映画『キックス』は、2018年12月1日より、渋谷シネクイントにてロードショーほか全国順次公開。
ギャング、ドラッグ、銃、そして仲間とスニーカー。カリフォルニアの太陽の下、少年が少しだけ男になる瞬間を描いた、心揺さぶる新時代のフッドムービーが、いま新たに誕生!
新鋭ジャスティン・ティッピング監督の長編デビュー作『キックス』の公開を記念して、試写会付きのトークイベントが開かれました。
登壇をしたのは、日本ではまだ数少ないHIPHOPムービーを手掛けた2人の映画監督三宅唱と宮崎大祐。
今回はトークイベントの報告をご紹介します。
CONTENTS
映画『キックス』の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ映画)
【原題】
KICKS
【監督】
ジャスティン・ティッピング
【キャスト】
ジャキング・ギロリー、クリストファー・メイヤー、クリストファー・ジョーダン・ウォーレス、コフィ・シリボー、マハーシャラ・アリ
【作品概要】
新鋭ジャスティン・ティッピング監督の長編映画デビュー作品で、彼が16歳の時に経験したことを基に、ジョシュア・バーン=ゴールデンとともに脚本を書きあげました。
ロサンゼルスを舞台に奪われたスニーカーを取り戻そうと奮闘する少年の成長していく様子を、スラム生活の実態やスニーカーカルチャーを交えながら描いた意欲作です。
主人公ブランドン役を演じるのは、ジャキング・ギロリー。9歳の頃から企業コマーシャルやミュージックビデオなどに出演し、ラッパーとしても活動しています。また本作で映画初出演で主役の座を射止めています。
ジャキング・ギロリーは、撮影当時はまだ13歳とあどけなさの残る少年でしたが、時に大人っぽい表情を見せ、ブランドンの複雑な心理を見事に表現しました。
第89回米国アカデミー賞の助演時男優賞を受賞したマハーシャラ・アリが、ブランドンの叔父役として出演しているのにも注目です。
映画『キックス』のあらすじ
カリフォルニア、リッチモンドに住む15歳の少年ブランドン。
背が低くて女子にもモテず、いつもボロボロのスニーカーを履いていてバカにされていました。
そんなブランドンの友人は2人。女にモテモテのリコはエア・ジョーダン3を、自称R&Bの天才、アルバートはエア・ジョーダン6というイカしたスニーカーを履いていました。
ブランドンは、コツコツ貯めたお小遣いで、最強のスニーカー“エアジョーダン1”を手に入れました。
仲間からは羨望の眼差しで見られ、女子からも気にかけられ、これで自分の人生もイケイケになると思っていたブランドン。
しかし、そんな最高な時間の終わりは、瞬時にやってきてしまいました。
仲間と別れた帰り道、地元のチンピラに襲われスニーカーを盗られてしまいます。
ブチ切れたブランドンは、命よりも大切なスニーカーを奪い返しに行くことを決心。
ブランドンは、リコとアルバートを巻き込んで列車に乗り、叔父を頼ってオークランドへ向かいますが…。
映画『キックス』の魅力を若手監督が語る
映画『キックス』は、12月1日に渋谷シネクイントで公開されるほか、全国で順次公開されますが、それを前に去る11月27日(火)に試写会付きトークイベントが開催されました。
登壇者は日本でまだ数少ないHIPHOP映画を手掛ける若手注目監督の2人三宅唱監督と宮崎大祐監督です。
本作の主人公の育ったオークランドの環境や、その成長を描いた魅力について語りました。
また両監督の作品を含む、HIPHOPやブラックカルチャーを描いた作品が、今後、国内でどのように受け入れられていくべきなのか、HIPHOPムービーの未来についての考えも飛び出しました。
次の章では三宅唱監督と宮崎大祐監督のトークショーの様子を少し具体的に紹介していきましょう。
HIPHOP映画が日本で受け入れられる入り口になる
登壇者のひとり三宅唱監督は、いくつかの短編作品を手掛けた後、初の長編作品『やくたたず』でロカルノ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品されました。
また『PLAYBACK』では、第22回日本映画プロフェッショナル大賞新人監督賞を受賞。
その後も『THE COCKPIT』『密使と番人』『きみの鳥はうたえる』など幅広いジャンルの作品を送り出す若手監督です。
もうひとりの登壇者には、宮崎大祐監督。黒沢清監督の『トウキョウソナタ』に助監督で参加し、フリーの助監督や脚本家として活動した後、2011年に『夜が終わる場所』で監督デビューしました。
2013年にはイギリス・レインダンス映画祭の選出する「今注目すべき、七人の日本人インディペンダント映画監督」に選ばれ、2016年には日米合作映画『大和(カリフォルニア)』を発表。
世界中の20近い著名映画祭に招待され、有力海外メディアでも絶賛されるほど国内外から注目を浴びています。
本作品『キックス』の感想を宮崎監督は次のように語りました。
最新のHIPHOPのスタイルやファッションが劇中に散りばめられているのがよかった。HIPHOP映画は、豊かではない主人公が高みへとのし上がっていく話が多いが、『キックス』はある種の冒険譚になっていて、新しいHIPHOP映画の形を描いたのではないか
映画『キックス』の劇中に、最新のHIPHOPのスタイルやファッションが見られる点を気に入ったようですね。
ストーリーの展開が一般的にありがちではない冒険譚になっていることが、「新しいHIPHOP映画の形」だと見ているようです。
それに対し、三宅監督はこのように答えました。
こんな映画もあるんだ!と感じた。今まで観てきた映画とは少し違ったので、面白さと戸惑いがあった。普通は物語を引き立てるために音楽があるはずなのに、『キックス』は音楽がすげー流れる。1枚のアルバムを見ているような作品だと思いました。
『キックス』の劇中で用いられる楽曲の多さに魅了され、思わず「こんな映画もあるんだ!」や「音楽がすげー流れる」と感嘆の声を上げています。
映画は観る人によって、注目する点はそれぞれ異なりますが、HIPHOPムービーを手掛けた三宅唱監督と、宮崎大祐監督の注目ポイントを気に留めながら、本作『キックス』を観てみると、何か新しい発見があるのかもしれませんね。
スローモーションよる映画の魅力
また、2人の監督は、本作のもう一つの特徴として「スローモーションの多用」を挙げられました。
宮崎監督はこのように語ります。
こんなに多い映画あるかな、というくらいスローモーションが多い。HIPHOPのMVにはスローモーションが多いので、それに慣れていると普通に見えるんですが。アメリカのヒップホップのMVの流行りも取り込んでいると思った。
HIPHOPのミュージックビデオとの共通点を挙げられると、三宅監督はこのように返します。
車のパーティシーンがあって。幸せなシーンのスローモーションなのですが、そのシーンがずっと続けばいいのにと思っていました。
本作の「幸せなシーンのスローモーションなのですが、そのシーンがずっと続けばいい」。
幸せな時は永遠に続いて欲しいからこそ、スローモーションという映像効果を使用したのでしょうか。
さすが、HIPHOPムービーを手掛けた監督なだけあって、目の付け所が違いますね。
映画の魅力は違う時間の体験
三宅監督は、映画タイトルでもある「キックス」の言葉についても言及しました。
HIPHOPって言葉を言い換えるじゃないですか?スニーカーをキックスと呼ぶことで、ただの靴が特別なキックスになる。特別な場所に行ける魔法みたいな力を持っている。
すると、宮崎監督もこのように同意します。
それがHIPHOPですよね。
また、三宅監督はこうも述べます。
この映画を観る前に、キックスを奪われて取り戻そうとする少年の成長物語なんて、どこにでもあるじゃんと思っていたけど、主人公の住むオークランドという場所がまず新鮮に見えた。映画とか音楽は、今ここに流れている時間から離れたくて観たり聞いたりするものだと思うので、この映画では違う時間を体験させてもらえたと思います。
本作の舞台となったオークランドという地についても触れ、「この映画では違う時間を体験させてもらえた」と語り、まさに鑑賞したのでなく、映画体験したことなのでしょうか。
実際にオークランドへ足を運んだことがあるという宮崎監督は次のように話します。
(オークランドへは)以前怖いもの見たさで行きました。本当に怖かったです。駅を降りて野球場へ行くまでの道が全て金網で囲われていた。本作でもよく金網が出てくるので、とても印象的だった。
このように意外な注目ポイントについても語ってくださいました。
日本での受け入れられ方
最後に今後の日本でのHIPHOP映画の受け入れられ方について宮崎監督は、今後への期待を語りました。
これからの時代、HIPHOPが世界を支配していくと思う。HIPHOPには意外と保守的なルールがあって、用語やマナーを知って、HIPHOPにおけるリテラシーが深まるとメチャメチャ楽しくなる。見た目と違ってオタクなジャンルだと思っていて、その入り口としてこの映画はとても素晴らしいと思うので、『キックス』をきっかけにHIPHOPへの理解が広まれば、HIPHOP映画のヒットにも繋がっていくのではないか。
HIPHOPに対しての知識が浅い日本において、理解を広める入り口になるであろう映画『キックス』。
例えば日本の文化や伝統の理解が映画で世界に広まっていくのと同じように、この映画で、たくさんの人のHIPHOPにおける考え方が変わったり深まったりするといいですね。
映画『キックス』の上映館情報
【関東地区】
東京 シネクイント 12月1日(土)
東京 アップリンク吉祥寺 12月
神奈川 109シネマズ川崎 1月4日(金)
神奈川 ムービル 1月4日(金)
群馬 109シネマズ高崎 1月4日(金)
栃木 宇都宮ヒカリ座 3/16(土)〜3/29(金)
【中部地区】
静岡 静岡シネ・ギャラリー 12/2(日)先行 以降1/5(土)より上映
【近畿地区】
大阪 シネマート心斎橋 12月8日(土)
京都 出町座 上映日未定
【中国・四国地区】
広島 109シネマズ広島 1月4日(金)
*上記に記載された上映館情報は11月29日現在のものです。作品の特性からセカンド上映や全国順次公開することも予想されます。お近くの映画館をお探しの際は、必ず公式ホームページを閲覧してからお出かけください。
まとめ
日本ではまだ認知度が低いHIPHOP映画ですが、受け入れるための入り口としてとても良い作品だと、三宅唱監督と宮崎大祐監督はトークショーで語ってくれました。
映画『キックス』としての本編はもちろんですが、最新HIPHOPのスタイルやファッション、音楽を映画から取り入れ、HIPHOPへの理解を深められるといいですね。
映画『キックス』は、2018年12月1日渋谷シネクイントにてロードショーほか全国順次公開!
ぜひ、お見逃しなく!