映画『喝風太郎!!』は2019年11月1日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかで全国ロードショー!
漫画家・本宮ひろ志の隠れた名作を、市原隼人主演により映画化。破天荒ながら真実を貫く一人の僧侶が、日本社会にはびこるさまざまな矛盾、そしてその矛盾に悩む人たちに「喝」を与えていく姿を描きます。
本作の監督を務めたのは、長編デビュー作『あいが、そいで、こい』に続き、本作が2作目の長編作品となる柴田啓佑監督。
2019年11月1日からの劇場公開を記念し、この度柴田啓佑監督にインタビューを行いました。
原作漫画と主人公・風太郎の魅力、キャスト陣の演技を通じて「縁」の物語を描いた過程や苦労、そして「市原隼人としての風太郎」の姿など、貴重なお話を伺いました。
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男らしさの中の優しさ
──今回のオファーを受けた決め手とは、どのようなものだったのでしょうか?
柴田啓佑(以下柴田):これまで僕はテレビドラマを担当することが多かったんですが、どちらかというと主人公は女の子が多かったので、一度「男の熱い話」をやってみたいと思っていました。
また今回は、もともと「原作モノの話があるんだけど」とオファーをいただいたんですが、キャラクターなどのビジュアルイメージを生かしたりすれば、映像化における自由度はあるという話もあったんです。
それから原作を一度読ませていただいたんですが「わりと熱い話だな」という印象を受けました。まあもともと本宮先生の作品自体に、かなり破天荒な印象もありましたが(笑)。
そこで風太郎のキャラを使うことを前提とすれば、ある程度オリジナル作品と同じ形で作れるんじゃないかと考え、監督を引き受けることを決めました。
僕自身昔から漫画が大好きで、本宮先生の作品も『サラリーマン金太郎』など有名な作品は一通り知っていました。また、密かに「漫画原作の映像化を行う仕事は断らない」と自分の中で決めていたこともありまして(笑)。そういった自分のモチベーションもあり、今回オファーを受ける決断をしました。
──柴田監督にとって、本宮先生の漫画作品の魅力とはどのようなところでしょうか?
柴田:もちろん男らしさというのもあるんですが、どの作品にも同時に優しさがあるなと。風太郎も単に横暴というわけではなく、その奥に優しさがある。
今の時代、怒るとすぐ問題につながるけど(笑)、逆に怒られないことに慣れ過ぎているとも思うんですよね。でも怒るのって結構しんどいし、興味ない人には怒らないでしょう。それに人に叱られて覚えることで、人は成長することもある。だからそんなメッセージを、この映画で改めて伝えられたらいいなと思っていました。
風太郎は破天荒な人間がモチーフになっているけれど、彼のやっていることは意外にまっとうなことが多いんです。そして「誰かの背中をそっと押す」というよりは、「行ってこいよ!」と力強く押すタイプでもある。それも今、意外に普段の生活の中で求められていることではないかと感じています。
「人と人の縁」を多面的に見つめる
──映画劇中でのエピソードはどのように組み立てられていったのでしょうか?
柴田:原作から抜粋している部分もありますが、原作漫画の連載時期は少し昔であるため、世相を現代に合わせる格好でまとめました。だからほぼオリジナルのストーリーに仕上がっています。
近藤芳正さんの演じた高平末吉というサラリーマンの役柄は、原作にもそのキャラクターが登場した一編があり、そのエピソードを応用しました。いわゆる「社畜」を取り上げているんですが、それは昔も今も問題としてあり続けている印象もありましたし。
──「原作・オリジナル問わず、さまざまなエピソードを発展させながらも組み合わせてゆく」ということは、難しいプロセスではないかと思えました。
柴田:本作の物語構成については事前に一つアイデアがあったんですが、それは「人と人との縁」をテーマとし、「三人の人間がやっていることは、実は風太郎を通してつながっていた」というものです。
「知り合いの知り合いが、実は自分と直接の知り合いだった」ということは意外によくあると思うんですが、それをいろんな方向から見つめてみると、それぞれ違った形で見えるんです。
そのため1章序盤でのあるセリフが、そのときには何気ないセリフとして聞こえていたけれど、最後の章では登場人物に対して響いてきたり…など、そのような狙いを持ってチャレンジしてみました。
また、今の時代って絶対的な答えを求めがちだと思うんですが、僕はそれより自分で考えたり、ものの見方を変えたりするということが面白いと思うんです。そして「そんなことを含めて全部“縁”だよな」と考えたりなど、僕自身の思いを提示できればと思いました。
役者の表情から読み解くストーリー
──それぞれのエピソードをつなげてゆく上で一番苦労されたことを教えていただけますか?
柴田:キャストが演じる人物たちの、物語内での感情のつながりなどについてはいろんなことを考えました。それぞれの表情に対し「このときはどっちに寄せておくべきか」「敢えて違和感として残すか」といった風にです。
また物語は大きく4つの章に分かれていますが、それぞれの章における主人公の目線で見たときに「なんでこいつはこの感じを出しているのか」という答えとなる描写を、やり過ぎないことなのか、敢えてもう少し残すかといったことも。
実は続けて観るとわかるんですが、例えば1章における健司の表情と3章での表情は、そのままの順番で見ると「なんでこんな表情をしているか」と気づけるように演出しているんです。その具合のつけ方は難しかったです。そして同じエピソード内での表情も、グレーディングや音楽のつけ方を敢えて章ごとに変え、わざと見え方の違いなども出しています。
ただ工藤綾乃さんがメインになる2章では、わざと音楽も変えてちょっとポップな雰囲気にしたりすることで、章単体で観たときの違和感なども敢えて作りました。
また風太郎に対する健司の呼び方も物語が進んでいく中で少しずつ変わっていくんですが、そこにも気づいてもらえたらいいなと思います。
例えば終盤の場面では「スターウォーズ風に言う」という演出もしました(笑)。健司は最初はアホという設定なんですが、だんだん変化して最後は「スターウォーズのジェダイのような感じで言ってほしい」と藤田さんには伝えました。
──そのような微妙な変化を演じていくことは、キャストの方々にとっても自身の実力を試される、難しい演技だったのではないでしょうか?
柴田:健司を演じられた藤田さんは、一番苦労をされたと思います。
メインストーリー自体は両親がいない二人、風太郎と健司のある種のバディものとして構成していますが、健司はその中でいろんなことに巻き込まれていく側。対して風太郎は意外と芯があり、動じることなく対処していく側といえます。
そういった意味では、健司のジェダイ的な役どころはは演じる中で一番大変だったでしょうし、現場でも健司の捉え方などに関していろいろと議論することもありました。
「市原≒風太郎」と思わせるための説得力
─柴田監督は風太郎という人物のイメージをどのように捉えていったのでしょうか?
柴田:地に足がつくギリギリのところを狙いました。やり過ぎちゃうとフィクションに偏ってしまうし、かといって原作漫画におけるキャラクターとしての魅力も失いたくない。その微妙なところを狙って描きました。
一方で市原隼人さん自身が持っているイメージと、風太郎というキャラクターのイメージを融合した姿そのものは、もともと少し考えていたものもありました。
だから無理をして風太郎を描くのではなく、「市原隼人としての風太郎」という像をいろいろ試行錯誤ながらも模索を続けました。
──柴田監督から見て、市原さんには風太郎に近いものがあると感じられていたのでしょうか?
柴田:もう近いとかでなく、風太郎だと思いました(笑)。だからこそ僕の中では、完成した映画の開始10分で「なんか、こういう人って現実にいそうだな」と思えたんです。
また破天荒な印象のある風太郎のイメージですが、それでも「いそうだな」と思わせる要素として麿赤児さんが演じた大僧正をはじめ、僧侶の三浦さんやお寺のシーンを通じて描く“説得力”が重要になっています。
ちなみにお寺のシーンでは、本物のお坊さんをお呼びして出演していただいたんです。掃除をしたり、禅を組んでいる人など映っている方全員がそうです。
また劇中では護摩焚きのシーンもありますが、あれも本物なんです。実は護摩焚きって全国でやれる人がそんなにいないんですが、わざわざこの撮影のために来ていただきました。
そういった“説得力”がある中にいる風太郎なので、観客がちゃんと頭で受け入れられる形に描けたと思いますし、やはりそうやってちゃんと作っていくことが、風太郎を風太郎とすることにつながるんだと映像をつないだときに改めて思いました。
日常を生きていく意味を改めて伝える
──柴田監督が感じられた風太郎の魅力を踏まえると、タイトルにもある「喝!」という言葉にも深い意味を感じます。
柴田:風太郎は人に対して「喝!」と言うけど、実はその言葉が自分にも戻ってきて作用し、風太郎自身も成長していくというのが『喝風太郎!!』の物語でもあります。そんなところもこの作品の面白さだと思うんです。
ただ単に「喝!」と言えばなんでも解決するみたいなテンションや雰囲気については、笑ってもらえるといいなと。たまにそんな大人がいますよね(笑)。だからそういったところは、単純に笑えるものとして作りました。
──原作漫画や風太郎というキャラクターの魅力はもちろんですが、柴田監督は本作を通じて何を描こうとされましたか?
柴田:純粋な思いとしては、自分たちが暮らしている、日常に生きる人々そのものですね。「ありふれた日常の中にすごくかけがえのないものがある」と。
例えば今回の作品では風太郎が最後に「多分、生きていくしかない」というセリフを口にするんですが、その言葉はある程度的を得ていると思うんです。
生きていくのが、すごく大変な人もいますよね。だからこそあの言葉はすごく軽く聞こえるけれど、そこに込められている意味自体は実は深いんです。そしてその言葉を抱きながら、風太郎は成長していく。そんな姿から、普段は当たり前と思っていることを改めて映画から伝えられたらいいなと思いました。
また問題提起とまではいかないまでも、小さな悩みや大きな問題というものをテーマとして取り扱い、その意識が人の心に伝わっていくといいなとも考えていました。
インタビュー・写真/桂伸也
柴田啓佑(しばたけいすけ)のプロフィール
静岡県静岡市生まれ。日本映画学校(現:日本映画大学)を卒業。
『ひとまずすすめ』(2014) が、第8回 田辺・弁慶映画祭にてグランプリをはじめ、映画祭史上初の4冠を達成、翌年2015年にテアトル新宿にて劇場公開を果たしました。
さらに『運命のタネ』(2016)は、第10回 さぬき映画祭 第1回さぬきストーリープロジェクトにてグランプリを受賞しました。
2019年は、映画『あいが、そいで、こい』(ENBUゼミナール製作)が公開。他にも、ドラマの演出なども手がけ、2019年10月期のドラマパラビ「ミリオンジョー 」(テレビ東京、:7〜9話担当、主演:北山宏光ほか)の演出を手がけるなど、幅広い活動を行っています。
映画『喝風太郎!!』の作品情報
【日本公開】
2019年(日本映画)
【原作】
本宮ひろ志
【監督】
柴田啓佑
【脚本】
守口悠介
【キャスト】
市原隼人、藤田富、工藤綾乃、二ノ宮隆太郎、木村知貴、藤代太一、吉岡そんれい、板野友美、鶴田真由、近藤芳正、麿赤兒
【作品概要】
漫画家、本宮ひろ志が2013年から2016年にかけて『グランドジャンプ』で連載した人気漫画をベースに、破天荒ながら真実を貫く一人の僧侶・風太郎が道行く中でさまざまな人と出会い、ともに悩みに向き合っていく姿を描いたヒューマンドラマ。
長編デビュー作『あいが、そいで、こい』を手がけた柴田啓佑監督が本作を手がけます。
キャストには型破りな僧侶役を務める市原のほかに、僧侶の相棒的な存在となる青年・健司役を「仮面ライダーアマゾンズ」シリーズなどの藤田富が担当。
他にも映画、テレビでバイプレーヤーとして活動、高い評価を受けている近藤芳正、『たまえのスーパーはらわた』などの工藤綾乃、『64 -ロクヨン-』『DESTINY 鎌倉ものがたり』などの鶴田真由らが出演。さらに二ノ宮隆太郎、吉岡そんれい、板野友美、麿赤児ら個性派俳優陣が脇を固めます。
映画『喝風太郎!!』のあらすじ
とある山寺。みなから厄介者扱いされていた僧侶・風太郎(市原隼人)でしたが、寺の大僧正(麿赤児)だけは彼を認めていました。
そんなある日、新たな修行のために風太郎は山を下りることに。そして町中で幸運グッズと称したインチキ商品を売り歩く一人の男・健司(藤田富)と出会います。
風太郎の人間性に魅力を感じた健司は、悩み相談を引き受ける商売を発案。その顧客第1号として自分を虐げる家族や会社の上司の軋轢に悩む会社員の末吉(近藤芳正)を見つけ、悩み相談話を風太郎に持ちかけます。
常識では考えられない言動と行動を見せる風太郎らに振り回される末吉でしたが、二人と行動をともにしていく中で末吉は自身のある一つの思いに気づいていくのですが…。
映画『喝風太郎!!』は2019年11月1日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかで全国ロードショー!