TIFFトロント国際映画祭2019の現地リポート
トロント国際映画祭(Toronto International Film Festival:TIFF)とは、カナダの都市であるトロントで毎年9月に行われる国際的な映画祭です。
本映画祭では最優秀作品が審査員ではなく、一般観客によって選ばれるため、万人向けの作品が多く出展されます。また近年では、この映画祭で観客賞を取った作品がオスカー獲得への最有力候補とされています。
そのため、トロント国際映画祭がオスカーへの前哨戦と呼ばれています。
2018年はトロント国際映画祭でお披露目されるまで全く話題にあがらなかった、ピーター・ファレリー監督作の『グリーンブック』が観客賞に選ばれ、オスカー作品賞を見事に獲得しました。
それだけに、トロント国際映画祭は映画好き、映画関係者、メディアにとても注目されている映画祭ということができるでしょう。
CONTENTS
2019年のトロントに選出された日本映画
そんな注目度高いトロント国際映画祭ですが、日本からも毎年いくつかの作品が出展されています。
昨年、『万引き家族』でカンヌ国際映画祭パルムドールを獲得し、オスカー国際長編映画賞にもノミネートされた是枝裕和監督の国際共同製作作品の『真実』。
『淵に立つ』で2016年の第69回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門審査員賞を受賞した深田晃司監督の『よこがお』。
2019年のカンヌ国際映画祭でワールドプレミアされた三池崇史監督の『初恋』。
今年のベルリン国際映画祭のパノラマ部門に選出され、観客賞と国際アートシアター連盟賞のW受賞を果たしたHIKARI監督による初の長編作品となる『37Seconds』。
2015年第68回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門監督賞を『岸辺の旅』で獲得した黒沢清監督の『旅のおわり世界のはじまり』。
『天気の子』上映会場は満席の賑わい!
前作『君の名は。』が世界的に大ヒットし、日本でも現在大ヒット上映中の作品である新海誠監督の『天気の子』。
世界中の映画祭にてキュレーターとして活躍している映像作家の西川智也監督によるショートフィルム作品の『Amusement Ride』。
計7作品が日本からの出展作品です。
2019年のトロントに選出された海外作品
また、日本映画のほかにも、2019年のトロント国際映画祭は、多くの海外作品の注目作が出展されています。
2019年のヴェネツィア国際映画祭で最優秀作品賞とされる金獅子賞を見事獲得したトッド・フィリップス監督と天才演技派俳優のホアキン・フェニックスがタッグを組んだアメコミ作品『Joker』。
アベンジャーズでブラック・ウィドウ役を演じているスカーレット・ヨハンセンと『パターソン』、『スターウォーズ フォースの覚醒』でカイロ・レン役を演じている演技派俳優のアダム・ドライバー、この二人の熱演が光るノア・バームバック監督による
Netflix作品『Marriage Story』。
ダニエル・クレイグ、クリス・エヴァンス、ジェイミー・リー・カーティス、マイケル・シャロンなど大物俳優陣の演技合戦が繰り広げられるライアン・ジョンソン監督によるミステリーコメディ作品『Knives Out』。
ポン・ジュノ監督とソン・ガンホが再びタッグを組み、2019年のカンヌ国際映画祭パルムドールを見事獲得し話題性が高い『パラサイト』。
その他、400作品以上がこのトロント国際映画祭で公開されています。
トロント2019からオススメ映画第3位
『Ford v Ferrari(フォードvsフェラーリ)』
本作品『Ford v Ferrari』の日本公開は2020年の1月です。
監督は『LOGAN』でX-Menのウルヴァリン単独作品を見事に締めくくり、大ヒットしたことが記憶に新しいジェームズ・マンゴールド監督。
映画『Ford v Ferrari』のキャスト
マット・デイモン(『オデッセイ』)、クリスチャン・ベール(『バイス』、『マネーショート 華麗なる大逆転』)、ジョン・バーンサル(『ウインド・リバー』)、カトリーナ・バルフ、トレイシー・レッツ、ジョシュ・ルーカス、ノア・ジュプ、レモ・ジローネ、レイ・マッキノン
映画『Ford v Ferrari』のあらすじ
1963年にアメリカの自動車会社フォードモーター社がイタリアの自動車会社のフェラーリ社のエンゾ・フェラーリ氏に買収を持ち掛けました。
しかし、エンゾ・フェラーリ氏はフォードモーター社が自動車世界3大レースであり、もっとも歴史のあるル・マン24時間レースで1958年、1960年〜1965年まで毎年優勝しているレーシングチームのスクーデリア・フェラーリをも買収しようとしていることに気づき、この交渉は決裂してしまいます。
このことに腹を立てたフォードモーター社のヘンリー・フォード氏はル・マンでフェラーリ社のレーシングチームを打ち負かすためにレーシングチームをつくります。
そこで雇われたのは元レーサーのキャロル・シェルビー(マット・デイモン)です。
フェラーリのレーシングチームに勝つためには、エンジニアと最高のレーサーが必要だと考えたシェルビーはドラッグレースに出場していた破天荒だが腕の良いエンジニアでレーサーのケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)をチームに誘います。
しかし、2人を待っていたのは様々な問題でした。
そしてシェルビーとマイルズは、1966年、最強といわれている王者フェラーリレーシングチームを相手にル・マン24時間レースに挑みますが…。
映画『Ford v Ferrari』のおすすめポイント
本作の素晴らしいドラマとマンゴールド監督の美しい画、そしてマット・デイモン、クリスチャン・ベール2人の素晴らしい演技に引き込まれる作品でした。
マンゴールド監督は極力CGを使いたくなかったため実際に1960年代当時のセットを作り、ル・マンのレース会場やレースカーを再現しているそうです。
フェラーリレーシングチームと一騎打ちでマイルズがアクセルを踏み込み争うシーンは思わず前のめりになって鑑賞してしまいました。
またレースシーンだけでなく、最初は相容れなかったシェルビーとマイルズが喧嘩をしながらも互いに認め合い親友へとなっていく様は微笑ましく思いました。
マンゴールド監督は本当にドラマを作るのが上手く敬服しました。
この作品は劇場に足を運んで大きなスクリーンと素晴らしい音響環境での鑑賞を薦めます。V8エンジンのサウンドと男たちの熱い友情を体験してください。
トロント2019からオススメ映画第2位
『Jojo Rabbit(ジョジョ・ラビット)』
本作『Jojo Rabbit』の日本公開は2020年の1月です。監督は『マイティソー:バトルロイヤル』で監督、コーグ役を務め、独特なセンスで次々と人気作を生み出しているタイカ・ワイティティ監督です。
『Jojo Rabbit』のキャスト
ローマン・グリフィン・デイヴィス、トーマサイン・マッケンジー(『足跡はかき消して』)、スカーレット・ヨハンソン(『アベンジャーズ エンドゲーム』)、タイカ・ワイティティ、サム・ロックウェル(『スリー・ビルボード』)、レベル・ウィルソン、スティーブン・マーチャント、アルフィー・アレン
『Jojo Rabbit』のあらすじ
第二次世界大戦下のドイツで、10歳の心優しい少年のジョジョ(ローマン・グリフィン・デイヴィス)はイマジナリーフレンドの口うるさい皮肉屋のアドルフ・ヒトラー(タイカ・ワイティティ)と一緒にナチス青年組織ヒトラー・ユーゲントで立派な兵隊となるべく訓練に精を出します。
しかし、訓練中、ジョジョはウサギを殺せという上官の命令に背いたため「ジョジョ・ラビット」(臆病者)という不名誉な名前を付けられ、周りからいじめられてしまいます。
そんなある日、母親(スカーレット・ヨハンソン)と二人で暮らしていたジョジョは家に隠し部屋があることに気づきます。
勇気を出して隠し部屋を覗いてみるとそこにはユダヤ人の少女エルザ(トーマサイン・マッケンジー)が密かに匿われていたのです。
唯一、ジョジョの頼りになるのはイマジナリーフレンドのヒトラーだけです。
戦争も進む中、ジョジョの日常は一体どうなってしまうのでしょうか…。
『Jojo Rabbit』のおすすめポイント
作品上映後に登壇したデイヴィス君とワイティティ監督
『Jojo Rabbit』はタイカ・ワイティティ監督のとても皮肉の効いたコメディが炸裂する作品でした。なによりも監督自身がこの作品のキーマンとなるアドルフ・ヒトラーを演じていることが驚きです。
タイカ・ワイティティ監督はニュージーランド出身でニュージーランドのネイティブであるマオリ族の父親とロシア系ユダヤ人の母親をもつハーフなのですが、その有色人種のマオリ族とユダヤ人の血筋のワイティティ監督がヒトラーを演じて徹底的にナチス、ヒトラーを茶化している様は痛快でした。
また、脇役を固めているサム・ロックウェルが演じる上官もすごくいい味を出していました。
サム・ロックウェルはビル・マーレイがナチスの軍曹を演じたらこう演じるだろうと考えて演技をしていたそうです。
そして、主演を務めるローマン・グリフィン・デイヴィス君がとても可愛らしく、母親やエルザ、ヒトラーとやりとりをする彼のたわいもない日常が永遠に続いて欲しいと感じるほどでした。
劇場でデイヴィス君演じるジョジョがどのように成長していくか楽しんでください。
追記:2019年トロント国際映画祭で『ジョジョ・ラビット』が観客賞を受賞しました!
トロント2019からオススメ映画第1位
『Joker(ジョーカー)』
映画『Joker』の日本公開は2019年10月4日に日米同時公開です。
監督は人気コメディ作品の「ハングオーバー!」シリーズのトッド・フィリップス監督です。
『Joker(ジョーカー)』のキャスト
ホアキン・フェニックス(『ザ・マスター』、『her/世界でひとつの彼女』)、ロバート・デ・ニーロ(『世界にひとつのプレイブック』、『レイジング・ブル』)、ザジー・ビーツ(『デッドプール2』)、ビル・キャンプ、フランセス・コンロイ、ブレット・カレン、グレン・フレシュラー、ダグラス・ホッジ、マーク・マロン、ジョシュ・パイス、シェー・ウィガム
『Joker(ジョーカー)』のあらすじ
ゴッサム・シティの片隅でピエロのメイクを駆け出しのコメディアンをしている孤独だが心優しいアーサー(ホアキン・フェニックス)は、母親の「どんな時も笑顔で人々を楽しませなさい」という教えを胸に、病気の母親の世話をしながら暮らしています。
そんな孤独だが純粋な青年のアーサーが、悲惨なまでにどん底まで世界に虐げられ、心を病み、狂気に目覚め、秩序の破壊を望むスーパーヴィランのジョーカーへと変貌してしまいます。
『Joker(ジョーカー)』のおすすめポイント
『Joker』は今回のトロント国際映画祭で一番の注目作品です。
直前のヴェネチア国際映画祭で最優秀作品賞にあたる金獅子賞を取り、おそらくこのトロント国際映画祭でも観客賞を取るだろうと予想されています。
チケットも予約段階でプレセールは売り切れ、ラッシュチケットと呼ばれる当日券もほとんど出回らないほどの人気でした。筆者は全3回の公演全てに4時間以上並んで当日券は買えませんでした。
トッド・フィリップス監督はコメディに精通している方で、笑うことのできない徹底的なまでの絶望を理解しているので、「笑いと恐怖は紙一重のものである」というテーマからアメコミ随一のカリスマ的なスーパーヴィランであるジョーカーの誕生を
撮影できたのかも知れません。
また、ジョーカーは今まで何度も映画に登場し、その度に様々な話題を生んできました。
ティム・バートン監督の『バットマン』(1989)でジョーカーを演じたジャック・ニコルソンはクリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』(2008)でジョーカーを演じた後、睡眠薬の過剰摂取により急逝した名優ヒース・レジャーに「ジョーカーの役に入りすぎることは危険だ」と警告していたと言われています。
そして、ジャック・ニコルソン、ヒース・レジャー、ジャレッド・レトという素晴らしい名優の方々が演じてきたジョーカーに天才演技派俳優と言われているホアキン・フェニックスが挑戦するということは、アメコミファン、映画ファンならどんな演技を見せてくれるのか気になって仕方がないでしょう。
それだけに今回、トロント国際映画祭で観ることができなかったのは悔しくて仕方ありません。
読者の皆さんと一緒に、首を長くして10月4日の日本公開を待ちたいと思います。
2019年のトロント映画祭の作品傾向
今回のトロント国際映画祭では注目作品が多く賞レースが熾烈なものになると言われています。
現地で鑑賞した作品では、『The Aeronauts』、『Harriet』、『Lucy in theSky』、『Dolemite is My name』、『The Herdade』、『The laundromat』など、面白いものが数多くありました。
また、近年の傾向ですがNetflix作品が多く出展されており、どの作品もクオリティが高い印象を受けました。
日本からの出展作品では、新海誠監督の『天気の子』がすごく人気で、全3回の公演全てが満席で観客の熱気もすごく高かったです。
まとめ
『ジョーカー』の当日鑑賞券の列に並んでいたコスプレをしたファン
いかがだったでしょうか。
トロント国際映画祭では、見事観客賞を勝ち取った作品がオスカーで有利に動くため映画関係者や映画ファンの熱気で会場はすごく盛り上がっています。
やはり、話題と人気が圧倒的であった『Joker』を観ることが出来なかったことが、残念で仕方ありません。
しかし、トロント国際映画祭の楽しさは映画を観ることだけでなく、トロントという街を歩きながら海外の映画ファンとの交流、会場の盛り上がりの体験、ハリウッド俳優のプレミアお披露目など様々な楽しみ方があると思います。
今回紹介した作品は、すべて日本での公開が決まっていますので、楽しみにしましょう。