2017年2月より全国順次公開されている脱出バイオレンススリラー『グリーンルーム』。
惜しくも2016年6月19日未明に27歳の若さでこの世を去ったアントン・イェルチン。
彼の主演作品はまだ劇場で観られるんです!上映中なのは栃木・宇都宮ヒカリ座(〜14日)、7月13日から東京・新文芸坐、7月15日から沖縄・桜坂劇場で上映!
あなたも積極的脱出に参戦せよ!
CONTENTS
1.映画『グリーンルーム』の作品情報
【公開】
2017年(アメリカ映画)
【脚本・監督】
ジェレミー・ソルニエ
【キャスト】
アントン・イェルチン、イモージェン・プーツ、パトリック・スチュワート、カラム・ターナー、メイコン・ブレア、ジョー・コール、アリア・ショウカット
【作品概要】
2016年6月9日未明に自動車事故で亡くなったアントン・イェルチンの主演作品、『ブルー・リベンジ』で一躍注目された新鋭ジェレミー・ソルニエ監督による脱出型バイオレンススリラー。
主人公パット役をアントン・イェルチンが演じるほか、『マイ・ファニー・レディ』のイモージェン・プーツ、『新スター・トレック』のピカード艦長や『X-MEN』のプロフェッサーX役でおなじみのパトリック・スチュワートが共演。
2.映画『グリーンルーム』のあらすじとネタバレ
パットがボーカルを務める売れないバンド「エイント・ライツ」。
メンバーとともにドサ回りのツアーに欠かせない愛車に泊まりこみ、昨晩もカーステレオ着けたままトウモロコシ畑に突っ込み寝込んでしまったようです。
朝になりバンドメンバーは車はガス欠だと気がつきます。
パットとサム手は毎度のように自転車に乗って、手慣れたように他人の車のタンクからホースを使い窃盗をします。
その後、ガソリンを手に入れ車を走らせた「エイント・ライツ」メンバーたちは、小さなFMラジオ局のインタビュー取材を受ける仕事を受けます。
しかし、ラジオ局にスタジオ入りするような代物ではなく、モヒカンDJから得たのは一夜の宿と安い取材費。
不満を持った「エイント・ライツ」に気の良いDJは、自身の兄貴たちが出入りをしているライブハウスを紹介します。
その縁もあって、ようやく出演することが決まり、オレゴン州の僻地にある名もないライブハウスに向かいました。
ライブハウスのマネージャーのゲイブに挨拶をしてグリーンルーム(楽屋)に入り、演奏の準備に入るパットとバンドメンバーたち。
先に演奏をしていらバンドの演奏が終わり、「エイント・ライツ」が1曲目の演奏を始めると、会場の無反応。
バンドメンバーたちが2曲目に選んだ楽曲は、デッド・ケネディーズのカバー「Nazi Punks Fuck Off」で反ナチズムの曲でした。
会場にいた数人のスキンヘッドの観客がメンチを切って唾を吐くなど、会場は殺伐とした雰囲気となります。
それでも無事に数曲の演奏を何とか終えた「エイント・ライツ」のメンバー。
お目当のライブハウスの出演料を貰って帰ることになります。しかし、メンバーの1人サムはポケット携帯電話がないことに気がつきます。
彼女が忘れ物を取りに行こうとするが、それを制してパットがグリーンルームに戻ります。
サムがコンセントに差しっぱなしで受電していた携帯電話を取るまでは良かったが、パットは部屋のに横たわる左頭部のこめかみにナイフの刺さった女性の遺体(エミリー)を見てしまいます。
パットはグリーンルームで運悪いことに事件現場を目撃してしまったのです。
犯人と目があったパットは慌ててグリーンルームを飛び出し、手持ちの携帯電話で警察に連絡を入れます。
しかし、それを制したライブハウスのマネージャーのゲイブはサムの携帯電話を奪い、パットをはじめ、バンドのメンバーのサム、タイガー、リースたちをグリーンルームに集めます。
被害者女性の遺体と犯人の男とその相棒、そして被害者エミリーの女友達アンバー、さらには「エイント・ライツ」のメンバー全員が、グリーンルームで事件の現場を目撃者となってしまいます。
ゲイブは自分がこの場を仕切り警察に話を進めると述べ、犯人の男だけをグリーンルームから解放して連れ出します。
そして、犯人の相棒に銃を託して目撃者全員を見張っているように指示。グリーンルームに閉じ込めてしまいます…。
3.映画『グリーンルーム』主演アントン・イェルチン永遠に!
この作品の見どころとして、どうしても先に挙げなくてはならないのは…、
バンド「エイント・ライト」のメンバーでベーシストのパット役を演じたアントン・イェルチン。
今作でも自信が得意なギターやピアノではないものの、ベースを見事に演奏していました。
アントンにはどうのような経歴があるのでしょう?
アントン・ヴィクトロヴィッチ・イェルチン(Anton Viktorovich Yelchin)は、1989年3月11日〜2016年6月19日までアメリカの俳優として活躍、享年27歳。
ソビエト連邦(現ロシア)のレニングラード(現サンクトペテルブルク)に生まれ、ユダヤ人として迫害を受けた両親とともに、1989年にアメリカへ移住。
4歳になると演技に興味を示してロサンゼルスのマグネット・スクールで演技を学びます。
キング原作『アトランティスのこころ』(2001)
2001年にアンソニー・ホプキンスと共演した『アトランティスのこころ』で一般的に知られるようになり、ヤング・アーティスト賞主演男優賞を受賞。
また、ロバート・デニーロ主演『15ミニッツ』や、モーガン・フリーマン主演『スパイダー』など、若くして才能を開花させ、実力派俳優との共演作に出演します。
2004年にデイヴィッド・ドゥカヴニー初監督作『最高のともだち』、2007年にニック・カサヴェテス監督『アルファ・ドッグ 破滅へのカウントダウン』、2008年にジョン・ポール監督『チャーリー・バートレットの男子トイレ相談室』で主演を果たします。
大抜擢された!『スター・トレック』(2009)
2009年に『スター・トレック』のパヴェル・チェコフ役を掴み、『ターミネーター4』のカイル・リース役と大作に相次いで出演します。
アントンの演技力の高さと才能について、『スター・トレック』(09、13、16)シリーズで彼と仕事をしたJJエイブラムスはこのように思いを語っています。
「君は優しく、愉快で、ずば抜けて才能に恵まれていた。なのに君はもうこのようにいない。会いたいよ、アントン」
アントン・イェルチンの豊かな才能は多くの映画人や映画ファンに認められています。
今作『グリーンルーム』もアントンの演技が生み出した傑作の1作品。
永遠にスクリーンの中で生きつづけるアントンに、ぜひ、あなたの熱い眼差しを!
4.映画『グリーンルーム』の感想と評価
ジェレミー・ソルニエ監督は2007年の『Murder Party』、2015年の『ブルー・リベンジ』の後の3作品目に『グリーンルーム』を制作します。
ジェレミー監督は名を挙げてからでは映画として通りづらい企画、また、新人監督では映画化のチャンスすら与えられない企画だとこの作品を評しています。
つまり、今が絶好のチャンスと満を辞して監督を務めた作品、それが『グリーンルーム』なのです。
そのことは主演を務めた若き天才俳優アントン・イェルチンの出演や、本格的な悪役に初めて取り組んだ名優パトリック・スチュワートが共演していることからも理解できますね。
まじかよこんな夢対決!トレッキーなら大満足!
主演のアントン・イェルチンと敵役パトリック・スチュワートの2人は、シリーズは異なるものの、ご存知『スタートレック』つながりでもがあります。
これも映画ファンにはたまらないギャグですよね。
2009年から映画新シリーズ『スター・トレック』にてパヴェル・チェコフ役を演じたアントンが、1987年にテレビドラマ『新スタートレック』のジャン=リュック・ピカード艦長役を演じたパトリック・スチュワートと戦うわけです。
キャスティング・ディレクターのアヴィ・カウフマンの粋な演出に拍手を送りたいですね。
では、その『グリーンルーム』の物語の内容についてはどのような事が見えてくるでしょう?
映画の継承と映画文法にこだわるジェレミー監督!
ジェレミー・ソルニエ監督は、前作2本『Murder Party』『ブルー・リベンジ』に関して、じわじわとこみあげる憂鬱な怒りに貫かれ、より静観的内面的な映画と言っています。
それに比べると今作『グリーンルーム』は爆発的なエネルギーとシンプルな狂乱があって、何から何まで外面的映画だと認めています。
とはいえ、それは無茶苦茶な映像を単に乱暴に仕上げたのではなく、映画という文法という基礎的な構成要素をしっかりとベースにしていると語っています。
例えば、キャラクター、視覚技術、古き良きスプラッター映画、笑いなどがそこにあり、これまでに何度も使われてきた映画的手法を駆使した、映画から映画に引き継がれてきたものだというのです。
簡単に言ってしまえば、ヘイトグループやネオナチ、または白人至上主義を作品の厚みとしてモチーフにはしているが説教映画ではく、観客のためのクレージー・パンク・ロック・ジェットコースター・ムービー(長いね、笑)だと明言しています。
劇場用パンフレットには、ジェレミー監督のインタビューの記載に、今作『グリーンルーム』と関連性のあるリスペクト映画に、以下の作品が挙げられています。
ジョン・カーペンター監督作品『要塞警察』
1968年『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』
1972年『脱出』
1976年『要塞警察』
1983年『反逆のパンクロック』
サム・ペキンパー監督作品『わらの犬』
インタビュアーがこれらから影響を受けたかの質問をすると、ジェレミー監督はどれも参考として素晴らしい映画ばかりと返答して、
1971年『わらの犬』
1979年『地獄の黙示録』
1981年『マッドマックス2』
1986年『リバース・エッジ』
1988年『ダイ・ハード』
さら上記の4本を付け足しています。
思わず頷いちゃう映画作品ばかりで、嬉しいですよね。
このようなことを正直に答えちゃうジェレミー監督は、映画史の文脈をかなり意識しながら映画制作をして、継承者としての自負を持っているのでしょう。
また、これらの作品に劣らない自負も持ち得ているからこそ、挙げられのだと考えられますね。
また、今作『グリーンルーム』は、単にスリラー映画やスプラッター映画という映画の文脈のみにある作品ではないことにも気がつきましたか?
西部劇としての要素ある?『グリーンルーム』
ソリッド・シチュエーションとして、建物(小屋・部屋)に閉じめられた状況下にある人間の極限の状態をスリリングに描き、外的な集団に襲われるのはよく知られたゾンビ映画の手法だけでないのです。
『要塞警察』や『わらの犬』で分かるように西部劇で伝統的に用いられる基本的な危機的な状況下なのです。
ガンマン盗賊一味やインデアン、あるいは悪徳保安官たちに小屋を囲まれて、四方八方から襲われるというものです。
実際にジョン・カーペンター監督の『要塞警察』は、1959年に公開されたハワード・ホークス監督の西部劇の名作『リオ・ブラボー』にオマージュを贈った作品です。
そんな映画的な構成要素の1つが、ジョージ・A・ロメロ監督『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』などにも変形として系譜している訳です。
また、それらを全て飲み込みながら『グリーンルーム』は存在している作品と言えます。
仰け反るエグさ!残酷描写の作り物は必要不可欠?
さらには、ギミックに関してデザイナーで映画ライターでもある高橋ヨシキはパンフレットに以下のような寄稿を載せています。
『グリーンルーム』を「CGIでなく、実際に作り物を使って撮影する特殊効果の現在形を知る上で最も重要な作品」と定義。
1898年にジョルジュ・メリエスが制作した『4つの困りものの頭部』である“首チョンパ”映像や、1915年のD・W・グリフィス監督の『国民の創生』を引き合いに出して、その後継者に『グリーンルーム』をあげるのです。
それは映画が元来「きわめてもっともらしく見える作り物を楽しむ芸術」として明確だと述べています。
つまり、これまで述べ一連で述べてきた映画の文法や構成要素などの1つにこのギミック(作り物)も入ります。
ジェレミー・ソルニエ監督のこだわりとは、観客が映画を楽しむために重要なのは、映画の脚本の舞台設定、キャラクターの人間心理、ビジュアルの仕掛けそのものが、如何に本物らしく見えるかにこだわっているのです。
それが可能にしたのはジェレミー監督が映画を継承するとした、“映画の世界”のルールを熟知しているからほかなりません。
4.まとめ
物語の終盤でトボトボと一匹歩く犬は可愛かったですよね。
あの飼い主に寄り添った犬と、ボスのダーシーに命令されていたゲイブはどこか似ていましたよね。
泣きそうな顔の犬とゲイブ。彼らには初めから戦うという強い意思持ち合わせていはないのでしょう。
ただ、誰か強者の言葉に先導され暴力的な行為に加担していったに過ぎないのではないでしょうか。
ゲイブが農場の民家で警察に通報してくれというのには、彼のこれからの未来を案じていますね。
また、出会った時から互いに思いやりを見せたパットとアンバーも同じように、今後は明るい未来なのでしょうか。
朝のFMラジオからは「エイント・ライツ」のインタビューの様子も流れていました。
あんな楽屋という“グリーンルーム”で経験した悲惨な夜もあったが、また、爽やかな朝は訪れる。
それがジェレミー・ソルニエ監督が仕掛けた“映画の世界”作り物の現実味のあるリアルなのでしょう。
いろんな意味でオススメの1本!出来れば若いうちに観ておくべき作品ですね。
アントン!爽やかな朝をありがとう!