Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

サスペンス映画

Entry 2019/03/20
Update

ギャスパーノエ映画『クライマックスClimax』あらすじネタバレと感想。狂気に誘うロングテイクのダンスシーンは圧巻

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

日本公開は2019年11月1日!

今回ご紹介するのは稀代の鬼才ギャスパー・ノエ監督の待望の映画『クライマックス(原題:Climax)』

予告編ですでにただ事ではない香りがプンプン漂う『クライマックス(原題:Climax)』について、ノエ監督の過去作品にも焦点を当てつつ魅力をお伝えします。

映画『クライマックス(原題:Climax)』の作品情報

©2018 RECTANGLE PRODUCTIONS-WILD BUNCH-LES CINEMAS DE LA ZONE-ESKWAD-KNM-ARTE FRANCE CINEMA-ARTEMIS PRODUCTIONS

【製作】
2018年 (フランス・ベルギー合作映画 )

【日本公開】
2019年11月1日

【原題】
Climax

【監督】
ギャスパー・ノエ

【キャスト】
ソフィア・ブテラ、ギレルミック、ソウヘイラ・ヤケブ、キディ・スマイル、クロード・ガジャン・マウル、ジゼル・パーマー、テイラー・カッスル、テア・カーラ・ショット、シャーリーン・テンプル、レア・ヴラモス、アライア・アルサファー、ケンドール・マグラー、ラクダール・ダーディ、エイドリアン・シソコ、ママデゥ・バスリー、アルー・シディベ、アシュリー・ビスケット、ヴィンス・ガリオット・クマント、サラ・ベラーラ

【作品概要】
監督は『カルネ』(1991)で、カンヌ国際映画祭の批評家週間賞を受賞、その後も『カノン』(1998)や『エンター・ザ・ボイド』(2009)、そして『LOVE 3D』(2015)では3D映像で生々しい性を描くなどセンセーションを巻き起こし続けるギャスパー・ノエ。

主演は『キングスマン』(2015)のスタイリッシュな殺し屋ガゼルでおなじみ、『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女 』(2017)や『アトミック・ブロンド』(2017)にも出演するダンサーで女優のソフィア・ブテラ。

本作は、第71回カンヌ国際映画祭の監督週間で初上映され、芸術映画賞を受賞しました。

映画『クライマックス(原題:Climax)』のあらすじとネタバレ

物語は一面の雪景色の中、血まみれの女性が泣き叫びながら這って行くシーンから始まります。

彼女はどうやら、ある洋館から逃げてきた模様。

画面は変わり、振付師のセルヴァとDJダディがダンサーたちのオーディションをしているシーンに。

フランス国外からも集まったダンサーたちは、自身のダンスに関する思いれや人間関係のこと、恐れていること、セックスや麻薬の体験についてまで赤裸々に語ります。

古い館で催されたパーティーにて、彼らはリハーサルをした後サングリアを飲み、互いに抱えている問題やゴシップを共有して盛り上がります。

しかしパーティーが進むにつれてダンサーたちは異常に興奮し、錯乱状態になりました。

サングリアにLSDが入っているという結論に至った彼らは、最初にサングリアを作ったマネージャーのエマニュエルを疑いますが、彼女も飲んで苦しんでいるため違うと訴えます。

エマニュエルはリハーサルに連れてきていた息子を、興奮状態のダンサーたちから守るため、仕方なく電気室に閉じ込めました。

セルヴァの友人ルーは妊娠しているためお酒を飲まなかったと告白。しかしそこにドムという女性ダンサーがやってきてルーを強く非難し暴力を振るいます。

お腹を蹴られたことにひどいショックを受けたルーは、ダンサーたちがいるホールの方へ走り出しますが、しかしそこでも彼女がサングリアを飲まなかったことからLSDを混ぜた犯人だと責められ、ルーは自傷行為に走ってしまいます。

以下、『クライマックス(原題)』ネタバレ・結末の記載がございます。『クライマックス(原題)』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
一方でエマニュエルは、息子がいる電気室の鍵を無くしパニックになります。

他のダンサーたちも各々兄妹間や恋人同士の問題などがいっそうこじれて暴力三昧。

その時館の電気が消え、エマニュエルは息子が電線に触ってしまい感電死したことを悟ります。

イヴァナは重度の錯乱を起こしているセルヴァを自身の部屋に連れて行き、二人でベッドに潜りこみました。

セルヴァと関係があったデヴィッドは、偶然入った部屋で兄妹であるガゼルとテイラーが行為に及んでいるのを目撃し退散。

ガゼルがホールに行くと、そこのダンサーたちは皆床でセックスをしたり喧嘩をしたり、ある者はただ突っ立っていたりと地獄絵図のそのものでした。

そして翌朝、館にやってきた警察は、数人の死体と死んだように眠るダンサーたちを発見します。

唯一起きているのはイヴァナのガールフレンド、プシュケ。

ゆっくりと目薬をさす彼女の荷物の中には、何冊かのLSDに関する本がありました。

映画『クライマックス(原題:Climax)』の感想と評価

本作品『クライマックス(原題:Climax)』はパリの廃学校にて15日間で撮影されました。

集められたのは映画にはほとんどが初出演というプロのダンサーたち。

ノエ監督は最低限のプロットとキャラクターについてキャストに述べただけで、最初のオーディションのシーン等は即興なのだそうです。

今までもその能力を生かしてアクション、ミュージカル映画に出演していたソフィア・ブテラはじめ個性豊かなダンサーたちの妖艶で華麗なダンスは最大の見所の一つ。

冒頭、約10分間にわたるロングテイクのダンスシーンは圧巻です。

プロットは勿論ですが映像表現が独特なことで知られるギャスパー・ノエ監督。

『アレックス』(2002)ではエンドクレジットから映画を始め、絶望的な結末から時間を遡っていく手法で世界を驚かせました。

『エンター・ザ・ボイド』ではネオン輝く東京の街でドラッグに手を染め、街を徘徊する兄妹の姿を毒々しい色彩と魂が抜けて漂っているかのような映像を。

『LOVE 3D』ではセックスの一部始終をなんと3D映像で。

鮮烈な原色が映像を占めますが、どの作品でも印象深いのは血塗れ、激怒、情熱、官能の赤

参考映像:映画『LOVE 3D』予告編

本作『クライマックス(原題)』でもボウルにたっぷりと入ったLSD入りのサングリアはつやつやと光って艶かしく、しかしそれは血だまりのように恐ろしくも見えます。

『エンター・ザ・ボイド』では街を時に浮遊して彷徨う視点で映像は主に進んでゆきましたが、同じくドラッグを扱った本作では興奮状態のダンサーたちを客観的視点が多めで映し出します。

人間の血管のように細く入り組んだ館の中を狂ったように踊りながら進むダンサー達の姿、ぐるぐると回転し続けるカメラが恐怖をいっそう煽ります。

延々と鳴り響く音楽に叫び声と笑い声が共鳴し、暴力が蔓延してゆく館は地獄そのもの。

『カノン』の台詞にあるように、「あらゆるモラルに戦いを挑む」のがギャスパー・ノエ監督。

深く結ばれた兄妹同士の魂の行方、輪廻転生を思わせる主題の『エンター・ザ・ボイド』や薬を飲んでどこかへ消えてしまった元恋人と一つになりたいと願う『LOVE 3D』とノエ監督の作家性として、肉体を超えた先にあるもの、人間の中に広がる“空洞”(ボイド)、愛する相手と同じ体になってしまいたいという欲求を描く点が挙げられます。

『クライマックス(原題:Climax)』で舞台に設置された人里離れた洋館に広がるの紛れもない悪夢。

秩序も倫理も全て消え去った“ボイド”から抜け出せなくなった人間たちが、そこで生まれるさらなるカオスに巻き込まれ続ける…。

ノエ監督の過激で挑戦的な作風がどの人間の中にも生じるかもしれない恐ろしい混沌を描くにあたり、狂気をさらに孕んで見事に仕上げていると言えます。

まとめ

目を塞ぎたくもなる凄惨で過激なシーン、流麗なカメラワークとこれまで以上にギャスパー・ノエの世界がこんこんと湧いて完成されている映画『クライマックス(原題:Climax)』。

劇場を出てからもしばらくはその悪夢から醒めないかもしれません。

五感を刺激する狂騒的な恐怖にぜひ溺れきってみてください。

映画『クライマックス(原題:Climax)』は、日本では2019年11月1日に公開予定。

関連記事

サスペンス映画

映画『ミスミソウ』あらすじとキャスト。山田杏奈の完成披露試写会レポート

映画『ミスミソウ』は、4月7日(土)より新宿バルト9ほか全国ロードショー! 人気コミック『ハイスコアガール』や『でろでろ』などで知られる漫画家の押切蓮介の代表作を実写映画化した『ミスミソウ』。 3月8 …

サスペンス映画

三浦しおん原作映画『光』あらすじネタバレと感想!ラスト結末も【井浦新×瑛太共演作品】

「まほろ駅前」シリーズでタッグを組んだ三浦しをん&大森立嗣監督がん再タッグを組んだサスペンス。 25年前に犯した罪がもとで、周囲の人間も巻き込みながら再び不穏な空気の中に身を投じる男女の姿を演じる主演 …

サスペンス映画

映画『彼女がその名を知らない鳥たち』あらすじとキャスト!ラスト結末は

『ユリゴコロ』などで知られる沼田まほかるのベストセラー小説を『凶悪』の白石和彌監督が映画化。主演は蒼井優と阿部サダヲ、共演に松坂桃李、竹野内豊。 かつての恋人の失踪を知ったことから、意外な秘密の扉が開 …

サスペンス映画

短編映画『その少女、怒り。』あらすじ感想と評価解説。俳優 石川瑠華が虐待のトラウマを持つ少女を演じ“怒りの鉄槌”を下す!

虐待され心に傷を持つ少女を石川瑠華が熱くクールに演じる よしもと新喜劇 映画『商店街戦争~SUCHICO~』(2017)の谷口仁則が監督を務める復讐バイオレンスドラマ。 『イソップの思うツボ』(201 …

サスペンス映画

【ネタバレ】私がやりました|あらすじ結末感想と評価解説。オゾン監督の法廷劇サスペンスは女性たちの闘争をユーモアたっぷりに描く

“犯人の座”をめぐって女性たちが仕掛ける法廷劇サスペンス! 『8人の女たち』(2002)などのフランソワ・オゾン監督が手がける法廷劇サスペンス。 とある映画プロデューサーの殺害事件によって巻き起こる騒 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学