『リメンバー・ミー』(2009)を20年以上の時を経てリメイクした『同感 時が交差する初恋』
映画『同感 時が交差する初恋』は2009年の『リメンバー・ミー』のリメイク版です。
1999年。韓国大学機械工学科に通うヨンは、ある日、無線機でムニという女性に出会います。
そして話すうちに同じ大学に通っていることを知った2人は、大学構内で会う約束をします。しかし、約束の時間になってもムニは現れません。
それもそのはず、ムニは2022年に同じ大学に通っていたのです。時を超え交流する2人の奇跡的な出会いの先にあるものとは……。
ヨンを演じたのは、映画『ファイ 悪魔に育てられた少年』(2013)、ドラマ『怪物』(2021)のヨ・ジング。
ムニ役には、映画『メタモルフォーゼ/変身』(2019)、ドラマ『今、私たちの学校は…』(2022)のチョ・イヒョンが演じました。
『告白』(2021)の女性監督のソ・ウニョンが監督を務めました。
映画『同感〜時が交差する初恋〜』の作品情報
【日本公開】
2024年(韓国映画)
【原題】
동감(英題:Ditto)
【監督・脚本】
ソ・ウニョン
【キャスト】
ヨ・ジング、チョ・イヒョン、キム・ヘユン、ナ・イヌ、ペ・イニョク
【作品概要】
キム・ハヌル、ユ・ジテの主演の映画『リメンバー・ミー』(2000)を20年以上の時を経てリメイク。同作は、『時の香り リメンバー・ミー』(2001)として、日本でもリメイクされています。
本作は、時代設定を1999年と2022年に変えているほか、『リメンバー・ミー』(2000)では、過去の時代を生きているのが女学生のソウン、現代を生きているのがインと本作とは過去と現在における男女が入れ替わっています。
また、「헐!(ホル)」=「え!?、マジ!?」など現代語の流行り言葉を使って時代のギャップを表したり、公衆電話やポケベル、携帯電話など今では“レトロ”な90年代のアイテムもたくさん盛り込まれています。
監督を務めたのは、『告白』(2021)を手掛けたソ・ウニョン。
映画『同感 時が交差する初恋』のあらすじとネタバレ
1999年。韓国大学機械工学科に通う3年生のヨン(ヨ・ジング)は、新入生で主席入学のハンソル(キム・ヘユン)がガイダンスにも参加していないので探してくれと助教授に頼まれます。
公衆電話に伝言を残したヨンの元にハンソルから連絡が来ます。学生会館の前で集合したヨンは、ハンソルに頼まれて学校を案内したり、サークルを回ったりします。
歓迎の飲み会の席で、酔った先輩が工学部に入るなんてどうかしていると絡みます。1999年は、IMF危機(アジア通貨危機)の影響で就職氷河期と言われ、先輩たちの間には諦めの空気が漂っていました。
ハンソルはそんな先輩に怯むことなく喝を入れます。ハンソルが工学部を選んだのは、自分の父親が大企業の影響で倒産に追い込まれてしまったことから、大企業に入って父のような中小企業を支援したいと思ったからと言います。
自分の夢を持ち堂々と意見を言うハンソルにヨンは惹かれていきます。ハンソルに「先輩の夢は?」と聞かれ、思わず「君の唇にキスをしたい」と言ってしまいます。
気まずくなったところにヨンの親友のウンソン(ペ・イニョク)が通りかかり、ヨンは約束があったと言って逃げるようにその場を去り、その後ヨンは気まずくなってハンソルを避けてしまいます。
そんな時、HAM(アマチュア無線機)から声が聞こえてきてハッとします。そのHAMは、ハンソルが使いたいと言っていたのを聞き、ウンソンから借りたものでした。
ヨンはHAMを通してムニという女性と知り合い、ムニも自分と同じく韓国大学の学生であることを知ります。そして2人は学生会館の前で会うことにします。
約束の日、ヨンは2時間近く待っていましたが、ムニは現れませんでした。同じくムニも雨の中2時間も待っていたと言います。
互いに相手が嘘をついていると思っていましたが、実はムニは1999年ではなく2022年に韓国大学に通っており、2人は時を超えてHAMで交流していたのでした。
話が噛み合わないまま、2人は交流を続け、ヨンが恋愛相談をしたことで2人は仲を深めていきます。
映画『同感〜時が交差する初恋〜』の感想と評価
キム・ハヌル、ユ・ジテの主演の『リメンバー・ミー』(2009)を20年以上の時を経てリメイクした映画『同感〜時が交差する初恋〜』。
『リメンバー・ミー』(2009)では、2000年と1979年が舞台になり、1979年を生きるのが女性、2000年を生きるのが男性でした。
本作は、リメイク元が現代として描いた2000年代に近い1999年が過去の時代として描かれているのが面白い点であり、過去と現代を生きる男女が逆転しているのも興味深い点です。
世紀末である1999年はIMF危機により、就職氷河期となり、ノストラダムスの予言などが囁かれていた時代でした。そんな時代を生きるヨンは本当は作家になりたかったけれど、その夢を諦めて機械工学科に進みました。
大学で自分探しをするつもりだったのに、日々に追われているそんな感覚を持っていたヨン。ムニも同じく大学で自分探しをするつもりでいたのに日々に追われ焦りを感じていました。
そのような2人の姿は今を生きる若者にも通じるものがあるでしょう。特に現代は現実的な夢を追うことや、学歴主義が強くなっている傾向にあるように感じます。
自分探しをしている余裕を与えられていないような息苦しさと焦りを抱える若者も多いのでないでしょうか。ヨンにとって夢をもち突き進むハンソルの姿は眩しく、惹かれる存在であったのでしょう。
一方、ムニはヨンと交信することで恋に真っ直ぐで不器用な姿に勇気をもらいます。1999年はポケベルや携帯電話が普及し始めた頃とはいえ、現代のように簡単に人と繋がれる時代ではありません。
だからこそ、ヨンとハンソルの恋愛は現代の感覚からすると、どこかもどかしい恋愛かもしれません。
しかしそれは、逆に考えると現代は簡単に繋がれるようになったからこそ忘れてしまっているものが1999年にはあったのではないか、とムニは感じるようになります。
現代ではどこか気恥ずかしいとされる“ロマンス”を信じ、真っ直ぐに恋愛にぶつかっていく気持ちをムニはテーマにします。
“愛”と“夢”というどの世代にも通じる普遍的なテーマをピュアな純愛と共に描きつつ、その中に現代らしさとニューレトロを織り交ぜて今の時代ならではのリメイクになっています。
特に印象的なのは、1999年代のプリクラや、ゲーム機、ポケベルに公衆電話などレトロブームが流行りの現代の若者にもグッとくる、そして上の世代にとっては懐かしいアイテムの使い方です。
それだけでなく、Siriが映画のネタバレをしてしまったり、ヨンには現代の流行り言葉が全然通じなかったり……と、イマドキなアイテムの使い方も印象的です。
ピュアな恋愛にキュンとし、見終わったあとは何か大切なことを教えてもらったような真っ直ぐな気持ちになる映画です。
まとめ
『同感〜時が交差する初恋〜』は、HAMを通して奇跡的な交信をするヨンとムニの意外な繋がりがわかったところで物語が加速していきます。
ヨンの親友であるインソンと、初恋相手であるハンソルが結婚し、生まれたのがムニであるということ、ヨンとムニを橋渡しする存在としてカメが印象的な役割を持っています。
最初、カメを助けようとして骨折したのは、ヨンの親友であるインソンでした。インソンに代わって面倒を見ているのがヨンです。
そして、そのカメが逃げ出し、探しているところにカメを見つけたインソンとハンソルの姿をヨンは見つけてしまうのです。しかし、ヨンは決して愛を諦めた被害者ではなく、いずれ終わりが来る愛であったことを悟ったのではないでしょうか。
どんなに好きでもずっと上手くいくわけではありません。愛を選べば失うものも時にはあります。中途半端な自分にけじめをつけ、夢を追うことをヨンは決意したのではないでしょうか。
しかし、それは決して簡単なことではなく、自分の気持ちに整理をつけインソンとハンソルがうまくいくためにも姿を消す必要があったのかもしれません。
エンディングで明かされる種明かしの一つに傘が登場します。ムニとヨンが初めて会う日、ムニは雨の中2時間近くヨンを待ち続けます。
その後ムニとヨンは言い争いになりますが、それは1999年のヨンであり、2022年のヨンは、2022年のムニがこの場所で1999年の自分を待っていることを知っていたのでしょう。
そのためヨンは、傘を持ってヨンジに「必要になるだろうから」と言って渡します。もらった傘をもちヨンジは、雨の中待っているムニの元に向かうのです。
エンディング後のシーンはそこまでしか映しませんが、その場面が映し出されたことで、ヨンジのあの時の行動は実は…と観客は想像を膨らませます。
それだけでなく、ムニが初めてヨンにブックカフェでであった時、その左手には指輪があります。ヨンも運命の人に出会い結婚したのかもしれないと観客に思わせるさりげない演出です。
そのように全てを知ってもう一度見直したくなる良さがあるのも、本作の魅力の一つです。