第135回直木賞の候補になる貫井徳郎の小説「愚行録」を映画化
“仕掛けられた3度の衝撃。あなたの日常が壊される”と銘打った映画化は、第135回直木賞の候補になった貫井徳郎の同名の小説「愚行録:をベースに作られ。
妻夫木聡を主演に迎えます。
演出を担当したのは、ロマン・ポランスキー監督など多く輩出したポーランド国立映画大学にて、演出を学んだ石川慶監督が務め、本作がが長編監督デビューとなります。
また、脚本担当は『松ヶ根乱射事件』『マイ・バック・ページ』などを手がけた向井康介。日本が誇る戦慄の群像ミステリー『愚行録』を紹介します。
映画『愚行録』の作品情報
【公開】
2017年(日本)
【監督】
石川慶
【キャスト】
妻夫木聡、満島ひかり、小出恵介、臼田あさ美、市川由衣、松本若菜、中村倫也、眞島秀和、濱田マリ、平田満、松本まりか
【作品概要】
日本から唯一の長編実写作品として第73回ベネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門で正式上映されました。
ロマン・ポランスキーらを輩出したポーランド国立映画大学で演出を学び、短編作品を中心に活動してきた石川慶監督がメガホンをとり、本作が長編監督デビューとなりました。
「松ヶ根乱射事件」「マイ・バック・ページ」などを手がけた向井康介が脚本を担当。ポーランドの撮影監督ピオトル・ニエミイスキが圧倒的な映像美と構図を演出し、気鋭の作曲家大間々昂の流暢な音楽が作品に繊細な抑揚を創りだしました。
映画『愚行録』のあらすじとネタバレ
周りの人からの証言
妹の面会に田中武志(妻夫木聡)がバスに揺られてやって来ます。
面会の前に弁護士の橘美紗子(濱田マリ)と会い、面会所へ向かいます。
その表情は暗く、口数も少なかったのに対して、自分の子供を虐待したとして逮捕された妹、田中光子(満島ひかり)はよく喋る女性でした。
田中は週刊誌の記者として働いていました。
ある日、妹の幼児虐待の事を知った田中の上司は、田中の提案に承諾をします。
その提案とは、来月で丁度1年になろうとして居る未解決事件(現在記事にしても意味もないような)の調査でした。
仕事に打ち込むことで気持ちを紛らわそうとしたのか、田中は掲載されるかもわからないそんな案件に取り掛かったのでした。
最初に向かったのは、被害者の自宅。
被害者の田向家は、当時小さな娘と若い夫婦で幸せに暮らしていたといいます。
殺害現場は自宅、ある日突然、何者のかの手によって幸せな家庭は壊されてしまったのでした。
その事件のせいで、近所に住んでいた住民は次々と引越してい来ました。
自宅を見た後、田中は田向浩樹(小出恵介)の同僚であった男と出会います。
田中は渡辺正人(眞島秀和)と居酒屋でビールを飲みながら田向浩樹が会社にいた頃の話を詳しく聞きます。
合コンで会った女性と関係を持ち、その話をつまみにして一緒になって2人で笑いながら酒を飲んだこと、楽しかった、あいつは良い奴だと渡辺はこぼしました。
店を出た後、渡辺は涙を流しながらこう言います。
「どうして、あんなに良い奴が…。」
田中は次に、田向の妻、夏原有希恵(松本若菜)を知って居るという人物に会いに行きました。
宮村敦子(臼田あさ美)は、現在は自由が丘でカフェを経営していて、夏原とは大学時代の同期だと言います。
夏原有希恵という女性は誰もが羨む美しさと人望を兼ね備えた完璧な女性でした。
夏原を好む人は多かったが、嫌う人も多かったのではないかと語り、自分は違うけど。とも言うの宮村の目には、嫉妬の念が未だに込み上げているように映って見えました。
当時、宮村とも夏原とも交際をしていた尾形孝之(中村倫也)も宮村は夏原に嫉妬心を抱いていたと証言しています。
たばこを加えながら尾形は、当時の話をします。
「大学では、内部生と外部性っていうのがあって、女子は大変そうでしたよ。」
2人の過去
結局は事件の犯人は分からず、田向一家の友人の証言を参考に、真相は曖昧なまま記事を載せると、一本の電話が事務所に入ります。
「田向さんはそんな人じゃない、私は犯人を知っている」女性の静かな声でした。
田中が訪れたのは、東京から遠く離れた田舎の町。
稲村恵美(市川由衣)は大学時代、田向と付き合っていました。
自分の志した道を進むため、田向は当時の2人の女性を利用していた。と稲村は語ります。
今まで取材で聞いた田中が想像していた田向の人物像とは、全く異なった田向の人間性を知り、驚きを隠せずにいました。
ある日、田中は妹の弁護士、橘に呼び出されます。
橘は確認したいと、田中と妹、光子の過去の話をします。
2人は実の父親から、少年期にかけて、非情な虐待を受けていたのです。
光子は性的な暴行も受けていて、ある夜、妹の叫び声を聞いた田中は父親を馬乗りになって殴りかかったという事実も明かされます。
そして、橘が知りたいのは、光子の子供のこと。父親は誰なのか。
それは、兄である田中も知らないのでした。
その時、田中の携帯が鳴り、出てみると前回取材したカフェオーナーの宮村でした。
「犯人に心当たりがある。」
当時夏原と仲良くしていた唯一の外部性の女の子がいました。
家柄こそ普通でしたが、その子の持つ美しさが夏原の目に留まり頻繁に遊びに誘われていました。
その遊びはエスカレートしていき、いつしか内部性の男達の性処理道具のように扱われていたそうです。
その女の子は、つい最近、自分の子供を虐待して捕まったのだ、と宮村は気の毒そうにしながらも、どこか冷たい目でその女の子の話をしていました。
お茶を取りにキッチンに向かった宮村を田中は近くに置いてあった鈍器で殴り殺します。
以前、尾形が捨てたたばこの吸い殻を灰皿に入れ、田中は去っていきました。
映画『愚行録』の感想と評価
後味が悪すぎます!鑑賞後は、なんとなく胃が痛くなりますので、食事は避けた方がよろしいかと…。
それに彼女の初デートとかに観に行く映画では無いのでご注意を。
冒頭のバスのシーンの「愚行」から物語は始まり、エンディングのバスのシーンでの「愚行」の回収。で、タイトルどーん!『愚行録』。見事です。
人が何気なく交わす会話の中に潜む嫉妬や見栄の恐怖、無意識の怖さと意識的な怖さを上手く、リアルに描かれています。
何故殺されたのか?それぞれの証言から田向の人間性、同僚や友人の人間性が浮き彫りになっていくストーリー展開となっています。
本作では、キャラクターそれぞれの人物像に対して思う鑑賞者の持つ印象は人それぞれ異なるのではないでしょうか。
「あー、居るよね。こういう奴。」というキャラクターのリアルさが抜群に上手いです。
例えば、夏原さんを嫌なキャラクターだと感じる人は多いと思いますが、普通の人だと感じる鑑賞者も少なからず居ると思います。
作中でも稲村恵美(市川由衣)が言っているように、田向浩樹(小出恵介)の生き方、選択の仕方は賢いと感じました。
試写会コメントでは、小出恵介さんは田向浩樹を演じるに当たって、「サイコパスではなく、2人の女性に愛される魅力のある人を心掛けた。」と言っていました。
と、言うように、田向というキャラクターは終始魅力的で、作中2人の彼女と対峙し、自分の本音を曝け出すあの中庭のシーンでは本当にゾッとしますが、スカッともします。最高の演技です。
本作で語られるキャラクター達はみんな嫌な奴に感じますが、自己中心的で、自分を偽り、外見をよく見せる行為って「愚かな人」ではなく、全くもって「普通の人」だと気付かされます。
傍観者としての立場が、鑑賞後には、当事者の立場になっている事に気付き、胃が痛くなります。
映像面でも、カウンセリング室で魅せる静かな光。それと対照的なラクロスの躍動感ある練習風景、刑務所のベッドで観る虚像、宮村さんを鈍器で殴る冷たい映像などは目が離せません。
あと、キャラクター達の個性を彩る、Car演出なんかも見所です。
映像としても、ストーリーにも見応えある素晴らしい映画となっています。
まとめ
映画化、不可能と言われた直木賞候補作の『愚行録』を長編映画初デビューとなった石川慶監督が忠実に再現しています。
SNSに翻弄され、本音が見えない現代社会に一石を投じる未だかつてない戦慄の群像ミステリーとなっています。
後味は最高に悪いですが、最高の映画です。オススメです。