映画『人数の町』は2020年9月4日(金)より全国ロードショー公開!
映画『人数の町』は、ある一人の男が、さまざまな自由が約束されながらも「その土地から離れることはできない」という不思議な町をおとずれ、奇妙な生活を送っていくうちに、町の謎にたどり着く様を描いた新感覚ディストピア・ミステリーです。
主演の中村倫也が演じる主人公が町で出会ったヒロイン・木村紅子役を務めたのは、女優の石橋静河。今回は石橋さんに現場や撮影の様子とともに、映画の世界観から受けた印象や、物語から考えさせられたことなどについて語っていただきました。
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「町になびかない人間」を演じる
──本作がどのような作品であると捉えられた上で、実際の撮影に入られたのでしょうか。
石橋静河(以下、石橋):本作は、もし現実にあるとしたら本当に怖い物語だと感じられました。脚本を読み進めていけばいくほど、自分の人生には起こり得ないようなフィクションというよりも、「ひょっとしてこういった物語は、実は姿や形を変えて現実に存在しているのでは」と思えて、より一層怖くなったんです。
一方で、作品に参加するにあたって荒木伸二監督と最初にお会いした際、物語の概要や作品に込めたいメッセージなどを共有させていただいたんですが、荒木監督の説明はとても分かりやすかったのですぐ納得できましたし、本作の世界にはどのような空気が漂っているのかなどの雰囲気をつかむことができました。それが撮影に入る何週間か前だったんですが、おかげで現場には非常に入りやすかったです。
──その際、荒木監督からは紅子という役がどのような人物だと説明されましたか。
石橋:「融通の利かない人でいてほしい」という言葉をおっしゃった気がします。私が演じた紅子という役柄はとにかく町に違和感や不信感を抱き、馴染もうとしない人物なんですが、だからこそ実際に映画を観ている方の目線に近い、ある意味では物語の案内人といえる役割も担っていると考えました。
つまり、荒木監督の言葉は「町になびいてしまったら、この町の住人になってしまう」「そのことを紅子を演じる上で大事にしてほしい」という意味だと解釈したんです。だからこそ彼女は正義感や責任感なども強いだろうし、得体の知れない町に立ち入ることに抵抗感があったかもしれない一方で、自分の妹、大切な人間がどこかへ行ってしまったという問題に対してもの凄い葛藤も覚えたと思います。そういった紅子にとっての細かいポイントは、荒木監督と話しながら理解していきました。
演じていく中で「巻き込まれていく」
──実際の現場で他のキャスト陣と撮影を進めていく中で、ご自身の役柄に対する意識の変化などはありしましたか。
石橋:物語の序盤、紅子はこの町からすれば異質な存在で、逆に彼女からすればこの町の方がとても気味の悪い存在と感じているという立場です。ですが、物語が展開していく中でその対照的な立場に変化が生じていきます。この町に足を踏み入れていろんな出会いを経験し、分からなかったことが分かっていくうちに、彼女の持つ正義感や責任感といった感情が「妹を救いたい」という思いだけでは成立できなくなっていくわけです。
その中で、彼女のいわゆる「忖度」のような行動や展開がだんだんと現れていくんですが、演じる上でも変化をつける必要があると思いました。ただ、その変化は自分から発していくものではなく、周囲の人々や思惑に抗いつつもどんどん巻き込まれてしまう状況を通じて生じるものだと考えました。
そういった意味では、紅子を巻き込んでいく側の人々を演じられたみなさんは本当に個性的でした。ですから私自身はとても演じやすかったですし、みなさんが演じる登場人物たちに対して「怖い」「嫌だ」という感情をリアルに抱きながら演じられたと感じています。
「嫌な場所」で「不思議な場所」だった
──紅子に訪れる変化の原因でもある「巻き込まれていく」という感覚、言うなれば「町に取り込まれていく」という感覚を、彼女を演じた石橋さんご自身も感じることはありましたか。
石橋:私自身が「町に取り込まれた」という感覚に陥ることはそれほどなかったんですが、作中で描かれていく心境がよく分かる時はありました。それは、撮影現場となった場所の雰囲気によるものがあったと思います。
建設途中で計画が頓挫したらしいホテルを使用して撮影を行ったんですが、とても気持ちが悪くて、不気味な建物だったんです。そして、その周りにある場所自体もいい意味で気持ちが悪かったといいますか(笑)。お芝居の点でいえば非常に演じやすい、本当に「嫌な場所」でした。
ただそこは「不思議な場所」でもありました。工事をしていたであろう大工さんの道具などがそのまま置いてあって、建設中止の一報を受けて全員がすぐに出ていったとしか思えないほどに、当時の状況がそのまま残っている。そんな場所だったんです。今までに見たことのない場所だったので、不安定な気持ちにもなりました。ですから、撮影を終えてその場所を離れる時にはとてもホッとした気分にもなったんです。
そこで人々がどのような営みをするかによって場所の空気は変わるそうですが、かつてあったはずの「空気」だけがその場所からなくなってしまうことで、言い様のないとても不思議な雰囲気を作り出されることがある。そんな発見をしました。
観るものに委ねられる映画の姿
──撮影を終え、完成された映画を改めてご覧になった際には、ご自身の役や作品に対する認識が変わった点はありましたか。
石橋:紅子の最終的な変化についてはいろいろと考えました。彼女が最初に抱いていた目的は自分自身でも気が付かない間に変わっていってしまうわけです。ただ、最終的にそれはそれで幸せなのかもしれない。完成した映画からは「よく考えると、それはよいことなのか?」とどうしても悩んでしまう、答えの出せなさをより感じられたんです。
新型コロナウィルスによる混乱が拡大しはじめたころに初号試写以来でこの作品を観返したのですが、その状況の中で映画を観るとまた思ってもみなかった発見がいろいろとありました。もちろん映画を制作している際には、そんなことが起きるとも思っていない、想像すらしていないまま作っていましたが、混乱を経て映画を観ることで作り手の意図すら超えた作品の捉え方ができると感じられたんです。
本作は何回も観ていくうちに「こういうことだったのか」と様々な捉え方ができる作品だと思いますし、どう捉えるのかは観客のみなさんに委ねられています。それはとても不気味である一方で、この映画の面白い点だと思っています。
インタビュー/河合のび
撮影/田中館裕介
構成/桂伸也
ヘアメイク/秋鹿裕子(W)
スタイリスト/吉田恵
石橋静河プロフィール
1994年生まれ、東京都出身。4歳からクラシックバレエを始め2009年からアメリカ・カナダにダンス留学、2013年に帰国してコンテンポラリーダンサーとして活動します。
2015年から女優としての活動をスタートし、2017年の『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』にて初主演。同作では第60回ブルーリボン賞、第9回TAMA映画賞、第27回日本映画批評家大賞など多くの新人賞を獲得しました。2018年にはNHK連続テレビ小説『半分、青い。』に出演、そして2020年FOD及びアマゾンプライム配信ドラマ『東京ラブストーリー』に赤名リカ役で出演しました。
映画『人数の町』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【脚本・監督】
荒木伸二
【音楽】
渡邊琢磨
【キャスト】
中村倫也、石橋静河、立花恵理、橋野純平、植村宏司、菅野莉央、松浦祐也、草野イニ、川村紗也、柳英里紗、山中聡
【作品概要】
衣食住が保証され、セックスで快楽を貪る毎日を送ることができる。そして「出入りは自由だが、けっして離れることができない」という謎の町を舞台に、借金で首が回らなくなった果てに町に足を踏み入れた主人公が、出会う人々との交流を経て「町」の謎に迫っていく新感覚ディストピア・ミステリーです。
キャストには主人公・蒼山を中村倫也、ヒロイン木村紅子役を令和版『東京ラブストーリー』で赤名リカ役を演じ話題となった石橋静河が担当。また本作で映画初出演となった『ニッポンノワール-刑事Yの反乱-』の立花恵理、『映像研には手を出すな!』に出演の山中聡など、フレッシュな面々が顔をそろえています。そして脚本・監督を、松本人志出演の「タウンワーク」CMやMV制作などを多数手がけ、本作で初の長編映画に挑戦した荒木伸二が務めています。
映画『人数の町』のあらすじ
借金取りに追われ暴行を受け、人生に絶望していた蒼山は、ある日黄色いツナギを着たヒゲ面の男に助けられました。その男は蒼山に「居場所」を用意してやると告げ、彼をある奇妙な「町」に連れていきます。
そこでは、初対面の住人同士が独特の挨拶を交わすルールがあったり、住人が交流するためのプールでは、気に入った女性や男性を誘って自由にセックスできたりと、一見すると楽に暮らせるパラダイスのような町。
しかし衣食住を保証してもらうためには、簡易な労働をしなければなりません。その仕事内容は、他人に変わって選挙の投票をしたり、街頭に寝そべってデモをしたりと奇妙なことばかりですが、住民たちは深く考えることなく仕事を受け入れていました。
「出入りは自由だが、けっして離れることができない」という町の謎を、蒼山は少しずつ解き明かしていきます……。