短編映画『大学生のアルバイト』は前編は2023年4月28日(金)より、後編は5月26日(金)より無料配信中!
『つどうものたち』(2019)などの作品で数々の国内外の映画賞を受賞してきた松田彰監督が、“月に1度のペースで映画を完成・公開する”にチャレンジした短編WEB映画・連作企画「月イチ」。
シリーズ第5弾となる映画『大学生のアルバイト』は、主人公の女子大生が動画撮影をしながら千葉・房総半島を徒歩で旅する姿を描いたロードムービーです。
このたびの配信を記念し、本作で主人公・杏奈役を演じられた永野絵梨奈さんにインタビューを行いました。
主人公・杏奈との「旅」を通じて得られたもの、松田監督から学んだ役者としての演技の考え方など、貴重なお話を伺うことができました。
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戸惑いながらも始めた「旅」の果てに
──はじめに、映画『大学生のアルバイト』のご出演が決まった際の、本作に対する印象をお教えいただけますでしょうか。
永野絵梨奈(以下、永野):まず「撮影で、そんなにたくさん歩くんだ」とは感じました(笑)。実際の撮影でも1日に1万5千歩前後は歩いていたので、作中で杏奈が1日に旅していた10Kmか、それ以上の道のりを撮影日ごとに歩んでいたんだと思います。
また最初に企画のお話をいただいた時点では脚本がなくて「主人公の女子大生が、動画撮影をしながら千葉・房総半島を歩いて旅する」という作品の概要だけをお聞きしただけだったので、「一体どんなストーリーが生まれるんだろう」という純粋な疑問、「松田監督が『月イチ』でそれまで作ってきた映画とは、違う雰囲気の作品になるのかな」という予感を抱いていました。
──撮影を通じて、永野さんもまた「動画撮影をしながら千葉・房総半島を歩く旅」という本作の主人公・杏奈と同じ旅を経験されたのですね。
永野:映画序盤で、杏奈が戸惑いながらも自撮り中のカメラに向けて語りかける場面が描かれていますが、その場面で私は、杏奈のセリフにどういう感情を持たせたらいいのかが最初分からなかったんです。そうやって杏奈と同じように、私自身も「旅」に戸惑いながらも歩き始めたんです。
また撮影自体が中止となるほどの天気が悪い日もなく、本作の撮影はとても天気に恵まれた中で続けられたんですが、映画終盤での朝日を見に行く場面は、本当に寒い時期の早朝に行ったので、体力的にも厳しい撮影でした。
それでも、撮影の中で本物の朝日を目にして「これは、いい画が撮れたな」と自分自身でも感じられた時には、作中の杏奈と同じような達成感といいますか、「この旅をしてよかった」と心の底から思えました。
一つ一つの仕事で得られる「成長」
──永野さんは、主人公・杏奈が作中でどのように成長したと感じられているのでしょうか。
永野:「旅」を勧めた叔母の美優紀との関係性が深まったのも大切な変化なんですが、杏奈自身は初め「アルバイトでお金がもらえるから」という理由で淡々と旅を進めていたものの、景色や人との出会いを通じて本物の美しさに触れたことで、心がもっと豊かになっていったのかなと感じています。
「アルバイト」という目的で始めた旅が、杏奈にとって「本当に心の底から楽しい旅」に変わっていったことが一番の変化だと感じられましたし、自分でも杏奈のそんな変化を意識しながら演じていました。
──永野さんご自身は、多種多様な作品に出演するという「旅」の中で、どのような時に自分の成長を感じられるのでしょうか。
永野:色々なお仕事をさせてもらえる中で、自分の内に「役」を見つけたり、あるいは「役」を作り出したりする過程は、どんな仕事の時にも必ず経験していると思っています。
そして、「役」という一人の人間と向き合って演じるという経験を経た後には、自分の中で「成長できた」という感覚も同時に得られる以上、一つのお仕事を終えた後にはいつも人間としての「成長」があるんだと感じています。
「演技の考え方」を真に学べた作品
──永野さんは、映画『大学生のアルバイト』はどのような作品と捉えられているのでしょうか。
永野:『大学生のアルバイト』はセリフはもちろん、表情などの演技に関する脚本でのト書きもすごく少なくて、その中で演技をしていくというのは、これまで出演させてもらった映像作品では経験したことのないものでした。
また『大学生のアルバイト』は、作中での内容の説明や明言が少ないからこそ、一つのセリフの何気ない言い方や、ふとした瞬間の表情などに注目しやすい、映画を観る人が多くのことを感じとれる作品だと思っています。
だからこそ「本当に心の底から演じないと、この映画は完成できない」と感じられましたし、表情の一つ一つの変化や仕草を意識しながら演じていました。
ただ私は、撮影中に松田監督から「口の力を緩めて」と言われることが多かったんです。
多分、監督は本当に自然体の私、自然体の杏奈を撮りたいと考えていたのに対して、私が「演じよう」と意識してしまい、自分自身でも気づかない内に表情筋を含めた筋肉に力が入ってしまっていたからだと思います。
「口の力を緩めて」なんて、それまでのお仕事では一度も言われたことがなかったんです。ほんのわずかな表情筋の変化であっても、お芝居の映りに大きな変化が生まれてしまう……役者としての演技の考え方を、本当に学ぶことのできた作品だと感じています。
インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介
永野絵梨奈プロフィール
2006年7月5日生まれ、神奈川県出身。英語、ロシア語が堪能な女子高生。
2歳から芸能活動を開始しモデル、ドラマ、舞台、MVなど幅広く活動。
市川うららFM83.0『Sunset Breeze〜夕暮れの微風〜』ではラジオパーソナリティを務めている。
映画『大学生のアルバイト』の作品情報
映画『大学生のアルバイト』前編(無料配信中)
【日本公開】
2023年(日本映画)
【監督・脚本】
松田彰
【キャスト】
永野絵梨奈、椎名茉莉、上地さゆり
【作品概要】
数々の国内外の映画賞を受賞してきた松田彰監督による、月に一本製作する「月イチ」企画の短編WEB映画第5弾。
数年ぶりに会った叔母からアルバイトを頼まれた18歳の女子大生・杏奈が、房総半島をひとりテクテクと歩きながら動画を撮るロードムービーを、前後編にて描いた本作。美しい景色の中をひたすら進む杏奈の姿を見ているうちに、不思議な解放感を感じ始める一作となっています。
主人公の女子大生・杏奈を永野絵梨奈、バイトを依頼した杏奈の叔母・美優紀を椎名茉莉、会社スタッフを上地さゆりが演じています。
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映画『大学生のアルバイト』のあらすじ
映画『大学生のアルバイト』後編(無料配信中)
18歳の女子大生・杏奈はある日、3歳の時以来会うことのなかった叔母・美優紀から突然「アルバイト」を頼まれます。
アルバイトの内容は、「千葉・房総半島の銚子から千葉までの約300kmを、約30日間をかけて動画撮影をしながら歩く」というもの。
50万円という大金を渡され、思わず仕事を受ける杏奈でしたが……。
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編集長:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。
2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。