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【ツァン・ツイシャン監督インタビュー】映画『非分熟女』女性の性解放を描いた背景とその理由|OAFF大阪アジアン映画祭2019見聞録17

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  • Cinemarche編集部

映画『非分熟女』ツァン・ツイシャン(曾翠珊)監督インタビュー

第14回大阪アジアン映画祭で上映された映画『非分熟女(英題:The Lady Improper)』

本作は食と欲望を通してひとりの女性の性解放を描いた香港映画です。


(C)OAFF2019 ツァン・ツイシャン(曾翠珊)監督

監督は映画『ビッグ・ブルー・レイク』で香港電影金像奨の最優秀新人監督賞を受賞したツァン・ツイシャン(曾翠珊)監督が務めました。

性解放に対して保守的な状況にある香港において、暗く落ちていくようなものではない「花が咲いた」ようなストーリーを描きたいと考え作られた本作。

キャストにはシャーリーン・チョイ(蔡卓妍)、ウー・カンレン(呉慷仁)というトップスターを配しながらも、インディーズ精神を持ち作品づくりに挑んだツァン・ツイシャン監督のインタビューをお届けします。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2019見聞録』記事一覧はこちら

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欲望と食事と女性


(C) Emperor Film Production Company Limited

──このような女性の性解放の物語を描こうと思ったきっかけをお聞かせください。

ツァン・ツイシャン監督(以下、ツァン):元々、女性の成長に関することと、欲望と食べ物に関して非常に興味があり、そういう絡みがあるものを作りたいと考えていました。

以前に『ビッグ・ブルー・レイク』(2011)という映画を撮りました。こちらも女性の成長を追った映画ですが、『ビッグ・ブルー・レイク』は村という小さなコミュニティの中の話で、今度はちょっと違った成長ストーリーにしたいと思いました。

香港映画はこの10~20年の間に「美しい」というよりも、清潔感を求めた意味で綺麗なものになってきてしまっています。80年代や90年代の香港映画は、もっと解放的で、テーマももっと大胆なものが多かったのに、どんどん萎縮してきている印象があるのです。

──映画冒頭で、主人公の小敏が鶏肉を貪り食べるショットは、とてもサディスディックに見え、彼女の心の中に隠れた欲望が食べ物によって表現されていました。そんなキャラクター造形はどのようにつくられましたか。

ツァン:このストーリー自体は実在の人物を基に作られたものです。友達たちとみんなで話してるときに、結婚してからセックスがなくて処女のままだったという友達がいると話を聞いたのですが、彼女は後々ボーイフレンドが出来て、そこで初めて処女を喪失して、セックスが好きになり、すごく楽しくなったそうです。それは「花が咲いた」というような状態なのかなと思いました。

この映画は、女性が性に関わることが理由で離婚して、暗く落ちていくようなものではない、花が咲いたようなストーリーを描きたいと思い、こういうストーリーになりました。

冒頭の鳥を食べるショットは、食べることと性欲は通ずるものがあり同じことであるという視点で描きました。

私自身もベルリン滞在中のとても寒い夜に、誰もいないけど性の欲望が湧いてきてそれをどうしていいのか分からない時があって、その時に自分が鳥を買ってきて食べたという経験があるので、それをベースにした部分があります。

このように何かに投影して、その時の自分の達成できない欲望を何とかこなしていくというのは、ひとつの病的な状態であるとも思います。何かしたいのに相手がいない、でも自分の欲望を抑えられない。そんな猟奇的な欲望をコントロール出来ない様を食べることで補って表現しました。

お風呂文化への憧れ


(C) Emperor Film Production Company Limited

──これまでに影響を受けた監督、作品はありますか?

ツァン:本作の参考にしたものが何本かあって、その中に日本の伊丹十三監督の『タンポポ』(1985)や、台湾のアン・リー監督の『恋人たちの食卓』(1994)があります。

『タンポポ』は日本映画ならではのリズムがすごく面白いと感じますし、食べ物も欲望も出てきてそれが色々絡み合っているところを今回は参考にしています。

日本映画でいうと、今村昌平監督の『赤い橋の下のぬるい水』(2001)も大好きです。一人の女性の欲望や愛情など、色んなものがたくさん出てくる作品です。ほかには是枝裕和監督、岩井俊二監督、北野武監督も好きです。それとやはり小津安二郎監督ですね。

元々ヨーロッパや日本の映画がすごく好きでよく見ていますが、日本映画は欲望の撮り方がすごく上手だと感じます。香港と日本は色々なところが似ていると思いますが、香港は保守的な面が多く、特に性に関してすごく保守的です。香港には温泉や公衆浴場という「お風呂文化」がないので、裸で他人と付き合うような文化が全くありません。

日本だと、家庭内でもお風呂上がりに裸でウロウロすることもあると思いますが、香港ではそういうことは全くありませんし、性に対して非常に保守的であるところが日本とは全然違う点です。

私はお風呂文化を羨ましく思うんです。私は家でも母の裸を見たことがありません。女同士でも母の裸すら見たことがないので、一緒に裸でお風呂に入るというのはすごく憧れがあります。

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物語は他者からの影響で派生する


(C) Emperor Film Production Company Limited

──ヒロインの気持ちを変えていく男性コックは、広東語が得意ではないフランス帰りのコックとして描かれています。香港には外国人を受け入れるという豊かな土壌があるのでしょうか。

ツァン:それはあると思います。近年は中国大陸からの観光客たちがめちゃくちゃな事をやったりして、すごく嫌がってる部分もありますが、それはそういう団体や、とある人たちに対してであって、ベースとしては香港はいろんな国からいろんな人が来て生活しているところですので、受け入れるベースはあると思います。

今回、家豪(ガーホウ)という主役の男性も、元々は香港人の俳優を使おうと考えていましたが、いろいろと考えて外から入ってきた人でも別に悪くないのではと思い、外から来て一時期香港に住んでいた人に変えました。

──異邦人とヒロインが関係していくことによって、よりストーリー展開が発展していったと感じます。自分と違う誰かによって自分が変えられていく人間関係というのはどうお考えでしょうか?

ツァン:ひとつの象徴だと思うのですが、家豪が、綺麗で静かな湖に石を投げ入れて水が散る、そこで波が立つような変化が表れると同時に小敏自身も、自分で自分のことに気づいて変化していきます。

単なるピュアなラブストーリーとしてロマンチックなものだけではなく、ひとつのものによっていろいろなものが派生していくところを描けたらなと思いました。

例えば、ジョウロなりバケツで水を持っている小敏がいるとします。その水を砂漠に流すと流れていってしまいますが、その「流す行為」をどのタイミングでするかが肝心です。

元の夫が自分で自慰をして解決してしまっているところを見てしまったとか、父親の成長とか、昔の同級生に会ってポールダンス始めるとか、そういう何らかのきっかけが重なって持っている水を流すように、チャプター毎に流すきっかけを作ってストーリーを紡いでいきました。

違う人に出会うことで、少しずつ水を流す、つまりその都度自分を解放していくことができる組み立ては意識していれていきました。

撮りたいものが出発点になっている


(C) Emperor Film Production Company Limited

──今までの香港映画はすごく直線的な、男と男の絆みたいなものを描いた作品が多かったですが、本作は新しい人間関係を描いた香港映画だと感じました。香港映画史におけるご自身の作品の位置付けはどのように考えていますか?

ツァン:私自身はインディペンデントな位置で映画を撮ってきました。1本目の『ビッグ・ブルー・レイク』では香港電影金像奨で新人監督賞をいただきましたが、まだまだ赤ん坊の状態だと思っていたので、これから香港映画の中の一員としてさらに頑張っていかなくてはとずっと思っていました。

自分が女性監督であることを売りにしたいとは思っていなくて、自分の才能が持っているものや、自分が撮りたいものがちゃんと出発点になっている撮り方をしていきたいと考えています。ですから、違う人が撮れば違う映画が作られる、男性が男性の友情を撮るのもアリですし、私は私の背景があるものを撮っていきたいです。

この映画は、政府関連や多方面から資金をいただきました。有名な方が出演してくださり、幸運にも良い映画ができましたが、実際この映画自体はそれほど主流ではないとは思います。ただし、「主流ってなんなの?」「何がハイクオリティなの?」と考えた時に、香港映画が必ずしも観客の好きなものに寄り添いすぎなくてもいいのではとも思っています。

今回の作品は抑圧された都市に暮らす人たちの話を、どのように自分の欲望を表現し、自己認識をするかという視点で描いた作品です。抑圧されたところで自分自身を探し出し自由にしていきます。女性だけに捧げたものではなく、男女両方に捧げたものです。家庭を愛して大事にするものに捧げます。そして、父娘のストーリーでもあり、お父さんと娘に対しても捧げています。

皆さんがそういうところを理解してくださって、この作品を好きになってくだされば嬉しいです。

ツァン・ツイシャン(曾翠珊/Tsang Tsui-Shan)監督プロフィール

香港の映画監督。

香港演芸学院でサウンドデザインを専攻し、その後2005年に香港城市大学のメディアデザイン・テクノロジープログラムにて修士号を取得。

“Lonely Planet”(2004年)や“Où est la sortie?”(2007年)などの短編で映画賞を受賞。2008年、“Lover’s on the Road(戀人路上)”で長編デビューを飾ります。

これまでの監督作はイタリア、ドイツ、ポーランド、イギリスなど世界各国で上映され、フィクションを柱としながらも、事実を織り交ぜる作風で知られています。

OAFF大阪アジアン映画祭2012上映作『ビッグ・ブルー・レイク』で第31回 香港電影金像奨の最優秀新人監督賞を受賞。

他の監督作品としては『君の香り』2015年に日本公開。最新作は短編「Summer Rain(冷雨盛夏)」などがあります。

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映画『非分熟女』の作品情報

【日本公開】
2019年(香港映画)

【監督】
ツァン・ツイシャン(曾翠珊)

【キャスト】
シャーリーン・チョイ(蔡卓妍)、ウー・カンレン(呉慷仁)、トニー・リウ(劉永)、イップ・トン(葉童)

【作品概要】
第14回 大阪アジアン映画祭上演された香港映画。

『ビッグ・ブルー・レイク』(2011)以来の大阪アジアン映画際での上映となったツァン・ツイシャン監督作品。

主人公の小敏を演じるのは、スーパーアイドルデュオTwinsの阿saことシャーリーン・チョイ。

その相手役の家豪は、現在の台湾映画界を牽引するウー・カンレンが、母語ではない広東語を駆使して熱演。

キャスティングはメジャーでありつつも、要所で発揮されるツァン監督のインディーズ魂が、作品にアーティスティックな香りを纏わせます。

また、生と性がせめぎ合う複雑な女心を全身全霊で表現したシャーリーン・チョイは、第38回 香港電影金像獎にノミネートされました。

映画『非分熟女』のあらすじ


(C) Emperor Film Production Company Limited

産院に勤務する小敏は、結婚直後からセックスレスで夫婦生活が破綻し、自暴自棄な毎日を過ごしていました。

そんなある日、老舗の大衆食堂“榮記”を営む父が病に倒れ、実家に戻った小敏は、新人料理人の家豪と出会います。

当初は些細なことでぶつかり合う二人でしたが、家豪の料理に対する真摯な思い、そして匂い立つような男の色気に小敏の心が揺れ始め…。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2019見聞録』記事一覧はこちら

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