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Entry 2019/02/22
Update

映画『凜りん』ネタバレ感想。佐野勇斗と本郷奏多が又吉直樹の原作を超える!

  • Writer :
  • 石井夏子

映画『凜-りん-』は2019年2月22日(金)ロードショー

芥川賞作家・又吉直樹が書き下ろした舞台の台本を、時を経て映像化した映画『凜-りん-』

現代の片田舎に暮らす男子高校生たちの日常と、田舎に伝わる伝承を織り交ぜた青春サスペンス映画となりました。

W主演を務める佐野勇斗、本郷奏多や、須賀健太、亀田侑樹、櫻井圭佑、平祐奈といった今後の活躍が楽しみな若手俳優の熱演が光ります。

映画『凜-りん-』は2019年2月22日(金)ロードショーです。

映画『凜-りん-』の作品情報


©2018 吉本興業

【公開】
2019年(日本映画)

【原作・脚本監修】
又吉直樹

【監督】
池田克彦

【脚本】
渡邉真子

【キャスト】
佐野勇斗、本郷奏多、須賀健太、亀田侑樹、櫻井圭佑、大沢ひかる、平祐奈、椿鬼奴、須田邦裕、金田哲、好井まさお、片桐仁、堀部圭亮、勝村政信、石田ひかり、山口紗弥加

【作品概要】
芥川賞作家でお笑い芸人の又吉直樹が2007年に舞台用に書き下ろした長編サスペンスを、ドラマ『ウロボロス この愛こそ、正義。』『せいせいするほど、愛してる』などで演出を手がけてきた池田克彦監督が映画化。

原作の又吉直樹は脚本監修として参加しています。

主演は、2018年に『ちはやふる 結び』をはじめ、『羊と鋼の森』『青夏 きみに恋した30日』『3D彼女 リアルガール』など出演作が続々と公開され一躍話題の俳優となったボーカルダンスユニット「M!LK」の佐野勇斗。

そして、2002年に『リターナー』で子役デビューして以来、たくさんの映画やドラマに出演し、近年は『いぬやしき』(2018)や『鋼の錬金術師』(2017)など、人気漫画の実写映画化に立て続けに出演し、好演を見せる実力派俳優・本郷奏多がW主演を務めました。

映画『凜-りん-』のあらすじとネタバレ


©2018 吉本興業

「100年に1度、村から5人の子供が消える」という伝説がある、とある田舎の村。

そこに暮らす高校生の野田耕太。

耕太の両親は幼いころに離婚し、今は母と二人暮らしをしています。

そのことからか、耕太には「変わらないものなんてない」という刹那的な考えがありました。

自転車のチェーンだって切れるし、商店街のお店だってつぶれて無くなってしまう。

耕太はいつものメンバー、喧嘩っぱやくて仲間思いの真島、いつも笑顔でマイペースの大仏、情報通でおしゃべりな竜二と学校生活を送っていました。

東京から転校してきてクラスになじんでいない天童に真島が声をかけ、メンバーは5人になりました。

天童は口数少なく、いつも無表情。スマホも持っておらず、未だにガラケーを使っています。

ある日、山の河原で遊んでいた小学生女児が行方不明になります。

捜索しても見つかりません。

その子は耕太が通う高校の養護教諭の娘でした。

休職した養護教諭のかわりにやってきたのは、大人の色香漂うのぞみ先生。


©2018 吉本興業

耕太はのぞみ先生に一目ぼれ。

真島の誘いで、5人は行方不明になった女の子の捜索に乗り出します。

河原で捜索という名の釣りをしていたところ、大仏の弟を見かける5人。

弟は川にテストを投げ捨てていました。

大仏が声をかけると弟は悪態をついて走り去ります。

真島や耕太は大仏に、いつまでバカの真似をしているのかと質問します。

以前は神童と呼ばれる程、聡明だった大仏。

父が再婚し、継母と義理の弟がやって来てからというもの、バカのふりをして彼らに好かれようと自らを偽るようになったんです。

「本当のおかあさんに会いたい」

そう、笑顔で告げる大仏を見て、天童は走りだします。

辿りついた家の窓に向かって、石を投げつける天童。

4人が止めても天童は止まらず、「お前のことを嫌ってるやつらの為に自分を偽るな」と石を投げながら大仏に訴えます。

しかしその家は大仏の隣の家でした。

あわてて逃げだす5人。

天童に礼を言った大仏の顔からは、偽りの笑顔は消えていました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『凜-りん-』ネタバレ・結末の記載がございます。『凜-りん-』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


©2018 吉本興業

そしてまた、ひとり子どもが行方不明になりました。

5人は村の神社の神主に話を聞きに行きます。

神主によると、この村は昔山伏が治めていて、神に献上するために子どもを差し出していた。

ある時子どもをかわいそうに思った若い山伏が連れて逃げようとしたが、結局捕まり、2人は殺された。

その殺された山伏の魂がいまも子どもを求め、さらっていく…。

話を聞いた5人は、子どもを助けたかった山伏が子どもをさらうはずがないと、捜査を続けます。

焚火をしながら山で一夜を明かす5人。

竜二が「自分には何もない。このままここで家業を継ぐしかない。時々は自分がいたことを思い出してほしい」と打ち明けます。

それを聞いた天童は、思い出すってことは忘れてるからで、竜二のことは忘れないから思い出さないと伝えます。

そのまま眠ってしまった5人。

天童が目を覚ますと、大仏の姿がありません。

他の3人を起こし、山を捜索していると、一軒の山小屋を発見します。

中には子どものリュックや女物の財布などが散らばっていました。

耕太はもう少し探そうと言いますが、真島や天童に止められて帰ることに。

次の日の学校にも大仏は来ておらず、耕太は天童を疑い、彼を責めます。

真島は耕太を励まそうと家に誘います。

2階建ての小さなアパートの中は物が散乱し、壁やふすまもボロボロ。

そこへ真島の父が帰宅。

あわてる真島の態度と、父のこぶしにできた跡と、真島の傷。

耕太は真島の傷は喧嘩なんかではなく、父からの虐待で出来たものだと察知します。

ふたたび山小屋へ向かう耕太。

竜二も来ており、2人で山小屋に入りますが、中には何もありません。

現れた天童に耕太はまた疑いの目を向け、天童と竜二を置いて帰ってしまいます。

翌日、竜二が昨晩から帰っていないと担任が伝えます。

幼馴染から、天童が転校してきた本当の理由を知らされる耕太。

クラスメイトの女の子を殺したから学校にいられなくなった、と。

それを聞いた耕太は激昂し、天童に詰め寄ります。

天童は女の子を殺したことは認めますが、大仏と竜二の件は知らないと否定。


©2018 吉本興業

喧嘩別れした耕太は、自室で生徒手帳に挟んであったのぞみ先生の写真を見つめます。

先生の写真には「私を口説いて」といたずら書きがされていて、裏には「全力で生きろ」と書いてありました。

それは天童からのメッセージだと気が付きます。

耕太は慌てて天童に電話し、いますぐ神社に来てほしいと留守電にメッセージを残して自身も神社に向かいますが、何者かに気絶させられます。

そのころ真島は、自分に万引きや窃盗を繰り返させる父に、初めて反抗します。

山小屋にあった財布たちも、真島が盗んだ物でした。

耕太が目を覚ますと、そこは学校のプール脇にある物置で、さらわれた子ども2人と大仏、竜二も一緒に縛られていました。

皆まだ生きていましたが、物置では練炭が燃やされており、いつ中毒死するかわからない状態です。

物置のドアが開き、現れたのは天童でした。

しかし警察が到着し、天童は捕まってしまいます。

子どもたちをさらった男が「天童に頼まれてやった」と自白したからです。

天童も耕太も否定しますが、聞き入れてもらえません。

そこへやってきた真島が、彼が盗んだのぞみ先生のパスケースを見せます。

中には、女子高生と天童のツーショット写真が。


©2018 吉本興業

のぞみ先生は天童が“殺した”女子高生サナの母親でした。

幼いころに離婚し、父と暮らすことを選んだサナ。

ずっと会っておらず、会いたかった娘が天童に殺された。

のぞみ先生は法で裁かれない天童に復讐するため、全ての罪を彼になすりつけようとしたんです。

サナのことが好きだったと告白する天童。

どうしたらその気持ちを伝えられるかわからず、ついちょっかいを出すうちにエスカレートし、サナは自殺してしまいました。

謝る天童ですが、のぞみ先生は許せません。

耕太はのぞみ先生の持っている鈴のキーホルダーと、写真のサナのキーホルダーが同じことを指摘。

それはのぞみ先生がプレゼントしたキーホルダーでした。

天童は、ガラケーに保存してあった動画をのぞみ先生に見せます。

じゃれあうサナと天童。鈴のキーホルダーを小馬鹿にした天童にサナは「大好きなひとにもらったの」と言い返し、動画は終了。

嫌われていたと思っていた娘に愛されていた、そう気付いたのぞみ先生の頬を涙が伝いました。

後日。

耕太たち5人は相変わらずの学校生活を送っています。

変わったことといえば、大仏がテストで100点をとったことくらい。

耕太は天童に、なぜ自分たちがあの場所で囚われているのがわかったのか問います。

天童はこう答えました。

神社に向かったら、誰かが導いてくれた、と。

それを聞いて笑い合う彼らを、山伏の恰好をした誰かが見守っていました。

映画『凜-りん-』の感想と評価


©2018 吉本興業

本作は、2007年に又吉直樹が台本を書き、神保町花月で上演された舞台の映画化です。

神保町花月で出演者自らが台本を書いたのは初めてのことだったそう。

舞台では天童を又吉が、真島をピースの相方・綾部祐二が演じました。

ストーリーも映画版の本作とは違い、天童と真島がメインで描かれ、拉致問題なども交えていた舞台版。

又吉監修のもと映像用に書き換えられた本作では、事件の真相は“復讐”という個人的な理由で描かれています。

それが功を奏して、非常に共感を呼ぶ映画となりました。

名作に入り込む異質な存在

不良少年、おしゃべりメガネ、マイペース、明るいけれどちょっとひねた主人公ときたら思い出すのはあの名作『スタンド・バイ・ミー』(1987)です。

キャラクターだけでなく、被害者探し、焚火の前での一幕など、想起させる点がたくさんあります。

しかしそこに現れた異質な存在、天童

天童の存在により、本作は『スタンド・バイ・ミー』と違った表情を見せ、観客を謎に巻き込んで行きます。

抜けるように白い肌と、鋭い眼差しを持った彼は、罪悪感から他者との関係を断ち、折に触れてサナとの動画を見返しています。

普段物静かな彼が語気を強め、耕太ら4人の友人たちに思いを伝えるシーンがいくつもあります。

それはどれも過去の自分へ向けたもの。

スマホで記録するよりも今を大事にしなければ。嘘をつかないで素直にならなければ。

ですが天童がいくら後悔しても、願っても、愛した彼女は戻ってきません。

それはのぞみ先生も同じです。

私がいい母親だったら、あのとき娘を引き取っていたら。

失った命は還らず、天童の罪ものぞみ先生の怒りと悲しみも消える事はありません。

救いようがないほど、とても苦い結末です。

その苦さもすべて包み込み、前向きに変わらない日常を送り続ける友情という強さが、眩しく輝きます。

まとめ


©2018 吉本興業

青春映画から始まった本作はサスペンス映画に変貌し、そしてまた青春映画へと帰結。

観る者を振り回し、思いもよらない表情を見せてくれました。

キャストも意外性がありました。

真島を虐待し支配している父を演じているのが片桐仁

どう見ても真島役の櫻井圭佑の方が体格が良く、強そうです。

しかしそれが逆に抗えない父という存在の大きさ、不気味さを深めていました。

また、山口紗弥加も、高校生が憧れる先生という顔と、復讐に燃える母の顔の二面性を持つのぞみ先生を好演

山口紗弥加はデビュー24年目にしてドラマ『ブラックスキャンダル』にて初めてドラマの主演を務めたとのことで、今後がますます楽しみな女優です。

また、サナ役の平祐奈は短い登場時間のなかで、屈託の無い笑顔と恋する瞳、そして絶望の涙、どれもが鮮烈な印象を残してくれました。

青春の取り戻せない1ページ。

苦しくても、隣に誰かがいたら立ち向かう勇気を持てるのかもしれません。

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