペティション部門にノミネート、カナザワ映画祭2018「期待の新人監督」にノミネートされるなど、評価を受けている。
映画監督のほか、数々のアーティストのMVやCMの監督も務めている、今注目の新人監督。
映画『あの群青の向こうへ』の作品情報
【公開】
2020年1月11日(日本映画)
【監督・脚本・撮影・編集】
廣賢一郎
【キャスト】
芋生悠、輝山準(撮影時:中山優輝)、瀬戸かほ、斎藤友香莉、合アレン、ひと:みちゃん、大口彰子、田口由紀子、岡村ショウジ、石上亮、鈴木ただし
【作品概要】
未来の自分自身から〈ブルーメール〉と呼ばれる手紙が届くようになった世界を舞台に、忘れられない痛みを背負った男女が、その先にあるものを信じて東京を目指すロードムービー。
本作は、数々のアーティストのMVなどを多く手掛ける廣賢一郎監督が、信頼する仲間と共に制作。第15回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭の国内コンペティション部門ノミネートをはじめ、国内数多くの映画祭にて入選を果たした作品です。
主人公・ユキを演じるのは、映画『左様なら』『恋するふたり』など出演する、若手実力派女優の芋生悠。彼女は本作で門真国際映画祭2018 最優秀主演女優賞受賞しました。同じく心に傷を負った青年カガリを演じるのは、モデルの輝山準。本作が映画初出演であり、その後俳優のキャリアを積み続けている期待の新人です。その他、数多くの媒体で幅広く活躍する人気モデル・女優の瀬戸かほをはじめ、実力派俳優陣が脇を固めています。
映画『あの群青の向こうへ』のあらすじ
未来の自分から1通の手紙「ブルーメール」が届くようになった世界。その手紙は希望の知らせなのか、それとも不幸を知らせる便りなのか。
青年カガリ(輝山準)は、些細なきっかけから家出少女のユキ(芋生悠)と出会います。忘れられない痛みを心に抱えた二人は、ともに東京を目指すことになりますが、次第にそれぞれの過去や秘密が浮き彫りとなっていき……。
映画『あの群青の向こうへ』は、2020年1月11日(土)よりアップリンク渋谷ほかにて公開!