映画『ジャンプ、ダーリン』は2024年1月19日(金)よりヒューマントラスト渋谷ほかで全国順次公開!
ドラァグクイーンの姿をセンセーショナルかつ、ファッショナブルに描いた、祖母と孫のヒューマンドラマ『ジャンプ、ダーリン』。
ヨーロッパ最大のLGBTQ+映画祭として知られるBFIフレア ロンドンLGBTIQ+映画祭でワールドプレミア上映を果たし、その後も審査員大賞と国際長編映画部門・審査員特別賞を受賞したロサンゼルス・ゲイ・レズビアン映画祭など、世界中の30以上の映画祭で審査員と観客を熱狂させました。
数々の短編映画を制作してきたフィル・コンネルが初の⾧編映画監督を務め、オスカー女優クロリス・リーチマンと、初の⾧編映画出演となるトーマス・デュプレシによる濃密な祖母と孫の関係を描いた作品です。
このたびの劇場公開を記念し、フィル・コンネル監督にインタビュー。
どのような想いを持って本作に挑んだのか。また、気持ちが通じ合ったスタッフたちとの映画制作とはどのようなものか。そして主演を演じた俳優トーマス・デュプレシの魅力など、貴重なお話を伺えました。
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撮影チームとの“団結”
──フィル・コンネル監督は2013年の短編『Kissing Drew』でも、8年生の少年の微妙な心を描いたLGBTQ映画を制作されています。初長編となる『ジャンプ、ダーリン』を構想する際に、意識をしてチャレンジした点はありますか。
フィル・コンネル監督(以下、コンネル):『Kissing Drew』は2日間で9ページの脚本を、20人ほどのスタッフとともに撮影しました。『ジャンプ、ダーリン』では22日間で100ページを、50人ほどのスタッフと、93歳の伝説的なハリウッドスターとともに撮影しました。比較するのはとても難しいですね。
私の撮影プロセスで本当に進化したこと、変わったこと(経験を重ねたこと以外で!)はチームのエネルギーと団結力をより強く意識するようになったことです。
──フィル監督が映画撮影で具体的に挑戦して取り組んだ点も教えてください。
コンネル:プロデューサーのケイティ・コービッジと私は、ともに良い人生経験をすることができるチームを組むことに非常に重きを置いていました。この映画を作るチャンスは一度きりだし、楽しんで作りたかったんです。
この経験からたくさんの美しい人間関係が生まれました。大変だったことは、いつもと変わりません。資金調達、資金調達、資金調達ですね。そして多くの挫折を乗り越えること……映画作りは難しいです。
共同脚本は盟友が務める
──共同脚本にはフィル・コンネル監督の盟友ともいえる、ジュヌヴィエーヴ・スコットさんを起用されています。彼女とは、2013年の短編『Kissing Drew』と2014年の『Survival Guide』でも組まれていますね。
コンネル:ジェンは古くからの友人で、仕事仲間であり、才能に溢れた作家です。彼女は2作目の小説『The Damages』を発表したばかりですが、とても素晴らしい作品でした!ジェンは『ジャンプ、ダーリン』と『Kissing Drew』のストーリー・エディターでした。
脚本の執筆段階で、彼女は様々なバージョンの脚本を読み、フィードバックをくれました。私がベストを尽くせるように後押ししながら、ストーリーのビジョンを描き上げる手助けをしてくれたのです。一方、『Survival Guide』はジェンのオリジナル脚本で、私がストーリー・エディターを務め、そして監督を務め、一緒に制作した映画でした。
映画を公開まで導いてくれた“人”
──エグゼクティブ・プロデューサーにはアリソン・ツヴィッカーさんを起用されています。彼女の過去作には骨太な映画『Citizen Gangster』、トロント国際映画祭で評価された『Mean Dreams』『Giant Little Ones』がありますが、『ジャンプ、ダーリン』ではどのような方向性に関するビジョンを与えてくれたり、作品作りに貢献してくれましたか?
コンネル:アリソンは非常に才能あるプロデューサーです。彼女は映画のショットを見た後、ポスト・プロダクション(映画撮影後の作業全般)の段階でこのプロジェクトに進んで参加し、公開まで私たちをクリエイティブにサポートしてくれました。
彼女は、彼女が言うところの、クロリスとトーマスの“エレクトリック”なパフォーマンスを本当に信じていました。そして、私たちが最高の映画を作れるように手助けをし、できうる限り最高の形での公開になるように、業界における豊富な経験を活かして考えてくれました。アリソンにはとても感謝しています。
ドラァグクイーンと音楽
──『ジャンプ、ダーリン』では、主人公ラッセルがドラァグクイーンという職種であることもあり、随所に音楽が挿入されているのがとても印象的でした。挿入歌や音楽などで、フィル・コンネル監督は何に注意を注ぎ、映画の構成を考えられたのでしょう?
コンネル:恐らく『ジャンプ、ダーリン』で最も苦労したのは音楽だと思います。ドラァグクイーンの映画である以上、象徴的なアーティストによる認知度の高い曲が必要でした。そして、各シーンにおける物語の中で機能しなければならないだけでなく、映画のクィア・カルチャーの中に溶け込むものでなければならなかったのです。
さらに私たちは、クィアでカナダ人のアーティストの曲を取り入れたいと思っていました。トーマスは、ミュージック・スーパーバイザーであるクリスティン・レスリーのことを、愛情を込め、そして、的確に“魔法使い”と表現していましたね。チーム全員がこの映画のサウンドトラックをとても誇りに思っています。
──フィル監督、ぜひご自身のお気に入りのアーティストや楽曲があれば教えてくださいますか。
コンネル:私のお気に入りの曲ですか……?
ロンドン・グラマー(イギリスのインディー・ポップ・バンド)の「Strong」、Robyn(スウェーデン出身のポップシンガーソングライター) の「Indestructible」、そして ケイブボーイの曲すべて……。
あとはプールサイド(アメリカのニューディスコおよびチルウェーブバンド)、アリー・エックス(カナダ人のシンガーソングライター)、そして親友のジクルン・ステラも大好きです。選びたくないのかもしれないです(笑)。
映画初主演のトーマス・デュプレシ
──本作の主人公ラッセルを演じたトーマス・デュプレシさんは、とても魅力的な演技を見せていました。中でも関係性を持った黒人の青年に怒りと嫉妬を示したシークエンスでは、ドラッグクィーンならではの歌とダンスで身体の感情を表現しつつ、知人たちに見守られながらリアクションする点も秀逸です。
コンネル:私たちはこの映画でのトーマスの演技をとても誇りに思っています。彼はキャラクターと制作プロセスに信じられないほど没頭していました。彼はすべての振付けを自分で行い、クロリスと非常に親密な関係を築き、多くのリスクを取っていました。
私は俳優という職業を大変尊敬しており、俳優として個人的なリスクを冒してやっていることに対して敬意を抱いています。そしてリスクがあることをわかってもらった上で、演じてもらうことを肝に銘じています。
──フィル監督が最も大事にしている演技とはどのようなもので、それを導くためにいか様な方法をとっているのでしょう?
コンネル:私は特定のタイプの演技を好んでいるわけではなく、映画のシーンやストーリー、色合いにマッチし、心をつかむリアルなものをただ求めています。その演技へともに辿り着けるように、気軽に意見を言いやすいコミュニケーションを心がけています。
フィル・コンネル監督プロフィール
脚本家、監督、プロデューサー。
長編映画デビュー作である『ジャンプ・ダーリン』は40以上の映画祭で上映され、サンディエゴLGBTQ映画祭では新人監督賞を獲得するなど多数の賞を受賞し、世界中の地域で公開された。
アクションドラマ『HUBRIS+PARANOIA(原題)』では、2018年のBlueCat短編映画祭のセミファイナリストに選ばれた。2013年にバングラデシュで起きた工場崩壊を題材にした地政学的なドラマ『RANA PLAZA(原題)』は、2021年アカデミー・ニコル・フェローシップの脚本部門においてセミファイナリストに選出されている。
映画『ジャンプ、ダーリン』の作品情報
【日本公開】
2024年(カナダ映画)
【監督・脚本】
フィル・コンネル
【キャスト】
トーマス・デュプレシ、クロリス・リーチマン、リンダ・キャッシュ、ジェイン・イーストウッド、タイノミ・バンクス
【作品概要】
『Chest of Doors(原題)』(2005)など数々の短編映画を制作してきたフィル・コンネルの初⾧編監督作。監督自身の祖母との「エンド・オブ・ライフケア」に関する会話、自身が表現者として生きる選択をした経験を基に、ドラァグというクィア・カルチャーの中で描いたヒューマンドラマです。
主演は、初の⾧編映画出演ながらも本作で賞を多数受賞したトーマス・デュプレシ。そして人気ドラマ『メアリー・タイラー・ムーア・ショー』(1970〜1977)で知られ、米テレビ業界最高峰のエミー賞を8回獲得したオスカー女優クロリス・リーチマンが出演。2021年に逝去した名優が「老い」を等身大の姿で表現しました。
ロサンゼルス・ゲイ・レズビアン映画祭ではクロリス・リーチマンが審査員大賞を受賞するなど、数々の映画祭で高い評価を受けています。
映画『ジャンプ、ダーリン』のあらすじ
俳優から転身しドラァグクイーンとなったラッセルは、大切なショーの直前に⾧年付き合っていたボーイフレンドから「俳優に戻ってほしい」と伝えられました。舞台から逃げたラッセルは、彼氏と同棲していた家を飛び出します。
無一文で帰る家もないラッセルは、祖母マーガレットのもとに身を寄せました。以前彼女は、ラッセルに「自分の車を譲る」と書いたカードを送っていました。
再会を喜び合う二人でしたが、彼は久しぶりに会った祖母の様子がどこか違うことに気づきます。ラッセルは祖母の家をすぐに出ようとしましたが、祖母に呼び止められ、シャワーを浴びたいので手伝ってほしいと頼まれます。
マーガレットは自分の衰えを自覚しつつも、娘エネから勧められる地元の老人ホームへの入居を拒み続けていました。
祖母のために、ラッセルはしばらく一緒に暮らすことを決心しますが……。