事件解決の鍵を握るフライトデータレコーダーとコックピットボイスレコーダー、通称「ブラックボックス」に残された音を聞いて、事件の真相を暴く孤高の音声分析官の姿とは、具体的にどんな姿だったのでしょうか。
フランスで観客動員120万人を突破した、ピエール・ニネ主演の大ヒットサスペンススリラー映画『ブラックボックス:音声分析捜査』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
2020年10月8日。ドバイ発・パリ行きのヨーロピアン航空の最新型航空機「アトリアン800」が突然急降下し、スイスのアルプスで墜落するという事故が発生。乗客乗員316人全員が死亡しました。
10月10日。墜落事故の原因究明が急がれる中、ポロックたちは墜落現場からアトリアン800に搭載されていたフライトデータレコーダーとコックピットボイスレコーダー、通称「ブラックボックス」を回収。
事件解決の鍵を握るのは、コックピットボイスレコーダーに記録された音声のみ。ボロックの後を引き継いだマチューは、BEAの局長レニエから、今夜7時に開かれる記者会見までに分析するよう命じられます。
マチューは「コックピットに乗客の男が侵入した。その男はコックピットのすぐ近くのトイレに隠れ、客室乗務員がコックピットに入る隙を狙っていた」と記者会見で発表しました。
以下、『ブラックボックス:音声分析捜査』ネタバレ・結末の記載がございます。『ブラックボックス:音声分析捜査』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
(C)2020 / WY Productions – 24 25 FILMS – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINEMA – PANACHE Productions
本格的に捜査に乗り出したマチューは、犠牲者の1人が夫に残した事故直前の留守電を聞いて、ブラックボックスの音と違うことに愕然としました。
犠牲者の背後から聞こえた「緊急降下(デサント)」という、技術トラブルを示す音声が、ブラックボックスから消えていたのです。
マチューはこのことをすぐにレニエに報告しましたが、「ヨーロピアン航空の保安プロトコルによれば、社内では侵入者のことを“デルタ”と呼ぶらしい。“デ”と聞こえたのは侵入者のことかもしれん」と否定されてしまいます。
その後、マチューの元に、同僚のサミールから送られた、犠牲者が機内の様子を写してSNSに投稿した動画や写真といった乗客のデータが届きました。
それをもとにマチューの頭の中で機内の様子をシミュレーションした結果、スアラジはコックピットに入る前に客室乗務員に止められていたこと、むしろ彼の他にコックピットに向かっていた乗客がいることが分かりました。
スアラジは無実で、勝手にイスラム過激派の男にまつりあげられただけではないか。むしろコックピットに向かったもう1人の乗客が本当の犯人ではないか、と推測するマチュー。
マチューはそのことをレニエに報告しましたが、「入れ込みすぎて音声データを弄ると、無意識に事実を捏造してしまうことがある。聞こえてくる音だけに集中しろ」と注意されてしまいました。
ブラックボックスへの疑念を拭いきれないマチューは、失踪したポロックは何か情報を掴んでいたのではないかと思い、彼のデスクを調べました。
デスクの上にあった郵便物から住所を突き止めたマチューは、ポロックの自宅を訪ねてみることに。しかし人の気配が全くありません。
葛藤の末、マチューはポロックの自宅に侵入。地下室にはポロックがフライとデータレコーダーを持ち帰って調べていた痕跡があったものの、PCには何のデータも残っていません。
次にマチューが目をつけたのは、ガレージにあったポロックの車です。ドライブレコーダーのデータを抜き取り、自分のPCを使って中身を調べてみました。
そして9月30日の夜、ポロックがある男と何か話している姿がドライブレコーダーに記録されていました。
ポロックが話していた男の名はグザヴィエ・ルノー、国立民間航空大学校時代のマチューの旧友です。
ルノーは若手起業家であり、民間機のセキュリティーに特化したセキュリティー会社「ペガサス・セキュリティー社」を経営しています。
そして8ヶ月前、ルノーは航空会社「アトリアン」と契約を結んでいました。そのアトリアンには近々、新型航空機の認証機関「航空宇宙安全機関」に勤めているマチューの妻ノエミが転職する予定です。
さらにその後の調べで、アトリアン800はここ半年間、方向舵の反応の遅れなどの問題が3回も指摘されていることが判明。
しかしアトリアン800の整備報告には全て「特記事項なし」となっていました。しかも機首を自動調整する失速防止のシステム(MHD)のテストは、する必要がないと言って一度もされていないことが判明。
マチューは、アトリアン800を操縦したことがあるヨーロピアン航空の機長アラン・ルーサンに話を聞いてみることにしました。
「アトリアン800の方向舵の問題は、MHDの欠陥が原因では?」と尋ねるマチューに対し、ルーサンは「アトリアンのシステムは自動化万能主義で馬鹿げている」と答えました。
ルーサンの話によると、アトリアンは大手メーカー2社に追いつこうと、MHDの欠陥という技術トラブルを抱えているにもかかわらず、新型航空機の発表を急いだと言います。
そこまでして新型航空機の発表を急いだのは、カタールやインドから既に受注していたため、発表が遅れれば違約金が発生すると危惧したことも理由の1つでした。
そしてアトリアンの社長クロード・ヴァランスは、航空宇宙安全機関の人間とも通じ合っており、航空業界での影響力が大きいのです。
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アトリアン800も新型のアトリアン900型機の認証もノエミが行っており、マチューはここ数日、2人が話している姿を何度も見かけていました。
そこでマチューは、ノエミに「800型機の方向舵の問題に気づかずに認証したのか?パイロットが“MHDで操縦不能になった”と言っていた」と、正直に疑問をぶつけてみました。
これに対しノエミは、「MHDはあくまで操縦を補助する装置。航空機のハイテク化に反対の古い考え方を持つパイロットだったんじゃないの?」と答えました。
さらにマチューは「手心を加えたんじゃないか?」「何か隠してないか?」と追及しますが、ノエミは守秘義務があるからと言ってそれ以上何も答えませんでした。
10月18日。マチューはレニエにこのことを話し、MHDのテストを求めました。しかし既にMHDはおろか、ほとんどの電子機器はフランス・トゥールーズの国防省に持っていかれてしまったとレニエは言います。
局長の依頼であれば取り戻すことは可能なのではないかとマチューが尋ねると、「証拠がないと難しい」とレニエは答えました。
マチューは再度ルーサンから話を聞こうと何度も電話をかけました。しかし何度目かの連絡でやっと出たと思ったら、ルーサンにもうかけてくるなと切られてしまいました。
次にマチューが尋ねたのは、ルノーでした。しかしルノーから、「ポロックとは遭難場所を特定する装置の開発をした時に一緒になっただけ」、「俺がノエミと親しいから嫉妬して、俺を容疑者扱いするのか?一回休んで頭を冷やせ」と言われてしまいます。
その日の夜。マチューはノエミが寝ている隙に、彼女のPCからアトリアン800の認証テストのデータをコピーしました。
10月19日。マチューはそのデータを証拠として、レニエに提出。レニエはそれを使って、アトリアン800の電子機器すべてこちらに戻してほしいと、国防省に要請しました。
しかしそれが原因で、ノエミは機体に関する秘密情報を漏らしたとして、アトリアンへの就任は取り消され、挙句の果てにクビを言い渡されてしまいます。
このことでノエミと大喧嘩してしまったマチュー。家に居づらくなり会社に寝泊まりすることにしたのですが、ブラックボックスの音声が流れる黒塗りの車の後部座席で、ポロックが血を流して座っているという悪夢に魘され、目を覚ましました。
10月20日。マチューはレニエとサミールと一緒に、アトリアン800の認証テストを行いました。しかし何度やり直しても、MHDは正常に作動していました。
音声分析官としての自信を失ってしまったマチューは、しばらく実家で休養をとることにしました。
それからしばらくして、マチューが甥のテオの面倒をみていると、彼が遊んでいたドローンが突然、勝手に動き出してしまったのです。近くで仲間と喋っていた男が、テオのドローンを手元の端末でハッキングしていたのが原因でした。
これをヒントにもう一度ブラックボックスの音声を分析した結果、コックピットで何かの干渉音が聞こえ、パイロットたちが一度ヘッドセットを外していたことが判明。
そこでマチューは、ルノーのオフィスを訪ね、アトリアン800のセキュリティーを請け負ったという彼に、アトリアン800は他の機種よりサイバー攻撃に弱いかどうか聞いてみました。
これに対しルノーは、誰かが操縦システムに侵入して操縦することは技術的に可能だとしても、「操縦システムは独立していて、乗客用サービスの通信網とは完全に切り離されているから、そこから侵入されることはない」と答えました。
しかし矢継ぎ早に質問してくるマチューに次第に嫌気がさしてきたのか、ルノーは分析捜査のし過ぎでそう妄想しているだけではないかと忠告します。
そんなルノーの言葉には耳を貸さず、マチューは核心を突いた質問をしました。「分析の結果、ポロックが夜中にデータを改竄したことが分かった。それは君の依頼だろう?」と。
その後、記者会見で会った記者のカロリーヌ・デルマスに接触したマチューは、乗客用サービスの通信網からハッキングし、航空機の操縦を試みた男が昨年逮捕された話を聞きました。
男の名はダヴィッド・ケレル、彼は脆弱なシステムに警鐘を鳴らそうと、サイバー攻撃を繰り返していたのだといいます。
そしてケレルは昨年、ペガサス・セキュリティー社で働いていましたが、その3ヶ月後にクビになっていたことが発覚。
さらにケレルについて調べていくと、彼は墜落したアトリアン800に「カルマウィ」という偽名で乗っていたことが判明。その座席の場所は、スアラジの斜め後ろの席でした。
マチューはケレルは確かにアトリアン800にハッキングしたものの、墜落させようという意図はなかったこと。MHDが誤作動したのは、ハッキングしたケレルと、それに気づいていないパイロットが同時に操作したからだと推測しました。
マチューはそのことをデルマスに話しましたが、彼女は確固たる証拠がない以上、記事を書く気はないと言います。
実は、アバス会長という男のセスナ機が墜落した事件について、デルマスの同僚に「エンジンの故障が墜落した原因だ」という匿名のタレコミがありました。
しかしその半年後、英仏海峡で発見されたそのセスナ機のエンジンは無傷でした。調査によると、舵の細かい調整をするときに使う「トリム」の不具合が墜落した原因だったといいます。
そして同僚は、「匿名のタレコミはBEAからだ」と断言しました。そう、情報提供者はマチューでした。
そのことを思い出したデルマスは、その事実を隠していたマチューのことを信用することができなくなってしまったのです。
ここ数週間、まるで何かに憑りつかれたかのように自分勝手に事件を捜査するマチューの行動を容認することは出来ないとして、BEAは断腸の思いで彼を更迭処分にしました。
マチューは煮え切れない思いを抱えながら、自身のデスクにある荷物をまとめます。その時、事故直前にポロックと対立した別件の調査ファイルが、ポロックの失踪直後に更新されていることに気づきました。
それを不審に思ったマチューは、ポロックと調査していた墜落したセスナ機「ドーファン機」の音声を再度分析した結果、音声データの空白部分のピッチを下げたら、「48.765…6407,1.8…073278」と数字を言い並べていることが判明。
マチューは自身の車のナビに、試しにその番号を打ち込んでみました。その数字の羅列は座標で、ポロックの家の近くにある池を指していたのです。
ナビの指示に従い、車からボートに乗り換えて池の真ん中へと向かうマチュー。しかし海面には何もなく、試しに水中に耳を傾けてみると音が聞こえてきました。
池の中へ潜って捜索した結果、マチューは何らかのデータを回収。それはポロックが改竄する前のブラックボックスの音声でした。
マチューがポロックのPCを使って分析した結果、ケレルは乗客用サービスの通信網から操縦システムにハッキングしたものの、墜落させる意図はなく、ただ自動操縦に変えただけであることが判明。
にもかかわらず、アトリアン800の高度は急降下を始め、パイロットたちが自動操縦から手動に切り替えようとするも反応せず、操縦不能となってしまったのです。
そしてなぜか機首が上がったまま、アトリアン800は墜落しました。ブラックボックスには墜落直前の音声の他に、ポロックが残した映像が記録されていました。
ポロックはマチューがこれを必ず見つけると見越した上で、自分の罪を告白しました。ポロックの話によると、数年前ルノーが「機体を改善するため、事前に情報が欲しい」と言われ、彼はお金欲しさに協力してしまったといいます。
ポロックは機体の改善につながるなら、ルノーに協力することは汚職ではないと考えていました。
ですがルノーとの関係が深まるにつれ、彼からの要求はエスカレートしました。「調査報告書の内容を修正しろ」「人為的なミスだと結論づけろ」と………。
そしてルノーは、ポロックに「アトリアン800のブラックボックスを改竄しろ」と依頼しました。それを断ったポロックを、ルノーは脅迫しました。
ポロックがあの日、マチューを現場に同行させなかったのは、マチューなら操縦システムがハッキングされ、コントロール不能に陥り墜落したという事実を見抜くだろうと確信していたからでした。
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ポロックの告白を聞いた後、マチューは彼の指示に従い、この動画を公開するべくデータを転送します。
その瞬間、謎の2人組がポロックの自宅に侵入。慌てて車に乗り込んだマチューは、追跡者から逃げることに気をとられすぎて、次第にパニック状態に陥り、猛スピードのまま木に激突。
頭を強く打ち付け、血を流すマチュー。彼の鼓動は少しずつ遅くなり、やがて停止しました。
一方その頃、ノエミはルノーと食事をしていました。ルノーは自分の会社に来て欲しいと、ノエミをスカウトしに来たのです。
ですがその際、ルノーは公式発表されていない情報を口にします。それを聞いたノエミは、ルノーが事故に関わっていると悟り、マチューの話をちゃんと聞いてあげるべきだったと後悔しました。
ノエミはマチューと話をしようと連絡をしましたが、その時彼は池に行っていたため、すぐに会うことは出来ませんでした。
マチューの死後、ペガサス・セキュリティー社の講演会に参加したノエミは、ルノーがプレゼンしている時を狙って、ポロックの告白動画を流しました。
その直後、事件の真相がニュースで報じられ、レニエが開いた記者会見の映像も流れました。
ノエミはそのニュース番組も、悪行が公にさらされてしまったルノーが逮捕されるところを見ることなく、会場を去りました。
マチューのやってることは正しいはずなのに、なぜ誰もマチューの話にちゃんと耳を傾けてくれないのか、誰か1人でもいいからマチューの味方になってほしいと画面の前で願わずにはいられなくなります。
ですがポロックの告白動画を見る限り、彼は要求がエスカレートしてきたあたりから、ルノーに不信感を抱き、音声分析官としてなすべきことを成さねばしなければならないと思い直した様子。
ポロックが失踪したのはルノーからの脅迫も理由の1つでしょうが、「自分が失踪すればマチューが徹底的に調査してくれるはず」、「マチューは必ず事件の真相に辿り着く」と信じて託した、マチューへの厚い信頼があったからではないかと考察します。
ブラックボックスに残された音声だけで、天才的な聴覚を持つ孤高の音声分析官が、アルプスで起きたヨーロピアン航空の最新型航空機墜落事故の真相と航空業界の闇を暴いていく、フランスのサスペンススリラー作品でした。
ピエール・ニネ演じる主人公・マチューが、墜落機のブラックボックスの音声を分析している場面は、思わず観ているこちらも息を止めて、彼に聞こえている音を聞こうと耳を澄ませてしまいます。