映画『HANNORA』は2022年7月2日(土)より池袋シネマ・ロサにてロードショー!
数々の映画祭で評価された明石和之監督による、青春をロックに捧げながらも、独り立ちできない少年(半ノラ)を主人公した映画『HANNORA』。
バンド演奏から喧嘩アクション、何よりも多感な若者の姿を具現化する熱演で挑んだ主演・田中理来(たなか・りく)の演技力が光る、“新感覚”青春ロック映画です。
このたび映画『HANNORA』の公開を記念し、田中理来さんにインタビュー取材を敢行。
長編映画初主演となったオーディションに臨んだ経緯や、主人公の苦悩や葛藤を演じる際に心がけた明石監督の交流。また自らもバンド演奏の経験を持つ田中さんならではの音楽へのこだわり、主演を務める意気込みなどを大いに語っていただきました。
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等身大の“焦りと向上心”
──先日は田中理来さんのお誕生日でした。おめでとうございます! 活発的で良い年頃と思いますが、おいくつになられたのでしょうか?
田中理来(以下、田中):ありがとうございます! 2022年の5月23日で25歳になりました。それでも25歳になると、徐々に自分としては“焦り”のようなものを感じることがあります。
元々ぼくは、NHKのテレビ番組『天才てれびくんMAX 2008』(2008〜2009)への子役出演が芸能界の始まりでした。その後、ソニー・ミュージック・WEGO主催の「ボーイズ・グランプリ2014」でグランプリを受賞したことを経て、新たな活動の場となる音楽グループ「XOX(キスハグキス)」に大学での学業のかたわら、卒業までの2年間に渡って参加してきました。
そして2年前から現在にかけては俳優一本、ソロとして活動しています。これまでの音楽グループでの活動と異なり、“独りで活動する責任”を強く意識しながら日々チャレンジしていますが、そこには「何かしなくてならない」という気持ちが常にあります。だからこそオーディションをいくつも受けているんですが、ご縁がなく落ちてしまった時には“焦り”みたいなものを感じることもあったりします。その等身大の気持ちは、今かなり強くなっていますね。
──田中さんは向上心が豊かでエネルギッシュですね。そのひとりで活動する上での“焦り”とは、具体的にどのようなものなのでしょう。
田中:俳優一本でやりたいと決めたのが、20・21歳ぐらいの時。やはり、周囲よりは少し遅い決断であったことが理由にあると思います。子役時代は宮城県の仙台市に住んでいましたが、「XOX」で活動していた際は東京に住んでいました。ですから当初は、音楽やダンスで活動の場を広げて芸能界で生き抜いていくと考えていました。
多少舞台で役者の仕事もしていましたが、やはり音楽活動が中心だったので、本格的に俳優をやりたいなどという気持ちは正直ありませんでした。ただ大学を卒業する間近になって、だんだん友人たちは皆就職していく。周囲を見ながら「自分は、本当は何がしたいのか?」と心の底から自問自答する中で「俳優がやりたい!」と強く意識し始めるようになったんです。
ミュージシャンから“俳優”へと電気が走った!
──田中さんの声量は大きく、また低音のヴォイスも魅力的ですね。
田中:ありがとうございます。ぼくは声変わりが早かったんですよ。もちろん『天才てれびくん』に出演していた頃は高かったんですが(笑)。それでも声変わりで急激に声が低く変わり始めて、自分ではコンプレックスを感じていた時期もありました。
高校時代のバンド活動でもヴォーカルを担当していたのですが、近年の日本では高音の曲が多く流行っていて、自分の声とは合わないという状況を痛感することもありました。最近になって、恥ずかしながらようやく自分の声を褒めていただけるようになり、だんだんと自信も芽生えてきました。
──「声」は音楽のみならず俳優の才能でもあるともいえますが、田中さんが映画に興味を持たれたのはいつ頃からなのでしょうか。
田中:谷健二監督の『渋谷シャドウ』(2020)に出演させていただいてから、映画を作る喜びを感じるようになりました。何かしら電気がビビビッと走る感覚があり、「これや〜!」と俳優でやっていくという決意が確信に変わりました(笑)。
ただ『渋谷シャドウ』の撮影時は、悔しさみたいなものがとても多かったんです。その頃はまだ役者としてのスキルもなく、映画という環境の場も無知な状態で思うようにならなかった。自分がやろうとしている表現に技術や知識が追いつかず、うまく出し切れなかったんです。ですが撮影後に完成試写を観せていただいた時、「スタッフやキャストの皆さんと一緒に映画は作っているんだ」という楽しさをピキーンと感じ、打ち震えた何かがありました。
元々音楽では自分で曲を作っていたんですが、映画制作にも近しいものがあると感じたんです。もちろん映画は監督の作品であるんですが、そこでぼく自身が“俳優”としてどう答えるかという形での作る喜びを見つけられました。
自ら掴みとった『HANNORA』の“主役”
──今回の映画『HANNORA』に“主演”として出演されたきっかけを改めてお聞かせください。
田中:今でもそうですが、オーディションなどをよく探しているんです。映画『HANNORA』のオーディション募集も自分で見つけ、その後マネージャーさんに相談してからチャレンジを決断しました。やがて届いた脚本を手にした時は「面白い!」と読ませていただき、「絶対、なんとしてもこの役を演じたい」「この役を獲りにいきたい」と胸が高鳴りました。
正直、主演ができるかは人生に1回あるかどうか。「『渋谷シャドウ』だけで終わりたくない!」とガチで主演を獲りにいこうと、オーディション会場へ愛用のアコースティックギターを持って向かいました。
会場にいた明石監督の前では、とにかく芝居を精一杯見ていただきました。するとギターを持参したのに歌声を聴かせる時間がなくなってしまい、明石監督からは「後日でいいからデモテープを送ってほしい」と言われました(笑)。その後、出演のオファーをいただけた時には思わず「よっしゃ〜!」と声をあげました!
──主役の座を獲得した『HANNORA』の脚本を読まれた際には、どのような点に魅力を感じられましたか?
田中:はじめに、ぼくにとっては「長編映画での初めての主役」という点がやはり重要でした。これは今でも、感謝しかありません。
そしてなんと言っても、『HANNORA』が音楽映画ということです。自分が主人公の尚人同様にバンド活動をやっていたことはもちろん、ミュージシャンが主題となっているので、どうしても1本演じ切ってみたかったという“夢”があったんです。
また尚人は、“今しかできない”……年齢を重ねてからでは、もう演じることができないと感じられる主人公だった。『HANNORA』は、そうした青春映画という側面がとても大きいと感じています。
またガチガチのアクションではないんですが、『クローズ』『ドロップ』のような要素がある点も、『HANNORA』の魅力だと思っています。元々身体を動かすことも好きだし、舞台版『クローズZERO』(2016)で桐島ヒロミ役を演じたこともあったので、そこでの殺陣の経験も生かせました。
監督・明石和之と俳優・田中理来の“熱量”
──撮影がクランク・インを迎えてからは、明石監督とはどのようなコミュニケーションを図られたのでしょうか。
田中:明石組の撮影現場ではサボっている人が一人もいなくて、スタッフ・キャストの皆が真剣さを持っていました。その中心にいた明石監督も、作品に向き合う熱を相当帯びていました。そんな明石監督に、ぼくは常に質問ばかりしていました(笑)。
自分からアイデアを提案しにもいきましたし、明石監督からもGOをいただけたら「わかりました!」と挑んでいました。また自分の演技に対して納得ができなかったり“気持ち悪さ”を感じた際には、明石監督に「申し訳ありません」と頭を下げ、リテイクもさせていただきました。
一方の明石監督も納得できるまで撮影される方だったので、監督とぼくそれぞれの“熱量”が同じ状態で向き合えたのが嬉しかったし、楽しかったです。もちろん役柄のニュアンスが違う場合には、すぐに明石監督が指摘して修正をしてくれましたし、そのようなことが丁寧に行える撮影現場だったから気は抜けませんでしたが、とても有意義でした。
──『HANNORA』の映画ポスターは田中さんの心情豊かな表情を感じさせる“一枚看板”であり、今どきには珍しいスタイリッシュで挑戦的なすばらしいものですね。
田中:ありがとうございます。プロデューサーの槇原啓右さんから「これでいく」と初めて見せていただけた時には、「スゴい!」と驚きました(笑)。
『HANNORA』の現場は監督以外のスタッフの皆さん、キャストの出演陣のだれもが熱量を持って臨んでいるという印象がありました。皆がこの映画を良い作品するために『HANNORA』に参加し、ひとつの高いゴールへと向かっていました。
また、ぼくは『HANNORA』の主演俳優ということもあり、ある意味では座長であったとも言えます。だからこそ「ヘタなことはできない」と、香盤表に出番のないシーンでも積極的に撮影現場に顔を出すように心がけ、明石監督や明石組の皆さんから託された責任を自分なりに果たそうとしました。そのくらい自分にとって、『HANNORA』は思いの込もった作品になったんです。
バンド演奏のこだわりと共演者との絆
──田中さんが本作『HANNORA』でこだわった点などをお聞かせください。
田中:やはり、バンドメンバー3人で登場するシーンですね。ドラム担当・山下裕也役の大西一希さん、ベース担当・中島光司役の池田和樹さんとは、3人で集まって芝居の話をする時間が結構あったんです。もちろん明石監督からの要望や指示もありましたが、バンド3人のかけ合いっていうのは自分たちの気持ちを確認し合うことで芝居を練ったというか、よく相談して構築することが多かったです。
撮影に入る前にバンド練習期間が2ヶ月間あったのも、お互いのことを知るのに不可欠な時間でした。練習を行うスタジオで集まるうちにグワーッと仲良くなることができました。
「日常としての仲間が集まった」という雰囲気作りの絆に、時間をかけられたのが一番よかったです。また毎週のようにスタジオに通う中で、かつての自分のバンド活動と重なり、少しタイムスリップしたような感覚も体験できました。
劇中でのバンド演奏は絶対にクオリティを高めたいと思ったし、スクリーンを見つめる観客がライブシーンでシラケさせるようなことだけはしたくなかったたので、仲間3人で相当練習しました。それ以外にも、スタジオの練習終わりの食事や、撮影の合間のロケバスでの待機の時に至るまで、3人で芝居の話をしていました。
──最後に、田中さんの一番のおすすめシーンはありますか。
田中:劇中の場面で、演奏中に池田さん演じる光司と揉めて掴み合いになる芝居があるんですが、あの芝居は現場のスタッフの熱量がピークに達し、ぼくらの演技もお互いエスカレートしていった中で撮ったものなので、スクリーンで観客の皆さんに観ていただいた時には本当に臨場感が伝わってくるはずです。
また、ぼくの私物である黄色いエレキギターも映画へ出せないか、撮影前に明石監督にギターを見せて相談したところ「いいじゃん」と了解をいただけました。劇中でも自分の手に馴染んだそのギターで演奏をしているので、そんな点にも注目してほしいです。
高校生の頃から一緒に音楽を奏でてきた愛用のギターとも、初の長編主演作『HANNORA』で共演できたのは本当に嬉しかったです。
インタビュー/出町光識・河合のび
撮影/田中舘裕介
田中理来(たなか・りく)プロフィール
1997年5月23日生まれ、宮城出身。ソニー・ミュージック主催の全国オーディション「ボーイズ・グランプリ2014」にてグランプリを受賞。
NHK番組『天才てれびくんMAX 2008』(2008〜2009)へてれび戦士の一人として出演したほか、NHK・Eテレ『オトナヘノベル』内のドラマ「許してもらえない」(2016)では主演・月村ハジメ役を務めた。また舞台『伏魔殿』(2017)では主演・宗谷役を演じ、映画『渋谷シャドウ』(2020)では主演・リク役を務めました。
Abema TV『私の年下王子さま』(2018)に出演し、ラッパーとしてシンガーFUKIを客演に迎えて配信限定リリースした『143.feat FUKI』がSpotify JPバイナルチャートTOP50内に選出。様々な分野で活動の幅を広げている。
映画『HANNORA』の作品情報
【日本公開】
2022年(日本映画)
【監督・編集】
明石和之
【脚本】
西島ユタカ、明石和之
【キャスト】
田中理来、幡乃美帆、池田和樹、大西一希、勝俣栄作、須賀裕紀、加藤理子、大石菊華、古川順、田丸大輔、近藤奈保希、有賀さやか、飛磨、龍輝、田中陸、ユウジロウ、みやたに
【作品概要】
ロックバンド活動の経験を持つ明石和之監督による、自己存在の独り立ちをできていない少年が“自由”を求めるロック魂を音楽とともに描く青春映画。
主演は映画『渋谷シャドウ』、AbemaTV『私の年下王子様』をはじめ、舞台などでも精力的に活躍する俳優・田中理来。ヒロイン役はミスiD2021にてネクストアクトレス賞を受賞し、『劇場版 ほんとうにあった怖い話2020-呪われた家-』などに出演した幡乃美帆が演じます。
そのほか池田和樹、大西一希、勝俣栄作、須賀裕紀、加藤理子、大石菊華、古川順、田丸大輔、近藤奈保希、有賀さやかなど、これからの活躍が期待される若手からベテラン俳優まで幅広い世代のキャストが集結しました。
映画『HANNORA』のあらすじ
自由を求め、友人の光司・裕也とロックバンドを組み、楽器が置いてある不思議な中華屋でアルバイトをしている高校生の尚人。
ある日、尚人の前に突然現れた女子高生の真希は携帯画面を見せて「この子知らない?」と尚人に問いかけます。真希は突如失踪した友人「智子」を探しており、一緒に探して欲しいと頼みます。
この日きっかけに、尚人は真希の友人探しに協力しますが、そこには裏社会とのつながり、ラッパーとの対立など様々な人間ドラマがあり、2人を困惑させます。
2人は真希の友人「智子」を探すことはできるのでしょうか?! そして誰も知らなかった真希が抱えていた問題とは……。