『新しき世界』パク・フンジョン監督の下に、実力派俳優たちが集結した『The Witch 魔女』。
謎の組織に追われる少女。決してその正体を暴いてはいけない…!
本国にて観客動員数300万人を突破した超ヒット映画、サイキックアクション『The Witch 魔女』の魅力をたっぷりとご紹介します。
映画『The Witch 魔女』の作品情報
(C)2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
【公開】
2017年(韓国映画)
【原題】
The Witch: Part 1 – The Subversion
【監督】
パク・フンジョン
【キャスト】
キム・ダミ、チョ・ミンス、パク・ヒスン、チェ・ウシク
【作品概要】
高校生のジャユンは、何の変哲もない酪農家の娘として暮らしていたはずでした。ところがTV番組への出演をきっかけに、周囲に不気味な影が忍び寄ります。
『新しき世界』で韓国ノワール映画の新しき名手となったパク・フンジョン監督による、血で血を洗うサイキックアクションが誕生。
主演のキム・ダミは初主演の本作で、ファンタジア国際映画祭にて主演女優賞を受賞。
ほか、『嘆きのピエタ』のチョ・ミンス、『サスペクト 哀しき容疑者』のパク・ヒスン、『新感染 ファイナル・エクスプレス』のチェ・ウシク。シネマートによる「のむコレ2018」上映作品。
映画『The Witch 魔女』のあらすじとネタバレ
(C)2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
ある片田舎で酪農家を営む夫婦。その娘・ジャユン(キム・ダミ)は夫婦の実の子ではありません。
10年前、8歳の女の子が夫婦の家の前で倒れており、女の子はそれ以前の記憶を失っていました。
子どものいなかった夫婦はそのまま女の子を引き取り、ジャユンと名付けて育ててきました。
そして現在。牛の価格が暴落し牧場が立ち行かなくなってきた事、母が認知症を患い始めていた事で、ジャユンは悩んでいました。
その時、親友のミョンヒによって『スター誕生』なる番組があると知り、優勝賞金が5億ウォンである事からジャユンは出場の決心をします。
可憐な容姿と歌唱力で勝ち上がっていくジャユン。ところが番組中、特技はないのかを問われ、彼女は両親から「他人に見せてはいけない」と厳しく戒められていたある手品を披露します。
全国放送でその様子が流れた途端、ジャユンの周囲に怪しい男たちが現れます。彼らはジャユンを知っているようですが、身に覚えのないジャユンは不吉な予感を覚えます。
次第に、ジャユンは8歳の時、会社と呼ばれる組織から逃げ出してきた事、組織はそれ以来ジャユンの行方を追っていた事、そしてジャユンの追っ手は一枚皮でない事が明らかになってきます。
以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『THE WITCH 魔女』ネタバレ・結末の記載がございます。
『THE WITCH 魔女』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
組織で「第一世代」と呼ばれている男、ミスター・チェ(パク・ヒスン)は武装隊を率い、ジャユンを危険と見なし命を狙っています。
一方、組織のトップ科学者、ドクター・ペク(チョ・ミンス)は不気味な少年少女達を引き連れ、ジャユンを生け捕りにしようと考えています。
殺そうと焦る必要はない、あの子はもうすぐ死ぬのだからと告げます。
ペクの言う通り、ジャユンは昔から謎の頭痛に悩まされ、主治医に手術を勧められていました。
実の親を見つけ骨髄移植をしなければ、ジャユンの命はあと数ヶ月だと言うのです。ジャユンは手術費用も工面できず、実の親も見つからない事から手術は諦めていました。
そして『スター誕生』の番組予選が終わった日の夜、ついに組織からの追っ手がジャユンに襲いかかりました。
先発の追っ手はチェの武装隊です。彼らは家に押し入り、ジャユンの両親、偶然泊まっていたミョンヒを人質に取り、ジャユンに迫ります。
その時、ジャユンの中で何かが起こり、彼女は人間離れした動きで武装隊を、あっという間に虐殺。
自分の変貌に愕然とするジャユンの前に、ドクター・ペクの追っ手、少年少女たちが現れます。
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その中でもリーダー格の男(チェ・ウシク)が、ジャユンが大人しく捕まれば両親とミョンヒの命は助ける、と脅します。
ジャユンはそれに従い、ドクター・ペクの研究所へ連行されました。
実験室のような部屋で拘束され、記憶を戻す薬を打たれるジャユン。
彼女は8歳以前の記憶…、同じ世代の子供達と一緒に実験施設で暮らし、モルモットにされていた日々を思い出します。
そしてそれ以上に、脳を刺激された事で激しい痛みに悶える彼女に、ペクは真実を語り始めます。
実はジャユンを含め、実験施設にいた子供たちは、遺伝子操作によって生まれた人造人間でした。
彼らは卓越した身体能力・頭脳・そして念動力などの超能力を与えられ、強い暴力性を植え付けられていました。
人造人間には第一世代がいましたが、より完成度を高めた第二世代を作ったのがペクです。その中でも最も完成体に近いと言われたのがジャユンでした。
しかし、凶暴で力も強い人造人間を上層部は恐れ、彼らの処分を命じました。処分から生き残ったのが、ペクが連れている少年少女たち。
そして逃げ出し、両親の牧場に辿り着いたのがジャユン。
だがジャユンの力はあまりにも強すぎ、脳に重い負担を掛けていた為、逃げ出してもすぐに死ぬだろうと当初ペクは考えていました。
ところが記憶を無くした事で能力が使われず、ジャユンは現在まで生き延びました。
そして『スター誕生』で、マイクを念動力で浮かしてみせた為に組織に見つかってしまったのです。
そこまで打ち明けたペクは、薬をもう一つジャユンに注射します。それはジャユンの能力はそのままに、脳を蝕む症状の進行を止める薬でした。
痛みが消え、唖然とするジャユン。ペクは、この薬は一ヶ月しか効力が無い、毎月薬が欲しければ自分に協力しろと要求します。
ジャユンの答えは「期待以上だわ」。その顔には、“魔女”と呼ぶに相応しい笑みが浮かんでいました。
ジャユンは記憶喪失ではありませんでした。彼女は記憶の無い振りをしてずっと、病の進行を止める手段を探していました。
しかし、実験施設の場所も、実親の居所も分からなかった為、組織をおびき出し治療法を手に入れようと計画したのです。
更に、ジャユンが牧場に辿り着いたのも偶然ではありませんでした。
アメリカで子供を亡くし、韓国に帰国したインテリの建築家夫婦。ジャユンは施設時代にその事を調べ上げ、この夫婦なら自分を受け入れるだろうと計算していました。
ジャユンは薬を打たれた事で、100%の力を発揮できるようになります。
楽々と拘束を解き、兵士を殺し、ペクに銃を突きつけるジャユン。
そこへチェと武装隊が現れ、人造人間達と激しいぶつかり合いになります。ジャユンも薬のストックを求め、チェ達、人造人間、ジャユンの三つ巴の戦いへ。
全力のジャユンに敵う者は誰もおらず、一方的な虐殺となりました。人造人間のリーダーは死ぬ直前、ジャユンの人生を捨ててまで生き延びたいのかと問います。
彼女は静かに「いいえ。私はジャユンとして生きるの」と答えました。
ジャユンは薬のサンプルをかき集めて脱出し、両親の元へ戻ります。母親は眠っていましたが、父親は全てを察したかのように彼女を迎えました。
父親は、ジャユンの異常性に昔から気づいていました。幼少の彼女はとても凶暴で、多くの牛や鶏を殺していました。
父親は彼女を引き取った事を後悔しましたが、それをかばったのが母親でした。愛情をかければきっと優しい子に育つ、と、母親はジャユンを決して見限りませんでした。
ジャユンは自分用に薬を二つだけ持つと、残りを「母さんにあげて」と父親に渡しました。薬は脳のダメージを抑えるので、認知症の進行を止める事もできます。
こうしてジャユンは、寿命を伸ばす根本的な治療を探し、両親を置いて旅立ちます。父親は彼女の運命を察し「早く帰るんだぞ」と送り出しました。
場面は変わり、ドクターペクに瓜二つの女性を訪ねるジャユン。彼女はペクの姉妹でした。女性は落ち着き払った態度で、よくここまで辿り着いたわね、と言います。
いつの間にか、会話する二人の傍には美しい少女が立っていました。
ジャユンはその少女を、笑ってあしらいます。「お姉さんに手を出すと、首が飛ぶわよ」。
この少女とペクの姉妹は何者なのか?組織の全貌とは?ジャユンの目的は?全ては第二部に続きます。
映画『The Witch 魔女』の感想と評価
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この物語が何部作なのかは不明ですが、『第一部/転覆』と銘打っている為、恐らく三部作以上なのではないでしょうか。
本作は導入という事で、設定の説明が多かった印象です。
しかし謎の巨大組織、少女の秘められた力、極秘実験によって生まれた人造人間の設定だけでも少年漫画のハートを持つ観客にガンガン訴えかけます。
更にその設定とマッチしたノワールな脚本。SFだからと派手なCGや演出効果を多用するのではなく、引き締まった演出と重厚な展開で魅せてきます。
そして緩急の効いたアクションと、研ぎ澄まされた殺陣の美しさは必見です。
アクション中の人物の動きや表情は作り込まれていながらも、主張しすぎず「全体の流れを邪魔せずに自然なアクションを見せる」という一点に集約されているように感じました。
主軸である超能力も、格闘の中にさりげなく織り込まれている点が実に憎いです。
殺伐とした世界を構築する登場人物達も魅力的。特にミスターチェ(パク・ヒスン)や、人造人間のリーダー(チェ・ウシク)は本作での退場が惜しいですが、もしかしたら「X-MEN」シリーズのように今後復活も考えられますし、より切れ味の鋭いキャラクターが登場するのかもしれません。
切れ味と言えば、最も強いインパクトを持つのがジャユンを演じるキム・ダミ。
無邪気な容貌の中にどこか乾いた面が見え、その不気味なキャラクターと、物語の血生臭さを際立たせています。
ノワール・サイキック・バイオレンス。お互いを喰らいかねないこの三つ巴が、作り込まれた設定、名優の演技、洗練された画面作りによって、見事に並び立っているのではないでしょうか。
まとめ
(C)2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
『新しい世界』(2013)『隻眼の虎』(2015)で、もはや韓国ノワールの旗手と目されるパク・フンジョン監督ですが、まさかSFアクションを撮るとはと驚きました。
人間主体のSFアクション・バイオレンスと言えばアメリカ・カナダに代表作が多く、ヒットも難しいジャンルです。
「アジア映画で超能力もの?」と疑問を持つ方に、ぜひ観ていただき、アジア映画の新しい可能性に触れてもらいたい秀作です。
本シリーズが完結した際には、韓国を代表するSFアクション映画になるかもしれません。
次回作が早くも待ち遠しいですが、本作『The Witch 魔女』の特徴といえるサイキックアクションが一層加速していく事を今後も期待しています!