これは演技か、それとも事件か。
役者は皆、嘘を付く。
作家・東野圭吾の1992年に発行されたミステリー小説「ある閉ざされた雪の山荘で」を、飯塚健監督が、重岡大毅を主演に迎え豪華キャストで映画化。
演じることにすべてをかける者たちの集団「劇団 水滸(すいこ)」。新作舞台の主演を決める最終オーディションが、とある山荘で行われようとしていました。
最終選考に残った7人の役者たちは、この山荘で4日間の合宿を通して、演出家から与えられたシチュエーションに従い、役を演じきらなければなりません。
「大雪で閉ざされた山荘で起こる連続殺人事件」。探偵となり、この謎を解いた者が主演の座を獲得できます。
しかし、そのシナリオは密室で1人また1人と姿を消していく奇妙な展開をみせます。これは最初から仕組まれた演技なのか、それとも本当の事件なのか。
全員役者。全員容疑者。互いに疑心暗鬼に陥っていく劇団員たち。極限の精神状態で迎える最終日、果たして謎は解けるのか。サスペンスミステリー映画『ある閉ざされた雪の山荘で』を紹介します。
映画『ある閉ざされた雪の山荘で』の作品情報
【公開】
2024年(日本映画)
【原作】
東野圭吾
【監督】
飯塚健
【キャスト】
重岡大毅、中条あやみ、岡山天音、西野七瀬、堀田真由、戸塚純貴、森川葵、間宮祥太朗
【作品概要】
これまで、『沈黙のパレード』(2022)のガリレオシリーズ、『マスカレード・ナイト』(2021)のマスカレードシリーズなど、多くの作品が映画化されてきたベストセラー作家・東野圭吾。
映画化26本目となる作品は、1992年発行のミステリー小説「ある閉ざされた雪の山荘で」となりました。
監督は、『ステップ』(2020)『ヒノマルソウル 舞台裏の英雄たち』(2021)の飯塚健監督。
主演は、『禁じられた遊び』(2023)をはじめ、ドラマや映画で役者としても活躍中のWEST.の重岡大毅。オーディション参加者の中で、唯一劇団員ではない久我和幸を演じています。
その他、中条あやみ、岡山天音、西野七瀬、堀田真由、戸塚純貴、間宮祥太朗が同じ劇団員として最終オーディションに挑む面々を演じています。
個性豊かな劇団員を演じる、若手実力派俳優たちの演技バトルに注目です。
映画『ある閉ざされた雪の山荘で』のあらすじとネタバレ
バスの中には、目隠しをされた男女6人が乗っています。降ろされた場所は、目の前に綺麗な海が広がる静かな場所でした。
6人は、劇団「水滸」の劇団員です。その独特な演出法で演劇界に名を馳せる東郷陣平が主宰し、多くの舞台俳優たちが憧れる劇団「水滸」。
華と実力を兼ね備えた劇団のトップ俳優・本多雄一。公演直前に役を奪われた経験を持つ悲運な女優・中西貴子。強烈な存在感を放つ怪優・田所義雄。女優は私の天職、お嬢様女優・元村由梨江。役のためなら何でもする勝気な女優・笠原温子。真面目で心優しいリーダー・雨宮恭介。
これからこの近くにある山荘で、次の舞台の主演をかけた最終オーディションが開催されます。
たどり着いた山荘「Shiki Villa」には、すでに先客がいました。もうひとりの最終オーディション参加者であり、唯一の部外者・久我和幸でした。
久我は、劇団「水滸」のファンであり、そのトップ俳優たちに会えたことで興奮しているようです。
オーディション初日、夕方5時。役者は揃いました。リビングに東郷からのメッセージが流れます。この山荘での4日間の合宿を通して、役者たちは与えられたシチュエーションに従い、役を演じきらなければなりません。
与えられた舞台設定は、「大雪で閉ざされた山荘で起こる連続殺人事件」。探偵となり、この謎を解いた者が主演の座を獲得できると言います。
その晩、夕食をとりながらメンバーは芝居談議に花が咲いていました。温子が久我に聞きます。「久我くんにとって芝居とは?」。
「殺し合い」と答える久我。オーディションで見た、水滸所属の女優・麻倉麻美の迫真の演技が心に残っていました。
「麻倉さんは最終に残らなかったんですか?」久我の質問に、メンバーは気まずさを残し、場はお開きとなりました。
壁際のテーブルに人数分の本が置いてあります。アガサ・クリスティ作「そして誰もいなくなった」でした。
オーディション2日目。雪山だという設定も忘れてしまうほどの良いお天気です。久我と雨宮は、雪山という設定も忘れ、ラジオ体操をしています。
「温子がいないんだけど」、貴子がリビングにやってきました。ここで、新たなメッセージが流れます。
「笠原温子は、ピアノの部屋でヘットフォンのコードで首を絞められ殺されました。さぁ犯人を考察しなさい」。突然のひとり退場に、戸惑うメンバーたち。温子は始めから退場する設定だったのか。それとも、突然脱落させられたのか。
田所は貴子を疑います。「昨夜も2人喧嘩してたよな」。貴子は、以前、公演直前に役を温子に奪われたことを根に持っていました。
そして昨夜、温子が舞台監督の東郷と体の関係を持ち、役を奪ったことを知ります。ライバルであり友達だと思っていたのに。
今回の件も何も知らされていません。もう温子のことを信じられない。貴子は、ショックが大きいようです。
互いに疑心暗鬼になっていく俳優たち。久我は、本多にアリバイ作りの協力を頼みます。一晩、手をしばり一緒に寝ようというのです。しぶしぶ受け入れる本多。
オーディション3日目。今度は、由梨江の姿がありません。「元村由梨江は部屋で前頭部を打撃され撲殺されました。犯人の動機は?考えろ。そして競い合え」。
皆が由梨江の部屋に入ってみると、壁には血しぶきがあります。よく見ると、演劇で使用する血糊のようです。
貴子が、ここぞとばかり田所を責めます。由梨江は田所の執着に怯えていました。昨夜、雨宮と由梨江が付き合っていると誤解した田所が、由梨江の部屋に押しかけていることも知っています。「俺はやっていない」。
皆がリビングに戻るとそこには、凶器と思われる血の付いた花瓶が置いてありました。玄関にあったはずの花瓶。そこに付着した血は本物でした。
久我は、持参していたビデオカメラでリビングの様子を録画していました。そこに映っていたのは、黒いフードをかぶった男が、山荘の裏口へと由梨江らしき死体を運び出す映像でした。
裏口を出た所には深い井戸があります。「きゃー」。その井戸を塞ぐ蓋に、温子の着ていたセーターの毛が付着していました。
これは芝居と見せかけた本当の殺人事件なのか?それともすべて芝居の一環なのか?
映画『ある閉ざされた雪の山荘で』の感想と評価
最終オーディションに集められた7人の劇団員。クローズド・サークルと化した山荘で、1人また1人と姿を消していく。これはフィクションなのか、はたまた事件なのか。
人気ミステリー作家・東野圭吾の1992年に発行された小説「ある閉ざされた雪の山荘で」が、約30年の時を経て映画化となりました。
クローズド・サークルを扱ったミステリーは、インターネットやスマホの普及で描きづらい傾向にあるものの、依然として人気のジャンルです。
今作の舞台は、一見穏やかな山荘でありながら、役者のオーデション会場ということで、主宰者のシナリオ通り「吹雪で外に出られない雪の山荘」へと早変わりします。まずは、その設定の面白さに惹き込まれます。
役者たちは、連続殺人事件という与えられたストーリーの中、それぞれ役はなく、推理と演技力を求められます。
カリスマ演出家・東郷が率いる劇団「水滸(すいこ)」は、俳優たちの憧れの劇団。その水滸に所属する劇団員たちの主演をかけた最終オーデションということで期待も高まります。
始めは合宿気分ではしゃぐメンバーも、連続殺人事件というフィクションなのか本物なのかわからない展開に、演技どころではなくなります。
劇団内でのゴシップやそれぞれが抱えていた闇の部分が暴かれ、誰もが怪しい容疑者へと変貌していく演出は見事。1人また1人と姿を消していくストーリーは、徐々に緊迫感が高まっていきます。
そして迎えた最終日。4日間のオーデションは、すべてがシナリオ通りだったという結末を迎えるはずが、そこからが謎解きの始まりでした。
これまで名前しか出てこなかった劇団員・麻倉雅美が登場します。そして、不幸にも車イス生活を余儀なくされた雅美の残酷なストーリーが追加され、殺人事件は本物だったという展開に。
しかしそれだけでは終わりません。さらに、雅美の計画に賛同するかのように見せかけ、実はオリジナルのシナリオを描いていた、すべての仕掛人・本多の登場です。
本多のシナリオには、「雅美を救いたい」という強く優しい願いが込められていました。本多と、罪を償おうとする共犯者たちの懺悔の気持ちが、雅美に届き受け入れられたとき、この舞台は幕を下ろします。
悲しい事件はあったものの、復讐は誰のためにもならない、それでも前に向かって生きて行こうという強いメッセージが伝わってきます。
物語の主人公・久我和幸は、オーディションに参加した7人の中で唯一の部外者です。空気が読めないお調子者ですが、核心をついた質問をしたり、するどい観察力で、探偵役として観客を導いてくれます。原作とは異なるキャラクターになっています。
そんな久我の台詞で「自分にとって芝居とは、殺し合いだ」と答えるシーンがあります。まさに、その言葉が伏線かのように、フィクションなのか現実なのかわからない殺人事件へと巻き込まれていくことになります。
演じたのは、今作が映画単独初主演となった重岡大毅。同世代の演技派俳優たちと並んで、生き生きとした演技を見せています。
対して、久我の憧れの俳優・本多雄一は、芝居を愛し、芝居に愛された男。一見クールで掴みどころのないように見えますが、本当は愛情深く仲間思いな人物です。
演じたのは、次々と話題作に出演している間宮祥太朗。劇団のトップ俳優という役に相応しい安定感。劇団員というリアルと演技の狭間を上手く表現しています。
ラストシーンでの「芝居は、殺し合いなんかじゃない、生かし合いだ」という、本多の台詞が、久我への回答であり、本多が身をもって雅美に伝えたかった言葉なのだと感じます。
すべての謎が解けたあと、これまでのメンバーの様子を振り返ると、決められた演技だった部分と、即興で演じた部分と、素の部分とがあることに気付きます。もう一度見直したくなる作品です。
まとめ
閉ざされた山荘を舞台に起こる謎の連続殺人事件。果たして、これは演技か本物か!?映画『ある閉ざされた雪の山荘で』を紹介しました。
最終オーディションのため集められた7人の劇団員が、嘘か本当かわからない連続殺人事件へと巻き込まれる。そして、徐々に暴かれていく劇団の秘密。真の仕掛人は誰だ!
仕掛けられた多層トリックの謎を解け。すべての謎が解けた時、あなたはもう一度見たくなることでしょう。