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Entry 2019/10/13
Update

【瀬戸かほインタビュー】越川道夫映画『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景vol.1』全力で挑んだ役者の新境地

  • Writer :
  • 大窪晶

映画『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景 vol.1』は2019年10月19日より新宿K’s cinemaほか全国順次公開!

『アレノ』『海辺の生と死』『二十六夜待ち』と、男と女の不確かで濃密な情愛を描き続ける越川道夫監督が、新たに取り組む「誰でもない恋人たちの風景」シリーズの第1弾として制作された映画『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景 vol.1』

人の間を漂うように生きてきたひとりの女と、妻を亡くした男、父を亡くした男の、男女三人が織りなす、ある愛の形を、個性豊かなキャスト陣で、静かに、激しく、切なく、優しく描き出します。


(C)Cinemarche

今回は公開に先立ち、主人公ユリを体当たりで演じきり、鮮烈な印象を残した瀬戸かほさんのインタビューをお届けします。

撮影現場での苦しみを超えて役に向かった思いや、本作で培った役者としての意識とは。本作によって新境地に立った瀬戸かほさんに迫ります。

越川道夫監督との出会い


(C)2019キングレコード株式会社

──本作での瀬戸さん演じるユリの存在感は素晴らしかったです。映画の中に確実にユリが存在していて、惹きつけられました。

瀬戸かほ(以下、瀬戸):ありがとうございます。映画では瀬戸かほがいるのではなく、ユリがいると思ってくれたら嬉しいと考えていたので、そう言って頂けてとても嬉しいです。

──本作の出演前には役者の仕事を考え直していたようですが、そこから本作への出演に至った経緯は?

瀬戸:女優を志して始めてはみたものの、オーディションを受けても落ちる日々が続いて、どうしても人間的に否定をされているような気がして、とても落ち込んでしまったんです。

仕事として頑張りたい気持ちはもちろんありましたが、どうしたら女優として仕事ができるのかをとても悩みました。

そんな中で、本作の監督である越川道夫監督のワークショップに2年間ほど参加していた事もあって、監督に今後のこと、プライベートなことも含めてたくさんお話をさせて頂きました。監督はとても親身に悩みを聞いてくだり本当に感謝しています。

その時に今回の企画を頂き、越川監督のことはとても尊敬していますし、是非ご一緒したいと思い、出演させて頂くことになりました。

身体が動かなかった撮影初日


(C)2019キングレコード株式会社

──越川監督とは短編映画『黄色い花 一束 二時頃』でもご一緒しています。

瀬戸:2年間のワークショップの前に、お試しのワークショップをやって短編を撮影し、その後定期的なワークショップになったのですが、一度作品に出させて頂いたことで、越川監督の考えや撮りたいものなどの理解が感覚的にですが掴めたところはあります。

でも撮影に入ると、頭では理解していても、実際にやろうとすると身体が動かないということが沢山あって、これで大丈夫なのか、とても不安でした。

はじめの躓きは、クランクインの撮影が深水元基さんと宇野祥平さんと私が3人ではじめて会うシークエンスだったのですが、初日から役者としてとても尊敬するおふたりを前にして緊張してしまい「ちゃんとしなきゃ」と思って動きが硬くなってしまいました。

越川監督の現場はとても緊張感のある現場なので、より緊張していたのですが、監督が、もっとリラックスしていいんだよと言ってくださったことを覚えています。

他にも監督からは、発している言葉が本当に心から言っているのか、もう一度考えてやってみてと言われたショットもありました。何度やってもダメで、自分でも何も考えられなくなってしまった時にようやくOKが出ました。

自分では良く分からなくなっていたので、本当に大丈夫なのか判断がつきませんでしたが、監督がOKを出してくださったのだから大丈夫だ、と自分に言い聞かせることもありました。

全然できなくて悔しいし、悲しくなる事もたくさんありましたが、全ての撮影が終わったときに監督が「良かったよ」と仰ってくださり、やっとそこで「報われた」と感じて、最後までやり切れて良かったなと思いました。

何かをいつも「考えている」ことが重要


(C)2019キングレコード株式会社

──ユリを演じる上で大切にされていたことはありますか?

瀬戸:ユリは植物の近くにいる人間なので、日常でもできるだけ植物を見落とさず、植物が自分の近くにいることを感じられるように心がけていました。

──ユリが何か見つめているときの眼差しの先には確実に見ているものがあると感じました。その先に何をみていたのでしょう。

瀬戸:特に何かを意識的に見ようとはしていませんでしたが、外を歩いている時は植物が目に入ってくるので、それを見ていました。

それと、宇野さん演じるトモさんは、昔に奥さんを事故で亡くして、ユリと再婚をしているのですが、トモさんは私のことを見ていないと感じていたので、私はトモさんの前妻のことを凄く考えていたりもしていました。

具体的にどこを「見る」というよりも「考えている」ということが私にとっては重要で、ずっと何かを考えている状態でした。

植物的に、動物的に「生き物」として存在する


(C)Cinemarche

──静的な面に加えて非常にアグレッシブな動的な部分も持ち合わせていました。

瀬戸:ユリはあまり喋る子ではないので、その分すごく考えていて、それが行動となって映画後半に溢れてくるところはあると感じています。そういう意味では、ユリには植物を愛でるような瞬間と、理性というよりも感情のままに動いていた動物的な瞬間があると思っています。

嗚咽して泣いているショットもそうですし、葡萄を房からそのまま食べているショットがありますが、その時も本能的で野生的な動物性を感じたりしました。

ですのでユリは、植物に寄っていたり、動物になったりと、ある意味では人間的ではない、単純な「生き物」として存在していたのかもしれません。

──そういった役へのアプローチは計算して構築したというよりも、むしろ即興的に演じていった結果、そのような状態になったのでしょうか?

瀬戸:そうですね。「こうして、こうやる」となると段取りになってしまうので、気持ちのままに進めようと思っていました。例えば葡萄が美味しそうだから食べるとか、木の実を取りたいからジャンプして取るというような、本能的なことを大切にして行きました。楽しい時は楽しかったし、悲しい時は悲しかったし、全てそのままやっていた結果、このような人物像になりました。

自分の全力を超える


(C)2019キングレコード株式会社

──本作を経て、役者として変化をもたらしたことはありますか?

瀬戸:今まで自分が出来なかった経験ができたことが凄く嬉しかったですし、今の自分の力になっていると感じています。

本作では共演の宇野さん、深水さんという尊敬するおふたりから役者としてたくさんの学びもいただきました。脚本を読んで演技プランを考えてはいくものの、撮影ではプランではなく、ただおふたりに身を委ねながら出来たことはすごく良い経験となりました。

精神的にも成長した部分があるような気がしています。今回は自分の全力で挑んだ作品です。もちろん今までもその時の全力で向かっていきましたが、今回ほど辛いと思ったことはありませんでした。

この作品は自分の全力を超えて行けたのだと思います。もちろんそれは越川監督、宇野さん、深水さんのおかげですが、自分を超えられたというのは、自信にも繋がりますし、心がちょっと強くなれたのかなと思います。

心に影響を与える


(C)Cinemarche

──瀬戸さんは役者以外に、モデルとしてもご活躍をされていますが、瀬戸さんにとって役者とはどんなもので、どんな役者になりたいと考えていますか?

瀬戸:この質問は難しいですね(笑)。

モデルはビジュアル的に「凄いな」「綺麗だな」「私もなりたいな」という気持ちにさせる仕事だと思います。

役者は、というよりも映画は「嬉しい」「楽しい」「悲しい」といった単純なことだけじゃない、もっとイヤな気持ちだったり、複雑な説明のつかないものを見せることもできると思います。

ですので、モデルは視覚的な影響を与えますが、役者は心へ影響を与える仕事でしょうか。自分は本当にそれが出来ているのか今も話しながら自問自答していますが、そういう役者になれたらと強く思っています。

私はアンナ・カリーナさんが大好きなんです。すぐ踊っちゃったり、笑い方がとっても素敵だなと感じています。決して上品な笑い方ではないのにあんなにも可愛らしく笑う方は初めて見ました。アンナ・カリーナさんは私には出来ないことをいっぱい持っている素晴らしい方で、私にとっての憧れの存在です。そんな風に生きていけたら嬉しいです。

インタビュー・写真/大窪晶

瀬戸かほ(せとかほ)プロフィール

1993年生まれ。2015年に『orange —オレンジ—』で女優デビュー。

越川道夫監督が江代充の「黒球」を原作に、仙台短篇映画祭2017のために制作した『黄色い花 一束 二時頃』に出演。

その他の主な出演作は『にとっての世界』(2017)、『Birds』(2017)、『オーロラ・グローリー』(2018)、『あの群青の向こうへ』(2018)、『神様のいるところ』(2019)など。

音楽×映画プロジェクトMOOSIC LAB2019で公開される映画『ゆうなぎ』では主演を務めます。

また、モデルとしても数多くの広告、雑誌、PVに出演中。

映画『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景 vol.1』の作品情報

【日本公開】
2019年(日本映画)

【監督・脚本・撮影・編集】
越川道夫

【キャスト】
瀬戸かほ、宇野祥平、深水元基、山田キヌヲ、縄田かのん

【作品概要】
ドイツの詩人・ゲーテが晩年、若い人妻マリアンヌと恋人関係になり、のちに傑作「西東詩集」の核をなすことになる愛の詩を共作したエピソードから着想を得て、新たな愛の物語を作り上げた本作。

監督は『アレノ』『海辺の生と死』『二十六夜待ち』と、男と女の不確かで濃密な情愛を描き続け、その一貫した美学でファンを魅了する越川道夫監督。

主人公のユリは、今最も期待されている女優の瀬戸かほが務めます。満島ひかり(『海辺の生と死』で日本映画批評家大賞主演女優賞)、三浦透子、黒川芽以、貫地谷しほりといった女優たちが越川作品で新境地を開いてきたように、本作の瀬戸かほも一人の女のさまざまな側面を赤裸々に演じ、鮮烈な印象を残します。

共演は、ユリの年上の夫・トモさん役に『俳優 亀岡拓次』や『焼肉ドラゴン』の宇野祥平。ユリが恋に落ちる夫の幼馴染・リュウタに『新宿スワン』『コーヒーが冷めないうちに』の深水元基が務め、個性溢れる存在感を放ちます。

映画『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景 vol.1』のあらすじ


(C)2019キングレコード株式会社

癒えない悲しみを抱え、人の間を漂うように生きてきたユリは、小さな古本屋にたどり着き、店主・トモさんの妻になります。

トモさんは、亡くなった前の妻のことを毎日思い出す一方で、今はユリがいない生活は考えられません。

同じ頃、トモの幼馴染で父を亡くしたリュウタは、遺品の中にとある詩集を発見します。

ユリとリュウタはどうしようもなく惹かれ合い、求め合いますが、それはユリがトモさんのもとを去ることを意味していて…。

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