今のこの感情がすべて。
君に出会えたことがすべて。
三秋縋の小説『恋する寄生虫』を、柿本ケンサク監督が林遣都と小松菜奈をW主演に迎え実写映画化しました。
潔癖症の青年と視線恐怖症の女子高生。孤独な2人が出会い恋に落ちる。しかし、その感情の裏には「寄生虫」の存在がありました。
この恋は運命なのか、それとも虫の仕業なのか。切なくも美しい異色のラブストーリー『恋する寄生虫』。原作との違いを比較しながら、映画『恋する寄生虫』を紹介します。
映画『恋する寄生虫』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【原作】
三秋縋
【監督】
柿本ケンサク
【キャスト】
林遣都、小松菜奈、井浦新、石橋凌
【作品概要】
岩手県出身の新鋭小説家・三秋縋の2016年発行の小説『恋する寄生虫』の映画化。
監督は、『UGLY』『LIGHT UP NIPPON 日本を照らした、奇跡の花火』の他に、CM、ミュージックビデオなど多くの映像作品を手掛けてきた柿本ケンサク監督。
主人公の潔癖症で苦しむ青年・高坂を林遣都、視線恐怖症の女子高生・佐薙を小松菜奈が演じます。実力派俳優の2人が初共演にしてW主演作となりました。
主題歌は人気ラッパーAwichの「Parasite in Love」。映画化に伴い書き下ろされた極上のラブソングとなっています。
映画『恋する寄生虫』のあらすじとネタバレ
高坂賢吾は、防護マスクと防護服を身にまとい、消毒液の匂いがする部屋でひとり、パソコンに向かっていました。手洗いのし過ぎで手はただれています。彼は極度の潔癖症でした。
高坂が開発しているのは、「Silent Night」というマルウェア。そのコンピューターウィルスは、12月24日のクリスマイブに発動され、あらゆる感染端末の通信機器をオフにするというものでした。世界へのささやかな復讐。
8歳の時に両親の自殺を目の当たりにし、潔癖症を患い誰とも接することも出来ず、孤独な人生を歩んできました。「あらゆるものに拒絶された存在、それが自分」。
高坂はその日、手袋とマスクをしバスに乗っていました。つり革も持てず、周りの人たちからはウィルスが湧き出てくるようです。気分が悪くなり、たまらず途中下車をした高坂は気絶してしまいます。
そこを通りかかった女子高生。頭にがっしりとしたモニターヘッドフォンをし、どこか冷めたまなざしの少女の名は、佐薙ひじりといいます。
人の目が怖い視線恐怖症の彼女は、ヘッドフォンで聴覚を遮断しないと人ごみを歩くことも出来ません。
また佐薙は、自分の頭に「虫」がいることを知っていました。その寄生虫はいずれ脳を食い尽くし自分は命を落とします。この「虫」は感染する。「だから私はこの世界を拒絶した」。
高坂が目を覚ますとそこは病院のようでした。佐薙の祖父・瓜実の運営する「虫」の研究施設です。佐薙は、高坂から自分と同じ絶望の匂いを感じ取っていました。
朦朧とする頭で帰った高坂は、それからほどなくして和泉という男から脅迫を受けます。「マルウェアの開発をバラされたくなかったら、あるガキの面倒をみろ」。
約束した場所に現れたのは、佐薙でした。佐薙は和泉のことを知っているようでした。「報酬の半分をもらうことで協力してもいい」と言います。
ズカズカと部屋に上がり込みベッドに制服のまま寝ころぶ佐薙に、高坂は気絶。自分の潔癖症のことを打ち明けます。
佐薙はそのことを聞いても「知っていた」と、気遣うこともありません。高坂は、いつしか佐薙のペースにのまれていきます。
そんな一見強そうな佐薙でしたが、彼女もまた体への負担から頻繁に鼻血を流すようになっていました。
ある日、男たちに絡まれヘッドフォンを取られた佐薙がパニックを起こします。「お願い、助けて」。必死の思いで高坂に電話をかけます。
駆けつけた高坂は、じっと側で話を聞いてくれました。母親の死、視線恐怖症、押し寄せる絶望感。2人は互いの気持ちを分かり合える大事な存在となっていました。
それから2人は、普通の生活を目指してリハビリを始めます。バスに乗って出かけ、店で注文したものを食べ、散歩をする。
そして、クリスマスイブには高坂が開発したウィルスで機能を失うであろう街の中で、2人で手を繋いで歩こうと。「ざまぁみろって感じ」。
映画『恋する寄生虫』の感想と評価
ウェブ小説で注目され、2013年に小説家デビューを果たした三秋縋の小説『恋する寄生虫』の映画化です。これまでにコミック化もされた人気作品となっています。
社会不適合者の男女が出会い恋に落ちる。しかし、それは「虫」の仕業でした。2人の本物の心はどこにあるのか。見つけることは出来るのか。
恋を芽生えさせる「虫」の存在は、一見ロマンティックなファンタジーのようでいて、実は宿主を崩壊させてしまうという恐ろしい一面を併せ持っていました。
映画化に伴いもっとも注目した点はビジュアルです。映像作家としても活躍している柿本ケンサク監督が手がけた『恋する寄生虫』の世界は、原作よりもスタイリッシュに感じました。
ダークな色合いの中、流れてくる洒落た音楽。小気味いい台詞のやり取り、グロテスクな創造世界。「寄生虫」の躍動感。視覚、聴覚を刺激する仕掛けに引き込まれます。
また、林遣都と小松菜奈のどこか浮世離れした存在感と演技が、原作のイメージを肥大させリアルに浮き上がらせます。
2人が演じる潔癖症の高坂と視線恐怖症の佐薙は、クリスマスイブに手を繋ぎ歩くことを目標にリハビリを重ねるうちに恋に落ちていきます。
原作では、このクリスマスイブが最も幸せな時間となり、そこから「虫」の存在が浮上するのですが、映画ではこのクリスマスイブがエンディングの舞台となっています。このように、映画と原作との違いをいくつか紹介します。
虫の特徴
この物語で欠かせない「虫」の存在。人の頭に住み着き、繁殖のために宿主どうしを惹き合わせる寄生虫です。そして、時に宿主を自殺に追い込みます。
映画では、この「虫」が住み着く人間の特徴までは踏み込んでいません。高坂と佐薙の両親が虫の宿主だったことから、遺伝的なものと捉えられます。
原作では、さらに虫は心の弱い人間に住み着くという特徴が挙げられています。負の感情を餌にする虫の存在は、自殺願望のある人間の心を軽くし生きる力を与えていたとも言えます。
高坂や佐薙は、虫がいたから生かされていた存在でした。虫が死を招くと思っていた瓜実医師や和泉の研究結果が最後に覆されます。
「虫」の存在意義に振り回される感が強かった原作より、映画では「虫」の存在を肯定し物語が進んでいく印象を受けました。
映画で登場する「寄生虫」は、頭の中で血管の中をゆらゆらと漂うクラゲのようなビジュアルをしています。その姿は何とも神秘的で美しくもあります。
和泉の正体
高坂に「佐薙の面倒を見ろ」と押し付けてくる謎多き男・和泉。映画で演じたのは、ミステリアスな役が似合う俳優・井浦新。
原作では、自分の娘が「虫」で亡くなった父親という設定でしたが、映画化では自ら「虫」の宿主であり、佐薙の母と恋に落ちたという役どころになっています。
和泉は、研究のため敢えて虫を駆除せず、自分の体を持って実験をしていました。虫の駆除を拒み死んでしまった佐薙の母を、今でも愛しているというのが、和泉の出した答えでした。
それは、虫のせいなのか和泉の本当の心なのかは分かりませんが、虫との共存、虫の宿主どうしの共存が可能ということを意味していました。
恋と虫の行方
「虫」の駆除治療をした高坂と佐薙が最後どうなるのか。原作では、治療前のキスで互いの虫が融合しており、高坂の虫は突然変異を起こし生き残り、佐薙の虫は消えてしまいます。
虫がいなくなっても佐薙は、高坂を愛していました。本当の恋だったと証明した佐薙でしたが、虫がいなくなったことで以前の弱い心が押し寄せ死へと向かっていきます。
佐薙は「自分の中にも虫が残った」と高坂に嘘を付きます。愛している人に愛されているうちに死にたい。それはそれは、寂しいエンディングを迎えます。
映画では、駆除治療をしたあと、虫は双方に卵を残しています。高坂と佐薙はその事実を知らないまま再び出会います。
互いを愛する気持ちは、本当の心か、やはり虫の仕業か。もはや、どうでもいいことでした。「今この感じる気持ち、互いが出会えたことが、何より素晴らしいことだ」と、映画では強調されています。
まとめ
三秋縋の同名小説を、林遣都と小松菜奈のW主演で映画化した『恋する寄生虫』を紹介しました。
私たちの体には100兆個をこえる微生物・細菌が存在すると言われています。現実の世の中でもウィルスが猛威を振る昨今、「恋する寄生虫」が頭の中に住み着くことがあるかも!?
あなたの恋、「虫」の仕業かもしれませんよ。