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Entry 2023/07/10
Update

【ネタバレ】Pearlパール|あらすじ結末感想と評価解説。ミア・ゴスの魅力溢れるシリアル・キラーの誕生秘話!

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

『X エックス』(2022)に続き、タイ・ウェスト監督×ミア・ゴス主演でおくるサイコサスペンス

X エックス』(2022)の前日譚として、『X エックス』で登場した老婆・パールの若かりし頃を描いた本作は、ミア・ゴスが脚本と、エグゼクティブ・プロデューサーとして参加しました。

厳格な母親と病気の父と農場で暮らすパールはスクリーンで踊るスターを夢見て農場から出たいと願い、その願いは次第に狂気となり爆発してしまいます。

無垢なる少女の狂気の奥にある「愛されたい」「私はどこか皆と違うのかもしれない」という思いは、『X エックス』に登場した老婆の狂気の奥にある哀しさを浮き彫りにしていきます。

1918年、テキサス。

農場の鮮やかな色彩の中、原色的な赤が映えるスラッシャームービーとなっている本作は、『悪魔のいけにえ』(1975)をはじめスラッシャームービーへのオマージュを盛り込みながらら新たな女性シリアルキラーの誕生ストーリーになっています。

彼女の理解者のような存在として出てくる家畜や、前作『X エックス』にも登場したワニの存在もアクセントになっています。

『オズの魔法使』(1954)など50年代ハリウッドのミュージカルムービーを彷彿させるような世界観も、ポルノムービー全盛期を感じさせた『X エックス』とはまた違うパールの若かりし頃の年代の空気を醸し出します。

映画『Pearl パール』の作品情報


(C)2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. All Rights Reserved.

【日本公開】
2023年(アメリカ映画)

【原題】
Pearl

【製作・監督・脚本・編集・キャラクター創造】
タイ・ウェスト

【共同製作】
ジェイコブ・ジャフク、ケビン・チューレン、ハリソン・クライス

【製作総指揮】
ミア・ゴス、ピーター・ポーク、サム・レビンソン、アシュリー・レビンソン、スコット・メスカディ、デニス・カミングス、カリーナ・マナシル

【共同脚本】
ミア・ゴス

【撮影】
エリオット・ロケット

【キャスト】
ミア・ゴス、デヴィッド・コレンスウェット、タンディ・ライト、マシュー・サンダーランド、エマ・ジェンキンス=プーロ

【作品概要】
『X エックス』(2022)で登場した老婆・パールの若かりし頃を描く本作は、前作同様タイ・ウェストが監督を務め、主演を務めるミア・ゴスが脚本、エグゼクティブ・プロデューサーとして参加しています。

A24製作の映画として初のシリーズものであり、現在三作目となる『X エックス』のその後を描いた映画『MaXXXine(原題)』が現在製作中です。

パールが出会う映写技師役を演じたのは、Netflix映画『2つの人生が教えてくれること』(2022)のデヴィッド・コレンスウェット、パールの母役には『ブラックシープ』(2020)のタンディ・ライトが務めました。タンディ・ライトは、『X エックス』でインティマシー・コーディネーターとして参加していました。

映画『Pearl パール』のあらすじとネタバレ


(C)2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. All Rights Reserved.

1918年、テキサス。

農場で暮らすパールは、スクリーンで踊るスターに憧れ、いつか農場を出てスターになることを夢見ていました。

しかし、若くして結婚したパールの夫・ハワードは戦争に出征中、体が不自由な父親と敬虔で厳格な母親と暮らし、農場の手伝いをしていました。

母親は、パールの夢を「馬鹿げた考えは捨てなさい」と厳しく言い、男手がなく生活が苦しいのだからしっかり手伝うように言います。

戦争の最中、ドイツ系であるパールの家族は肩身が狭い上に、町ではスペイン風邪が流行していました。それでも夢を諦めないパールは農場の家畜たちを相手にミュージカルショーを行なっていました。

ある日、父親の薬を買いに町まで出かけたパールは、薬の代金の残りで母親に内緒で映画を見にいきます。映画の中で踊るダンサーたちにパールは釘付けになって見ています。

映画館を出たパールは、映写技師に出会います。スターになることを夢見ていると話すと、君は可愛いからきっとなれる、スクリーンで踊る君を見るのが楽しみだと言われます。

親を見捨てて農場を出れないというパールに、男は自由に自分の好きなように生きていいとパールに言い、更に好きな映画を見させてあげるから町に来たときは、この部屋をノックしてくれと言います。

映写技師に出会ったことでよりパールは農場から出たいと思うようになります。そしてカカシを相手に恍惚の表情でダンスを始めたパール。

しかし、カカシの顔が一瞬映写技師に見えてはっとし、「私は人妻よ」と怒鳴りますが、何かを刺激されたパールはカカシにまたがり性行為の真似事を始めます。

農場に帰ると母親に薬代の残りのお金はどうしたのかと聞かれます。咄嗟に帰りにキャンディを買って食べたと答えると、母親はパールが食べている夕食を除け「お菓子を食べたなら食事はいらないわね」と言います。

厳格な母親との生活に限界が来ていたパールは、義妹から今度教会でダンスオーディションがあることを知らされます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『Pearl パール』ネタバレ・結末の記載がございます。『Pearl パール』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. All Rights Reserved.

オーディションを前に高ぶる気持ちをこらえきれないパールは、夜に家を抜け出し映写技師の元に向かいます。

映写技師はパールにまだ誰も見たことのない映画を見せると言い、従軍で行ったフランスで買ったポルノ映画を見ます。まだアメリカにはポルノ映画が入っていない時期、初めて見たパールは合法なことなの?と驚きつつも映画に見ます。

映写技師はいつかこのような映画が出てくるようになると言い、パールにこのような映画に出ることをすすめるような口ぶりをします。映写技師の話を聞いて、農場を抜け出し自由なヨーロッパに行きたいと思うようになるパール。

母親はそんなパールの行動が気に入りません。パールはとうとう母親にオーディションを受けることを伝えます。すると「そんなことしても無駄だ、お前は一生農場から出られない」と言います。

私の能力を知らないとパールは反論しますが、「お前のしていることはわかっている、本性は隠せない」と母親は言います。

「オーディションを受けるがいい、そしてその結果を知った時の気持ちを忘れないで、私がお前を見るときに感じる気持ちだから」と言います。

母親は私より上だと思うなとパールに言い、パールはパールで私の方が上だ、ママみたいな人生を送りたくないと両者は激しい言い争いになり、取っ組み合いになります。

パールは母親を暖炉の方に押し付け、スカートに火が移った母親は火だるまになってしまいます。パールは驚き立ち尽くしていましたが、我に返り近くにあったスープを母親にかけ火を消しますが、母親は焼けこげ立つこともできずにいました。

そんな2人を身動きできない父親は、目を見開き恐怖を浮かべています。パールはそんな両親を置き去りにし、雨のなか映写技師の元へ。

ドアをノックするとそのままキスをし、2人はベッドに。朝目覚め身支度をしているパールに、映写技師は家まで送ると言います。家に着くとパールは慌てた様子で映写技師を戸口に待たせて家の中に入っていきます。

床でのたうち回る母親を地下室に閉じ込め、父親を部屋に戻したパールは、何事もなかったかのように映写技師を家に案内します。しかし映写技師は異変を感じ取り、パールに恐怖を抱き始めていました。

パールは父親に映写技師を紹介すると納屋に連れていき家畜を紹介します。映写技師は帰らなくては…とパールに言い、パールの表情は次第に豹変していきます。

「どうして態度が変わったの?」「私何かした?」と言うパールに何でもないと映写技師は答えていましたが、パールが何度も聞くので、「君が怖いからだ」と答えます。

「ヨーロッパに行くと言うのも嘘なのね」とパールは怒り帰ろうとする映写技師に農具を突き立て誰も私の邪魔はできないと叫んで映写技師を殺してしまいます。

そしてパールは映写技師を車ごと湖に突き落としワニの餌にし、母親を地下室に閉じ込め、怯えた瞳でパールを見る父親を殺し、身支度をして教会のオーディションに向かいます。

先にオーディション会場にいた義妹は、パールの荷物を見てどうしたのと尋ねます。するとパールは巡業に必要な荷物を持ってきたといい、オーディションに勝つのは私だと強い自信を見せつけます。

そして自分の全てをぶつけてオーディションに臨みますが、あっさりと求めていた子でがないと言われてしまいます。求めているのはもっとアメリカ的なブロンドの少女だと言われ、パールは絶望します。

泣き叫ぶパールのもとに義妹が「大丈夫?」と声をかけます。家まで送ってくれた義妹は何とかパールを励まそうとします。

私をハワードだと思って思いをぶつけてみて、という義妹にパールは話し始めます。

良い家で育てられた完璧なハワードに好かれて嬉しかった、この人なら私を農場から連れ出してくれると思ったのに、ハワードは農場の暮らしがいいと言い、今度は戦争に……。

私を置き去りにして死ねばいいのに、と涙を浮かべながら話し始めたパールに義妹は戸惑いの表情を浮かべ始めます。

更に置き去りにされて他の男に目移りしたこともあると告白します。

どんどん溢れてくるパールは、自分は他の人とどこか違うのだと思う、悪い人間だから。最初は小さな動物だった、何も思わなかったけれどママやパパ、映写技師は違っていた、快感を覚えたと言います。

パールの告白に次第に恐怖を感じ始めた義妹は話を遮って帰ろうとしますがパールは止まりません。

やっと話し終わったパールは義妹に「誰も言わない?」と訊ねます。

義妹は何とかパールを刺激しないよう笑顔を保ちながら誰にも言わないと約束します。

そして、帰ろうとした義妹にパールは「おめでとう、隠さなくていい。オーディション受かったんでしょう?」と言います。

嘘をつかないでと言われた義妹はぎこちなく、オーディションに受かったことをパールに言い家を出て帰ろうとします。

すると少し間を開けてパールが家から出てきて斧を手に取ります。叫びながら義妹は逃げ出しますが、恐怖でつまづいてしまいパールに斧で切り付けられます。

何でもあげるから許してという義妹にもう人のことを羨むのをやめたの、私の持っているものを大事にするといつか母親に言われた言葉をパールは口にします。

義妹を殺したパールは生き絶えた両親をテーブルに座らせ、腐った豚などをテーブルにセッティングします。

そこにハワードが戦争から帰ってきます。異様な光景の中パールは必死に笑顔を作りハワードを迎えます。

映画『Pearl パール』の感想と評価


(C)2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. All Rights Reserved.

マキシーンとパールの共通点

『X エックス』(2022)で登場した老婆・パールの若かりし頃を描く『Pearl パール』は『X エックス』に繋がる布石が沢山散りばめられています。

『X エックス』において、老婆のパールはマキシーンに若い頃の自分と似ていると言葉にしています。

パールはスターになることを夢見ており、その姿は私はファッキンポルノスターと『X エックス』の冒頭で言い放つマキシーンと重なるところがあります。

更に、パールは敬虔で厳格な母親のもとで籠の鳥のように育てられています

それは『X エックス』の終盤で連日テレビで放映していた悪魔のせいで家出したという娘が実はマキシーンであったことが明かされています。

マキシーンは敬虔な父親の元で育ち、ポルノ映画のプロデューサーであるウェインと出会い家を飛び出したということがわかります。

それはそのまま、ハワードと結婚し農場を出ることを願い、映写技師とヨーロッパに行くことを願ったパールと重なります。

しかし、パールは農場を出ることは叶わずオーディションにも受からなかった、母親の言葉通り“農場を出ることができなかった”のです。

『X エックス』で、パールもハワードも若い頃パールはダンサーだったと言葉にしていますが、観客は本作を見てそれは事実ではなかったということを知ります。

パールはダンサーとして各地を回るどころかステージに上がったことすらないのです。

パールの執念が夢を現実だと思い込みハワードはそんな妻に合わせたのでしょう。

『Pearl パール』のエンディングはハワードが帰ってきたところで終わっていますが、そのまま『X エックス』に繋がるということを考えるとハワードはパールの狂気を受け止め共に生きていくことにしたと推測されます。

更にパールに対して罪悪感を感じている様子も見受けられました。それはパールの夢を叶えられず農場に縛りつけてしまったということや性の欲求に応えられないというとこらからきているのかもしれません。

パールは母親に本質は隠せないと言われており、母親はパールの狂気を知っていて、あえて農場に閉じ込めていたともとれます。

しかし、一方で抑圧が狂気を加速させたとも言えるのです。

結局思い通りの人生を生きられなかったパールは年老いてかつての母親がパールに言ったようにマキシーンに「いつか私のようになる」と罵ります。

マキシーンは呪いのようにパールと同じように思い通りの人生を生きられず老いていくのか、それとも夢を手にするのか……。

三部作の最後である『MaXXXine(原題)』で、タイ・ウェスト監督とミア・ゴスはどう描いてくるのか、楽しみなところです。

まとめ


(C)2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. All Rights Reserved.

無垢なシリアルキラーの誕生を描いた映画『Pearl パール』ですが、そこにはパールの哀しさも描かれているのです。

パールは良い家庭で育ち完璧な夫・ハワードとその家族に対し妬みを感じていました。

ハワードに好かれたパールは、いい子を装いハワードと結婚すれば今の惨めな生活から抜け出せると思っていました。

しかし、その願いは叶わずハワードは自分とは違う農場の生活に魅力を感じ、更には戦争に出向きパールを置き去りにしてしまいます。

体の不自由な父親、そしてハワードの出征により男手を失ったパールと母親は苦しい生活を強いられます。

パールだけでなく、パールの母親も不満を感じ自分の生活を惨めだと思う気持ちはあったのでしょう。

裕福なハワードの両親からの豚のローストを差し入れられてもパールの母親は施しは受けないと玄関先に置き去りにして腐るままにしていました。

男性の不在は性の欲求、愛の渇望にも繋がっていきます。パールはただ愛されたかったと言っています。

それは親からへの愛情、ハワードからの愛情が渇望していたということなのでしょう。

映写技師とパールが肉体関係を持ったのは、映写技師がパールを性愛の対象として見ていた、そう見られることにパールが飢えていたからなのではないでしょうか。

更にパールは映写技師が自分を農場から連れ出してくれることを願っていました。

自分1人で出ていくのではなく男性を頼るのは、男性優位な社会の構造で生きてきたパールにとって抜け出すには男性の存在が必要だからなのでしょう。

それは1970年代を舞台にした『X エックス』においても変わりません。

厳格な父親の元で育てられたマキシーンが家を抜け出すには男性を頼る必要があったのです。

パールやマキシーンにとって男性は抜け出すための手段でもあり、愛し求めてくれる存在なのです。


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