2019年8月23日(金)より、キネカ大森ほかで開催される「第6回夏のホラー秘宝まつり2019」。
世界中のホラー映画ファンを熱狂させた、0(ゼロ)年代に巻き起こった“ニューウェイヴ・オブ・フレンチホラー”ムーブメント。
あれから10年。その当事者や、時代を知る識者の証言を集め、あの重大ムーブメントが何であったのかを語る、ホラー映画ファン必見のドキュメンタリー映画『BEYOND BLOOD』が8月25日(日)より上映されます。
2003年にフランスで公開された、アレクサンドル・アジャ監督の『ハイテンション』が全ての始まりだった。
アレクサンドル・バスティロとジュリアン・モーリーが監督した『屋敷女』、ザヴィエ・ジャン監督の『フロンティア』、パスカル・ロジェ監督の『マーダーズ』。
今もそのインパクトが薄れていない、エクストリームなバイオレンスで見る者を圧倒する、“ニューウェイヴ・オブ・フレンチホラー”の世界が、今明らかになる。
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CONTENTS
映画『BEYOND BLOOD』の作品情報
【公開】
2019年8月25日(日)(日本映画)
【監督・脚本・製作】
小林真里
【出演】
アレクサンドル・アジャ、ベアトリス・ダル、パスカル・ロジェ、アレクサンドル・バスティロ、ジュリアン・モーリー、ザヴィエ・ジャン、コラリー・ファルジャ
【作品概要】
“ニューウェイヴ・オブ・フレンチホラー”として生まれた映画の数々を紹介し、それを生んだ背景や与えた影響を、作品を手がけた監督や出演者、そして世界各国の識者や関係者の証言で語る、本格的ドキュメンタリー映画。
監督は東京とニューヨークを拠点に活動する、映画評論家で翻訳家である小林真里。ゼロ年代のホラー映画のムーブメントの1つ、“ニューウェイヴ・オブ・フレンチホラー”を紹介したいとの思いから、この映画に着手し、ドキュメンタリー映画監督として活躍中です。
小林監督が築いた人脈を駆使し、世界各国で取材して集めた証言の数々。その多角的な検証ドキュメントは、フレンチホラーの魅力だけでなく、意外な事実を伝えるものでもありました。
映画『BEYOND BLOOD』のあらすじ
2003年から2008年にかけて、フランスでセンセーショナルかつ画期的なホラー映画が続々生まれ、世界中に大きなインパクトを与えた。そのムーブメントこそ、“ニューウェイヴ・オブ・フレンチホラー”です。
映画はまず、『ハイテンション』『屋敷女』『フロンティア』『マーダーズ』といった、時代を代表するフレンチホラーの魅力について、様々な人物が語ります。
監督たちはこれらの作品が生み出された動機と、製作を可能にした背景を語ります。こうして誕生したフレンチホラーは、明らかにアメリカのホラー映画とことなる性格とスタイルを持っていました。
過激だがストーリー的必然性を持った暴力描写、女性主人公の扱いの違い、ポスト9.11の不安を反映した内容。フレンチホラーは映画祭を通じて海外で高く評価され、世界を席巻します。
こうして世界を魅了した“ニューウェイヴ・オブ・フレンチホラー”。しかし意外にもフランス国内の反応は、海外とは全く異なるものでした。
0(ゼロ)年代のフレンチホラーは、世界に何を残し、フランス映画界のどの様な影響を与えたのか。その内容はホラー映画ファンのみならず、映画ファンにとっても興味深い事実を明らかにする。
映画『BEYOND BLOOD』の感想と評価
多面的な分析がホラー映画ファンを唸らせる
0(ゼロ)年代はホラー映画にとって、大きなムーブメントの時代でした。1つはやや先行して始まり、この時期ハリウッドリメイクされ、世界を席巻した“Jホラー”。1つは『ホステル』や『ソウ』などの、アメリカの“トーチャー(拷問)ポルノ”。
もう1つは『パラノーマル・アクティビティ』など、今や映画技法として定着した“ファウンド・フッテージ(POV)”。そして最後が『BEYOND BLOOD』で紹介された、“ニューウェイヴ・オブ・フレンチホラー”です。
ホラー映画ファンが感覚的に掴んでいた、フレンチホラーの魅力の正体を、様々な識者が明確に分析、解説しています。アメリカのホラー映画の持つフォーミュラ(公式)と、フレンチホラーの構造はどう異なるのか。それを1つ1つ解説してくれます。
そしてアメリカ以上に、ポスト9.11の時代に向き合ったフレンチホラー。そこには当時のフランスの国内事情だけでなく、歴史的背景も影響していました。同時に作り手の置かれた環境が、突き詰めた表現へのチャレンジを追求させます。
小林監督が様々な人物に語らせた情報は、ホラー映画への理解をより深めてくれるものばかり。将にファンは見逃せないドキュメンタリー映画です。
世界を席巻しながら短い期間であった背景
世界のホラー映画ファンに大きな衝撃を与えた、“ニューウェイヴ・オブ・フレンチホラー”。
その同時期隣国スペインでは、『REC』『永遠のこどもたち』が作られ、“スパニッシュ・ホラー”も広がりを見せていきます。
スペインのホラー映画の関係者にとって、フランスのホラー映画の製作状況は、実にうらやましい光景に映りました。しかし内実はそうでは無かったのです。
今も脈々と続き、南米のラテン圏にも影響を与えている“スパニッシュ・ホラー”に対し、“ニューウェイヴ・オブ・フレンチホラー”は短い期間で終了を迎えます。
そこにはフランス映画界の保守性、フランス国民のジャンル映画に対する、意識の低さがありました。世界を魅了したフレンチホラーの、本国での意外な扱いは衝撃的なものでした。
フレンチホラーブームの終焉の原因は、単に監督たちがハリウッドに拠点を移した結果ではありません。
その背景にはホラー映画ファン、そしてフランス映画ファン、否、映画ファンなら驚かされる事実が潜んでいました。詳しくは映画を見て確認して下さい。
“ニューウェイヴ・オブ・フレンチホラー”以降の物語
時代のあだ花のように終了した、0(ゼロ)年代のフレンチホラーブーム。しかしフランスでホラー映画が消滅した訳ではありません。
2018年に日本で公開された『RAW 少女のめざめ』。女性監督ジュリア・デュクルノー初の長編映画が、各国の映画祭で高く評価された事が、大きな話題となりました。
参考映像:『RAW 少女のめざめ』予告編(2018年日本公開)
そしてこの映画が本国で、2018年のセザール賞に6部門でノミネートされた事は、実はフランスのホラー映画界だけでなく、映画業界全体にとって大きな出来事だったのです。
そして近年現れたもう1つの作品、女性監督コラリー・ファルジャの、同じく初の長編映画となる作品が『REVENGE リベンジ』。
参考映像:『REVENGE リベンジ』予告編(2018年日本公開)
“ニューウェイヴ・オブ・フレンチホラー”を扱ったドキュメンタリー映画『BEYOND BLOOD』が、なぜブーム終焉から約10年後に現れた、この2本の映画を紹介するに至ったのか。
この意味は映画を見て確認して下さい。0(ゼロ)年代のフレンチホラーブームは、今後もホラー映画の世界に、そしてフランス映画界に、大きな影響を及ぼしていくのです。
まとめ
“ニューウェイヴ・オブ・フレンチホラー”をユニークな視点で、多角的に紹介したドキュメンタリー映画『BEYOND BLOOD』、ホラー映画ファン必見の興味深い内容となっています。
そして『ハイテンション』『屋敷女』『フロンティア』『マーダーズ』は、今後のホラー映画に間違いなく影響を与える作品。いずれも将来誕生するホラー映画の予習のために、必見の作品だと理解しました。まだ見ていないホラー映画ファンには、見るべき課題作品です。
ところで貴重な情報が詰め込まれた『BEYOND BLOOD』ですが、実は一番気になったのが映画祭、トロント国際映画祭のミッドナイト・マッドネス部門の紹介でした。
トロント映画祭でも最もクレイジーな祭典と言われる、ホラー・ジャンル物・アクション・ブラックコメディといった映画を、ストレートな反応を示す1000〜2000名の観客が、一度に集まった劇場で上映する、将に一大イベントです。
フレンチホラーにとっては、北米に売り込む最大の機会であり、監督にとっては映画を愛するファンの、生の反応を確認できる貴重な場所。かつて行われた東京国際ファンタスティック映画祭を、何倍にもスケールアップした祭典、と思えば良いのでしょうか。
ちなみに日本映画では、ミッドナイト・マッドネス部門の観客賞を、2003年北野武監督の『座頭市』が、2013年園子温監督の『地獄でなぜ悪い』が受賞しています。
その盛り上がる様子、過激で熱い観客の反応を聞かされ、ぜひ行ってみたくなりました。この様に様々な情報を紹介している『BEYOND BLOOD』、映画ファンにも必見です。
映画『BEYOND BLOOD』は2019年8月25日(日)より、キネカ大森ほかで開催される「夏のホラー秘宝まつり2019」にて上映!