映画『動物界』は2022年11月8日(金)より全国ロードショー!
時代性を感じさせる、「奇病に翻弄される人々」から人間の本質を描いた映画『動物界』。
鳥や犬猫、爬虫類などの動物に変化してしまうという原因不明の奇病をめぐり、感染におののく人たちの一方で当事者となる一家族の姿を追ったこの物語。
フランスのベテラン俳優ロマン・デュリスと若手実力派のポール・キルシェ、アデル・エグザルコプロらが共演、奇病をめぐり緊張した空気感の中に見える真実に迫ります。
作品は第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でオープニング作品として選出されたほか、第49回セザール賞で最多12部門ノミネートを果たし、本国フランスで観客動員100万人を超えるヒットを記録するなど多くの注目を集めました。
映画『動物界』の作品情報
【日本公開】
2024年(フランス・ベルギー合作映画)
【原題】
Le regne animal
【監督・脚本】
トマ・カイエ
【出演】
ロマン・デュリス、ポール・キルシェ、アデル・エグザルコプロス、トム・メルシエ、ビリー・ブレインほか
【作品概要】
近未来を舞台に人間がさまざまな動物に変異してしまう奇病が発生した世界で家族の絆から見える人間模様を描いたサスペンス。
『Les Combattants』を手がけたフランスの新鋭トマ・カイエが監督・脚本を手がけました。またキャストには『エッフェル塔 創造者の愛』『キャメラを止めるな!』『ザ・ミスト』のロマン・デュリス、『T’as pécho?』(2020年、日本未公開)『Leurs enfants apres eux』『Winter boy』のポール・キルシェ、『ファイブ・デビルズ』『バック・ノール』『アデル、ブルーは熱い色』などのアデル・エグザルコプロスらが名を連ねています。
映画『動物界』のあらすじ
原因不明の奇病が蔓延し、人間の身体が徐々に動物のような体質へと変化していく非常事態が蔓延する近未来。
この奇病でさまざまな種類の「新生物」、つまり動物となった人々は強い凶暴性を示すため、総じて施設で隔離されていました。料理人として働くフランソワの妻ラナもその一人で、施設に隔離されていました。
そして奇病を避けるため田舎町に疎開した彼とその息子エミール。ところがその近所である日、移送中に発生した事故により「新生物」たちが野に放たれてしまうという不測の事態が起こってしまいます。
その中にラナがいるとにらんだフランソワは、エミールとともに彼女を捜しますが、いつしかエミールの体に異変が起こり始め……。
映画『動物界』の感想と評価
原因不明の奇病が広がる世界。その設定からは多くの人が2020年より広がりを見せたコロナ禍を思い出すでしょう。
あの非常事態から3年以上が過ぎた近年、映画製作の現場においても「あの事態の本質とは何だったのか」と当時を振り返り、その側面をさまざまな視点で見つめ作られた作品が多く排出される傾向にあります。
本作もある意味その一作といえる物語ですが、その病気の症状は体を衰弱させて死に向かわせるというたぐいのものではなく、「鳥や爬虫類などの動物に変質させる」というもの。
これが感染当事者、あるいは感染を恐れる人間の立場であれば、感染により自身の人生に障がいが発生する、あるいは人生が終わるという結果を恐れ、かたくなに抵抗したくなるという点では共通しています。
この物語のユニークな視点は、感染してしまう当事者の視点が物語に反映される点にあります。これにより「動物と化す」という病気の進行は、当初は絶望を呼び込んだものの次第に新たな希望へと導かれるという展開が描かれるわけです。
カイエ監督はメディアのインタビューで、本作の物語の起点について世紀末的なストーリーを目指す一方でポジティブな結末を考えたことを、以下のように語っています。
「砂漠でスーパーマーケットのレジを押して歩き回り、何を食べたらいいのかわからないという終末の到来を描いた映画を作るよりは、異常事態が正反対のことを生み出す映画を作るほうが、はるかに気分が高揚し楽しめると思いました。
実際多様性が多すぎて、私たちはそれをどうしたらいいのかわからない。でもだからこそ、この映画はある意味でユートピア的。この映画を見られた方に「生命の始まりへの旅として体験した」という感想をうかがい本当に嬉しく思います。
なぜならそれが今日の地球上にある多様性であり、突然変異から生まれたものだからです」
(「Cinema without borders」インタビュー記事より引用)
このコメントからは、物語の発想はある意味コロナ禍などのパンデミック的なテーマとはまったく別のポイントを起点としたものであり、ある意味強引に現代的な要素を追加して作り上げた、という印象も見えてきます。
実際、本作ではそれほど感染の要因や病気自体の信憑性の部分などに関しそれほどリアリティーを持った描かれ方をしていないように見受けられます。
だからこそ物語のポイントとして、人間界の普遍的な視点における、いわゆる「忌み嫌われる部分」の不条理さ、そしてその異議の裏にある、カイエ監督がとなえた「異常事態が正反対のことを生み出す」ことにスポットがあてられ、緊張感のある不穏な起点から、爽快感すらおぼえる終盤にかけての展開は非常にポジティブな印象を生み出しています。
一方でこのポイントは、逆にコロナ禍、パンデミックで感染することで追いやられる人々に対する固定観念への疑問を改めて問いたくなる、いろいろな意味での多様性を考えさせられる物語となっています。
まとめ
2014年に発表されたトマ・カイエ監督作品『Les Combattants』は、経済的にも恵まれ不自由なき生活を送っていた一人の青年が、軍隊を目指すという冷徹で強い意志を持つ一人の少女と出会い、徐々に惹かれいつしか軍隊のトレーニング・キャンプに参加していくという物語。
自分とは異質なものと出会い、いつしか強い興味を持ち新しい世界に身を投じていくという展開は本作につながる流れに似たところでもあり、カイエ監督が追求したいと考える本質の一つであるとも考えられます。
またカイエ監督が2018年に脚本を担当したテレビドラマ『Ad Vitam』は、再生技術によって人類が永遠に生きられるようになった未来において警官と一人の女性が、自殺を遂げる若者が急増するという奇妙な状況を捜査するという物語。人間という立場から見た「不死」という永遠のテーマ、そしてその不自然な欲望に対する自然からの異議という深いテーマを想起させる物語でもあります。
その意味で本作は、現代の普遍的な人類の視点にどこか疑問を呈しながらも、明るい未来を信じたいというカイエ監督自身の考えも垣間見られ、今という時代だからこそ改めて社会に対して真摯に目を向け作られた物語であると感じられるでしょう。
映画『動物界』は2024年11月8日(金)より全国ロードショー!