TOKYO FILMeX2019受賞作品紹介
2000年12月に第1回が開催された国際映画祭「東京フィルメックス/TOKYO FILMeX」。
開催から20年、記念すべき「第20回東京フィルメクス」が、11月23日(土)~12月1日(日)の9日間にわたって開催されました。
このたび、11月30日(土)に授賞式が行われ、各賞の結果が発表されました。
グランプリにあたる最優秀作品賞は、ペマツェテン監督『気球』。審査員特別賞にグー・シャオガン監督『春江水暖』、スペシャルメンションには、ニアン・カヴィッチ監督『昨夜、あなたが微笑んでいた』が選ばれました。
本記事では各賞の受賞作品及び授賞式の模様をご紹介します。
CONTENTS
東京フィルメックスとは?
「東京フィルメックス」は、とことんアジアにこだわった映画祭で、アジア地域を中心とした新進気鋭の監督たちの作品を集め、どこよりも早く、ここでしか観られない注目作品がラインナップされる、唯一の国際映画祭。
その独自性や刺激的な作品の数々が、今熱い話題を集めており、若手監督によるコンペティション部門、最先端の話題作が並ぶ特別招待作品、そして東京フィルメックス独自の企画で行われる特集上映など、一つも見逃せない作品が2019年も集結しました。
第20回東京フィルメックスの授賞式の概要
【日時】
2019年11月30日(土)18:10~18:50
【会場】
有楽町朝日ホール(千代田区有楽町2-5-1 有楽町マリオン)
【登壇者】
国際審査員:トニー・レインズ(審査員長)、操上和美、ベーナズ・ジャファリ
学生審査員:北川未来(みく)、木村翔武(しょうぶ)
田中誠一(シマフィルム)、市山尚三(映画祭ディレクター)
グランプリ作品『気球』
東京フィルメックス授賞式での主演俳優ジンパ(金巴)
ペマツェテン監督は、これまでも『オールド・ドッグ』(第12回)、『タルロ』(第16回)と2度東京フィルメックスのグランプリに輝いていますが、常に意欲的・挑戦的な作品を作り続けています。
「この新作は彼の作品の中でも映画表現の新しいレベルに達している。オープニングの遊びの視点から侯孝賢(ホウ・シャオシェン)へのオマージュとなる美しいクロージング・シーンまで、本作品はチベットの特殊な難問を幅広い、洗練された観点で描いている」ことから、栄えあるグランプリに決定しました。
『気球』の作品情報
【英題】
Balloon
【製作国】
中国
【監督】
ペマツェテン(万瑪才旦)
【出演】
ソナム・ワンモ(索朗旺姆)、ジンパ(金巴)、ヤンシクツォ(杨秀措)
【作品概要】
80年代に、家族計画政策を導入した中国。その影響を受けたチベットの、農村地帯に住む家族の姿を通して、チベット人の文化や宗教・死生観を描いた作品です。
『気球』のあらすじ
チベットの草原で羊を飼育しながら、3人の息子と老いた父と暮らす、ダルケ(ジンパ)とドロルカル(ソナム・ワンモ)夫婦。まだ幼い2人の息子は夫婦の寝室にあったコンドームを、風船のように膨らませて遊んでいました。
夫婦の長男は家族から離れ、1人中学校で学んでいました。その彼を尼僧となったドロルカルの妹、シャンチェ(ヤンシクツォ)が迎えに現れます。
審査員特別賞『春江水暖』
東京フィルメックス授賞式でのグー・シャオガン監督
審査員特別賞には、鮮烈なデビュー作となった、グー・シャオガン監督『春江水暖(しゅんこうすいだん)』。
絵巻物を鑑賞しているかのような横移動のカメラワークが強い印象を残す本作、「この勇敢で野心的な初監督作品は家族の物語と地方文化を正確にそして見事な文体で究めていて、初監督作品としては驚くべき出来栄えです。」と審査員も称えました。
『春江水暖』の作品情報
【英題】
Dwelling in the Fuchun Mountains
【製作国】
中国
【監督】
グー・シャオガン
【作品概要】
杭州の富陽の美しい自然を背景に、一つの家族の変遷を悠然と描いたグー・シャオガンの監督デビュー作。
絵巻物を鑑賞しているかのような横移動のカメラワークが鮮烈な印象を残す作品です。
スぺシャルメンション『昨夜、あなたが微笑んでいた』
スペシャルメンションには、ニアン・カヴィッチ監督『昨夜、あなたが微笑んでいた』と、広瀬奈々子監督『つつんで、ひらいて』が選ばれました。
『昨夜、あなたが微笑んでいた』は、「そこにある記憶を慈しむようにカメラと対峙させたこの映画は、決して過去を見つめる映画ではありませんでした。日本企業の買収によって数百の世帯が立ち退きを余儀なくされたホワイト・ビルディング。都市の発展や国や私企業の利益のために破壊される生活。それはやはり暴力なのです。そしてそれは今も再開発の進むあらゆる場所で起きているはずです。その現実をこの映画は静かに私たちに差し出してきました」と審査員の心をとらえました。
『昨夜、あなたが微笑んでいた』の作品情報
【英題】
Last Night I Saw You Smiling
【製作国】
カンボジア・フランス合作
【監督】
ニアン・カヴィッチ
【作品概要】
歴史的建造物として知られたプノンペンの集合住宅「ホワイト・ビルディング」。取り壊し直前のこのビルにカメラを持ち込み、そこに暮らす人々をとらえたドキュメンタリー。
スぺシャルメンション『つつんで、ひらいて』
スペシャルメンションに選ばれた広瀬奈々子監督『つつんで、ひらいて』。
“はじめに言葉ありき。言葉は神と共にあり、言葉は神であった”と、訴えている本作品。古来から今日に至るまで人類の永遠の友である本の地位に対し称賛と敬意を示しています。
「未来の人びとも本の紙を触ったり、匂いを嗅いだり、見たり感じたりし続けることができますよう。本は高貴な友です。私たちがそれを受け継ぐことができますように。」と審査員からのコメントを寄せています。
『つつんで、ひらいて』の作品情報
【製作国】
日本
【監督】
広瀬奈々子
【作品概要】
『夜明け』の広瀬奈々子監督がブックデザインの第一人者、菊地信義を追ったドキュメンタリー。
デジタル全盛の時代にあって紙の書籍にこだわり、手作業でデザインを行う菊地の仕事の工程を見つめながらものづくりの原点を探る作品です。
観客賞『静かな雨』
“最も観客から支持を集めた”観客賞には、中川龍太郎監督『静かな雨』が輝きました。
『静かな雨』の作品情報
【製作国】
日本
【原作】
宮下奈都
【監督】
中川龍太郎
【作品概要】
宮下奈都のデビュー小説を仲野太賀とこれが映画初出演となる衛藤美彩の主演で映画化した作品。
『静かな雨』のあらすじ
大学の研究助手の行助と鯛焼き屋を経営するこよみ。
親密になりかけた二人の関係は暦が交通事故に遭ったことをきっかけに暗転し…。
まとめ
アジア地域を中心とした新進気鋭の監督たちの作品を集め、ここでしか観られない注目作品がラインナップされる、唯一の国際映画祭「東京フィルメックス」。
今回記念すべき「第20回東京フィルメクス」は、11月23日(土)~12月1日(日)の9日間にわたって開催されました。
審査員長のトニー・レインズは、2019年のフィルメックスを以下のように振り返りました。
「10作品、本当に多様性に富んでいた。それらに1つ共通点があるとすれば、市山ディレクターの選択眼が特殊なものだということ。自分も多くの映画祭で審査員を務めてきたが、これほどまでにすべての作品が、終始一貫して同じレベルを作品が持っている、そういう映画祭というのは稀。(審査員も)多種多様で、それぞれ国も違いますし、今回は日本から2人、イランから1人、カザフスタンから1人、英国から(トニー・レインズ自身)1人、かなりいいいミックスだったと思う。多様だからこそ同意できるかナーバスになっていたけれど、幸せな報告をここにすることができるのは、『気球』は100%同意出来た、ということ。今回審査員として素晴らしい体験をさせていただいただけでなく、とても調和の取れた、幸せな体験だったと言える」
充実した内容だったことがうかがえる言葉で締めくくられ、2019年のフィルメックスも盛況のうちに閉幕しました。
今後の開催も楽しみですね。