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映画『影踏み』ネタバレ感想とレビュー評価。タイトルの意味から読み解く【真壁の過去と吉川聡介殺害の真相】|サスペンスの神様の鼓動24

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。

このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。

今回紹介するのは、『半落ち』や『64-ロクヨン-』など、警察内部の人間模様を描いた作品の多い、人気作家の横山秀夫作品の中でも、泥棒を主人公にした、異色とも呼べる原作を映像化した、映画『影踏み』です。

証拠を残さない事から「ノビカベ」と呼ばれる泥棒が、ある出来事から殺人事件に巻き込まれ、自身の過去とも対峙する本作の、サスペンス的な手法に注目していきます。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

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映画『影踏み』のあらすじとネタバレ


(C)2019「影踏み」製作委員会

深夜に住居へ忍び込み、現金を盗んで消えていく、凄腕の「ノビ師」真壁修一。

真壁は証拠も残さず、取り調べにも決して口を割らない事から、地元の警察から「ノビカベ」の異名で呼ばれていました。

ある晩、真壁は県会議員の稲村宅へ忍び込み、現金を盗み出しますが、家に灯油をまいて、焼身自殺を図ろうとしていた稲村の妻、葉子の姿を見て、自殺を止めます。

その事により、刑事で幼馴染の吉川聡介に捕まってしまいます。

2年後、刑期を終えて出所した真壁を迎えに来たのは、弟の啓二でした。

真壁は、自身が逮捕された夜に、葉子が通報する前に、吉川が現場に現れた事が気になっていました。

真壁は刑務所で「警察がマイクロチップを使って、違法な追跡捜査をしている」という話を聞き、吉川を訪ね真相を聞きますが、逆上した吉川に胸倉を掴まれます。

警察署を後にした真壁は、葉子のその後が気になり、独自に行方を探そうとします。

真壁は啓二と共に、バッティングセンターで働きながら、窃盗品を競売にかけている大室誠を訪ねます。

裏社会の情報にも通じている大室から、葉子の夫がギャンブルに狂い、家ごと競売にかけられた事、その競売に関西のやくざが参入し、8万円で、家も葉子も競り落とされた事を聞かされます。

「今頃、薬漬けにされているだろう」という大室の言葉を聞かされながらも、葉子を探し続ける真壁。

そこへ、刑事一課の馬渕が真壁の前に現れ「吉川が死んだ」と聞かされます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『影踏み』ネタバレ・結末の記載がございます。『影踏み』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C)2019「影踏み」製作委員会

容疑をかけられ、吉川の死亡時刻のアリバイを聞かれた真壁は、咄嗟に「安西久子の所にいた」と嘘をつきます。

その際に、真壁は稲村の家を落札した関西のやくざが、現在は逮捕され刑務所にいる事を聞かされます。

真壁の幼馴染で、恋人の安西久子は、保育士として働きながら、真壁の出所と、泥棒から足を洗う日を待っていました。

しかし、久子に好意を持つ文房具店の店主、久能次朗にプロポーズされ、戸惑っていました。

ある夜、真壁が久子の部屋を訪ね、久子は真壁を部屋に泊めますが、久能にプロポーズをされている事を真壁に話をしても、真壁は無言でいる為、煮え切らない態度に、久子は腹を立てます。

次の日、真壁は啓二と共に、吉川が殺害された事件の真相を、独自に解明しようと動き始めます。

真壁は捜査資金を捻出する為、闇金融の加藤から借金をしますが、その際に、地裁の執行官である轟という男が、関西のやくざと繋がっており、競売で利益をあげさせて、報酬を受け取っている事を聞かされます。

真壁は馬渕から、葉子がスナックを開いている事を聞き、葉子の店を訪ねますが、追い返されてしまいます。

その際に、葉子から、関西のやくざがいなくなった後も、吉川が付きまとうようになり、困っていたという事を聞かされます。

その夜、轟の家に忍び込んだ真壁は、関西のやくざから振り込みがされている、轟の通帳を発見し持ち去ります。

次の日、真壁は地方裁判所を訪ねて、轟に会おうとしますが、轟は暴漢に襲われて入院していました。

危険と思われる事件を探り続ける真壁に、啓二は「久子の事も考えろ」と忠告しますが、真壁は聞く耳を持ちません。

真壁が身を隠している旅館に帰宅していると、葉子が踏切に飛び込もうとする所に出くわし、咄嗟に葉子を助けます。

葉子の店で手当てをしながら、真壁は自身の過去を語ります。

真壁と双子の弟の啓二は、高校まで優秀な成績を誇っていましたが、有名大学の法学部に進学した真壁と違い、啓二は受験に失敗します。

その後、啓二は空き巣に入り逮捕された事で、教師だった母親は職を失い、啓二と共に焼身自殺をします。

これまで、真壁が見えていたのは、啓二の幻影でした。

葉子は、真壁の過去を理解しながらも「もう、ここには来ない方が良い」と伝えます。

真壁の帰りを待つ久子は、謎の無言電話に悩まされていました。

また、インターネットの掲示板に「恋人が犯罪者」などの書き込みがあった事で、保護者を不安にさせた責任を取り、働いていた保育園を退職します。

その夜、1人の男が久子の自宅を訪ねて来ます。

それは、久能次朗の双子の兄、久能新一郎で、無言電話も、ネットの書き込みも、新一郎の犯行でした。

弟とは違い、暴力的な新一郎に押し倒されそうになった久子は、自宅から逃げて、真壁が身を隠している旅館に逃げ込みます。

真壁は久子をかくまい、久子の荷物を取りに行く為、久子の自宅に向かいます。

その際に、真壁が使用していた自転車に、マイクロチップが仕込んである事に気づきます。

久子の自宅で、荷物の準備をしていた真壁は、そこに現れた大室に襲われます。

大室は葉子へ、一方的な恋心を抱いており、葉子に付きまとう男達を襲っていました。

「葉子の周囲から、自分以外の男が、全員いなくなれば良い」と考える大室は、真壁の自転車にマイクロチップを仕込み、襲うタイミングを図っていました。

スタンガンを持った大室に馬乗りにされ、絶体絶命状態になった真壁ですが、そこへ馬渕が駆け付け大室を抑えます。

葉子に関する一連の事件を調べていた馬渕に、真壁は「裁判所の前で拾った」と、轟の通帳を渡します。

真壁が旅館に戻ると、真壁の宿泊していた部屋のガラスが割られており、真壁は久子と共に旅館を追い出されてしまいます。

真壁は、葉子の店で久子をかくまってもらい、久能の経営する文房具店を訪れます。

出てきたのは久能次朗で「兄はいない」と伝えられ、真壁は追い返されます。

その後、久能次朗が外出したタイミングをはかり、真壁は文房具店に忍び込みます。

帰宅した久能次朗は、車の中でうずくまり、疲れ切った表情を浮かべています。

久能次朗は、久子につきまとう久能新一郎と言い争いになり、刃物で刺して命を奪っていました。

帰宅した久能次朗の前に、真壁が現れ、新一郎の死体を見つけた事を告げます。

発狂した久能次朗は「双子の兄が、自分の全てを持っていく!」と泣き叫びます。

蘇る真壁の記憶。

焼身自殺をした母親と啓二を火葬する際に、真壁は、母親と弟が2度も焼かれる事に強く反発しますが「それがルールだ、規則だ」と押さえつけらます。

順調にいけば検事にもなれた真壁ですが、法律やルールへの復讐を決意し、裏の世界に足を踏み入れるようになりました。

過去を思い出した真壁は、久能次朗に「お前は生きろ」と伝えます。

全ての事件が解決し、真壁は久子を迎えに行きます。

2人は啓二との思い出の場所で手を繋ぎ、新たな景色を眺めるのでした。

サスペンスを構築する要素①「謎だらけの主人公」


(C)2019「影踏み」製作委員会
本作の主人公は、住人が寝入った深夜を狙い、住居に忍び込んで現金を盗む「ノビ師」と呼ばれる、泥棒を家業とする真壁修一という男です。

真壁は、証拠も残さず、取り調べでも口を割らない為、逮捕不可能な「ノビ師」として、「ノビカベ」という異名で地元警察に知られた存在です。

ですが、その真壁が、偶然忍び込んだ県会議員の自宅で、初めて会った県会議員の妻、葉子の焼身自殺を止めた事から、本作の物語は始まります。

その2年後、出所した真壁は、葉子の現在を探ろうとしますが、この時点で、観客には真壁に関する情報が全く与えらていない為、「何故、逮捕されてまで葉子の命を救ったのか?」「何故、葉子にこだわるのか?」が全く不明のまま、作品の世界に引き込まれていく事になります。

その後、徐々に明かされていく「真壁の過去」が物語の主軸となる訳ですが、序盤は主人公なのに謎だらけという、真壁のキャラクターが、『影踏み』という作品の推進力になっています。

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サスペンスを構築する要素②「独自捜査の果てに感じる孤独」


(C)2019「影踏み」製作委員会
本作の物語の主軸は、真壁の過去が、徐々に明らかになっていくという展開なのですが、もう1つ、親友で警察の、吉川聡介が殺された事件の真相究明も、作品の重要な要素となっています。

吉川殺害の容疑をかけられた真壁は「裏家業の人間」独自のやり方で、捜査を開始します。

闇金から捜査資金を借り、訳ありの人間をかくまう旅館に宿泊しながら、裏の世界に詳しい人間から情報を集め、必要であれば住居に侵入し証拠を盗み出します。

そして、地裁の執行官まで絡むこの事件の犯人は、真壁が情報提供を受けていた大室でした。

大室を犯行に走らせたのは、自らの意思とは関係なく、男を惹きつけてしまう葉子の魅力。

そして、葉子の魅力に大室が狂わされたのは、裏の世界に身を置いているからこその「孤独」であり、真壁自身も、裏の世界に身を置く、自身の立場を見つめ直すキッカケとなります。

サスペンスを構築する要素③「タイトルの『影踏み』の意味は?」


(C)2019「影踏み」製作委員会
本作のタイトル『影踏み』とは、受験に失敗し、道を外れた弟の人生を、真壁が歩んでいる様子を意味します。

作品の前半から、真壁を「修兄ィ」と呼び慕う、啓二という若者が登場します。

当初は弟だと思っていたのですが、ストーリーが進むにあたり「真壁には双子の弟がいた」という話になります。

真壁を演じているのは山崎まさよし、啓二を演じているのは北村匠海と、全く似ていないどころか、年齢すらも離れており、途中まで、本当に頭が混乱した状態で鑑賞していました。

しかし、映画の中盤で、真壁の過去が明らかになり、亡くなった啓二のイメージに、いつまでも捕らわれている事が分かります。

作品の前半を思い返してみても、誰も啓二と会話をしておらず、特に序盤の図書館の場面で、真壁が啓二を怒鳴るのですが、その際の周囲の反応で「啓二は存在しない」という事が分かる演出となっています。

真壁は、自分と同じ双子で、兄によって人生を狂わされた、久能次朗と対峙する事で、自身の過去と決別し、久子との新たな道を歩むようになります。

最初は全てが謎だった真壁という人間の、過去を知り、葛藤し苦しむ様子を見る事で、観客はいつの間にか、真壁に共感を覚えるようになります。

1人の男が抱える、過去にまつわる謎が明らかになった時、感動的なラストシーンを迎える、見事な構成の作品です。

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映画『影踏み』まとめ


(C)2019「影踏み」製作委員会
ファンタジー色が強い事から、長らく映像化不可能と呼ばれていた『影踏み』。

「双子」という特別な存在を扱いながらも、本作で描かれているのは、自身の信念から、社会の規律に反抗し、裏家業に足を踏み入れてしまった、真壁という男の悲しみと再生を描いた物語です。

「真壁の過去」と「吉川聡介殺害の真相」という2つの謎で、ストーリーを引っ張り、最後は感動的なラストに持って行った、篠原哲雄監督の手腕が光った作品と言えるでしょう。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…

次回も、魅力的な作品をご紹介します。お楽しみに。

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