恋に恋する13歳の危うい恋愛事情“ラ・ブーム”とは?
1980年代のパリが舞台の青春ラブストーリー『ラ・ブーム』をご紹介します。
長い夏休みが終わり、9月のパリでは新学期を迎えます。13歳のヴィックはパリに越して来たばかりの新入生。期待と不安に胸をふくらませていました。
ヴィックは初めてのサプライズパーティ(ブーム)で、マチューと出会い恋に落ちますが、父親の浮気が原因で両親が別居し、家族の絆にも大きな変化が起きます……。
クロード・ピノトー監督の『ラ・ブーム』は、本国フランスで動員450万人の大ヒットとなり、ヨーロッパ各国や日本をはじめとする、アジアでもヒットします。
1982年には続編『ラ・ブーム2』も制作された、80年代を代表するティーンエイジャー向け恋愛映画です。
映画『ラ・ブーム』の作品情報
【公開】
1980年(フランス映画)
【監督】
クロード・ピノトー
【脚本】
クロード・ピノトー、ダニエル・トンプソン
【原題】
La Boum
【キャスト】
クロード・ブラッスール、ブリジット・フォッセー、ソフィー・マルソー、ドゥニーズ・グレイ、アレクサンドル・スターリング、ベルナール・ジラルドー、シェイラ・オコナー
【作品概要】
リチャード・サンダーソンが歌う主題歌「愛のファンタジー」は、空前の大ヒットとなり若いラブストーリーに彩を添えました。
恋に恋する主人公のヴィック役には、オーディションで1700人の中から抜擢された、当時13歳のソフィー・マルソーです。
その愛らしさはフランスのみならず、日本のティーンエイジャーからも大人気となり、「007」シリーズ「ワールド・イズ・ノット・イナフ」(2000)では、ボンドガールも演じフランスを代表する女優となります。
父フランソワを演じるのは『はなればなれに』(1964)、『ムッシュ・アンリと私の秘密』(2018)のクロード・ブラッスール、母フランソワーズには『禁じられた遊び』(1953)のブリジット・フォッセーが務めます。
映画『ラ・ブーム』のあらすじとネタバレ
9月の新学期、13歳のヴィックはパリに引越す途中、遅刻ギリギリで新しい学校に到着します。
学校では同じく越して来たばかりのペネロプと同じクラスになり、新入生同士すぐに仲良くなりました。
ペネロプは低学年の妹がいて、両親は離婚しています。ヴィックに「デート(ファーストキス)の経験は?」と聞き、自分はイギリス人の男の子経験済みだと、おませな一面があります。
引越しの荷解きをするヴィックの父フランソワは歯科医で、母フランソワーズは漫画家です。かたずけをフランソワーズに押し付けて、フランソワは仕事に出てしまいます。
授業が終わったヴィックのところに、曾祖母のプペットが迎えに来ました。プペットは現役のハープ奏者で、スタジオに連れて行ってくれます。そして、夕食は彼女の行きつけ“ラ・クーポール”で、ひ孫との再会を喜びます。
プペットはおしゃれでアクティブなおばあちゃんです。著名人との交流が広く、付き合う相手の血統をとても気にします。
ヴィックは仲の良い両親の元でバレエを習い、優しい曾祖母に見守られ、恵まれた環境で学校生活を送っていました。
学校の友達の間では“ブーム”と呼ばれる、子供主催のホームパーティーが流行していて、ダンスを踊ったりする社交場として、出会いのチャンスになっていました。
そして、終末に開催されるブームに男の子から誘われるのが、一種のステータスでもありました。ヴィックとペネロプはクラスの気になる男子から、ブームに誘われ有頂天になります。
ブームに行くためには、親の承諾が必要で着て行く服にも悩みます。ヴィックはフランソワーズに相談をしたいのですが、彼女は漫画の売り込みで忙しく構ってもらえません。
一方、歯科医のフランソワも開業したばかりで忙しくしていました。そんなある日、かつて彼が付き合っていた愛人のヴァネッサが治療に来ます。
フランソワは引越しを機に、黙って手を切るつもりでいましたが、プライドの高いヴァネッサはあらゆる手段で居場所をつきとめ、彼女から“ふる”きっかけを作るよう要求します。
ヴィックはブームのことで友達と長電話をします。そこに帰宅したフランソワとフランソワーズに、ヴィックはブームに行ってもよいか交渉します。
友達の名前や連絡先、前もって親に電話しなくてもいいのか・・・・・・と、ヴィックを質問攻めにすると、子供扱いしないでと反論します。
そして、仕事にかこつけて食事や勉強の面倒も見てくれず、無視するようなことばかりして、娘の幸せには無関心だと抗議しました。
そんなヴィックの良き相談相手はプペットです。プペットはヴィックに負けを認めず、バレるような嘘はつかずに“口からでまかせ”を使いながら、タイミングをみて話すことが肝心で、静かでくつろいでいる時がチャンスだとアドバイスします。
ヴィックは母が漫画を描いている時に、くつろぎタイムを作ろうと、あれこれ気を回しますが、察したフランソワーズは着ていく服は貸してあげると、ブームの参加を許してあげました。
当日の晩、両親が車でブーム会場の家に連れて行きますが、“親づれ”が知れると恥ずかしいと、友達に見られないよう離れた場所で降りたりしながら、ヴィック念願の初ブームは叶いました。
映画『ラ・ブーム』の感想と評価
日本のことわざに「男心(女心)と秋の空」というのがありますが、映画『ラ・ブーム』は移ろいやすい恋のときめきを、思春期の少年少女の恋愛だけではなく、大人達の恋愛事情もシニカルに描いた映画でした。
フランスの婚姻事情や恋愛に関する価値観には、“自由”というイメージがあり、考え方も早熟なのかと思いましたが、本作の公開から40年を経た日本の恋愛観も欧米に近づいたように感じます。
例えば当時、10代だった人がこの映画を観ていたら、10代の子供が主催するダンスパーティーに、親が協力的なんて考えられないです。
また、両親が離婚していて、母子(父子)家庭であることをオープンにできる感覚に驚いた人も多いでしょう。
それが今の日本でも珍しいことではなくなっていますし、子供のイベントを親が一緒に盛り上げ、楽しむのも普通になってきたからです。
また、日本のことわざに「子は鎹(かすがい)」とありますが、本作のフランソワとフランソワーズの夫婦も子供への愛情から、壊れかけた夫婦仲もつなぎとめることができました。
そして、フランスは“個人の人生を重んじる”国でもあります。しかし、子供をほったらかしにして、仕事を優先するフランソワーズに、不満をぶつけるヴィックの気持ちはよく理解できます。
娘に過干渉になってしまう理由は、フランスで女の子は“プリンセス”扱いで育てられるともいわれ、劇中の女の子達は男の子にちやほやされればされるほど、女の子であることへの価値を高めます。
恋に恋し思い通りにならない恋愛よりも、より自分にふさわしい相手へと気持ちを移していく……。そんな“恋愛大国フランス”ならではの恋愛観が、ティーンエイジャーの頃から具わっているのだと感じさせました。
曾祖母のプペットがヴィックに伝授した恋愛の極意、3カ条が印象的でした。①負けを認めないこと。告白もしない。②バレるような嘘はつかない。③新たな試みとして「口から出まかせ」をいう。
フランソワの浮気相手もフランソワーズ、ヴィックそして、プペットも負けを認めない女性で、告白もしないプリンセスとしての気高さがありました。
そして、わざわざバレるような嘘をついてしまう激情もあり、出まかせを言う愛嬌で許されるのが、“フランス女性”というイメージが湧いてきます。
今、日本人の13歳が『ラ・ブーム』を観たらどんな感想を抱くだろうか? 純粋に知りたい気持ちになります。案外、欧米の“プラム”や“ブーム”のような、子供主催のダンスパーティーに憧れを持つ子は少ないかもしれません。
なぜなら日本が発祥の“カラオケ”で親の了承の下、パーティーを子供たちが主催しており、親もそれを見守っているからです。
その親は当時のティーンエイジャーです。影響だけが思考に生き続け、無意識に子供に対してお友達感覚であったり、寛容な気持ちが芽生えたのだと思えてなりません。
まとめ
1980年に主人公と同世代だった日本人にとって、ソフィー・マルソーの大人びた感覚や可愛らしさは、男の子だけにとどまらず女の子のファンも多く生みだしました。
また、13~14歳といえば中学生ですから、フランスのティーンエイジャーのライフスタイルは、日本の大人からは容認されにくく、少年少女の憧れは大きかったでしょう。
しかし、日本でもライフスタイルや恋愛観など、だいぶ欧米化されてはいるので、今は別段カルチャーショックをうけることもないですね。
逆に価値観が進化しすぎて、恋愛の必要性が求められていないような、寂しさすら感じることもあります。
『ラ・ブーム』の“面倒くさい恋愛”が、現代の若者に新鮮味を与えてくれるのでは……と期待させます。そして、当時同世代だったオーバー50の男女には、忘れかけたときめきを思い出させてくれる作品でしょう。