新たな出会いで自分の全てが狂い始める恐怖を描いた『マッチング』
『ミッドナイトスワン』(2020)が大ヒットした内田英治監督が、マッチングアプリによる出会いから始まる恐怖をオリジナルストーリーで描きました。
ヒロインに土屋太鳳、アプリで知り合う男をアイドルグループ「Snow Man」の佐久間大介、アプリの運営会社のプログラマーを金子ノブアキが演じています。
マッチングアプリで出会った人はプロフィールとは全く別人? 新しい恋を見つけようとした主人公ですが、その全てが狂い始めます。
他人事とは言えないほど身近にある恐怖を描いた映画『マッチング』をネタバレあらすじ有りでご紹介します。
映画『マッチング』の作品情報
【日本公開】
2024年(日本映画)
【原作・監督】
内田英治
【脚本】
内田英治、宍戸英紀
【製作】
遠藤徹哉、小川悦司、舛田淳、渡辺和則、 牧田英之
【企画】
若泉久朗
【キャスト】
土屋太鳳、佐久間大介、金子ノブアキ、真飛聖、後藤剛範、片山萌美、杉本哲太、斉藤由貴
【作品概要】
マッチングアプリによる出会いから始まる恐怖をオリジナルストーリーで描いたサスペンススリラー『マッチング』。
『異動辞令は音楽隊』(2022)『ミッドナイトスワン』(2020)の内田英治が原作・脚本・監督を務めました。
主人公・輪花を土屋太鳳、狂気のストーカー・吐夢をアイドルグループ「Snow Man」の佐久間大介、輪花を助けるプログラマー・影山を金子ノブアキが演じています。
映画『マッチング』のあらすじとネタバレ
東京の豊島区のホテルで新婚夫婦の惨殺死体が発見されました。そして次々と、結婚まもない夫婦が、顔に傷をつけられ、鎖につながれたままテーブルで手をつないだ格好で殺される事件が続きます。彼らの共通点は、マッチングアプリ「Will Will」で知り合って結婚したということでした。
警察がマッチングアプリ「Will Will」に注目し出した頃、ウェディングプランナーとして働く輪花は、忙しい毎日を送っていました。ですが、仕事が充実している一方で恋愛に奥手で彼氏がいません。
母親が幼い頃にいなくなり父親に育てられた輪花は、週末の金曜日に父親と居酒屋で夕食を摂り、「29歳になる娘の週末の相手がお父さんなのよ」とぼやいていました。
そんな輪花を心配する親友で同僚の尚美は「Will Will」に登録することを勧め、輪花は新しい出会いを求めて、登録しました。
同じ頃、輪花の務める結婚式場「ナガタウェディング」は、マッチングアプリ連続殺人事件の煽りを食って会員数が激減したアプリの運営会社「Will Will」と仕事上の連携を結びます。
一方、輪花は高い相性度が出てマッチングした相手・吐夢と会ってみることにしました。初デートの水族館に現れた吐夢は、真っ黒なコートに不格好な長靴をはいた、プロフィールとは別人のように暗い男でした。
会って間もない輪花に「僕は不運な星の下に生まれたんです。生まれてすぐにコインロッカーに捨てられたんです」と言い、輪花の猜疑心を仰ぎます。
それ以来、吐夢は輪花のストーカーと化し、「次いつ会えますか?」と何回もラインをしてきます。恐怖を感じた輪花は、取引先である「Will Will」のプログラマー・影山に相談しました。
吐夢は以前もマッチングアプリで出会った女性とトラブルになり、警察沙汰を起こしています。いわくつきで超注意人物だったのです。そんな話を教えてくれる影山に、輪花は心がゆらぎます。
未婚のシングルマザーに育てられたという影山は、昔の映画が好みの物静かな男性でした。
同じ頃、“アプリ婚”した夫婦の連続殺人事件を調査する警察は、被害者たちが輪花が結婚式場で担当していたことを突き止め、輪花身に話を聞こうとします。
また一方では、輪花の家にも父親あてに謎の女性から電話がかかり、その時から輪花の父の様子がおかしくなります。
実は輪花の父親は、25年前に不倫をしていました。節子という相手の女性は、息子がいるシングルマザー。輪花の父とは出会い系チャットで知り合ったのですが、輪花の父親が心底好きで、別れようとする輪花の父の話に応じてくれません。
輪花の父親はそんな節子とずるずると不倫関係を続けていたわけですが、ある時「あなたの赤ちゃんが出来たのよ」と言われ、カッとなってかなり強い態度で別れ話を節子にしたところ、逆上した節子に背中を刺されました。
節子の家での出来事で、丁度学校から帰ってきた節子の息子がその場面を目撃し、警察沙汰になりました。その事件があったあと、輪花の母は「すぐ戻るから」と輪花を公園に残して、行方不明になったのです。
映画『マッチング』の感想と評価
鍵を握る四つ葉のクローバー
マッチングアプリを使って知り合った男女がめでたく結婚! ですが、幸せいっぱいの2人が鎖で縛られ、顔に刃物で十字傷をつけられた無残な殺され方をする連続殺人事件が起こります。
その一方で、主人公の輪花もまたマッチングアプリがきっかけで、事件に巻き込まれていきました。ですが、そもそもの事件の発端は、輪花の父親の浮気でした。
輪花の父にゾッコンの浮気相手・節子は別れを拒み、自分自身を責めて徐々に精神を病んでいきます。節子の連れ子の影山と腹違いの弟になる吐夢が、25年たってほぼ同時期に輪花の前に現れました。
キーワードとなるのは、「四つ葉のクローバー」。幼い輪花は節子から四つ葉のクローバーをもらい、それを絵に書いていました。その絵がマッチングアプリのプロフィール写真の背景に映っていたことで、影山に発見されてしまったのです。
またその花言葉も意味深いものでした。四つ葉のクローバーの花言葉でよく知られているのは「幸福」でしょう。その他にも花言葉があって、「復讐」や「私のものになって」というものまであるとは驚きでした。
本作では「幸福」よりも後者の意味で使われているようです。節子の輪花の父親に対する愛は半端ではありません。愛とは、ここまで深く、狂おしいものなのかとぞっとします。
四つ葉のクローバーで表す歪な愛
新しい恋を見つけようとして、マッチングした相手から、ひどい目にあわされたり騙されたりと、映画のみならず現実社会でも犯罪に繋がることは多々あります。
出会いがあるだけ、愛のカタチもさまざまにあるとも言えます。四つ葉のクローバーになぞられて考えてみれば、本作には歪な4つの愛のカタチがありました。
まず輪花。愛する人々を失っていって、もう怖いものは何もないと思う彼女は、精神的にも強い女性に成長していきました。父親の嘘やストーカーに悩まされるマッチングの恐怖も体験し、運命の出会いなど信じられないと思います。
次に吐夢。不運な星の元に生まれたという吐夢は、愛に飢えています。深海よりも深い愛を持つ彼は執着心が強いので、気になる女性にはしつこいほど付き纏うようになりました。
そして影山。不倫をして苦しむ母の姿を間近で見て育った影山は、次第に精神を苛まれていく母から人を愛することの凄まじさを知ります。
最後に、影山の母節子。不倫をしていながら、どうしても関係を断ち切れない節子。やがてその愛は憎しみへと変わり、不倫相手である輪花の父を刺し、輪花の母を拉致監禁するまでになります。まさに深すぎる愛! どろどろの愛憎劇の真の主役でした。
新しい出会いで恋人を見つけようとした輪花。その結果、25年前の家庭の傷を暴くことになり、自身も死ぬほどつらい目にあいました。
全ての事件は解決し、めでたし、めでたし。と思いきや、連続殺人事件のもう一人の犯人と思える吐夢の存在が気になるラストが待ち受けます。
マッチングアプリ全てが悪いのではありませんが、やはり初対面の人との‟新たな出会い”には、慎重になるべきでしょう。
まとめ
アプリを使った婚活が招く恐怖を描いたサスペンス映画『マッチング』。
結婚相手を探す知らない者同士が出会うことの恐ろしさを描いています。またその裏には、不倫による家庭崩壊の末、犠牲となった子どもへの将来の危惧もあり、二重、三重に考えさせられる作品でした。
輪花、トム、影山の三つ巴となる‟愛の復讐劇”を表現する、土屋太鳳、佐久間大介、金子ノブアキの俳優陣に加え、晩年の節子を演じた斉藤由貴の愛憎込めた迫真の演技が、この作品の怖ろしさを増進させています。