本を燃やす者と本を守る者がぶつかり合う近未来サスペンス
ラミン・バーラニが脚本・監督を務め、レイ・ブラッドベリの名作SF小説を映像化させた、2018年製作のアメリカの近未来SFサスペンス映画『華氏451』。
本を読むことが禁じられた近未来の世界で、本を燃やす仕事をする自らの行為に思い悩み、読書の喜びを知る主人公の姿とは、具体的にどんな内容だったのでしょうか。
膨大な数の本を隠していた老婆が謎の言葉を遺し、焼身自殺を遂げたことをきっかけに物語が展開されていく、アメリカの近未来SFサスペンス映画『華氏451』のネタバレあらすじと作品情報をご紹介いたします。
CONTENTS
映画『華氏451(2018)』の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ映画)
【原作】
レイ・ブラッドベリの名作SF小説『華氏451』
【監督】
ラミン・バーラニ
【キャスト】
マイケル・B・ジョーダン、マイケル・シャノン、ソフィア・ブテラ、リリー・シン、ディラン・テイラー、マーティン・ドノヴァン、カンディ・アレクサンダー
【作品概要】
『チェイス・ザ・ドリーム』(2012)のラミン・バーラニが、脚本・監督を務めた、アメリカの近未来SFサスペンス作品です。
『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)や『ブラックパンサー』(2018)、『黒い司法 0%からの奇跡』(2020)などに出演したマイケル・B・ジョーダンが、主演を務めています。
映画『華氏451(2018)』のあらすじとネタバレ
世界に混沌をもたらすものとして、本を読むことが禁じられた近未来。
情報や知識、ニュース番組などは全て映像化され、動画配信するSNSのような「ナイン」や、人々の生活をサポートし監視するAIシステム「ユークシー」と呼ばれるもので閲覧する時代です。
アメリカでは、「焼火士(ファイヤーマン)」と呼ばれる者たちが、全ての書物を燃やし尽くそうと、書物の捜索及び焼却を行っていました。
そんな焼火士から本を守るべく、この世界で肩身の狭い思いをしながら身を寄せ合い、隠れて暮らしながら保護・拡散活動を続ける、「ウナギ」と呼ばれる者たちもいました。
ウナギの一員は焼火士に見つかってしまうと、ナインでライブ中継されている中、自身の手の指紋と本、財産までもが焼火士の手によって焼かされてしまうのです。
アメリカ・オハイオ州クリーブランドに住む青年モンターグは、幼い頃に両親を亡くして以降、自分を育ててくれた焼火士のジョン・ベイティ中隊長の下で、焼火士として働いていました。
焼火士としての活躍のおかげで、ベイティは中隊長から司令長に、モンターグは彼の後任として焼火士長から中隊長への昇格が、年末に行われることが決まっていました。
モンターグは勤務後、ベイティに同行し、バーにいる情報屋の女性クラリスに会いに行きました。2人が話した後、モンターグはクラリスに、こう尋ねられます。
「何故書物を燃やすのか、一瞬でも考えたことある? 燃やす前に読んでみたら?」これに対し、モンターグは何も答えられませんでした。
そんなある日。ベイティとモンターグ、隊員のダグラスとフリーマン、ジョエルとカイルは、ベッドフォード近くの森にある廃屋を訪れました。
モンターグたちによる家宅捜索の結果、クラリスからの情報通り、膨大な数の本が隠されていました。
本の一斉焼却の前、モンターグは1人、近くにあったドエストエフスキーの『地下室の手記』という名の本を手に取り、他の隊員に見つからぬよう服の中に隠しました。
その後モンターグは、ダグラスたちが1階の広間に膨大な数の本を集めている様を見て、幼い頃に同じ光景を目にしたことがあることを思い出します。
本の一斉焼却開始後、この家と本の所有者である老婆ママ・ジュードは、モンターグたちの尋問を聞かず命令にも従わず、隠し持っていたマッチに火をつけました。
ママ・ジュードは火のついたマッチを足元に落とし、床に敷き詰められた本と、いくつかの本を巻き付けた自身の体を燃やそうとします。
そしてママ・ジュードは、「オムニス(OMNIS)」という謎の言葉を言い遺し、モンターグたちの目の前で焼身自殺を遂げたのです。
ママ・ジュードの焼身自殺の件は、すぐさまナインで街中に報道されましたが、翌日には「オムニス」が「臆病者」に言い換えられていました。
それは、ベイティからの報告でこのことを知った政府が、ママ・ジュードが殉難者(思想などのために、我が身を犠牲にする者)になってはならないとして、圧力をかけて事実を隠蔽したのです。
実際に現場にいたモンターグは、事実と異なる言葉が報道されていることに違和感を抱き、ベイティに尋ねましたが、口止めされている彼は何も答えられませんでした。
帰宅後、モンターグはユークシーを遮断し、持ち帰った本を音読します。しかし、遮断したはずのユークシーが勝手に起動し、モンターグに話しかけてきたのです。
モンターグはユークシーの目が届かない場所で、クラリスに本の内容を教えて貰おうと考え、港近くの工場地帯へ向かいます。
実はクラリスは、ウナギの一員として港近くにある隠れ家に住んでいたのです。クラリスが隠れ家を出て、埠頭に立ち寄ったところでモンターグの尾行に気づき、咄嗟に彼にナイフを突きつけます。
クラリスはモンターグを警戒しましたが、彼からオムニスの言葉の意味と本の内容を尋ねられたことで、警戒心が薄れたのか自宅に招くことにしました。
モンターグはユークシーが置かれていないクラリスの家で、彼女に自分では解読できなかった本を朗読してもらいました。
クラリスは一度朗読を止め、モンターグにこう言いました。「政府は言語を排除し、国民の思想を駆逐している」
「世界に6,000もあった言語は、今は60もない。ナイン上で単一の共通語を作ろうとしている」
「内戦中、複数の企業が、思考の予測システムを開発。政府と結託して権力を握った」
「そして民衆の望む”自我”と”幸福”を売り込み、ナインがそれを確実に供給し、あなたたちは火で守る」
「政府じゃない。私たちこそが、こんな世界を望んだ」そう話すクラリスは、続けてモンターグとこんな話をしました。
「あなた、記憶に不安は? 頻繁に目薬を?」「君は? 過去を覚えているのか? 両親のことは思い出せる?」
「親はウナギよ、私に純国民(ウナギではない普通の人間たち)を装えと教えた」
「10代の頃には、あなたたち”普通の人”に憧れて家出した。ナインに没頭し、目薬から何から真似をして、しばらくは満足だった」
「だけど、人生には山もあれば谷もある。お金を稼ぐために、落書の情報を売り始めた」
クラリスの身の上話を聞いたモンターグは、今まで己の生涯をかけて作品を創ってきたであろう作者のことも考えず、たった2秒で作者の本を燃やし灰にしてしまったことを後悔しました。
モンターグとクラリスは、本について語り合ううちに、心を通わせ惹かれ合っていきました。
クラリスと別れ、職場に向かったモンターグは、勤務前に国民の日課である目薬をさすことを初めて躊躇します。
その時モンターグは、焼火士だった自分の父親が、幼い自分に読書をするよう勧めてきたことを思い出しました。
その後開かれたミーティングでは、ベイティがモンターグたち焼火士に、政府が秘密裏に調べたオムニスについて説明しました。
ベイティ曰く、ウナギは技術言語をDNAの言語に転換し、地球が埋め尽くされるほどの膨大な量の落書のデータを、オムニスという極微なDNAの中に格納していたのです。
オムニスとは、あらゆる本や絵画、音楽や映画、史料や昔のネット上の情報。ニュースや回顧録、事件などが記録されている、いわば人間の知覚の集合体のことだったのです。
そう話すベイティが、これから行う任務について話します。「オムニスはここ、オハイオ州からカナダに移送されるらしい」
「オムニスが放たれてしまえば、決壊した知識の混沌は、蔓延する伝染病の如く広がり、暗黒の国々が地球を覆う」
「最強の焼火士部隊であっても、オムニスの前では翻弄される赤子も同然」「内戦における両親や祖父母の犠牲で得たものが、失われてしまう。そんなこと許してたまるか」
「街を炎で浄化するぞ!火トカゲども!」
映画『華氏451』の感想と評価
オムニスに隠された真実とモンターグの葛藤
オムニスとは、極微なDNAであり、ありとあらゆる情報が記憶されている人間の知覚の集合体のことです。
そして、本を守るウナギたちの目的は、そのオムニスを他のあらゆる動物に注入し、各人が1冊の本となり情報を拡散していくことでした。
ウナギたちがAIシステムや機械ではなく、DNAを使って本とありとあらゆる情報を守ろうとした、その誰も思いつかない方法に観ている人誰もが驚くことでしょう。
焼身自殺を遂げたママ・ジュードやクラリスに感化され、本に興味を抱き、本を燃やす自分の仕事に迷いが生じたモンターグ。
そんな彼がオムニスのことを知って、ウナギ側の人間になることは、物語の前半で嬉々として本を燃やしていた彼からは想像できません。
正義感が強く、本への興味と好奇心が抑えられないモンターグが、葛藤する日々を忘れさせてくれるような穏やかな時間を、クラリスと過ごす姿は観ていて微笑ましいです。
袂を分かったモンターグとベイティ
物語の前半では、モンターグとベイティは、本当の親子かと思うぐらい仲が良く、お互いを信頼し合う兄弟のようでした。
そんなモンターグとベイティが、2人肩を並べて任務を行う姿、他愛もない話をしながら歩く姿は、微笑ましくて思わず笑みが零れます。
特に感動したのは、物語の後半でベイティが、裏切ったモンターグを諭す場面です。ここでは、どれほどベイティがモンターグを信頼し、兄弟として息子として愛していたかが窺えます。
ベイティはモンターグに焼火士としての本分を思い出させ、彼の頭を自分の頭に引き寄せてこう言うのです。
「モンターグ、我が兄弟。燃やしに行くぞ」と。これが一番心に刺さり、格好良い場面です。
モンターグはベイティと完全に袂を分かってしまったものの、追いかけて来た彼と戦う気も、殺す気もありません。
そんなモンターグを、ベイティが殺さなくてはならないというのは、何とも悲劇で悲しいです。
まとめ
曖昧な過去の記憶を思い出し、本を燃やす焼火士から本を守るウナギ側に変わっていく、モンターグの姿を描いたアメリカの近未来SFサスペンス作品でした。
本作の見どころは、違う立場の人間であったモンターグとクラリスが恋に落ちるところと、袂を分かったモンターグとベイティの親子愛です。
そして劇中では、ベイティが自宅で、ユークシーを遮断させて何か格言のようなものをメモに書いている場面があります。
その最後のメモに、「愛した者を最後には必ず裏切った」と記されており、本当にベイティはモンターグを罠に嵌めてしまうのです。
もしかするとベイティは、友人であったモンターグの父親のことも、信頼する兄弟として愛していたものの、最後に裏切ってしまったのではないかと考察できますね。
モンターグが身を挺して守ったレニーが、ムクドリの群れと合流した後どうなったのか、劇中では描かれていません。もし続編があるなら、ぜひその続きを観てみたいですね。
本を燃やす焼火士同士、また本を守る者と焼火士の戦いと、切ない親子の絆を描いた近未来SFサスペンス映画が観たい人には、とてもオススメな作品です。