韓国史上最悪の事件と称せられる「加湿器殺菌剤事件」を描く!
家族の突然の死の真相を追求する父親は、安全なはずの「加湿器殺菌剤」がその原因だったと知り愕然とする。
2001年から2010年半ばまでの間に韓国で実際に起きた事件をもとに新たな創作を加えて制作された映画『空気殺人 TOXIC』。
監督を務めたチョ・ヨンソンは、加湿器殺菌剤事件に関する膨大な資料にあたり、関連者や専門家に取材し、本作の脚本を執筆したといいます。
『殺人の追憶』(2003)、『一級機密』(2017)などで知られるキム・サンギョンが主人公の医師役に扮し、大企業、国家という権力に果敢に挑む姿を熱演しています。
映画『空気殺人 TOXIC』の作品情報
【日本公開】
2022年公開(韓国映画)
【原題】
공기살인(英題:TOXIC)
【原作】
ソ・ジェウォン
【監督・脚本】
チョ・ヨンサン
【キャスト】
キム・サンギョンイ・ソンビン、ユン・ギョンホ、ソ・ヨンヒ、チャン・ヒョクチン、キム・ジョンテ(キム・テウク)、ソン・ヨンギュ、イ・ジフン、イ・ユジュン、チャン・グァン、ユ・ジス
【作品概要】
2001年から2010年半ばまでの間に韓国で実際に起きた事件をもとに新たな創作を加えて制作された社会派エンターティンメント。
家族に健康被害が出て苦しむ主人公の医師を『殺人の追憶』などの作品で知られる名優キム・サンギョンが演じている。
映画『空気殺人 TOXIC』あらすじとネタバレ
大学病院の救急救命室の医師であるテフンは、愛する妻と息子と共に幸せな日々を過ごしていました。ある日、息子のミヌが意識を失い、病院に運ばれて来ます。
診察の結果、ミヌは、肺が硬くなる“急性間質性肺炎”だということが判明しました。妻のギルジュは、息子の入院に必要なものを取りに家に戻りますが、病院には引き返して来ず、ギルジュの妹で検事のヨンジュが、家を訪れたところ、ギルジュが部屋の中で倒れているのを発見します。
ギルシュは病院に運ばれたときにはすでに亡くなっていました。彼女もミヌと同じ“急性間質性肺炎”を患っていたことが判ります。
このような症状になるには通常は一年以上かかるはずで、テフンは妻子の体の異常を医師でありながら気づかなかったことに愕然とし、自分を責めます。
しかし、ヨンジュは5ヶ月前に姉と一緒に人間ドックで検査をし、その時はなんの異常もみつからなかったと語りました。
疑問を覚えたテフンは妻の遺体を解剖することを決意しました。すると、彼女の肺は信じられないほど固くなっていたことが判明します。5ヶ月でこんなふうになることはありえません。
テフンとヨンジュは、2人が突然病気になった原因を知るための調査を始めました。すると、同じような症状で亡くなったり、現在も苦しんでいる人々がいることが判ってきました。
テフンは数年前からこの症状を調査している教授に話を聞きに行きました。ちょうど10年前くらいからこうした患者が増えてきたという教授。不思議なことに春だけ患者が増えるのだそうです。
テフンは、同じ病で苦しんでいる人にアンケートを取ればなにかわかるかもしれないと、封書を送りますが、思うように返事はもらえません。
ヨンジュに直接会いに言ってみてはどうかと提案され、テフンはいくつかの家庭に話を聞きに行きました。写真を撮らせてもらい、共通点を探しますが、これといったものはみつかりません。
そんな折、テフンは妻と息子がベッドに一緒に眠っている夢をみます。ふと目覚めると、そこはベッドの側で、加湿器が稼働していました。テフンはそれを見てはっとします。話を聞かせてくれた家庭でも部屋で加湿器を使っていたのです。
テフンは早速、自身の家で実験してもらうよう手配し、一週間のうちに、実験用のマウスがすべて死亡したという結果を得ます。
なんと、加湿器にカビが生えないようにするための殺菌剤に毒性があったのです。世界的な企業であるオーツー社は、自社製品に有害な化学物質が含まれていることを隠して、過去 何年間も販売を続けていたことが判明します。
政府もその商品の安全性を許可し、テレビでも広告が流れていました。体に良いと思って使った製品のために多くの人が苦しむこととなったのです。特に家に長くいる、女性や子供に被害が多く見られました。テフンは訴訟を起こすことを決意します。
オーツー社のイギリス国籍を持つ社長は自社の商品が有害であることを否定し、裁判を起こさせないように、部下のソ・ウシクを呼び寄せました。
ウシクは、早速手を回し、政治家を使ってテフンの身内であるヨンジュが検事として働けないようにしました。ヨンジュは、それでもめげず、原告側の弁護士を務めることになりました。。
訴訟にいたるまでには揃える事柄が膨大にあり、あっという間に夏が終わり、数カ月が過ぎようとしていました。
ヨンジュは尊敬する先輩リュ・サンムン弁護士に共同弁護士になって欲しいと頼みに行きますが、後日断りの連絡が入り、がっかりします。ところが、第一回目の公判に彼は被告側の弁護士として現れます。オーツー社も彼に接近していて、彼は報酬をたっぷり払う被告側につくことを選んだのです。
敏腕弁護士の彼は、ソウル大学の医学部教授に再検査を頼んだので、結果が出るまで公判を伸ばして欲しいと主張。ヨンジュは検査をする時間はたっぷりあったはずだと反論しますが、結局、被告側の主張が通ります。
しばらくして、原告側の男性が、オーツー社と示談し、原告名簿を渡したという知らせが入りました。テフンが彼に会いに行くと、彼は妻と双子の病気の治療に費用がかかり、膨大な借金を背負っていたことを涙ながらに告白しました
オーツー社を訪ねてきたソウル大学の医学部教授は、薄ら笑いを浮かべながら製品には有害物質が含まれていたと述べます。ウシクは、教授の研究室とのこれまで以上の連携を約束し、もう一度、検査をするように伝えました。勿論、それは虚偽の報告をしろということです。
さらにウシクはミヌが眠っている病室に現れます。彼はミヌへの移植の手配をすると約束し、こちらの条件をのむよう資料を置いて出ていきました。テフンは手渡された封筒を引き裂きます。
ようやく開かれた公判で医学部教授は製品に有害物質は含まれていなかったと証言。さらに驚くべきことが発表されました。
映画『空気殺人 TOXIC』解説と評価
2001年から2011年にかけて、韓国の大手企業が発売した加湿器用殺菌剤に含まれるポリヘキサメチレングアニジンにより大量の死傷者が出た「加湿器殺菌剤事件」は、韓国社会を震撼させた大事件として知られています。
本作はその事件をもとに、新たなキャラクターを生み出して制作された社会派サスペンスドラマです。
キム・サンギョンが演じた医師をはじめ、安全と思って使用した商品のせいで、家族を失ったり、未だ家族や自分が苦しみのさなかにある人々の苦悩が描かれるのと平行して、大企業の内幕も同時に描かれています。
大企業の社長の造形や、発言などはかなり誇張された印象がありますが、「人が死んでもかまわない」という台詞を本当に言ったかどうかは問題ではありません。
害があると知っていて、販売を続けたということはつまりそのように認識していたということで、重い責任があるにも関わらず、政治家や金を使って証拠隠滅に走った企業人たちの姿が赤裸々に描写されています。
実際の事件では、加湿器殺菌剤を販売した責任者たちは処罰されましたが、犯した罪の重さに釣り合わないような軽い刑や、無罪となったケースもあり、被害者の救済や、保証は十分なされたとは言い難い状態だと聞きます。
本作は、映画ならではのオリジナルな設定が盛り込まれ、ミステリの種明かしのようなサスペンス溢れる怒涛の展開へと発展していきます。
それは、せめて映画だけは、悪を悪として正当に裁きたいという作り手の強い想いの現れなのでしょう。
なんの罪もない人の苦しみと悲しみを強く観るものに訴え、罪を犯してもそれを認めず隠蔽に走る権力者たちへの強い怒りがそこには確かに記されています。
まとめ
突然死んだ妻と急性間質性肺疾患にかかった息子。苦悩するエリート医師を演じているのは、ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』などで知られるキム・サンギョンです。
大きな悲しみに包まれながらも事件の真相へと冷静に迫り、身体的にも経済的にも苦しい被害者の代表として行動する責任感の強い人物を人情味溢れる演技でみせています。
彼の義理の妹で検事役のヨンジュを演じるのは、アクションコメディー『ミッション:ポッシブル』(2021)でおなじみのイ・ソンビンです。時に感情的に暴走する検事として、シリアスな作品の中の唯一のコメディーリリーフの役割を果たしています。
また、オーツー社の社長から、事件の隠蔽を命じられる部下のソ・ウシクには、『キングメーカー 大統領を作った男』(2021)など数多くの作品に出演する名バイプレイヤーのユン・ギョンホが扮しています。
名優たちの演技に引き込まれ、この恐ろしい事件の背景に震撼させられる良質の社会派ドラマに仕上がっています。