気軽で便利なネット販売の裏で追い詰められる人間たち
インターネットが普及し、子供から大人まで簡単に買い物をインターネット上だけで完結できるようになりました。
さらに大手ショッピングサイトでは特定の状況下において配送料が無料となるサービスも多く、それこそティッシュペーパー1箱と言った購入すらも気軽に行うことが出来ます。
今回はそんな便利な世の中を支える人間たちの苦悩を、大人気ドラマとのシェアード・ユニバースで描いた映画『ラストマイル』(2024)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
CONTENTS
映画『ラストマイル』の作品情報
【公開】
2024年(日本映画)
【監督】
塚原あゆ子
【脚本】
野木亜紀子
【キャスト】
満島ひかり、岡田将生、ディーン・フジオカ、大倉孝二、酒向芳、宇野祥平、安藤玉恵、丸山智己、火野正平、阿部サダヲ、石原さとみ、綾野剛、星野源
【作品概要】
同名小説シリーズを実写化した「図書館戦争」シリーズで高評価を受けた野木亜紀子が脚本を務め、演出家の塚原あゆ子が監督として製作した映画作品。
『愛のむきだし』(2009)や『悪人』(2010)などに出演した満島ひかりと、『ドライブ・マイ・カー』(2021)で高い評価を受けた岡田将生が本作で主演を務めました。
映画『ラストマイル』のあらすじとネタバレ
11月、流通業界におけるビッグイベント「ブラックフライデー」の前日、運送業者「羊急便」のスタッフによってアパートの一室に荷物が配送された直後、その部屋で爆発が発生し1人の住人が焼死。
事件発生1日目の金曜日、世界規模のショッピングサイト「デイリーファースト」の日本支部が抱える関東最大の物流センターにセンター長として舟渡エレナが福岡から転勤してきました。
彼女を迎え入れた入社2年のマネージャー梨本孔は、彼女に「開かないロッカー」の存在を教えながら、このセンターが孔とエレナを含む9人の社員と800人もの派遣社員によって支えられていることを話します。
「ブラックフライデー」を迎え慌ただしいセンターの中に警視庁の毛利と刈谷が現れ、昨日にアパートで発生した爆発事件の荷物がこのセンターから発送された荷物であることを指摘。
エレナと孔はすぐさま荷物の中身が1日前に発売したばかりの「デイリーファースト」社の新作スマートフォンであることを知りますが、先行販売している海外で爆発の前例がないことも調査で明らかになります。
しかし、直後にオフィスビルやショッピングモールでの爆発事件が発生し、そのいずれもこのセンターから発送された荷物であることが発覚。
エレナは即座にスマートフォンの出荷を止め、さらに既に出荷されたスマートフォンも、6割の収益を「デイリーファースト」に依存する「羊急便」の局長の八木に圧力をかけ配送を止めさせます。
「羊急便」の委託ドライバーである佐野昭とその息子・亘は配送中止の商品を持ち帰りますが、配達が行われなかったとして報酬も発生しませんでした。
派遣社員が爆弾を荷物に入れることが不可能なセキュリティ体制を自負するエレナは、「羊急便」の中に犯人がいると考えており、死人が出てもなお「ブラックフライデー」の商戦から降りるつもりはありません。
孔はSNS上で何者かが「デイリーファウスト(DAILY FAUST)」を名乗りCMを作り、事件発生よりも前に「1ダース(12個)」の爆弾を仕掛けたことを予告していることを突き止めエレナに報告しますが、エレナは本社のあるアメリカの市場への影響を恐れ翌朝6時まで警察に秘匿するように命令。
新たな被害を生むかもしれないエレナの判断に孔は怒りを隠せないまま帰宅しました。
事件発生から2日目、昨日の夜に新たに爆発事件が2つ発生し、朝6時ちょうどにエレナは警察に偽のCMの情報を共有します。
小さな広告代理店に勤める現在休暇中のスタッフが「デイリーファウスト」を名乗る人物からの依頼で作成したことが判明し、クレジットカードでの依頼費の支払いから依頼人が山崎佑と言う人物であることが分かります。
警視庁刑事部第4機動捜査隊(MIU)の刑事である伊吹と志摩が即座に山崎の家を捜索しますが、部屋には証拠らしきものは何一つ残されていませんでした。
その後の調査で山崎は元「デイリーファースト」の社員であると同時に、5年前に物流センター内から自ら飛び降り意識不明が続いている患者であることが判明します。
毛利と刈谷はエレナに社員名簿の照会を求めますが、孔の調査で山崎の履歴がすべて消されていることが分かり、エレナの非協力的な態度に業を煮やした警察はセンター内の荷物をすべて証拠物件として押収する裁判所命令を取得。
エレナは「デイリーファースト」日本支社の統括本部長である五十嵐から多大な損害に対する詰問を受けますが、逆に商品の安全性を警察に検品させることで危険性から止めていた商品を配送可能にすると五十嵐に伝えます。
映画『ラストマイル』の感想と評価
「アンナチュラル」「MIU404」とリンクした映画
本作は監督の塚原あゆ子と脚本家の野木亜紀子が製作したドラマ「アンナチュラル」と「MIU404」と世界観を同一にした「シェアード・ユニバース」作品となっています。
「実は世界観が繋がっていました」と言う作品は同じ監督や同じスタッフの作品には珍しくはありませんが、その多くが端役のキャラクターが登場するだけに留まっている作品が大半と言っても過言ではありません。
しかし、映画『ラストマイル』は「アンナチュラル」や「MIU404」のメイン級から端役まで、さまざまな登場人物が顔見せをするだけでなく、物語の根幹部分に迫っていく活躍を見せています。
主人公となるエレナと孔の物語を食うことなく、それでいてしっかりとドラマのファンを納得させてくれる活躍が描かれる本作は「ファンムービー」でありながらも本作からの鑑賞でも全くの問題がない作品となっていました。
物流業界が抱える「ラストマイル問題」
人やモノなどを運ぶ上での最後の接続地点から最終目的地までの区間を意味する「ラストマイル(ラストワンマイル)」。
ドローンでの配送と言った最新技術の試験運用はあれど、2020年代でもドライバーの方々が家を1件1件を回る形で配送を行っています。
インターネットでのショッピングが普及し、気軽に買い物を誰でも行えるようになったことで「ラストマイル」の需要は高まり続けましたが、一方で大手企業が運送コストを削減する動きに出たことで配送ドライバーは減少傾向となっています。
2020年には「ヤマト運輸」が人手の確保が追い付かず、「Amazon」の当日配送サービスからの撤退を発表するなど、この問題は年々深刻化しネットショッピングの発展に物流が追い付いていない現状があります。
本作はそんな問題に切り込んだ作品となっており、大手企業の上層部と「ラストマイル」の従事者の温度差、そこから生まれる悪夢がリアルに描写されていました。
まとめ
「アンナチュラル」や「MIU404」の登場人物が再度登場したことで、「この世界の中で生きている」と言うことをファンに見せてくれた映画『ラストマイル』。
本作は多くの人間たちの仕事によって日常生活のささやかな楽しみが維持されている、と言う当たり前のことを改めて感じさせてくれる作品となっていました。