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映画『ザ・スパイ ゴーストエージェント』ネタバレ感想と考察評価。潜入スパイを巡るアクション巨編|未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録3

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  • 20231113

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」第3回

ポスト・コロナの時代に、世界の埋もれた佳作から迷作、珍作映画を紹介する、「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」。第3回で紹介するのは、本格スパイ・アクション映画『ザ・スパイ ゴースト・エージェント』。

かつて”007″ことジェームズ・ボンドらのスパイが、東西冷戦を背景に映画の中で、世界中を駆け巡りました。その冷戦時代も遠くなり、世界各国の映画の作り方も大きく変わりました。

そして今、ロシアからハリウッド映画を凌ぐスケールを持つ、ド派手なスパイ・アクション映画が誕生しました。その全貌を見逃すな!

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020延長戦見破録』記事一覧はこちら

映画『ザ・スパイ ゴースト・エージェント』の作品情報


(C)Kargo Films, 2019

【日本公開】
2020年(ロシア映画)

【原題】
Герой / The Hero

【監督・製作】
カレン・オガネスヤン

【キャスト】
アレクサンドル・ペトロフ、スヴェトラーナ・コドチェンコワ、ウラジミール・マシコフ、コンスタンティン・ラブロネンコ

【作品概要】
世界各国に潜入した、秘密工作員”スリーパー”を巡る陰謀を描く、正統派スパイ・アクション映画です。ロシアで映画・TVドラマでコメディから犯罪物まで、幅広いジャンルで活躍するカレン・オガネスヤンの監督作品です。

主演は『アトラクション 制圧』(2017)、『魔界探偵ゴーゴリ 暗黒の騎士と生け贄の美女たち』(2017)に『ANNA アナ』(2019)、そして異例の大ヒットを遂げた戦車アクション映画、『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』(2018)のアレクサンドル・ペトロフ。

今やスパイ映画の名作として名高い『裏切りのサーカス』のスヴェトラーナ・コドチェンコワ、『エネミー・ライン』(2001)で戦地に不時着した主人公を追跡する、冷酷な男を演じたウラジミール・マシコフが共演しています。

映画『ザ・スパイ ゴースト・エージェント』のあらすじとネタバレ


(C)Kargo Films, 2019

イギリス、ロンドンのアメリカ大使館主催で、ロシアの対外情報庁に所属し、亡命した男ロマン・ポポフの会見が行われようとしていました。

建物の外にはロシアの諜報活動に反発する人々が集り、会場に報道関係者などの多くの人が詰めかけ、演壇はポポフの身を守るため防弾ガラスで密閉されていました。

ついにポポフが登場します。しかし彼が喋ろうとすると、会場に発煙弾が投げ込まれ、防弾ガラスのケースに銃弾が命中、ひびを入れます。

人々が逃げまどう中、ポポフの入ったケースは毒ガスで満たされます。会場の最前列に座っていた男は、それを見届けると手を叩き、ブラボーと叫びました…。

オーストリアのウィーン。スケボーショップで働く男、アンドレイ(アレクサンドル・ペトロフ)の前に、杖をついた年配の男が現れます。

男は息子のためにスケボーを探していました。店のカウンターの上に飾ってあるスケボーを求めますが、これは売り物ではないと丁重に断るアンドレイ。

それは彼の父、ロダン(ウラジミール・マシコフ)から送られた物でした。亡き父の思い出の品だと告げ、何か商品を見繕うとした時、電話が鳴り響きます。

アンドレイが電話を取ると、相手はいきなり息子よ、よく聞けと話してきました。

それは死んだはずの父、ロダンの声でした。”ユース”のエージェントが狙われているので、今すぐ身を隠せと告げるロダン。

電話と同時に目の前の男が、いきなり杖を振るって襲って来ます。スケボーを武器に応戦し、アンドレイは男を倒します。

店の前に止めた電動キックボードに乗ると、ウィーンの街を疾走するアンドレイ。やがて彼は、ドイツのケルンに到着しました。

目的のビルに着いたアンドレイは、社員のセキュリティカードを奪い、ビルの中に入ります。

彼の目的は9階のオフィスに務める、マーシャ(スヴェトラーナ・コドチェンコワ)に会うことでした。彼はマーシャに会う前に、非常階段に通じるセキュリティドアを細工します。

マーシャから要件を訊ねられ、彼は親父から”ユース”の危機との連絡があったと告げます。君の身も危険と考え、そして現れたと話すアンドレイ。

マーシャもロダンは死んだと信じていました。彼女は周囲に悟られぬよう、彼をオフィスに案内します。オフィスに入ったアンドレイは、そこの安全をまず確認します。

同じ”ユース”の一員として訓練を受けた2人ですが、マーシャは何も話そうとしません。”ユース”のメンバーは、互いに誰がどこに居るかを知らないはずでした。

アンドレイはポーランドのパラシュート大会で偶然マーシャを目撃し、SNSの情報をたどり彼女の勤め先を知ったのです。

緊急事態に彼が知る、唯一の”ユース”のメンバーである彼女を訪ねたのです。アンドレイに多くを語らないマーシャに、ロシアからの親戚と名乗る人物が訪ねてきました。

アンドレイは室内を監視できるよう細工して身を隠すと、2人の男が現れます。男たちはマーシャに”ユース”の出身者かと訊ねますが、彼女は何も答えません。

その態度を見てマーシャに”ユース”のメンバーは、パスワードを告げないと何も話さないのだな、と言う男たち。

彼らはアンドレイの父、ロダン大佐が世界に密かに張りめぐらせた、潜入工作員による諜報網”ユース”の実態を突き止めるのに、15年かかったとマーシャに告げます。

今後はロシアのために協力しろ、と言う男たちに何も答えないマーシャ。緊張が漂う中、男の1人が何者かが潜む気配に気づき、銃を抜き部屋を探します。

その男とアンドレイが格闘すると、マーシャはもう1人の男と闘い始めます。男たちを倒し拳銃を奪うと、2人は部屋を出て銃を処分して逃走を図ります。

男たちが追って来ると、細工したセキュリティドアから階段に逃げたアンドレイとマーシャ。

アンドレイは男から奪った無線を操作し、ビルのエントランスに男たちの仲間がいると見破ります。2人はビルの窓から屋上に逃れようとします。

しかし屋上に通じるガラス戸が開きません。そこに先程の男たちが現れます。アンドレイとマーシャは格闘で相手を闘い、ガラスを破って屋上に逃れました。

しかし追手は続々とやってきます。2人は命綱を付けた屋上の作業員にケーブルを結び付け、彼と共に飛び降り無事地上に逃れます。

ロシア、モスクワの対外情報庁のカターエフ将軍(コンスタンティン・ラブロネンコ)は、作戦主任のマリーナから、ドイツで”ユース”のメンバーが発見されたとの報告を受けました。

騒ぎを起こしたアンドレイとマーシャの姿が報道され、ロシア対外情報庁が追う”ユース”のメンバーが15年ぶりに確認されたのです。

ドイツで一般市民として暮らすエージェント、ヘレナとそのパートナーの2人に、行動を開始しろと命令するロシア対外情報庁。

マリーナは作戦室で事態を職員に説明します。アンドレイの父ロダン大佐は、1979年にアフガン、81年にアンゴラ、82年にキューバ、83年に北朝鮮で活躍した優れた諜報員でした。

2000年、彼は優れた若者を集めて訓練し、養成したスリーパー(潜入工作員)を全世界に配置した”ユース”と呼ばれる諜報網を作り上げます。

“ユース”のメンバーは、一般市民としてその地に溶け込んで生活し、ロダン大佐のみが知るパスワードを告げられて、初めて工作員として活動を開始するのです。

“ユース”のメンバーはパスワードを告げられるまで、互いがどこにいるかも知らず、生活を続けます。しかし”ユース”が活動を開始した2年後、ロダン大佐は事故で死亡します。

大佐の死により”ユース”の実態は、ロシア側にも把握できない存在となり、メンバーの行方を対外情報庁は追っていました。

ロンドンで殺害されたロマン・ポポフは、初めて表に現れた”ユース”の1人でした。”ユース”を追うべく、アンドレイとマーシャの確保を命じるマリーナ。

逃亡中の2人を確保するためロシアのエージェント、ヘレナとパートナーの男は、ドイツの警官を装い、追跡を開始します。

一方逃亡中のアンドレイとマーシャは、襲って来た人物の正体を暴こうと考えます。アンドレイに、ロマン大佐が連絡してきた電話の番号を、覚えているか訊ねるマーシャ。

“ユース”の訓練生仲間の、劣等生だったアンドレイですが、彼は優れた記憶力を持っていました。覚えていた番号から、ロシアのカリーニングラードの番号だと判明します。

2人がその番号にかけると、そこから居場所がばれたのか男たちが現れます。屋外バーにいた2人は、近くの警官の注意を引き、周囲の人に伏せるよう叫ぶと、行動を開始します。

サブマシンガンを持つ男たちと警官が撃ち合う中、2人はチャンスをうかがいます。ガスボンベを爆発させ、その隙に逃亡するアンドレイとマーシャ。

警察の無線を傍受したヘレナたちも、現場へ急ぎます。アンドレイとマーシャは、敵の正体を知るためにも、カリーニングラードに向かおうと決意します。

2人の動きは、監視カメラの映像を追うロシア対外情報庁にも把握されます。カターエフ将軍は、機能しているか不明だった”ユース”の実態を、把握したいと願っていました。

将軍はロダン大佐が諜報活動の切り札と考えていた、”ユース”がロシアの手を離れた現状を、非常に危惧していました。

喧嘩を装い、水上バイクを奪うことに成功し、川を走るアンドレイとマーシャ。ロシアのエージェント、ヘレナはそれを目撃すると2人を阻止できる橋に先回りします。

ヘレナたちは警官を装って橋を封鎖し、ライフルを構え水上バイクを待ち伏せます。スコープに反射した光に気付き、マーシャに回避を叫ぶアンドレイ。

ヘレナはアンドレイの水上バイクを撃ち抜き、停止させることに成功します。2人を追いつめたヘレナたちの前に、突然ヘリコプターが現れます。

それはアンドレイたちを追跡する一味の物でした。ヘリから機関銃で射撃され、ヘレナのパートナーは射殺されます。その隙にアンドレイとマーシャは逃走しました。

ドイツのエージェントが1名死亡し、残る1名に帰国を命じたと、作戦主任のマリーナはカターエフ将軍に報告します。彼らにも襲撃してきた相手の正体は判りません。

マリーナには打つ手がありません。しかしアンドレイとマーシャは必ず彼らの祖国ロシアの、謎を解く鍵となるカリーニングラードに現れる、と告げたカターエフ将軍。

アンドレイとマーシャは、ポーランドのグロノボに現れます。落ち着いた2人は互いについて語り合いました。

優れた諜報員ロマンの息子アンドレイは、”ユース”の訓練で父の期待に応える結果が出せません。それを悩み、彼は自傷行為まで行います。

それは父を失望させただけでした。その経験から彼は、父からも脱落した”ユース”からも、距離を置いて生きてきたと、マーシャに打ち明けます。

他の訓練生同様孤児だったマーシャにとって、ロマン大佐は将に父のような存在でした。私にとって”ユース”は人生そのもの、と心境を語るマーシャ。

互いを理解した2人は、出発準備中の気球の中で戯れます。マーシャはアンドレイに自分の”ユース”としてのパスワード、都市の名を含む3つの単語を教えます。そして愛し合う2人。

2人は飛行機からウィングスーツで姿で飛び降り、ロシア領内へと降下します。

その姿は偵察用ドローンにより捉えられていました。カターエフ将軍に、2人が国境を越えたと報告するマリーナ作戦主任。

アンドレイとマーシャは、カリーニングラードのロダン大佐の墓の前に現れます。墓標には確かに、2003年に没したと刻まれています。

それ以上の手がかりは得られません。次はどう動くか悩む2人を、カターエフ将軍とマリーナ率いる、情報庁の特殊部隊が包囲していました。

2人の身柄を傷付けず捕えようとする将軍の車に、何者かが火炎瓶を投げつけます。その男の乗った車は、アンドレイとマーシャの前に停まります。

車にはアンドレイの父、ロダン大佐が乗っていました。大佐は2人に車に乗るよう命じます。彼が現れたことはカターエフ将軍にも驚きでした。

2人を乗せるとロダンは強引に、ドアが閉まらないまま車を走らせます。自ら車を運転し、その後を追うカターエフ将軍。

激しいカーチェイスの結果、マーシャは車から転げ落ち、マリーナと特殊部隊に身柄を確保されます。それでもロダンは逃走を諦めません。

周囲の車を巻き込むカーチェイスの果てに、ロダンはカターエフの車を横転させ逃れました。

アンドレイは父を話すことは無いのか、なぜ15年ぶりに電話したのかと責めます。しかしロダンは電話はしていないと告げ、息子にガスを吸わせて眠らせます。

横転した車から出たカターエフ将軍は、ロダンの生存を知って思わず笑います。そして父の住む邸宅で、ガウンを着せられたアンドレイが目覚めます。

邸宅を調べて回るアンドレイ。庭に面したガラス戸の真ん中に、小さな星のシールが貼ってあります。テーブルの上には厚く積み重ねられた紙と、ペンが置いてありました。

現れたロダン大佐は誰かが私を装って電話をかけ、お前は騙されたのだと告げます。

その何者かを探すため、この15年間で出会った人物の名前を、用意した紙に全て書き出せとロダンは指示します。それに従い書き始めたアンドレイ。

その頃マーシャは、カターエフ将軍から尋問を受けていました。何も答えない彼女に、君に話してもらうには、パスワードが必要だと将軍は告げます。

それでも、いずれ喋るだろう。そう言い残すとカターエフは彼女を残し立ち去ります。

ロダンは息子の書き出した名をチェツクしていました。出会った”ユース”メンバーはマーシャだけ、それもポーランドのパラシュート大会で、偶然出会ったと説明するアンドレイ。

マーシャの身元を調べたことで、お前は身元を敵にさらけ出した、とロダンは指摘します。

正体の判らない敵は、お前を利用し父親の私を探そうとしている、と結論するロダン大佐。

ロダンはお前の用は済んだとばかりに、逃走手段を手配するので、用意したルートでロシアを出国し、自由の身になれと息子に告げます。

そんな父に対し、必ずマーシャを救うと告げたアンドレイ。なぜ死を装い、15年も連絡すら寄こさないと責めても、ロダンは何も答えません。

ロダンは1人で対外情報庁に現れます。身元に気付いた職員たちは、慌てて彼を捕えます。

カターエフ将軍はロダンの狙いを図りかねます。一方アンドレイは職員に変装し、情報庁の建物の地下にある電力室にいました。

ロダンは息子に協力し、マーシャを救いに対外情報庁に行くと決断します。成功させるには8時半丁度に、お前が情報庁の電源を切る必要があると告げるロダン。

父の指示に従い、電力制御盤の操作を試みるアンドレイ。しかし警報が鳴り響き、彼は警備員に撃たれて意識を失います。

捕まったロダンは、マリーナの立ち会いで身体検査を受けます。防弾チョッキのお蔭で負傷しなかったアンドレイは、目覚めた時には手錠でつながれ、時間は8時半を過ぎていました。

マーシャの部屋の、隣の尋問室に入れられたロダンの前に、カターエフが現れます。慎重な彼は凄腕スパイの彼を警戒し、マリーナが見過ごした眼鏡を取り上げます。

2人は古くからの友人でした。なぜ死を装って”ユース”を封印した、と訊ねるカターエフに、上層部が準備不足のまま、早急に”ユース”を使おうとしたからだ、と答えるロダン。

“ユース”を誰に売った、と聞かれても、何のことか判らないと答えます。どうやら互いに、”ユース”のメンバーを襲った者の正体を掴んでいない模様です。

2人の会話は隣室のマーシャも、監視しているマリーナ作戦主任も聞いていました。

気絶を装ったアンドレイは、警備員が手錠を外し連行しようとした隙をつき、反撃に転じます。予定の時間を過ぎたものの、制御盤を奪った銃で撃ち、建物を停電させたアンドレイ。

しかし電力は一瞬切れたものの、即座に復旧します。黙ってロダンを見つめていたカターエフは、我々の会話は結論に達しないと告げ、彼の肩を叩き尋問室を出ます。

警備員から上に主電源があると聞いたアンドレイは、急いでそちらに向かいます。ロダンは隣室のマーシャに、目で合図を送りました。

アンドレイが強引に主電源を破壊すると、対外情報庁の建物は停電しました。カターエフの恐れた通り、ロダンは警備員を次々倒してマーシャを連れ逃走します。

邸宅に戻ったロダンとマーシャに、アンドレイも合流しました。愛するマーシャとの再会を喜ぶ息子に、すぐ移動せねばならないと告げるロダン大佐。

その頃カターエフ将軍とマリーナ作戦主任は、尋問室の机に刻まれた、”M7″の文字を見つめていました…。

以下、『ザ・スパイ ゴースト・エージェント』のネタバレ・結末の記載がございます。『ザ・スパイ ゴースト・エージェント』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)Kargo Films, 2019
アンドレイとマーシャの前に、ロダンが現れます。彼は眼鏡をかけ替えながら、2人に対して話しかけます。

2人を襲った敵の目的は、全世界にスリーパーを潜ませた、ロシアの諜報組織”ユース”のメンバーに指令を与えるパスワードを知る、唯一の人物の私だと告げるロダン大佐。

3人は車で港に向かいます。ロダンはアンドレイにM7埠頭に行き、用意された船でポーランドに出国するよう指示します。

父からパスポートを渡されたアンドレイは、それを拒否しようとします。しかし息子に対し、私は軍人だがお前は何者でもないと言い放つロダン。

ロダンは息子を安全な場所に逃がし、マーシャと共に敵と立ち向かうつもりです。アンドレイはマーシャに共に去ろうと告げますが、彼女は彼よりロダンと”ユース”を選びます。

怒りを抱いて1人M7埠頭に向かうアンドレイ。そこには武装した特殊部隊員が待ち伏せしており、彼は拘束されます。その光景を何者かが監視していました。

ロダンとマーシャは車で移動しますが、2人の間を沈黙が支配します。

アンドレイの前に、ロシア対外情報庁のマリーナ作戦主任が現れます。ロダン大佐とカターエフ将軍は、”ユース”を狙う敵を暴くため協力していると告げるマリーナ。

2人は尋問中わずかに停電した時を利用して、互いの情報を交換し、ロダンを逃がす鍵を受け渡していたのです。

アンドレイの話から、マーシャはパラシュート祭りで、偶然を装い彼に近づいたと大佐は見抜いていました。彼女が車から落ち拘束されたのも、仕組まれた行為でした。

自分が彼女に接近したのも、全て計画の内と知らされ衝撃を受けるアンドレイ。ロダンは息子をここに送ることで、それを知らせ対外情報庁に保護させたのです。

その姿は”ユース”を襲った、マーシャの部下の男に見られていました。彼女はロダンの企てを見破っていたのです。

マーシャの部下が行動を始めます。複数の車が現れロダンの車を囲みます。

どうやって自分の正体を見破ったと聞くマーシャに、祭の直前にパラシュートを習い始めたと指摘し、ポポフを色仕掛けで寝返らせたのもお前だと告げたロダン。

その車をカターエフの部下が操る、ドローンが監視していました。

一方M7埠頭では、作業員に扮したマーシャの部下が、特殊部隊員を襲撃していました。マリーナもアンドレイの前で撃たれ、彼は拘束されます。

防弾チョッキのお蔭で無事だったマリーナは、事態を部下と共に車で移動中の、カターエフ将軍に報告しました。

ロダンとマーシャが到着した場所には、血を流したアンドレイが縛られています。

彼の命と引き換えに、”ユース”のスリーパーに指令を与えるパスワードを教えろと、ロダンに迫るマーシャ。

ロダンはパスワードを1つ教えます。そして彼はアンドレイを解放させ、車で逃れた息子が5km移動する度に、パスワードを1つずつ伝えると約束します。

マーシャはそれを認め、アンドレイを解放しました。ヨロヨロと歩き、父ロダンに敬礼をして立ち去るアンドレイ。

車で立ち去った彼は、父の私は軍人だがお前は何者でもない、との言葉を思い出してました。そして車を停めます。

カターエフ将軍と部下たちは、ロダン大佐を追って知ったマーシャのアジトを包囲し、様子をうかがっていました。

椅子に縛ったロダンに、私の人生を弄んだと責めるマーシャ。”ユース”のメンバーに、何十年も潜伏を強いるのは残酷だと訴えます。

それに対し、何年でも指令があるまで、息を潜めているのが任務だと言い放つロダン。

そこにアンドレイが現れます。彼は父にパスワードを話させまいと、引き返してきたのです。息子の決意を知ったロダンは、手の親指を回します。

それは何かの合図でしょうか。それを見たカターエフ将軍はライフルで、友であるロダンを狙撃し、その胸を撃ち抜きました。

マーシャ一味はアンドレイを連れ逃走します。パスワードを知るロダンは口封じのため殺されましたが、きっとアンドレイが何か知っていると睨んだのです。

ロダンを殺したロシア対外情報庁は、私たち”ユース”も彼同様に見捨てた、とアンドレイに告げるマーシャ。

彼女はロダンが、自分の死後も”ユース”が機能するよう、何かを息子に伝えていると考えていました。そして彼の記憶を呼び覚ます処置を行います。

アンドレイの脳裏に、幼い日父から教えられた、世界の都市の名を覚えるための童謡が甦りました。マーシャのパスワードは、都市の名を含む3つの単語でした。

それでも何も語らぬ彼に、所在を暴いた”ユース”のメンバーの映像を見せるマーシャ。その1人を射殺し、彼がパスワードを教えねば、更に殺していくと告げます。

パスワードは都市と単語の組み合わせだが、詳細までは判らないと彼は話します。ヒントは父の家にあるはずと告げ、そこに行きたいと提案するアンドレイ。

マーシャは彼を連れ、ロダン大佐の邸宅に向かいます。アンドレイはこの邸宅での出来事を思い出します。

ガラス戸に付けられた星のシール、彼の前で何度も眼鏡をかけ替えた父、彼に着せたガウンには、リモコンのスイッチが忍ばせてありました。

父の眼鏡をかけ、星を見つめ、リモコンを操作するアンドレイ。すると眼鏡に情報が表示されます。それは全世界の”ユース”のメンバーを示すものです。

彼は今、全”ユース”メンバーにアクセスしていました。マーシャの目前で全員に、新たなパスワード告げ、今後は自分からの指令のみに従えと命じたアンドレイ。

彼はマーシャの黒幕について訊ねます。それはとある資産家で、ロンドンで会見したポポフの暗殺を見ていた男でした。

彼はこの騒ぎで世界に起きたロシアへの警戒感を利用し、株などの取引きで厖大な利益を上げました。資産家の男は、”ユース”を金儲けに利用しようとしていたのです。

マーシャが売ろうとした”ユース”は、今やアンドレイの指令でしか動かない諜報網に変わっていました。マーシャにその男と会わせろと告げるアンドレイ。

黒幕と面会したアンドレイは、”ユース”を売る3つの条件を付きつけます。代金として1億ユーロを要求し、次に指令は自分を通して行うと宣言します。

最後の要求にマーシャは俺の女だ、と伝えます。男は面白がってそれを認めます。

ロシア対外情報庁は、マーシャのバックにいる黒幕を突き止めるため、彼らを泳がせていました。アンドレイは自らの顔を晒すことで、居場所を伝えていました。

アンドレイとマーシャは、男の海に面した秘密基地に向かいます。そこは潜水艦まで用意された地下基地でした。そこで男は、最先端技術を持つ整形外科医を紹介します。

技術と金を持ってすれば、アンドレイと同じ人間を作ることも可能だと告げ、外科医を脅し彼のデータを取る作業をさせます。そして人質とされるマーシャ。

マーシャはお前の子を身ごもっている、と告げます。驚くアンドレイに、マーシャはそれは事実だと告げました。

アンドレイの動きから、対外情報庁は秘密基地の場所を掴んでいました。基地の攻撃準備をするカターエフ将軍の元に、ドイツから帰国したエージェント、ヘレナが現れます。

将軍は彼女に攻撃部隊への参加を認め、地上から進む潜入部隊の指揮を命じました。

マーシャを人質にされたアンドレイは、大人しくデータを取られていました。資産家は部下に、用済みになれば2人とも殺せと命じます。

カターエフ将軍率いる水上部隊の舟艇が迫る中、ヘレナ率いる地上部隊は基地への潜入に成功し、戦闘を開始していました。

水上部隊の前に海中から、フライボート(水圧で空を飛ぶマリンスポーツ器具)を身に付け、武装した男たちが現れます。思わぬ攻撃に苦戦する水上部隊。

水上部隊はマリーナ作戦主任を失うなど、大きな損害を受けますが作戦を続けます。

銃声を聞いたマーシャは敵を挑発し、殴られた隙を付いて反撃し、アンドレイもデータを取られる前に行動を起こし、敵を倒して逃れました。

激戦を制して、カターエフとヘレナは黒幕の資産家を逮捕します。そして逃げようとするマーシャを、自らの手で捕えたアンドレイ。

罪を犯したマーシャを、彼は逮捕するしかありません。お前が刑務所で産んだ子は、自分が育てると、アンドレイは告げました。

アンドレイはカターエフ将軍と会います。将軍から秘密を守るためにやむなく、自分の手で友である、お前の父を撃ったと告白されます。

但し急所を外して狙撃し、死んだように見せかけたと言葉を続けます。しかしロダンも歳だから持たないかもしれない、早く会いに行け、と告げるカターエフ。

急いで病院に向かい、意識のないロダンと会ったアンドレイ。父に対し今まで告げられなかった、愛情のこもった想いを、涙ながらに語ります。

その言葉を聞いたロダンは目を開き、父なら誰もが息子から、そう言われたいものだ、と呟きます。こうして2人の長年のわだかまりが解けました。

そこに現れたカターエフ将軍。彼とロダン大佐は、互いに親指を回すサインを示し、友情と信頼の絆を確認します。

今や全世界の、”ユース”のスリーパーに命令できる、唯一の人物となったアンドレイ。彼はロシアと世界のために、彼らに指令を発します。

映画『ザ・スパイ ゴースト・エージェント』の感想と評価

参考映像:『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』(2018)

ロシアで大ヒット、日本でもスマッシュヒットを遂げ、その結果様々なバージョンで上映され、ついに”最強ディレクターズ・カット版”まで登場する、『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』の、アレクサンドル・ペトロフ主演のスパイ・アクション映画です。

日本のアレクサンドル・ペトロフのファンは、今や戦車好きの男子だけではありません。ロシアを代表するイケメン俳優として、女子からも熱い視線を集めています。

そんな2枚目俳優がスパイとして、世界を飛び回り活躍する本作は、将に「007」シリーズを彷彿させるアクション活劇に仕上がりました。

実はアメリカ製スパイ映画への意趣返し?


(C)Kargo Films, 2019

世界に潜む潜入工作員、スリーパーが話のミソとなる本作。スパイ映画ファンなら、チャールズ・ブロンソン主演、ドン・シーゲル監督作品『テレフォン』(1977)を思い出すでしょう。

『テレフォン』はKGBが築いた、スリーパーの破壊工作網を悪用するソ連のタカ派人物と、それを阻止しようとするKGB職員の追跡劇を描いた作品。捻りのある視点が評判の作品ですが、ソ連(ロシア)が悪者であることは言うまでもありません。

その設定を基本に頂き、見事にロシア側視点のスパイ・アクション大作に仕立てた本作。ハリウッド映画に対する皮肉、というより余裕すら感じる作品です。

全編に流れる軽くコミカルな雰囲気、時代の最先端を行くイケてる(?)アイテムが続々登場、スパイ映画お約束な悪役たち…ロシア映画界は、かつて西側で作られたスパイ映画と同等の物を、今や簡単に作れますとの宣言にも受け取れます。

敵の秘密基地は本物だった!

参考映像:バラクラヴァ海軍博物館複合施設の紹介映像

一方で親子の絆に友情、国家への忠誠と敵討ち、はたまた惚れた女に裏切られ…と何かと情に絡む描写が多い本作。スパイ映画にも様々な作品がありますが、アクション主体の作品には、明るく楽しく能天気な映画が多かったことを思うと、これは実に湿っぽい作品です。

それはそれで良いのですが、スヴェトラーナ・コドチェンコワ演じる悪女が、極悪人だか苦悩と愛で転向した女なのか、今一つ中途半端なのは頂けません。どちらかに徹してくれた方が、見る方もスッキリしたのではないのでしょうか。

本作のもう一つの見所が、マニアが喜ぶ銃火器などのロシア製兵器の登場。といっても余り詳しく語る知識が無いので、申し訳ありません。

クライマックスの舞台となった秘密基地。大金持ちとはいえ、何であんな物を持っているの?などと疑問は尽きませんが、「007」シリーズの悪役も、そんな馬鹿げた基地を持っていましたので、ここは許してあげましょう。

実は秘密基地としてロケに使われた場所は、バラクラヴァ海軍博物館複合施設と呼ばれる場所で、クリミア半島のセヴァストポリ軍港に近い場所に、かつてソ連海軍の潜水艦の修理も行える、地下秘密基地として建設された施設です。

やがて海軍基地としては放棄されましたが、その後海軍に関する博物館となり、現在は一般に公開しているようです。映像を見ると、間違いなく同じ場所だと確認できます。

日本でも東京湾の横須賀沖にある、猿島の日本海軍の要塞跡が「仮面ライダー」のロケに使われ、ゲルショッカーの秘密基地があったそうですが…ロシアとは余りに規模が違います。

まとめ


(C)Kargo Films, 2019

ロシア映画界がハリウッドのスパイ映画に挑戦、匹敵する作品に仕上げた『ザ・スパイ ゴースト・エージェント』。アクション映画ファン必見、ジェームズ・ボンドのような浮気者でない2枚目スパイを、アレクサンドル・ペトロフが演じていますので、女性ファンは安心してご覧下さい。

こういった作品を見ると、ある程度予算が確保出来れば、今やどこの国でも同じような作品が作れる環境にあるのだと、実感させられます。

ところで本作は女性が大いに活躍していますが、これはロシアの実情というより、映画ならではのサービス的な意味合いが強い描写だと思います。闘うお姉さんが好きな方も見るべきでしょう。

しかし……。メインで活躍する女性3人の内、2人の口元にホクロがあるのは(スヴェトラーナ・コドチェンコワ含む)…、これは製作者の趣味でしょうか。ぜひ追求したいところです。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」は…


(C)2018 Mad Kiwi Films LTD, All Rights Reserved

次回の第4回は、人間の重みに耐えかねたアイツが、つぶらな瞳で逆襲!衝撃(笑撃?)のホラー映画『キラーソファ』を紹介いたします。お楽しみに。

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連載コラム

松本大樹映画『みぽりん』感想とレビュー評価。“アイドルとは何か”を狂気なボイストレーナーとの恐怖の5日間で描く|サスペンスの神様の鼓動25

映画『みぽりん』は関西での熱狂上映を終え、東京での劇場上映開始。 池袋シネマ・ロサにて、2019年12月21日より公開! こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。 このコラムでは、毎回サスペンス映 …

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SF映画おすすめ『アノンANON』ネタバレ感想。近未来のテクノロジー社会をスタイリッシュに風刺|未体験ゾーンの映画たち2019見破録5

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第5回 様々な理由から日本公開が見送られてしまう、傑作・怪作映画をスクリーンで体験できる劇場発の映画祭、「未体験ゾーンの映画たち」が2019年も実施さ …

連載コラム

三池崇史×椎名桔平映画『新宿黒社会 チャイナ・マフィア戦争』をトークイベントにて振り返る|2019SKIPシティ映画祭3

第16回を迎えるイベントが、2019年も開幕! デジタルシネマにフォーカスし、“若手映像クリエイターの登竜門”として次代を担う新たな才能の発掘を目指す「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」(7月21日( …

連載コラム

映画『燃ゆる女の肖像』感想レビューと評価解説。女性同士の恋愛を通じ“記憶する”という離別を描く|シニンは映画に生かされて21

連載コラム『シニンは映画に生かされて』第21回 2020年12月4日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほかにて全国順次公開の映画『燃ゆる女の肖像』。18世紀フランスを舞 …

連載コラム

イラン映画『死神の来ない村』あらすじと感想レビュー。老人の“終の姿”にこそ生きる希望を見出す|TIFF2019リポート30

第32回東京国際映画祭・アジアの未来『死神の来ない村』 2019年にて32回目を迎える東京国際映画祭。令和初となる本映画祭が2019年10月28日(月)に開会され、11月5日(火)までの10日間をかけ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学