映画『僕らはみーんな生きている』は2023年10月21日(土)より大阪・十三シアターセブン、12月17日(日)より横浜・シネマノヴェチェントで拡大公開!
東京の下町を舞台に人間の本質を暴いた映画『僕らはみーんな生きている』が2023年10月21日(土)より大阪・十三シアターセブン、12月17日(日)より横浜・シネマノヴェチェントにて拡大公開されます。
映画・CM・MVと数多くの映像作品を手がけてきた金子智明監督が、自身の完全書き下ろし脚本のもと制作した本作。2023年にはロサンゼルス日本映画祭で最優秀撮影賞を受賞するなど、国内外での注目を集めています。
今回の拡大公開を記念し、金子智明監督にインタビューを敢行。
金子監督が本作で描いた人間としての善悪の揺らぎを描く根源や俳優たちが見せる演技の化学反応の裏側、そして監督自身が映画を見せたいポテンシャルとなる人物のことなど、貴重なお話を語ってくださいました。
CONTENTS
映画だからこそ描ける“加害者たちの物語”
──映画『僕らはみーんな生きている』において、人間の本質的な善悪をテーマにされたのはなぜでしょう。
金子智明(以下、金子):最初は「東京に夢を目指してやってくる若者を描きたい」という着想から始まりました。しかし、東京は資本主義の象徴。きらびやかな街の裏には多くの夢破れる若者もいるのだろうと感じています。実際、私の周りの俳優さんたちの多くもまだ夢を掴めずにいます。
そこで私が描くべきなのは、きらびやかな都会である東京のイメージではなく、東京の下町にある辺鄙な場所で暮らす人々ではないかと思いました。そこにこそリアルな人間の姿や、それぞれの立場における思惑が交錯しているのではと。そうした着想からテーマを導き出しました。
また私が関西出身ということもあり、外から東京に来た人間だからこそ、東京の下町という繁華街ではない裏にある“くすんだ東京”の姿を描きたかったのだと思います。
──「東京の下町に住む人々の素顔を切り取る」というコンセプトは、着想の時点からあったのですね。
金子:ニュースで毎日のように様々な事件や、テロ行為が報道されますよね。ですが、事件の裏側にある人々の背景までは語られることは少ないと感じています。その事実に気づいた時の違和感はずっと自分の中にありました。本作で描きたかったのは、まさに事件の背景にある“加害者側の人間”の物語なのです。
もちろん、事件を起こすことを正当化したいわけではありません。ただニュースを目にするたびに、加害者側に立った人間たちにも“被害者”としての側面があったのではないだろうかと考えてしまうのです。
本作では映画だからこそできる、人間模様の表現を追求しました。善悪を単に勧善懲悪的にハッキリと示すのではなく、誰しも加害者の立場になりえる可能性がある。そんなメッセージをこの映画に込めました。
異なる世代・演技がぶつかり合える現場へ
──金子監督が映画だからこそ描けると考えられた“物語”について、より詳しくお聞かせください。
金子:映画を監督する際は物語のみならず、テーマを伝えることに重要視しています。その点でいえば、「国内だけでなく、海外に対しても発信する」という意識が強いかもしれません。日本という島国だからこそ生まれる感覚や価値観を、海外の方にも発信・共有したいという想いは常にあります。
本作では東京の下町を舞台に犯罪に手を染める大人たちと、夢を追う子どもたちという、大きく分けて二つの主軸となる物語があります。双方が交わるところに、お互いの主張と対立が生まれる。そんなテーマを物語として描いていくからこそ、キャスティングにもこだわりました。
インフルエンサーや若手などいわゆる「Z世代」と言われる年齢層の俳優たちと、映画で育ってきたベテラン俳優の方々に出演していただきました。畑が違えば演技論も違うという状況で、価値観の違いや各々の美徳をぶつけ合えるような環境をあえて作りました。
どちらが正しいか否かではなく、双方の演技に異なる魅力があります。その違いを映画の登場人物たちの“ズレ”とリンクさせつつ撮影を進めていきました。俳優同士の姿勢や演技論の違いを化学反応させ、日本映画だからこそできる、生々しいすれ違いを切り取る試みに挑戦したのです。
──オーディションの段階から、そうしたキャスト陣の化学反応を計算してキャスティングされていたということでしょうか。
金子:そうですね。今回は大御所といえる俳優の皆さんにも、オーディションに参加していただきました。おこがましい話ではあるのですが、俳優の皆さんがどのように影響し合うかをフラットに想像するためには不可欠な選択だったのです。
「自分の脚本や演出に対して、どんな演技で反応してくれるのか」と考えることもありましたが、実はキャスティングで悩むことはありませんでした。宮田駿という役はゆうたろうくんがハマっていましたし、鶴島乃愛さんが由香を演じるのも、自分の中では最初から一番しっくりきました。
現場の「この物語はどうなるのか」という緊張感
──各キャストが演じる登場人物の輪郭が明確に見えていた中で、撮影を始められたのですね。
金子:はい。とは言いつつも、現場で俳優さんが実際に演じることで、少しずつ登場人物の輪郭が新たに形作られていく瞬間が多くありました。撮影当日にセリフと役の微調整を重ね、場面を追加した箇所もあるほどです。
桑原麻紀さんが演じられたゆり子が象徴的なのですが、実は脚本では、ゆり子と駿が対峙する場面はなかったんです。ですが撮影が進むうちに、お互いの感情のフラストレーションがこちらの想定よりも高まってしまった。「それぞれがお互いの想いの丈をぶつけ合わないと、この物語は終えられない」と思い至ったのです。
ゆり子の正義、駿の正義がぶつかり合うことで、周りに無関心な人間と関心を持つ人間の価値観の差がより浮き彫りになりました。おそらく俳優の皆さんも、撮影を進める中で「この物語はどうなっていくのだろう」という見えない緊張感をずっと抱えていたのだと思います。
──そうした俳優陣の“物語”に対する緊張感は、本作の魅力にどのような影響を生み出したのでしょうか。
金子:若手・ベテランに問わず、撮影を進めるうちに俳優の皆さんの、それぞれが演じる登場人物の“世界”への眼差しも変わっていきました。そこには私だけでは生まれてこない視点もあったので、その場で生まれる俳優さんの登場人物たちの感情の整理をしながら場面を生み出すことができました。
例えば、渡辺裕之さんに演じていただいた会長(佐伯)は、脚本ではもっと冷酷非道な人物でした。ですが渡辺さんから「会長にも、人として救いになるような人間味を加えた方がいいのでは」と提案してもらえたことで、二人で会長という人間について話し合いながら撮影を進めていきました。
そのおかげで、最終的に会長という人間が簡単に悪人とは決めつけきれない不安定で、深みのある人物として描けたと感じています。
「絶対悪」と断じたい相手にも、その人なりの大切なことや信じていることがあり、憎み切れない揺らぎが生まれるからこそ、若者たち主人公は苦しんでいく……俳優の皆さんの演技によって、より善悪の判断がつけがたい、何とも言えない後味を映画の中に閉じ込めることができたと思っています。
関西の下町、“表現者”の背中
──金子監督ご自身も夢を追って関西から上京されていますが、数ある表現の中から映画監督を選ばれた理由は一体何でしょうか。
金子:私は関西の、それこそ小さな町で育ちました。『僕らはみーんな生きている』に登場するような、何かトラブルが起きたら内々で解決するような、そんな雰囲気のある下町です。
そうした小さな町の中で生まれる“物語”が、私は当時から好きでした。また、幼少期の頃から様々なコンテンツにも影響を受ける中で「物語は人に影響を与えられる」ということを漠然と意識して育ちました。
ただ「自分自身も物語を生み出してみたい」と思いながらも、自分はその手法が分からずにいました。そして漫画なのかゲームなのか、自分が追求したい表現の手法が定まらない中で出会ったのが映画でした。映画であれば、2時間ほど真っ暗な室内で多くの人と物語を共有する体験ができる。その映画特有の空間に魅了されて、映画監督になりたいと夢見るようになりました。
実は映画と出会ったのは京都の大学に進学してからで、たまたま制作会社からボランティアスタッフのお誘いがあり、思い切って参加することにしました。それがきっかけとなり、田口トモロヲ監督の『色即ぜねれいしょん』や青山真治監督の『共喰い』でプロの現場を目の当たりにし、ますます「映画監督へなりたい」と決意を固めていきました。
また映画監督への決意には、やはり幼少期の経験も根底にあるのだと思います。親族に漫画家を生業とする人がいて、その人は愛と正義をテーマに何十年も漫画を描き続けていました。
その背中を見て、子どながらに「テーマを持ち続ける表現は相当エネルギーがいるに違いない」「自分にそんな大それたことができるだろうか」と考えるようになり、漫画とは違うジャンルで自分なりの表現を模索することになりました。そこで出会ったのが映画だったのです。
“ある友人”に映画を届けたい
──「人間にある簡単には割り切れない善悪」という“物語”こそが、金子監督の映画を生み出し続ける原動力でもあるのでしょうか。
金子:そうかもしれません。私自身、幼少期にいじめを受けたことがありました。それは自分の意見や考えを誰も知らないまま、一方的に他人に決めつけられていくという初めての体験です。本当はいじめることに大きな理由なんてありません。実際、いじめの対象が次々に変わっていくこともありますから。
その時に「どうして人は身勝手に“悪”を決めつけるのだろう」と考え、悩みました。そして「誰かを“悪”だと決めつける感情は、人と人が寄り添うからこそ生まれるのかもしれない」と考えるようになった。今回の映画でも、その考えは根底にあります。
会長とゆり子は寄り添い合っているからこそ、歪んでしまった関係へと至った。そして駿と由香も寄り添い合っているからこそ、誤った方向へ進んでいこうとする。そうした「人と人がつながるからこそ、生まれる“悪”」は本作のテーマの一つでもあります。
そんな複雑な人間の関係性や内面を描けるのが、映画の可能性でもあるはずです。自分が映画を監督させてもらえる時には、人の記憶に残る物語を生み出し続けたい。そのためにも、人間の汚いところや暗部も本質のままに描きたい。それが、映画制作に自分を駆り立てる衝動にもなっています。
──金子監督は、映画やそれを通じて描く“物語”をどんな人々に届けたいのでしょうか。
金子:自分には、うつ病を患った友人がいます。私が自身の中から映画を生み出そうとする時は、その人のために映画を監督しようと決めています。
過去の作品で、周りからは感情的にネガティブな印象にしか映らなかった作品が、その友人には「感動し、勇気をもらえるポジティブな映画だった」と言ってもらえたことがあったんです。その時に、自分は「誰かの役に立つ映画を監督したい」と強く感じました。
良い意味で誰かに影響を与えたいと考えた時に、皆から感動されるような大作映画を生み出すのではなく、観た後に何かが残り、少しでも独りで苦しんでいる人の味方になれる映画を生み出し続けたいのです。だからこそ、人の抱えるネガティブな本質を映し出し、世界の隅っこにいるような人にも共感してもらえる映画を監督し続けようと決めています。
インタビュー・撮影/松野貴則
金子智明監督プロフィール
映画・CM・MV作品を数多く手がけ、2010年には若手クリエイターによる映画製作ユニット「映像家族yucca」を結成。のちに法人化し「株式会社yucca」となってからは代表取締役社長を務める。
自身の完全書き下ろし脚本のもと制作した長編映画である本作は、2022年に池袋シネマ・ロサで公開後、2023年にはロサンゼルス日本映画祭で最優秀撮影賞を受賞。
さらに大阪・十三シアターセブン、横浜・シネマノヴェチェントでの拡大公開が決定された。
映画『僕らはみーんな生きている』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【脚本・監督】
金子智明
【キャスト】
ゆうたろう、鶴嶋乃愛、渡辺裕之、桑原麻紀、西村和彦、仁科亜季子、ミスターちん、兒玉遥、松尾潤、園田あいか、篠塚登紀子、ゆぶねひろき、小橋正佳、鷲田五郎、黒川鮎美、才藤了介、安田ユウ、ジェントル、堀口紗奈
【作品概要】
主人公・宮田駿役を演じたのは、ショップ店員から“可愛すぎる美少年モデル”として芸能界デビューし、実写映画「かぐや様は告らせたい」シリーズや月9ドラマ『シャーロック』などの話題作に出演し続けるゆうたろう。本作が初の主演作品となった。
主人公のアルバイト先の同僚・小坂由佳役は『仮面ライダーゼロワン』(2019〜2020)への出演で一躍注目された鶴嶋乃愛。また『永遠の1分』(2022)、『銀平町シネマブルース』(2023)の渡辺裕之、『家族ごっこ』(2015)の桑原麻紀、『バニラボーイ トゥモロー・イズ・アナザー・デイ』(2016)の西村和彦の他、Mr.ちん、仁科亜希子とベテランキャスト陣が脇を固める。
監督は映画のみならず、CMやMVなど幅広い映像作品の企画・演出を手がける金子智明。自身による完全書き下ろし脚本のもと本作を制作した。
映画『僕らはみーんな生きている』のあらすじ
人との交流が苦手な主人公・宮田駿は、環境を変えるべく上京し下町商店街の弁当屋にてアルバイトを始める。
小説家になる夢を叶えるためにアタックをかけていた出版社からの結果は芳しくない一方で、気さくで美人な弁当屋の店主・児玉ゆり子や、バイト仲間の小坂由香やその友人たちに囲まれ、東京での新生活は順調なスタートを切ったように見えた。
しかし、そんな状況も長くは続かない。
ある日、駿は由香とともにゆり子の秘密を知ってしまう。それは、商店街全体を巻き込んだ残忍な計画であった。
行動を起こすことのできない自分たちに悶々としつつも、秘密を共有する二人の距離は次第に縮まっていく。その傍で着々と進められていく商店街会長・佐伯とゆり子の計画。
若者二人は、何を感じ、何を見たのだろうか。