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映画『ジョナサン ふたつの顔の男』あらすじと感想。アンセル・エルゴートが二重人格者を好演

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『ジョナサン-ふたつの顔の男-』は2019年6月21日(金)より、新宿シネマカリテほか全国ロードショー!

誠実で真面目な『僕』、そして自由奔放なもう一人の『僕』は、脳に埋め込まれたタイマーで、一つの体を共有していた。

本作は、今作で長編映画デビューを果たしたアメリカのビル・オリバーが脚本とともに監督・脚本を務めた作品で、一つの体に二つの心を持つ男の数奇な人生を通して、人の中で生きることを改めて考えさせてくれるストーリーです。

キャストには『ベイビー・ドライバー』などのアンセル・エルゴートをはじめ、『マッドタウン』などのスーキー・ウォーターハウス、ドラマ『ホワイトカラー“知的”犯罪ファイル』シリーズなどのマット・ボマー、『エデンより彼方に』などのパトリシア・クラークソンらが出演。

全く正反対の性格を持つ二人の男を、一人二役でアンセル・エルゴートが好演。個々の性格の使い分け、展開による表情の変化などは秀逸の一言であります。

映画『ジョナサン-ふたつの顔の男-』の作品情報


(C) 2018 Jonathan Productions, Inc. All Rights Reserved

【日本公開】
2019年(アメリカ映画)

【英題】
JONATHAN

【脚本・監督】
ビル・オリバー

【キャスト】
アンセル・エルゴート、スーキー・ウォーターハウス、マット・ボマー、パトリシア・クラークソン

【作品概要】
本作で長編映画デビューを果たした新鋭ビル・オリバーがメガホンをとった、ある一人の男性の物語。

二つの人格を持つ一人の男性が、それぞれの人格を時間割で一つの体を共有するも、そのために起こる様々な事件、そして葛藤、それぞれが思い悩む姿を描きます。

作品は2018年のトライベッカ映画祭で上映され、知的で刺激的なストーリーと、二つの人格が一つの体を共有するという複雑な役柄を演じきったアンセル・エルゴートの高い演技力に、多くの賞賛の声が寄せられました。

映画『ジョナサン-ふたつの顔の男-』のあらすじ


(C)2018 Gaumont / La Bo?tie Films / TF1 Films Production / Pour Toi Public 

建築設計事務所で製図師として働くジョナサン(アンセル・エルゴート)。その優秀な働きぶりで、彼はある日、上司から新規のビッグプロジェクトに加わることを勧められます。

しかし、彼はそれを断ります。優秀ながらも、会社ではパートタイマーとして働くジョナサン。その理由は、会社には親の介護があるため、と話していました。しかし彼には、誰にも打ち明けていない一つの秘密がありました。

毎朝7時に起きて、ランニングをし、パートタイムの仕事へ行き、一人で食事を取り、毎夜7時までには就寝する。規則正しい生活の中で、変わった点は一つ。ある映像を見ること。

その映像には、ジョナサンの姿が。しかしその映像に見られた彼の姿は、生真面目で内向的なジョナサンとは全く正反対で、開放的な性格ののよう。そして彼の名は、ジョン(エルゴート:二役)といいました。

ジョナサンが隠し持つ秘密。それは、彼自身がジョン、ジョナサンという二人の人格が、一つの体を共有していることでした。

彼らは、ナリマン博士(パトリシア・クラークソン)の手によって脳内にタイマーが埋め込まれ、互いが12時間で切り替われるよう正確に設定されていました。毎夜7時から午前7時までがジョンの時間、そして残りの時間がジョナサンの時間。

二人は毎日のビデオメッセージを通して、日々の行動や出来事を、どんなことでも逐一報告し合っていました。またお互いに嘘はつかず、なんでも話す、他人との交流は最低限にとどめるなどのことを共存のルールとして、二人はささやかな日常を生きていました。

ところがある日、ジョナサンは自身の体調がすぐれないことに気が付いたのをきっかけに、ジョンが知人とともにバーに入り浸っていることが発覚。

ジョンは心に傷を負った友人を慰め、励ますためにバーに連れ立ったと弁解、あくまでアルコールは飲んでいないと主張します。

しかしジョナサンは探偵のロス(マット・ボマー)に、自分を尾行調査してほしいという奇妙な依頼を投げかけます。半信半疑ながら、依頼を受けるロス。

そしてロスが調査をした結果、ジョンにはエレナ(スーキー・ウォーターハウス)というガールフレンドがおり、たびたびバーに行っていることが発覚します。

ショックに打ちひしがれながらもジョンに成りすましたりして、エレナのことを嗅ぎまわるジョナサン。そしてついに彼はジョンに、エレナと付き合っている事実に詰め寄り、別れることを提言します。

ジョンは心から詫びを入れながら、エレナと別れることに。ところが、ひょんなきっかけで今度はジョナサンがエレナに接近をすることに。こうして平穏を保っていた二人の歯車は、狂い始めるのでした…

映画『ジョナサン-ふたつの顔の男-』の感想と評価

多重人格者の生活から見える、どこにでもありそうな生活の姿


(C) 2018 Jonathan Productions, Inc. All Rights Reserved 

二重人格者」とは、サスペンス映画などではよく取り上げられるキャラクター性でもあります。

平穏でなじみやすい性格の人間が、実は凶悪な事件の犯人だった。そしてその犯人を捕まえるキーパーソンとなったのは、もう一人のなじみやすいほうの自分だった、などといった設定は、本当によく描かれているストーリーでもあります。

しかし今作では、お互いの人格、その性格はそれぞれ真逆でありながらも、対等な立場としてうまく折り合いを見つけ、共存させようとしていることをベースとしているところに、非常に興味深いポイントがあります。

人が二重人格となるその根本的な原因は、度重なる性的・肉体的虐待が原因という説が主流とされていますが、この映画では主人公の男性が、幼いころからすでにこの傾向が見られ、優秀な精神科医・ナリマン博士の尽力で、心理的な危機を回避することに成功したという設定となっています。

その一方で、この映画では一人の男性の姿をずっと追っているにもかかわらず、なにか人同士が共存して生きていくことの難しさを説いているようにも感じられます。

共存、あるいは共同生活、同棲など様々なケースがありますが、このストーリーでは“一つの体を共有してきた二つの人格”という、究極的に近い距離間での共存を描いています。しかも、一つの体を共有するがゆえの、様々な制限。

さすがに彼らのような生活は特殊ではありますが、普通の共同生活でも、“共同生活であるがゆえの”と思われる様々な制限は、多かれ少なかれ存在します。そしてその制限があるがために生まれる確執や、その他生活をしていく上での悩みは、諸々にあるでしょう。

オリバー監督自身も、本作の制作に対し「本作を通して、嫉妬、共依存関係、安全、危険、怒り、極めて親しい間柄に生じる愛情など、親密であることの本質を探究しようと試みた」とその思いをコメントしています。

SF的でもあり、心理スリラー的な雰囲気も感じさせながら、なにか他人事ではないと感じさせるものもあり、単にすらっと流して鑑賞する娯楽映画とは違った作風を感じさせるものでもあります。

絶賛の言葉しかない、アンセル・エルゴートの好演


(C) 2018 Jonathan Productions, Inc. All Rights Reserved 

そして今作の見どころは、なんといってもエルゴートの好演、この一言に尽きるでしょう。

二つの人格が、ビデオメッセージを通して交差する。最初は内向的なジョナサン、活発なジョンという、二人の素の表情。

そして物語はジョンの隠し事が発覚したあたりから、疑いの目を向けるジョナサンの表情、そしてしどろもどろになるジョンの表情と、大きな展開を見せます。

かと思うと、次はエレナに惹かれ、ジョンに隠し事をするジョナサンの表情、エレナとの関係に終止符を打ち、ジョナサンを見習って誠実に生きようとするジョンの表情。

彼が劇中で演じる、ジョン、ジョナサンという二人の男性は、同じ顔でも全く違う人の性格を見事に演じきっており、一つの体を共有しているという設定を、忘れさせてくれるようでもあります。

基本的にはジョナサンの視点で展開していくストーリーではありますが、ビデオメッセージを通して見えるジョンの存在感も十分なものとなっており、一人二役を高い完成度で演じきっているともいえます。

おそらくストーリー的に冒頭部分から順撮りが行われるのであれば、その心理的変化を描いていくのは難しくない話であるかもしれません。

しかしジョナサンの視点としては仕事場、ナリマン博士の家、街中、エレナと対面した場所、そして自宅と撮影効率を考えれば、決して一繋ぎのスケジュールで撮影できたとは考えにくいところであります。

そういった条件の中で、二人の抑揚間のある心理変化を、流れにちゃんと合わせた演技を見せているエルゴートの演技は、かなり高い評価を与えるに値するものであるといえるでしょう。

リアル性にこだわった、カメラからの視点


(C) 2018 Jonathan Productions, Inc. All Rights Reserved 

また、一方でそんな心理描写を多用しているにもかかわらず、人物の表情を映し出すのにあまり細かいカット割りをしていないように感じられる場面が多いのも印象的であります。

人間の表情を強く見せるには、様々な角度から印象的な絵を狙い、1シーンを細かくカット割りして撮影を行った作品、その場面は数多くあると思われます。

一方で、今作では割と長回し的なシーンも多く、撮影もカメラスタンドやステディーカムなどを使った、しっかり固定されたカメラで撮影された画ばかりでなく、手持ちのカメラである意味わざとブレを入れ込むような撮影シーンも多用されている印象があります。

作品に登場するジョナサンの家、彼が働く設計事務所、精神科医の現場など映し出される場所は、ほぼ白っぽい雰囲気で統一された非常にシンプルな内装となっており、あまりかっちりと撮影してしまうと生活感が見えない、現実離れした画となってしまう傾向もあります。

それを、あえてホームビデオでの撮影のような映像を入れ込むことで現実感を表現し、観覧者が作品に対する共感に一味加えるような効果を醸し出しているようでもあり、オリバー監督の映像センスの高さを物語っているようにも感じられます。

まとめ


(C) 2018 Jonathan Productions, Inc. All Rights Reserved 

お互いを憎み、お互いを愛する、そして愛しすぎるがゆえに、時には自分が消えてしまいたいとすら思ってしまう、一つの体を共有した二つの人格。そんな複雑な心理を持つ二人の人間を表現した、エルゴート。

ある意味理想を現実化した近未来の出来事にクローズアップした物語にも見えますが、その一方で見える彼らの悩み、心理変化は、決して他人事ではない、現代社会の中にも多く巣くう人間関係の問題とかなりダブって見えます。

また、全編に白っぽくくすんだような映像イメージがその二人の表情を際立たせ、一層その訴求ポイントを拡大して見せてくるようでもあります。

一方、スーキー・ウォーターハウス、マット・ボマー、パトリシア・クラークソンといった共演陣は、どちらかというと淡々とした演技。

一つの体に二つの人格が存在することに驚く女性・エレナを演じるウォーターハウスですら、二人の性格を理解しているような演技で、どちらかというとドライな雰囲気を見せています。

そんな風に、周辺の縁者はあくまでエルゴート自身の存在感を際立たせているのに徹している印象で、バランス感が非常に保たれた映像を見せています。なにかちょっと普通とは違うはずなのに、自分の思いに引っかかってくる、そんな印象のあるストーリーであるといえるでしょう。

映画『ジョナサン-ふたつの顔の男-』は2019年6月21日(金)より、新宿シネマカリテほか全国で公開されます!


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