映画『悪の偶像』は2020年6月26日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかでロードショー予定。
韓国映画界の実力派ハン・ソッキュとソル・ギョングの強力タッグで魅せる予想外の展開から、衝撃の結末が描かれる!
知事有力候補の市議会議員の息子が起こしたひき逃げ事件から、市議会議員の男とひき逃げで死亡した男性の父親という二人の対照的な表情を、事件に隠された意外な真実と緊迫した展開を通して描いた『悪の偶像』。
作品は『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』に続き長編第2作目となるイ・スジンが監督、脚本を務めます。
そして知事選候補の市議会議員役をハン・ソッキュ、その息子に自分の息子をひき殺された父役としてソル・ギョングが出演しています。
映画『悪の偶像』の作品情報
【日本公開】
2020年(韓国映画)
【原題】
우상
【英題】
Idol
【監督・共同脚本】
イ・スジン
【キャスト】
ハン・ソッキュ、ソル・ギョング、チョン・ウヒ、ユ・スンモク、ジョー・ビョンギュ、キム・ジェファ
【作品概要】
ひき逃げ事件の加害者の父である市議会議員の男性と、被害者の父である小さな工具屋の男性の運命が交錯するさまを追ったサスペンス。監督・脚本を『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』のイ・スジンが手掛けます。
作品は第69回ベルリン国際映画祭のパノラマ部門へ出品、さらに2019年ファンタジア映画祭で作品賞と男優賞(ハン・ソッキュ、ソル・ギョング)を受賞、さらに第28回釜日映画賞主演男優賞ノミネート(ハン・ソッキュ)など国内外で大きな話題を呼びました。
キャストには知事選有力候補の市議会議員ミョンフェ役をハン・ソッキュ、その息子に自分の息子をひき殺された工具店の店主ジュンシク役としてソル・ギョングが出演。さらにひき殺された息子の嫁リョナ役を『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』で主演を務めたチョン・ウヒが担当。
映画『悪の偶像』のあらすじ
知事選の最有力候補として日々を送っていた市議会議員のミョンフェでしたが、ある日妻の電話で息子のヨハンが飲酒運転で人をひき殺してしまったことを知り、激しく動揺します。
しかも家に帰ると、車とともにひき殺した被害者の死体が。ミョンフェはヨハンに自首するよう説得し、その一方で死体をひき殺した現場に再び遺棄することに。
世間のバッシングと、息子を殺された父ジュンシクの怒りを甘んじて受け、知事選の辞退を宣言したミョンフェでしたが、そのことで逆に支持率が上がり、彼の周辺では何としてでも立候補を続けるようにと説得されます。
ところが、ミョンヒが犯行当日の家のガレージの防犯カメラを確認すると意外な事実が。
また同じころ、現場に居合わせた被害者の新妻リョナの行方がわからなくなっていることが判明。事実が明るみに出ることを恐れるミョンヒは、リョナの行方を追います。
一方、ジュンシクはリョナの足取りを追う中で彼女が妊娠していることを知り、なんとかして彼女を捜し出そうとします。
そして二人はお互いに耐えがたい葛藤の中で揺れ動きながら、心の闇の中へ足を踏み入れていくのでした…。
映画『悪の偶像』の感想と評価
強烈なインパクトを示す物語
ミョンフェとジュンシクという二人の男性はそれぞれ政治に見を置く人、堅実に働き生きる人とそれぞれ立場の違いはありますが、子どもを持ち真面目に人生を送っていたという点で似た部分があります。
そして一人の子どもがもう一方の子どもを殺めてしまい、その事件をめぐり激しく揺れ動くさまが前半の展開となるわけですが、この展開は二人にかなり大きなインパクトをもたらしながらも、またそれぞれ、この時点では自分自身を見失っていないのですが、やがて事態は急展開を見せていきます。
ミョンフェは子どもの犯した過ちに大きな責任を感じ、ジュンシクは子を失った悲しみと憤りにくれる。それでもそれぞれ自身が過ちを犯すという一線を犯すことはありません。
ところが後半に事件の裏に隠された意外な真実の糸口が突然現れてきてからは、二人の気持ちは大きく動いていきます。特にミョンフェは息子の過ちだけではなく妻にも、さらには周囲の人間からも翻弄され、揺るぎない自分の信念を大きく崩してしまうことになるのです。
そこには人間の不完全さ、人間であるがゆえの弱さ、恐ろしさなどおぞましい面が諸々に見えてきます。
そしてミョンフェの一面に触れたジュンシクもまた自身を見失ってしまうわけでありますが、とにかくその人間の内面が見えてくる展開には、見ている人が自分自身の内面を疑ってしまうほどのインパクトがあり、物語に強烈引き込まれていくことでしょう。
当初イ・スジン監督は、ミョンフェを演じたハン・ソッキュに対してもともとジュンシク役としてオファーを出されていたそうですが、ミョンフェのキャラクターを知ったことで自らこの役をやりたいと志願し今回の役柄に抜擢されたという経緯があるといます。
さらにジュンシクを演じたソル・ギョングも、もともとミョンフェ役を狙っていたという後日談があったそうで、ミョンフェというキャラクターには役者が演じるという視点で見ても大きな魅力を持った役柄であったことがうかがえます。
本作が長編映画第2作となったイ・スジン監督。実話から着想を得て制作された前作『ハン・ゴンジェ 17歳の涙』からは一転して本作はゾッとするようなミステリー作品として仕上げていますが、目を背けたくなるような人間の内面を描き人間の本質を問うという意味では、両作品ともに共通したテーマがにあるようにもうかがえます。
充実したキャスト陣
そして本作の見どころはハン・ソッキュ、ソルギョング、さらにチョン・ウヒというキャスト陣の充実した演技力にあります。
ハンの前半の善人ぶりは、これまでの彼の出演作で多く見せたヒーロー的な役柄と被り、まさに「期待通り」な人物を演じながら、後半は見事にその印象を裏切って真反対の人間の表情を見せてきます。
その代わり身の鋭さはゾッとする感覚すら覚えることでしょう。
対してソルは、最初から最後まで安定した性質が見られます。
どちらかというと激情感をあらわにした印象がこれまでの出演作には強く感じられる彼ですが、しわがれた声に片足を引きずりながら歩く様、そして怒りと悲しみに満ちながらもそれをなぜか外に出しきれない表情は、ミョンフェとジュンシクの社会的立場の差からできてしまったキャラクターとも見え、世界的にも関心が寄せられている韓国社会の格差問題構図を強くアピールしているようでもあります。
この二人は物語の筋、物語のテーマとして打ち立てられたメッセージ的な部分で対象的な性質をそれぞれ持っていますが、また違った視点として人間の存在感、演技という意味で対照性を見せているのが、ジュンシクの息子の嫁・リョナ役を演じるチョンの演技です。
後半の展開の中で大きな鍵を握るのがこのリョナの存在感でありますが、物語全体における人物の在感を意識した演技を行っているハン、ソルとは対照的に、チョンはかなり思い切ったアプローチを見せています。
その不気味なキャラクターは怪演という言葉が非常にピッタリなものでありますが、ベテランらしい演技を見せる二人の主役の演技があり、逆に二人のその演技に対して答えたからこその、大胆で活きのいい演技を見せています。
全体的に暗いトーンの映像の中で、この3人の演技はかなり見ごたえのあるものとなっています。
まとめ
イ監督は原案から物語を描いた長編第1作で第43回ロッテルダム国際映画祭においてタイガーアワードを受賞、その際に巨匠マーティン・スコセッシ監督から絶賛を受けました。そして再びチョンとのタッグでいよいよ完全オリジナルの脚本へ挑みます。
アカデミー賞では『パラサイト 半地下の家族』が多くの受賞を果たし、世界的にも大きく注目を浴びている韓国映画界でありますが、新たな才能として大きく注目を浴びているイ監督自らの脚本に、韓国2大スターの競演ということもあり、この作品も大きな注目株であることは間違いないでしょう。
一方で内容的にも韓国社会の現状や人間の闇に深く切り込み、妥協のない作品作りが行われたことがうかがえる問題作であります。
映画『悪の偶像』は2020年6月26日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかで公開予定です!