『ユリゴコロ』などで知られる沼田まほかるのベストセラー小説を、映画『凶悪』の白石和彌監督が映画化。主演は蒼井優と阿部サダヲ、共演に松坂桃李、竹野内豊。
第22回釜山国際映画祭に正式出品された本作は、かつての恋人の失踪を知ったことから、意外な秘密の扉が開いていく…。
CONTENTS
1.映画『彼女がその名を知らない鳥たち』の作品情報
【公開】
2017年(日本)
【原作】
沼田まほかる
【監督】
白石和彌
【キャスト】
蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、村川絵梨、赤堀雅秋、赤澤ムック、中嶋しゅう、竹野内豊
【作品概要】
人気作家沼田まほかるのミステリー小説を『オーバー・フェンス』や『東京喰種トーキョーグール』で知られる蒼井優と、『謝罪の王様』や『殿、利息でござる!』の阿部サダヲによる共演で映画化。
演出は『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』などで異彩を放つ白石和彌監督。本作は韓国で開催された第22回釜山国際映画祭に正式出品されました。
2.映画『彼女がその名を知らない鳥たち』のあらすじとネタバレ
下品で汚らしい男、陣治と暮らす十和子。
仕事もしないで怠慢な生活を送る十和子は、デパートの時計販売コーナーに電話でクレームを入れますが、店員の応対に理不尽に腹を立て、一方的に電話を切り、外出します。
そこへ同棲している年上の男、陣治から電話がありますが、十和子は「用が無いなら電話してくんな」と冷たくあしらいます。
レンタルDVD店でクレームを入れていた十和子は、昔の恋人である黒崎に似た男を見かけて店を出ます。
陣治と生活している現在も、十和子は黒崎の事が忘れられないのでした。
夜になり帰宅した陣治は、十和子の為に夕飯を作り、マッサージまでします。
十和子の事をいつも考えて、尽くしてくれる陣治ですが、見た目が汚く下品な陣治を、十和子は毛嫌いして突き放します。
それでも陣治は十和子の事を考え、遊ぶお金を与えるなどして、優しく接するのでした。
妻子持ちの男、水島との出会い
クレームを入れたデパートの、時計販売係の主任である水島から、十和子に電話がかかってきます。
十和子が使用していた、壊れた腕時計の代わりに「何本か腕時計を持参してお詫びしたい」と提案する水島。
ですが、十和子は水島の提案を拒否し、電話を一方的に切ってしまいます。
しかし、十和子は水島が働くデパートに出かけ、その姿を確認。
陣治とは真逆のお洒落な容姿が気に入り、一度は断った時計の交換を受け入れて、自宅に水島を訪問させます。
時計を何点か提案する水島ですが、それらの時計は水島が選んだ物では無く、業者に選ばせた事を知り、十和子は泣き出してしまいます。
水島は目の前で泣き出した十和子の唇を突然奪い「申し訳ありません、こうするしか無いように思いまして」と謝罪をしますが、十和子が水島を男性として受け入れ、更に激しい接吻を強要します。
その時、陣治から電話がかかり、水島は逃げるように立ち去るのでした。
水島との関係を深める十和子
十和子は、デパートで働く水島を訪ね、そこで水島が選んだという時計をプレゼントされます。
水島には妻子がいる事を知りながら、男女の関係を深める十和子。
水島と別れ、帰宅途中の十和子の前に、帰りが遅い十和子を心配して自転車で探し回っていた陣治が現れます。
しかし十和子は、またも陣治を突き放すのでした。
次の日、十和子の帰りが遅い事を心配した陣治から連絡を受けた、十和子の姉の美鈴が、2人が住んでいるマンションを訪問します。
美鈴は、十和子が黒崎に会っていたのではないかと疑いますが、陣治は「それだけは無い」と否定します。
美鈴の問いかけに逆上した十和子は、部屋に閉じこもってしまい、呆れた美鈴は帰宅します。
再び黒崎への思いが強くなった十和子は、黒崎に電話をしますが、すぐに切ってしまいます。
垣間見える陣治の凶暴性、行方不明になった黒崎
ビデオ映像を見ながら、黒崎との思い出に浸り、眠ってしまった十和子。
そこに陣治が帰宅し、ビデオを停止させ、十和子に外食を提案します。
食事をしながら、働いている建設現場の上司の悪口や、「いつか小説を書いてお金持ちになる」等の妄想話をする陣治に、十和子はうんざりした様子を見せます。
その帰り道、十和子と陣治が乗車した満員電車で、後から駆け込んで来た男性客に、陣治は車内の奥に弾き飛ばされます。
男性客は、陣治を弾き飛ばした事に謝罪もせず、十和子を笑顔で見つめています。
電車が発車するその瞬間、突如陣治が男性客をホームに突き飛ばし、倒れた男性客を冷たい視線で見つめ続けるのでした。
その異常な行動に、十和子は恐怖を感じます。
十和子を付け回す陣治、黒崎殺害を疑う十和子
水島との不倫を続ける十和子、陣治はその事に気付いた様子で、十和子の外出を止めようとしますが、十和子は陣治を振り払います。
水島と会い、タクシーに乗って帰宅する十和子は、車内から自転車に乗った陣治の姿を目撃、明らかに2人の様子を監視して追いかけて来ている事を確信します。
十和子は家には帰らず、美鈴の家に宿泊します。
その際に、黒崎が行方不明になった事を知った美鈴は、陣治が「十和子と黒崎が会う事は絶対に無い」と言っていた事を思い出し、陣治は、黒崎が行方不明になった事を知っているのではないかと十和子に伝えます。
十和子は「陣治が黒崎を殺害したのではないか」と疑いを持ちますが、十和子を迎えに来た陣治により、連れ戻されてしまうのでした。
3.映画『彼女がその名を知らない鳥たち』の感想と評価
「共感度0%、不快度100%」のキャッチコピーの通り、登場キャラクター全員、ろくでもないというこの作品。
松坂桃李や竹野内豊が、よくキャスティングのオファーを受けたなという程、最低な男を演じています。
映画の冒頭にさまざまな会社にクレームを入れまくる十和子の嫌な女ぶりや、音を食べながら食事をし、食べている途中で抜けた歯を平気で食卓に置く陣治の下品さなど、駄目っぷりを見せつけられ、「宣伝文句通りの映画なんだ」と思いながら見ていました。
しかし、それはラストに近付くにつれて、大きく覆されます。
映画の初見はサスペンス色の強い映画として楽しめ、2度目以降は、拒絶され続けても十和子を守り続ける陣治の悲しいドラマとして楽しめる、2017年は邦画の純愛映画が多いですが、本作も“純愛映画”と言って過言ではないでしょう。
また、十和子と陣治だけではなく、登場キャラクター全員が、最初の印象と180度違う顔を見せるようになり、ことごとく人物の第一印象が覆されるのも特徴。
参考映像:カーティス・ハンソン監督(脚本・製作)『LAコンフィデンシャル』
例えば、1997年にカーティス・ハンソン監督が制作した映画『LAコンフィデンシャル』と同様に、登場キャラクターの第一印象が映画が進むにつれて覆されていく、脚本と演出が見事な作品でした。
本作『彼女がその名を知らない鳥たち』は、同じぐらいの完成度の高さを感じました。
前述のキャッチコピーで観客を選ぶ映画のように思われるかもしれませんが、万人にお薦め。
特に誰かを本気で好きになったけど、振り向いてもらえなかった経験のある男性は号泣必死。
サスペンス、どんでん返し、感動、映画の面白さが全て詰まった傑作です!
まとめ
2013年に『凶悪』、2016年には『日本で一番悪い奴ら』で、人の道を外れてしまった人達の生き様をエネルギッシュに描いてきた白石和彌監督。
これまでの実録映画とは違うテイストですが、白石監督自身が原作小説にほれ込んだ事でこの作品は完成しました。
全くの知識なしで観賞すれば、観客の第一印象をことごとく裏切り(いい意味で)観客を振り回すストーリー展開に感心し、陣治の行動、セリフ全てが観賞中と観賞後では印象が変わってしまう、緻密な構成に驚かされる事でしょう。
R15指定映画で、人を選ぶ印象を持たれてしまうかもしれませんが、万人に共通する“誰かを強く思う心”を描いた本当に素晴らしい映画です。
不快感は必ず共感に変わります、本当にオススメ作品です。